プロローグ
「いってきあす」
誰も居ない家を出て、学校へ向かう。出る時一瞬学校電話して休もうか?と悩むもあの姉にばれると面倒なことになると考え、辞めておく。
『音声認証を確認 行ってらっしゃいませ 零』
音声認証型ドアが開き、自宅のマンションから歩きだした。
姉と二人暮らしのマンションのも慣れてきたなぁと思いつつ、首元に装着してある『ALIOS』を起動した。
通話、チャット、仮想表示、現実置換と多機能に渡る、今や全世界共通の必需品
首に巻くネックレスタイプが主流になっているそれの起動ボタンを押し、ナビ機能を選択。
視界内に目的地一覧が表示され、僕は鏡花中学校を選択し、視界に表示された薄く緑色に光るルートを歩き始めた。
十年程前はスマートフォンと言われる携帯端末を人類は重宝したらしいが、現在はこのALIOSが主流となっている。なにやら改造ができる他社製品もあるらしいが、興味がないので割愛。
互換性ネットワークにより、このナビに従えば自己や不審者に遭遇する確率はかなり下がる。
起動していなくともALIOSが危険を感知すると警告や自動で警察へ通報もする。僕も何度かこの機能に助けられた事がるが・・・
舗装された道を歩く。
近代化改修?とかが進み、とても歩きやすい・・・が、『今日も』視線を感じる。
通り過ぎたサラリーマンや、後ろでヒソヒソしている女子達。
今日も帰りたいゲージが速攻でマックスになり、陰鬱な気分になりながら学校への道を急いでいると、ALIOSからチャット通知が来た。
なんでも骨伝導?何かで騒音ゼロらしい。最初はカメラで音が出ないと盗撮だなんだと世間がうるさかったらしいが、ALIOSの会社がお互いの承認の無い撮影はできなくなっているとの声明と、実演『承認がないとモザイクがかかる』をして、社会の盗撮件数を下げただの何だの、民放ライブでやってた気がする。
実際ALIOS普及前と後での犯罪率は天地の差があって、社会の授業で僕も習った。
現在は全国民ALIOSの装着を義務付けられており、未装着時の対人間での問題は必ず裁判でまけるとか、何だっけ・・・憲法9条にのってた・・・はず。たぶん。
チャット機能を開くと姉からのチャットであった。
『今、零が変態共の視線さらされている気配がする。帰ったら抱きしめるので、我慢してください。』
・・・・そっと既読マークがついたチャットを閉じ、見えてきた校門をくぐる。
『学生証を検知 認証完了 おはようございます』
門に設置された学校のセキリティを通過し、靴を履き替える、今日も視線を感じながら、他の生徒と違う方向へ歩き出し、歩いて汗ばんだ首元がうっとうしく感じ、髪をかきあげる。
腰元まで伸びた髪が邪魔だ・・・切りたい。だが切ったら姉に何をされるか・・・
「ヒッ!」
背筋になにか冷たいモノを感じつつ、僕は『保健室』に辿り着いた。
『指紋認証をお願いします 生徒 宮元 零を確認 施錠』
開いたドアをくぐり、いつものベットに腰を降ろした。
「ふぅ・・・」
自分の体質もあるが、陽の光は正直つらい。今は夏なのに、長袖を着なくてはいけないし、日を浴びた肌がちょっとヒリヒリする。ヒリヒリするこれは引きこもりが原因だが。
すこし手持ち無沙汰を感じ、ALIOSにてネットサーフィンを起動。
視界に広がるコンソールと検索サイトからブックマークページへ飛ぶ。
「今日もめぼしいのは・・・・あ」
最近増えた気がする独り言に気が付かないまま、僕はその記事に夢中だった。
『本日9時よりサービス開始 一時間前よりキャラクリエイトを開放します』
表示された写真?風景にワクワクし、ついでに巡回している露出情報をつぶさに確認していく。
もう何度も読んだはずなのに、何度も、何度も。
全世界5億本が既に売れている、新作ゲーム。
ラヴィアン・ワールド
精巧につくりこまれたそのファンタジー世界
疑似魂仮定機能フラクライティアによって形成されるプレイヤーの数だけあるスキル、称号。
冒険して良し、戦って良し、釣り、鍛冶、魔法の研究と・・・出来ない事は無いと豪語する公式。
参加出来なかったβテストでの高評価と感想達。
貯めに貯めたお小遣いを使い、ちょっと姉に助けてもらい(ほぼ八割出してもらった)既に購入&ダウンロード済み。
最初20万って聞いた時は絶望したけど・・・一個姉の要望を聞くだけで叶ったので良かった。
鼻息を荒くして情報をつぶさに確認していると、保健室の入り口が開いた。
「あらん、おはよ、れいっち!」
「おはよ、マーちゃん」
筋骨隆々、高身長、ちょっと焼けた肌、柄物のお花いっぱいの服。
保険担当教師 真田 正次
この学校で唯一の信頼できる僕の先生・・・いや、友達だ。
オカマだけど、とっても優しくて、頼りに「誰がオカマですってぇええ!?」ヒィィ!
