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≪連載版≫ 男だけど、双子の姉の身代わりに次期皇帝陛下に嫁ぎます 〜皇宮イミテーションサヴァイヴ〜  作者: ユーリ
第2部 弟だけど姉の代わりに婚約者として皇太子殿下をお支えします。
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第28話 男はいつまでたっても子供のまんまなのです。

 お父様にエスコートされて会場の中へと入る。

 一際高い天井のステンドガラスからは太陽の光が降り注いで幻想的な雰囲気を漂わせています。

 式場は長細い部屋が三つほど連結しており、中央のヴァージンロードを挟んで来賓席が配されている。

 来賓席は基本的に手前から奥にいくほど位が高く、サマセットや皇族の方に懇意にされている方が座っています。

 聖歌隊による賛美歌が流れる中、一歩、一歩とウィルが待つ祭壇の前へとゆっくりと歩いていく。

 なんだかちょっと不思議な感覚です、

 まさか自分が花嫁としてここを歩く日が来るなんて……。

 私が感傷に浸ってしまうのを感じたのか、お父様がギュッと手を握ってくれました。

 ふふ、わかってますよ、余計なことは考えずに今は式に集中しなさいって事ですよね。

 賛美歌が終わると同時に、私たちは祭壇の前にたどり着いた。

 この音合わせのために何度リハーサルしたことか……今ではいい思い出ですけどね。


「これより皇太子ウィリアム・アルバート・フレデリック・アーサー殿下と、サマセット公爵家エスター・エルミア・ボーフォートの結婚の儀を執り行います」


 祭壇の前にいるギデオン総大司教が結婚の儀の開始を宣誓する。

 ギデオン総大司教とは以前、私の婚約の儀で身を清めた時に挨拶程度の面識があります。

 今回は前日の夜に長い時間をかけて身を清めたのですが、その時にも皇宮の聖堂をお借りしました。

 そのせいで再び風邪を引きそうになったのは内緒ですよ。

 こんな寒い最中に、水場で身を清めるなんて地獄以外のなにものでもありませんでした。

 なんでこの時期に結婚を了承したんだろうと、後悔しそうになっちゃったぐらいです。

 また身を清める時に、ラフィーア先生にメイドの服を着させてエマの代わりに同行させました。

 ラフィーア先生との約束でしたしね。

 それにしても今回は前回と違って何も起こりませんでした。

 あれは本当に何だったんでしょう……。


「それでは誓約のために出席者は全員ご起立ください」


 どうやらギデオン総大司教の式典に関する長い説法が終わった様です。

 総大司教の有難い説法を片手間に聞き流していたなんて、敬虔な信徒であるウェストミンスター公爵にバレたら怒られちゃうかもしれませんね。


「この婚姻に異議がある者は、今、この場で異議申し立てを行なってください」


 もちろん誰一人として異議申し立てするような人はいません。

 よっぽど正当な理由がない限り、そんな事をしたらこの場で処罰されるかもしれませんからね。


「ご協力ありがとうございます。この結婚に異議はないものとし、式を進行させていただきます」


 ギデオン総大司教は手に持っていた聖書をめくる。

 ページがめくれる紙の音すらも鮮明に聞こえるほど、会場は静かで厳かな雰囲気が漂っています。


「汝ウィリアムはエスターを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も共に歩み、死が二人を分かつまで愛を誓い妻を想う事を、神聖なる婚姻の契約のもとに誓いますか?」


「はい」


 ギデオン総大司教はウィルへとの問いかけが終わるとこちらに首を傾ける。


「汝エスターはウィリアムを夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も共に歩み、死が二人を分かつまで愛を誓い夫を想う事を、神聖なる婚姻の契約のもとに誓いますか?」


「はい」


 私が了承の言葉を述べると、巫女であるセレニアが羊皮紙を乗せたトレイを持って舞台袖から現れる。

 セレニアはそのまま私たちの目の前へと歩くと、祭壇の上に羊皮紙を乗せたトレイを置きました。


「お二人は婚姻関係の了承の証として、羊皮紙にそれぞれの名前と血判を記してください」


 まずウィルが署名捺印し、その後に私が名前を署名しその横に捺印します。

 こういう時、間違ったらどうするんだろう……。

 そんな余計な事考えたら本当に間違えそうなので、署名する事だけに集中しました。


「また今回の婚姻の証人として、皇帝陛下のご署名を頂きたく思います」


 私たちの後に続いて皇帝陛下が羊皮紙に署名捺印します。

 そういえば皇帝陛下は、私の正体を知ってもあっさりと婚姻を承諾してくれました。

 ウィルがこちらに任せろと言ってたから任せたけど、特に何も言われなかったのかな?


