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≪連載版≫ 男だけど、双子の姉の身代わりに次期皇帝陛下に嫁ぎます 〜皇宮イミテーションサヴァイヴ〜  作者: ユーリ
第1部 弟だけど姉の代わりに皇太子殿下の婚約者候補になります。
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第8話 人は誰かが支えてこそ、最初の1歩を踏み出せる。

 今日は注文していたドレスをフィッティングする日だ。


「うまくやってるようだな、エステル」


 久しぶりに兄貴の顔を見てホッとする。

 皇后様のお陰でユニコーンの間の使用が許可されたため、今日ここにいるのは私の事情を知る身内だけだ。


「御機嫌よう、エステルちゃん」


 兄貴より身長の高いこの美人さんは、一見女性にしか見えない。

 しかし、彼女の性別は俺と同じである。


「お久しぶりです、シモンさん」


 この人こそが、今回の婚約式で着る俺のドレスを仕立ててくれた人だ。

 毎回、漆黒のドレスとロンググローブと彼女のスタイルのパターンは決まっているが、毎回違ったデザインを取り入れてるのでとても面白い。

 いかなるデザインも自分のスタイルに落とし込めるのは、彼女がパタンナーとしてとても優れているからだろう。


「あら? 私のことはヴェロニカって呼びないってちゃんと教えていなかったっけ?」


 イタイタイタイタイ!

 あんたの馬鹿力で握りしめると、俺の頭なんか簡単にかち割れちゃうんだって!


「ごめんごめん、冗談だってヴェロニカ!」


 調子に乗って揶揄っちゃダメだね、もう少しで死んでた。

 川の向こうで曾祖父様が手を振ってるのが見えたよ。


「んん? あんた暫く見ない間に雄っぱい膨らんでるんじゃない?」


 ぐっ、人が気にしている事をズカズカと……。

 ていうか、体型チェックとか言いながら、ドレスの中をまさぐるのやめてもらえます?


「そ、そんな事より、お兄様、エスターは見つかりましたか?」


 これ以上ここに長くいると、いつか手遅れになる気がすごくする。

 だから何としても、一刻も早くここから抜け出さないといけない。


「ふふん、その事だがな」


 おっ、兄貴の顔を見る限り何か進展があったようだ。

 その表情から察するに、もしかして、もう見つかっちゃったりしましたか?


「まったく見つかっていない。手がかりもゼロだ!!」


「だったら、なんでそんなドヤ顔なんだよ!」


 思わず声を荒げてしまった。

 俺は慌ててチラリとエマさんの方を見たが、表情に変化はない。

 きょ、今日はもしかしてお咎めなしかな? やったー!


「痕跡一つ残さぬその手腕には、流石は我が公爵家令嬢だと父上も感嘆していたぞ」


 こっちは、生きるか死ぬかの瀬戸際を彷徨っているというのに……。

 俺の家族はどこか他人事のように呑気な気がする。

 もしかして俺を本気で……いやいや、俺は家族を信じてるからね!


「心配するな、爺様も現役に復帰し捜索に加わっている」


 おぉ!

 爺様はその昔、冒険者だった。

 貴族でありながら、数多くの討伐実績や遺跡の探索で名を馳せた、その界隈では有名人である。

 その爺様が、最前線で捜索しているのであればとても心強い。


「確か今は北の山脈地帯を捜索しているはずだ」


 北の山脈地帯といえば、天候が荒れやすく、一流の冒険者達でなければ捜索が難しい。

 エスターのやつ、どんなとこまで逃げてるんだよ……。


「そういえば、捜索の途中に遭遇した北のドラゴンと死闘を繰り広げたとか、爺様から絵葉書が届いてたな」


 兄貴は俺に一枚の絵葉書を手渡す。

 そこには倒したドラゴンをバッグに、満面の笑みでダブルピースしてる爺様と、その冒険者仲間の姿が再実に描かれていた。


「普通に捜索忘れて、冒険楽しんでるじゃねーか!!」


 思わず絵葉書を床に投げつける。

 しかもなんだよ、あの冒険者仲間達は!

