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「みいーぃ、みいーぃ、みいーぃ・・・。」
わたしが産まれたのは小さなお寺だったんだよって、お母さんはよく言っていた。般若とかいう鬼?をまつる古いお寺だったんですって。わたしがくあ~ってあくびをすると必ず顔をのぞき込んで言っていたのよね。
「まるちゃんは、さすが般若寺で産まれたねこだけあるよ。あくびをすると般若そっくりだねぇ。ふふっ。」
なんだか、レディーに対してとても失礼よね。私がフンッてすると、必ずあごのところをカリカリしてご機嫌とりしてくれたっけ。
わたしがお母さんのお家に行く前は、お寺の奥さんがずっと面倒をみてくれていたんだって。奥さんはなかなかの歳だったから、人間の病院に行ってしまって。奥さんが病院に行ってからはずっと野良だったみたい。
野良だったけれど、きょうだいがたくさんいて楽しかった気がする。チビちゃんとよく遊んだっけ。気ままで楽しかったけれど、わたしたちいつもお腹が空いていたなあ。寒かったり暑かったり、雨で濡れたり、とにかくひもじかったなあ。
だんだん、だんだん、みんないつの間にかいなくなっちゃった。わたしはお寺の隣にあった小さな学校の倉庫に入って、よくあたたまっていたんだあ。ダンボールがたくさんあって、土のにおいがして気持ちよかったなあ。
そこで、わたしはお母さんに出会ったんだ。
お母さん。
会いたいなあ。
お膝にのって、「ナーン」てわたしがちょっといい声を出すと、
「まるちゃんの小さいとがったお耳も、ピーンとしたおひげも、お口のまわりのピンク色も、にゅるーんて長いシマシマしっぽも、白い手袋はいてるみたいな小さいおててとあんよ、ぜーんぶぜーんぶかわいいねぇ。」
しつこく、かわいいねーかわいいねーって言って、いっつもなでなでしてくれた。わたしは恥ずかしいから、おててでじぶんのお顔をペロペロして気にしないようにしてた。ほんとうは、お母さんがなでなでしてくれるのだーい好きって思ってた。
わたしも、ニンゲンの言葉がしゃべられれば良かったなあ。
あんなにまんまるかったおめめもショボショボしちゃって、歩くのもヨロヨロして、ずいぶん長生きしたつもりだけれど。ニンゲンの言葉はとうとうしゃべられなかったなあ。ニンゲンの言葉で、大好きよーって伝えたかったなあ。
お母さん、さいごの日に言ってた。
「またすぐに会えるからね。虹の橋で待っててね。」
お母さんがそう言ったから、わたしこんなにずーっと待ってるよ。お母さんはぜんぜん来ないなあ。待っても待っても来ないなあ。
わたし、だんだん、ぷんぷんしちゃうんだからね!
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もう少し続きます。