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末弟、セト

「これでよし……と」


 二人はゆっくりとビー玉を離し、それを元の棚へと戻した。棚は壁一面を覆いつくすほどの大きさであり、そこには数えきれないほど多くの世界が整然と並べられている。吸い込まれるような青色で埋め尽くされた棚は兄弟の共用であり、人目には分からないが、二人にはお互いの管理する世界がどれなのかはっきりと区別がついている。


 二人は壁一面に並べられたビー玉を眺めて嬉しそうに笑った。


「ねえ、次はいつにしようか?」


 弟は先ほどの敗戦の悔しさも忘れたのか、早くも次の「遊び」を待ちきれないようだ。


「父さんの眼を盗まなければできないからな。それに……」

「それに?」


 言いよどんだ兄の次の言葉を待つ弟。


 だが、兄が続きを口にするよりも早く、部屋の扉が勢いよく開かれた。


「やっほー、兄さまたちぃ!」


 突如として押しかけてきた来訪者にカインはため息まじりに頭を抱える。


 その兄を見て、アベルも「あぁ……なるほど」と小さく頷いた。


「あー、ずるい!また兄さんたち二人だけでこの間の『遊び』をしていたんでしょう?」


 来訪者は二人の兄と、その背後にある数多の世界とを交互に見て言った。


「二人とも僕と遊んでくれる約束したじゃないですか。ほら、僕の世界の勇者と戦ってくださいよ。今度は強いのを見つけたんですよ?」


 キラキラと瞳を輝かせている末の弟に、二人の兄は罰の悪そうな笑みを浮かべた。



 §§§§§§



 末の弟―――セトは、カインとアベルの二人とは若干、歳が離れてはいるものの、れっきとした兄弟である。いつも二人の兄の背中を見て育ってきた彼にとっては、二人の存在は父である創造主以上の憧れの対象であった。いつも兄たちの背中について回り、二人の真似事ばかりしていた。兄たちが剣の訓練をすれば、同じく剣を振り、魔法の訓練をすれば、同じく呪文を唱えた。二人の兄がすることが何よりも尊く、そして最も楽しいことだと信じて疑わない日々であった。


 そうしてある日、彼は偶然見てしまった。


 二人の兄が夢中になって「遊び」に興じるさまを。


 その日から、彼の頭の中はその遊びのことで塗りつくされた。


 二人の兄の背中を追いかける日常は変わらなかったが、口を開けば「今度はいつあの『遊び』をするのか」「いつになったら僕にやらせてもらえるのか」と、そればかり聞くようになっていた。兄たちが夢中になる遊びだ。きっとものすごく楽しいに違いない。セトの考えは揺らがなかった。


 だが、二人の兄からすればこれは一大事である。


 まだまだ無邪気なセトは、この遊びのことをいつどこで父に話すか分かったものではない。もし、父にバレでもしたら、それこそ兄弟の身は破滅である。今までも何人かの神が父の怒りに触れるのを目の当たりにしたことがあるが、どれも口にするのも躊躇われる惨たらしいものばかりだ。その怒りは、恐らく息子であろうとも容赦なく振るわれると見ておいて間違いない。


 それだけは何としても防がなければならない。


「でもな、セト。お前はまだ父上から『世界の管理』を任されてはいないだろう」


 ある日、いつものように二人の後について回っていたセトであったが、カインに言われて、ピタリと動きを止めた。


「世界の管理を任されていないお前とは、残念だがまだ遊べないなあ」

「……どうやったら、兄さまたちのように『せかいのかんり』というのを任せてもらえるのですか?」

「いずれ、お前がもうちょっと大人になったら、父上がお前に見合った世界を管理させてくれるだろう。セト、お前にできることはその時を待つことだ。いいね?」


 カインはなるべくセトの感情を刺激しないように、出来得る限りの優しい口調で言い含めた。彼が弟に不用意なことを起こさせないように細心の注意を払っていることは、アベルにも十二分に理解が出来た。


 そう言われたセト本人は、何かを理解したのか、穏やかな笑みを浮かべながら「わかりました」とだけ口にすると、その日はもう二人の後をつけることはしなかった。


 兄たちは内心、気が気ではなかったが、打てる手はこれぐらいしか無かったし、あとは弟がその幼い感情に任せて愚かな行為に及ばないよう、願うしかなかった。


 だが、二人の不安を他所に、しばらくの間、二人は末の弟の姿を見ることは無かった。


 あきらめたのか、それとも本当におとなしく待つことにしたのか。真意は分からないが、これで当面の危機は回避されたのだろう。


 そう考えた二人は、再び「遊び」に興じる日々を過ごした。


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