 みんな10代から20代の若い女の子ばっかじゃねーか! ハーレムかよ!!


「まぁ……爺様は父上の父親だしな……」


 そういえばそうでした。

 その遺伝子を色濃く受け継いだ2人の兄貴は、父様や爺様と同様よくモテる。

 ちなみに俺は母上に似てるせいか、女の子には全然モテない。

 でも俺だって、女の子とはすぐ仲良くなれるんだけどな。

 ただなんとなく、男と言うより女友達みたいな感じで接されてるような気がするんだけど……きっと気のせいだよね?


「はいはい、2人ともそこまでよ、まさか、今日の目的を忘れたわけじゃないわよね?」


 シモン……ヴェロニカは、俺の前にずずいとドレスを差し出す。

 忘れてたわけじゃないんですよ。

 ちょっとくらい現実逃避したっていいじゃないですか。


「それにしてもエステルちゃん、生地を斜めにカットするなんて良く考えたわよね」


 ヴェロニカは扇子で口元を隠し、うっとりとした目で黒のドレスを見つめる。

 婚約の儀を黒で臨むと決めた理由は2つあり、そのうちの1つがヴェロニカに対する尊敬の念だ。

 そしてもう1つが、この斜めに切った生地を最大限に生かすためである。


「はい、フィット感を出すために、靴下と同じ手法が使えるのではないかと思いまして……」


 実は、裁縫は俺の趣味の一つだ。

 エスターの奴が毎回、刺繍の課題を俺に押し付けてきたのが最初のきっかけである。

 チクチクチクチク……1人で刺繍していたらはまってしまった。

 だって、縫い物してる間は色々な事から目を背けられるしね……。

 最初は刺繍から入り、小物を作ったりするくらいだったが、服を作るようになったのは、家のパーティーに招かれたヴェロニカに会ったのがきっかけだろう。

 たまたま俺の作ったハンカチを拾ったヴェロニカと、直ぐに意気投合したのをよく覚えている。

 ヴェロニカは、俺に服作りの基本を手取り足取り教え、道具まで貸してくれた。

 当時、こういう話が周りでできる人が居なかったので、今でもヴェロニカにはとても感謝している。


「おい、そのドレス、袖はどうした?」


 兄貴はびっくりした表情でドレスを見つめる。

 驚くのは無理がない、女性のドレスとは通常スリーブは膨らんでいる物だ。


「それだと、せっかく体のラインがでるのに野暮ったくなるかなと思って、とっちゃいました」


 どうせ伝統的なドレスは本番で着るしね。

 はっきしいって、こんな機会は滅多にない。

 一度でいいから女性のドレスを作ってみたかった、というのが本音である。

 どうせやるなら、デザインで後悔したくはない。

 一つ計算違いがあるとしたら、本当ならこれはエスター本人に着て欲しいと思っている。

 でも、このままじゃ自分で着る事になりそうなんだよね……。


「さすがエスターちゃんよ、だから、さぁ、ほら、早く着てみて!」


 ヴェロニカは待ちきれずに、その作り物の雄っぱいをグイグイと押し付ける。


「わかりました、ちょっと待っててください」


 俺はエマさんを伴い、衝立のある所に入る。

 このドレスを着る時は、完璧を期すために女性の姿になって着るつもりだ。

 当日は多くの人が来るので、少しでもバレるリスクを減らしたいし、何より女性のエスターが着るのだから体形も少しのゆとりを残して最小単位で調整してある。

 エスターの体形が大きく変わっていないなら、女性になった時の俺とほぼ同じだ。

 男の状態でも着れなくはないけど、それではこのドレスが最高の状態を発揮できない。

 俺は口の中に魔法薬をワンプッシュすると、みるみる女性の姿へと変わっていく。


「うっ……」


 鏡に映る自分の姿を見て引いてしまう。

 男女の差異が消えたせいか、寸分違わずエスターとそっくりですね。


「エステ……エスターちゃん、まだー?」


 そこ、言い直さない!