「続いてサマセット公爵宰相閣下、ご署名お願い致します」


 結婚の証人には皇帝陛下以外に、両家当主を含め7名の署名が必要になります。

 しかし今回の様な場合は、皇帝陛下の署名は両家当主の署名には含まれません。

 つまりお父様以外に6名の署名が必要になります。

 お父様が羊皮紙に記名すると、羊皮紙を乗せたトレイをセレニアが横の台へと運ぶ。


「最後に、今回の婚姻に関して証人を務める6名の方、前へ出て署名をお願いいたします」


 婚約の儀で立ち会ったベッドフォード公爵を筆頭に、ラトランド公爵、リッチモンド公爵、マールバラ公爵、ウェストミンスター公爵、ウィンチェスター侯爵の6名が順に舞台脇の台へと向かい、署名していきます。


「それでは婚姻の証として、新郎新婦はお互いに指輪を交換してください」


 舞台袖から再度現れたセレニアが、指輪の乗ったトレイをギデオン大司教に手渡した。

 私はグローブを外して、介添人であるウィンチェスター侯爵へ預けます。

 ウィルはリングピローから指輪を取ると、緊張する私の手を取った。

 緊張して冷え切っていた指先に、ほのかにウィルの熱が伝わってきます。

 ウィルは私の指に指輪を嵌めると、ほんの少しだけ顔を綻ばせました。

 それにつられて私も笑みをこぼす。


 さぁ、次は私の番ですね。

 私は慎重にリングピローから指輪を外す。ここで落としたら流石に恥ずかしくて耐えられません。

 そんな事を考えていたら、本当に落としそうになってしまい焦りました……。

 周りの人にはバレていないようですが、至近距離で見ていたウィルには誤魔化せずお互いに目を見合わせる。

 私は咄嗟に笑顔を使ってごまかしましたが、確実にバレてますね。

 もー、絶対に後でからかわないでくださいよ!


