完敗
どうです?とセトは兄たちに押し付けるように自分の世界を見せた。
それを覗けば、そこに見えるのは鎧兜を身に着けた一人の勇者然とした男である。
なるほど、確かにこれまでとは確かに一線を画す実力を持っているのは見ただけでわかる。
「強そうでしょう?僕も目を皿にして探しましたからね」
セトはもう勝った気でいるのか、自慢げである。
だが、カインは小さくため息をついた。
そしてアベルにはその理由が痛いほど理解できた。
「……セトよ」
「はい、何でしょう」
長兄に名前を呼ばれ、末弟は嬉しそうに反応する。
「一言だけいうぞ。僕たちはもうお前とは遊んでやれない」
セトの表情が一瞬で凍り付いた。
「……なぜ?」
「なぜ、だと?もはや見ればわかる。確かにその男はこれまでとは比べ物にもならない実力を持っているだろう。だが、その実力では、僕の世界の魔王はおろか、魔族の下っ端にも勝てない。生きていくことすらままならないだろう。レベルが低すぎるんだ」
「セト、やはりお前は一旦文明と種族の発展を待つべきだ。このままでは、お前の世界からありとあらゆる生命が消え失せてしまう」
今にも泣きだしそうな顔のセトを見かねて、アベルも口を開く。
「ちょっと待つだけだよ。セトの世界にも優秀な勇者や魔王が現れるはずだからさ。そうしたらまた一緒に遊べるからさ。ね?」
「そんなの、やってみないとわからないじゃないですか!」
声を荒げたセトに、アベルは口を噤む。彼の頑固な性質は兄の言葉を以てしてもそう簡単に折れるものではないと分かってはいたが、世界を管理する以上、引き際を弁えてもらわねば、いずれ困るのは弟の方だ。
耐えかねて長兄に目を向けると、彼は仕方ないという風に、手に握っていたビー玉をそっとセトの前に突き出した。
「いいよ、論より証拠だ。僕の世界の魔族で相手をしてやる。宣言通りの下っ端で、な。だが負けたら大人しくいう事を聞くんだぞ」
カインの言葉にセトは今にも溢れだしそうな涙と鼻水を袖で強引に涙を拭った。
§§§§§§
「おおおおおおお!」
厳めしい顔つきとそれに劣らぬ堂々たる体躯の魔族―――鬼人が、その手に握られた棍棒を勢いよく振り下ろした。
「あぁああぁぁぁああ!」
勇者はそれを防ぐことも出来ずに、呆気なく潰されてしまった。
ペチャリ、と間の抜けた音がして、棍棒を持ち上げた跡には、赤黒い水たまりが残されているのみである。
「……勝負あったな」
カインは最早、セトの顔を見ることもしなかった。
弟がどのような表情をしているか、見なくても容易に想像がついたからだ。
「……セト?」
一向に口を開かない弟を心配したアベルが問いかける。
「わあああああん!」
沈黙も束の間、鼓膜が張り裂けそうな大音量を上げながらセトは部屋を飛び出していった。
「兄さまのバカー!」と捨て台詞を残して。
兄たちはキンキンと痛む耳を押さえて、ため息をつくしかなかった。