 着替えの終わった私は鏡で確認し、衝立の外に出る。


「「お、お〜!」」


 ヴェロニカ……声がシモンに戻ってるけど大丈夫?


「袖がないのはびっくりしたが……これはこれでいいな」


 素直に感嘆するお兄様をみて顔が緩む。

 お兄様は昔、私が作っていた刺繍を見て褒めてくださった。

 そういう事に偏見のない人だからこそ、私はお兄様が大好きなのです。


「腰のラインが凄く綺麗にでてるわ、なによりそのドレープよ、歩いたら華が開いたように美しいわ」


 生地を斜めに切った1番の理由がこれなんだよね。

 このドレープは歩いてこそ、その魅力の全てが引き出せる。

 黒にこだわったもう一つの理由も、光沢感の陰影でドレープが美しく見え、フィット感により体形がよくわかるので、スタイルの良さを前面に押し出せるからです。


「ところでこの衣装、本当に貴方の名前を入れなくても良いのかしら?」


 ヴェロニカは共同製作として、衣装の見えない部分に名前を入れようと提案してくれました。

 でも私には、エステルの名前を出すその勇気がなく、ヴェロニカの提案に二の足を踏んでいます。


「えぇ……それよりヴェロニカ、追加注文の品はできてますか?」


 このドレスを製作するにあたって、もしものために用意した物があります。


「これね、ところでこのショールどうするの?」


 ヴェロニカが疑問に思うのも当然でしょう。

 ショールをつければ、せっかくスリーブをカットしたのに隠れてしまいます。


「もしも、肩を出してはいけないと言われた時のために用意しました」


 ドレスと同じ黒のショールを羽織る。

 不本意ではありますが、これはこれで綺麗ですね。


「私が着るならこっちだけど、やっぱり、袖がない方が良いわね、インパクトが段違いよ」


 私もどうせなら袖なしなんだけどね。

 やっぱり伝統だなんだと、細かいことを言う人もいますから……。


「シ……ヴェロニカさんと同じ意見だ、何か言われたら俺もフォローしよう」


 やっぱり、お兄様は最高です!

 お兄様、だーいすき!!


「あら、貴方、話がわかるじゃない、見た目だけじゃなくて中身も素敵なのね」


 ヴェロニカ、舌舐めずりをしたのが扇子越しでもわかりますよ。

 ぐいぐいと来るヴェロニカに、お兄様もタジタジのようです。


「お嬢様、私もショールがない方が素敵だと思いますよ」


 マナーを大切にするエマさんには、もしかしたら受けいれられないかと思っていたので驚きです。

 これには、思わず涙腺が緩みそうになりました。


「しかし、エスターお嬢様がそのドレスの魅力を最大限生かすには、まだ私の努力が足りなかったようですね」


 あれれ? 流れ変わりました?

 エマさんの笑顔に、思わず涙腺が決壊しそうです。


「先程、絵葉書を叩きつけた時にガニ股になっていたのはなぜでしょう」


 ごめんなさい、100パーセント私が悪いです。

 反省してますから、今晩は寝かせてください。

 お読みいただきありがとうございます。

 余談ですが、ヴェロニカとシモンの元ネタはファッション好きな方にはバレちゃうかもですね。

 ちなみに、エステルの着ているドレスは、ヴィオネやガリアーノのドレスを参考にしてます。


 本題ですが、当初1日1話ペースを想定していたので、書き溜めをほぼ使い切りました。

 クオリティを維持するために、ペースを落として投稿するのがいいか、2週間ほど開けてまた集中投稿するのが良いか悩んでおります。

 当面の間この作品を中心に回す予定にしていますので、よろしくお願いします。

 

 それと多くのブクマ、評価ありがとうございました。

 感想も含めとても励みになりました。

 今後も頑張っていくのでよろしくお願いいたします。


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