「ジョーダンよっ★」
バチぃン!と音を出してそうなウインクをして、化粧でラメラメなまぶたを閉じた。
「マーちゃんアイシャドー変えたの?」
そう、いつもは赤目のラメラメだけど、今日は黒っぽいみたいだ。
「あぁん!流石れいっち!だって・・・今日からじゃない?ラヴィ!私は新たな王国を築くのよんっ★れいっちもダウンロード済み?」
ちょっとくねくねするマーちゃんはかなり破壊力があるけど、僕はもう慣れている。
正直僕の見た目は・・・女の子だ。ジェンダーレスって言われる?やつらしい。正直ほぼ姉の趣味だが・・・
それも相まってか、マーちゃん的には攻略対象じゃないし、そもそも生徒ってのと、とあるゲームでの知り合いってのあって、とっても仲良くしてもらっている。学校で初めて会った時も、助けてくれたし。
「もちろん!姉にお願いしたのはあれだけど・・・」
「あぁ、れいちんねぇ・・・ちょっと過保護だけど、こんな可愛い弟なら仕方ない気もするけどねん★」
ため息をはきながら、視界に表示されている時計を見ると、7時50分をまわったところだった。
「マーちゃんは今回も現実肉体投影?」
「そうよぉん!等身大のワタシで勝負しなきゃ・・・ね?」
「ん、そ・・・だね・・・」
すこし落ち込む気持ちが全面に出てしまう。僕はアルビノって言われる体質で、体内の色素が無い。血は赤いけど、髪は白いし、体も白い。うっすらと血管もみえてしまってるし・・・
小学校から、いじめられたり、すっごい見られたり、他人の目ってのが僕は怖い。
化粧関係の仕事についている姉に容姿は整えてもらって・・・られてるけど自信がないし、怖い。男なのに。昔好きな子に吸血鬼みたいって気持ち悪がられてから、ほぼ小学校には行かなかったし。
だから、ゲームに没頭した。なるべく時間を忘れられるようにネトゲ、それもVRMMOを中心に遊んだ。
決まって僕はキャラクリで単発のかっこいい黒髪、肌の黒い男にしてたけど・・・
「だいじょうぶよ、あたしもそんな時期あったし、少しずつ、強くなりましょ?ね?」
あたたかな視線をおくってくれるマーちゃんは、人生で一度ももらえていない、母の優しい愛情みたいなのを僕は感じた。
「ん・・・頑張ってみるよ。それにさ」
マーちゃんが、ん?と分厚い唇を尖らせる。
「リアトレするとユニークスキルの出やすいらしい・・・!」
「んほっ!どこ情報なのん??」
「アルカディア」
「クソ有力情報キタァァァァァァ!!」
んほって・・・ねっとスラングじゃなかったのかマーちゃん・・・
「ん!もう予鈴ね!八時よ!さっそくログインしましょ!」
「おけ!」
さっそく僕は『ラヴィアン・ワールド』を起動し、意識をゲーム世界へフルダイブさせた。
『ほんと、飛び級様様ね、れいっち★』
最後にマーちゃんが何か言ってたような・・・
宮元 零 この物語の主人公
アルビノ体質の14歳
姉の影響(矯正)により見目麗しいジェンダーレスな男の子
まちで見かければ必ず振り向くぐらいの美人である。ネトゲ廃人。
真田 正次
鏡花中学保健担当三年目教師。
ムキムキマッチョ系オネェ。
たよりになる性格をしており、まさに姉御肌。
昔零と別ゲーで出会っており、数奇な運命に導かれて、再会を果たす。
零の姉の学友だった経歴もあり。
好きな男子は、寡黙なイケメン。