「ギデオン総大司教の名の下に、トレイス正教会はこの婚姻に一切の不備、疑惑、詐称はないものと宣言いたします」


 ……ふぅ、なんとか無事にウィルの指に結婚指輪を嵌める事ができました。


「その証として、ご来賓の方々に誓約書と結婚指輪のご確認をお願い申し上げます」


 ウィルと私は指輪をつけた手を挙げて参列者の方へと体を向ける。

 私たちの隣では、セレニアが誓約書を手に持って来賓の方に向けて見せていた。


「それでは最後に、新郎新婦による誓いのキスを」


 私たちは再び向き合う。

 式が始まった時から、いや、その前からずっと考えないようにしてきましたが、どうやら現実逃避をしてもこの事からは逃れられなかったようです。

 ううう、何もこんな人前でやらなくってもいいじゃないですか。

 恥ずかしさと緊張感から私は微動だにできません。

 ウィルは私の状態を汲み取ったのか、キスの前に軽く私の頬に指先を触れる。

 たったそれだけのことで、ああ、なんて私は単純なのでしょう。

 ほんの一瞬だけほぐれた私の緊張を、ウィルは見逃してくれませんでした。

 時間にしてわずかに数秒、私とウィルの唇が重なり合う。


「これにてお二人の婚姻が成立した事を神がお認めになられました」


 参列者からは割れんばかりの拍手が起こりました。


「つきましては列席者の皆様方にお願い申し上げます。この若いお二人がこれから歩む道先に神のご加護があらん事を、どうかお祈り申し上げてください」


 お祈りの時間が終わると、次は帝国国歌の演奏です。

 しかしお祈りの時間が終わりギデオン大司教が退席すると、国歌の演奏より前に皇族派の貴族が立ち上がって万歳三唱を始めた。

 それを見た若い貴族達もそれに続く。

 予定にはなかった事ですが、何人かの貴族はやるだろうなとわかっていました。

 すでにトレイス正教会の区分としては終わっていますし、彼らは私達や皇帝陛下、皇族、帝国にお慶びを申し上げているだけなので特に違反になりませんしね。

 帝国国歌を演奏するために指揮者が壇上に上がると、彼らはすかさず万歳三唱を辞める。

 この統制のとれ具合、ベッドフォード公爵かなと視線を送りましたが、素知らぬ振りをされました。

 国歌演奏に合わせ皇帝陛下を含めた会場にいた全員がその場に立ち上がる。

 あとは演奏が終わった後に、私達が舞台から捌ければそれにて結婚の儀はおしまいです。


「お二人ともこちらです。さぁ、急いでください!」


 しかしまだ私たちの長い1日は終わりません。

 次は晩餐会なので、私たちは一足先に皇城へと戻り、皆様のご来場をお待ちしなければならないのです。


「殿下、ご来賓のリストに変更がありました」


「わかった」


 ウィルはリストを直ぐに確認すると、隣にいた私に手渡す。

 どうやら当日に体調が優れず、代わりにご子息が出席する人がいるようですね。

 あとは同行者の変更と……早歩きで裏通路を歩きつつ寺院の表へとぐるりと戻る。

 本当は裏口から出た方が早いのだけど、仮にも皇族がこんなめでたい日に裏口からコソコソでるわけにはいけません。

 モニカは狭い通路の中、私の早歩きに並走しつつ通行の邪魔にならないように配慮する

 その上で私の汗をぬぐい化粧を手直し、唇の紅を塗り直していきます。

 代わりに後ろではオリアナが一人で奮闘している。

 長いスカートとヴェールが汚れないように手繰って一人でずっと持ち上げています。


「こちらです! もう馬車は外に待機しています」


 私達が会場の扉を開けると、大きな歓声と拍手が巻き起こった。

 式はもう終わってるので、私たちは時間がなくてもこの声に応えなければなりません。

 私は寺院の外に集まった人たちに向けて大きく手を振って馬車に乗りこむ。


「出ます」


 行きとは違って、私はウィルの馬車に同行する。

 御者はウィルフレッド様が務め、その隣の席にはヘンリーお兄様が座っています。

 代わりに私の馬車にはモニカとオリアナが乗って後ろに続く。


「ふぅ、息をつく暇もないな」


「えぇ、そうですね」


 私とウィルは沿道に居る人たちに向けて手を振り声援に答える。

 移動の時にも私たちに気をぬく暇はありません。

 視線を下げるわけにもいかず、膝に置いた書類すらも確認できない状況が続く。


「それにしても指輪交換の時にはひやひやしたぞ」


「うっ……そこは見て見ぬないふりをしてくださいよ」


 油断していると、私の手にウィルは自らの掌を重ねる。

 もう片方の手を窓から下げる事はできませんが、空いている手は隠れていて外からは見えません。

 ウィルは指先でそっと私の指輪をなぞるように触れる。


「男が女性に指輪を贈る気持ちなど一生わからぬと思っていたが、なかなかにいいものだな……」


「も、もう……ダメですよ」


 私だってまさか指輪を贈られる方の気持ちがわかっちゃうなんて、思ってもいなかったです。


「なぁ、抱きしめていいか?」


「ダメです」


「ふふん、ダメだと言われると余計に……」


「今は絶対にダメですからね」


 言っときますけど私の手の甲の上で、いじらしく指先で輪っかを描いてもダメですよ。

 その後もウィルは外から見えないのをいい事に、子供のように色々とちょっかいをだしてくる。

 ウィルのそういう子供っぽい悪戯してくるところ、私は嫌いじゃないですけど今は本当にダメですからね。


「城門を超えます、ご到着の準備を!」


 ふぅ、これで手を振る必要はなくなりました。

 気の抜けた私が手を下ろすと、ウィルはすかさず私を抱きしめる。


「も、もう……ダメって、言ったじゃないですか……」


「今はもう誰も見てない」


「いやいや、見てますって!」


 私は御者を務めるヘンリーお兄様とウィルフレッド様を指差す。


「見てないよな?」


「はーい、全然みてませーん」


 嘘つけ!!

 気の抜けたヘンリーお兄様の返事に、ウィルフレッド様が笑い声を漏らす。

 護衛騎士のみんなも態とらしく顔を背け、ゴードンに至っては口笛を吹いていた。


「ちょ、ちょっとだけですからね」


 もちろんそんな約束は守られるわけもなく、ウィルは再び私と唇を重ねる。

 先ほどよりも少し長いキスは、私の顔をより赤く染めていく。

 見ないふりをしてくれてるものの、身内に囲まれた中で口づけを交わすなんてどんな羞恥プレイですか!?


「……ウィルのばか」


「すまない、どうやら俺はだいぶ浮かれているようだ」


「ま、まぁ、その気持ちは分からなくはないですけど……」


「へぇ、それじゃあ3度目の口づけを楽しみにしておこうか」


 さっ、3度目って、そういうえっちなのはダメですよ!

 これはまずい、非常にまずいです。

 なんとかラフィーア先生を早く捕まえて私の方の準備を整えないと!!

 お読みいただきありがとうございます。

 次は晩餐会ですね。

 ブクマ、評価等ありがとうございました。

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