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すっかり日の暮れた夕方。
保育園から帰ってきた、お兄ちゃんのよしくん、弟のあっくん、お母さんの三人が、バタバタとなだれ込むようにお家の玄関へ入ってきました。
「たっだいまー!」
「たぁーらいーまー!」
「はあー、仕事疲れたあー。やっと家に帰って来られたよー。これからご飯の用意してー、お風呂入ってー、寝る準備だー、しんどー。」
靴を脱いで荷物を運びながら、お腹すいた!ままとてぇあらう!テレビ見ていい?にいにずるいあんくんも!ご飯食べたら見るんでしょ。ご飯の前にお風呂にお湯を入れてくれる?おはしもならべて~。あんくんちょこたべたい!ご飯食べられなくなっちゃうでしょー!などなど、
三人がわーわー言いながらご飯やお風呂の準備をしていると、お兄ちゃんのよしくんが、サイドボードの写真立てに気が付きました。
「まるちゃんの写真倒れちゃってるよ。あっくんのしわざかな-。」
サイドボードの、白いレースのハンカチが敷いてある一画に、お線香立てと、まあるい形のおリンと、白い花が生けてある小さな花瓶が並んでいます。その奥に、茶色の木目の写真立てがパタリと下を向いて倒れていました。よしくんは写真立てを起こしました。
写真には、お日様の光を浴びた、気持ち良さそうな目をしたねこが一匹写っていました。体もしっぽもシマシマで、おててとお顔が白くて、お口の回りがほんのりピンク色の、おばあちゃんのねこでした。
「まるちゃんただいま!」
よしくんはニカーッと写真に笑いかけました。
「ただーまー!」
いつの間にか、すぐ隣りにはあっくんが来ています。
「あんくん、まるちゃんにちーんちーんしるー。」
あっくんは、リーンリーンと綺麗な音のするのを知っていて、サイドボードのおリンに手を伸ばしますが、もうちょっとのところでリン棒が取れません。しょうがないなー。と言いながら、よしくんは、あっくんがサイドボードのおリンと、鳴らすリン棒に手が届くように「よっいしょっ!」と抱っこしてやりました。あっくんは、リン棒の持ち手とは逆のところを持っています。
カチン!カチン!
持つところが違うので、リーンというおリン本来の綺麗な音がへんてこな音になっています。それでも満足したのか今度は、
「あんくん、もくもくやる!」
と、言い出しました。よしくんは、もくもく?なんだっけそれ?と首をかしげましたが、思い出しました。あっくんは、お線香をあげる時に出る煙のことを必ず「もくもく」と言うのです。
「お母さーん、まるちゃんにお線香あげてもいーいー?」
忙しそうに冷蔵庫を開けたり、食器棚からお皿を取り出しているお母さんが作業をしながら言いました。
「今忙しいから、ちょっと待ってー。まるちゃんは本当にいい子だったから。いつもお留守番しっかりやってくれてね。爪もちゃあんと爪研ぎで研いでくれていたしね。」
お母さんは二人のそばに来て、重ーっ!と言っているよしくんに代わって、あっくんを抱っこしました。
「ほらほら、先にコロッケ食べちゃおう。ホックホクでおいしーよ。よしくんとあっくんと同じで、まるちゃんはおりこうさんだから。少しくらい待っていてくれるよ。あっくんも、もくもくするの少し待てるよね?」
おなかがペコペコのあっくんです。コロッケと聞いて目がキラキラと輝き出しました。急いでお母さんからおりると、今度は脇目もふらず食卓テーブルへ走って行きました。自分の椅子にちょこんと座り、
「たってたべない、すわってたべる!」
なんて言うものですから、あまりのあっくんの調子良さに、お母さんとよしくんは顔を合わせて笑ってしまうのでした。
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