絶望と希望
「いやいや! 職業ないってどういうことすか!」
「え? そのまんまの意味ですよ」
兎耳は当たり前と言わんばかりに、
頭についた白く長い耳をピンと立てながら目をまん丸とさせていた。
「ちょっと待て……いや、ぜんっぜんわからん!」
「あ、でしたらもう一度言いましょうか?」
「やめてくれ、現実を突きつけるのは」
俺は思わず膝から崩れ落ちそうだった。異世界に来てまでありえないだろ。
職業がないなんて。
なんで俺だけ。
失われた希望。降りかかる絶望。頭の中は白一色だった。
「あの、おかしいと思いません?職業が無いって」
「そうですね、おかしいですねぇ。こんなことは私も初めてですよ」
「じゃあ、なんでそんな冷静なんですか?
異常発生したかなとか思わないんですか」
「いえ、流石にないですよ。
だって職業視る魔法陣は、私が動かしてるんじゃなくて、
どういう風に動き、何の職業かって予め組み込まれているんですよ」
絶句の後、視界が漆黒に染められた。
あまりの衝撃に言葉が出なくなった俺の声を、
召が代弁するように兎耳に一言放った。
「じゃあ、こいつは……この世界で生きていけないんですか?」
兎耳が横に首を振った。
「いえ、そんなことはないと思いますよ。
言ったじゃないですか、魔法陣には予め組み込まれていると」
「え、それはつまりどういう……」
俺は声が震えながらも、微かな希望に力を込め言った。
兎耳が受付から出て、耳元まで来た。
彼女は何故か周りに聞こえないようにヒソヒソと話し始めた。
「リュウさん、いいですか?
この世界にいる限り職業が無いなんてことは"絶対に有り得ない"んです。
でも、私の前でそれが今起こっている。
つまり、貴方はこの世界で未確認の職業を持った人と言う事なんですよ。
それ故に、あの魔法陣は判定出来ず、無しと突き放した。
それだけなのでは?」
その一言に安堵した。
その瞬間、身体の力が一気に抜け意識が遠のいていった。
急に意識を失った俺を見て、ギルドではちょっとした騒ぎになった。
意識が遠のいていく僅かな間に、兎耳と冒険者の会話が聞こえた。
「サミ、こいつに何吹き込んだかは知らねぇが、悪いことじゃねぇよな?」
「ええ、勿論」
兎耳が笑顔を見せる。
その笑顔の奥には何かが隠されていそうだった。
「っ、たく。変な笑顔だな。
おい! 誰か! こいつを医務室に運んでやってくれ!」
程なくして、俺は目を覚ました。
医務室のベットで仰向けになり、真っ白い天井を見つめながら言いたくなったことがある。
「知らない天……」
「起きたか! 皆、心配していたぞ」
召、毎回ナイスタイミングで台詞に歯止めをかけてくるよな。
この際だから言っておこうナイスだ召。
「全く、遂に僕の封印されていた力が解放され、周りの人間共にも影響する様になってしまったか! フハハハ!」
要らん影響受けてるー!
これ絶対双狼剣のせいだー!許されねぇ……!
「召、落ち着け?」
「否! 我の魔力は留まることを知らぬ!」
ダメだこりゃ。手の打ちようがねぇ。
面倒くさくなった俺はベットから起き、1人医務室を後にした。
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