白磁色の恐怖
新天地を求めて彼らはさまよっていた。
「暑い!なんて暑さだ!」
「ロッシュ。洞窟があるぞ。女子どもを休ませよう」
「ああ!」
山岳地帯のすり鉢状になった地帯は太陽の熱を増幅して人々を襲った。
「熱中症が出た。水を!」
「大丈夫か?」
「今のところは手持ちの水と食糧でなんとかしのげるが、この先こういう状況が長く続いたらどうする?」
男たちは口々に不安を口にした。
「まあ、待て。この洞窟は奥が深そうだぞ。何かにありつけるかもしれない」
「手分けして捜すか?」
綱を持って何かあったらすぐに逃げられるようにたぐって奥へ入っていった。
松明の火の粉がジリジリと落ちてゆく。
「うわあ!」
何気なく照らしたものにびっくりした誰かが叫んだ。
「なんだ?」
「人?」
「いや、違うな」
白磁器ででもできているような白くて透明な肌。しかし、その背中には翼が生えていた。
「死んでるのか?」
「生きてる。眠ってるみたいだ」
時々ぴくりと動く。
「夜行性かな?」
きれいだった。しばらく彼らはそれにみとれていたが、ふいに、水の匂いがして、近くに川を見つけた。
「カニがいるぞ。捕まえろ」
「冷てえ」
彼らは大はしゃぎだった。
ぎゃあ!
ただ事でない声がした。
松明の炎が有翼人種が目を見開いて一人の男の首筋にかぶりついているのを照らし出した。口元からぬらぬらと血液が流れている。
ロッシュは勇敢にも手製の槍で有翼人種を突き殺した。
「そっちはどうだ?」
「だめだ。失血死してる」
「こいつだけか?」
「!?」
男たちは大慌てで来た道を戻った。
「ロッシュ!よく無事だったな!」
「仲間が一人やられた」
「有翼人種だろう?奥の広い空間に何百といるぜ」
「夜行性みたいだから今のうちに逃げるか?」
「いや、外で襲われるかも知れない」
「じゃあどうする?」
「火で撃退しよう」
「わかった。でも、燃やすものがないぞ」
「有翼人種の足下にカラカラに干からびた動物の死骸があるんだ。きっとよく燃えるだろう」
興味本位でついてきた若い男があまりのむごさに目をそむけた。
「天使みたいな姿なのに、実態は悪魔だ」
手を汚すことなくこの洞窟が手に入ったならばどんなに良かっただろうか?
ロッシュたちは有翼人種を壊滅させると、川の水を瓶につめて、カニや魚を捕まえて、再び旅を続けることにした。