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≪連載版≫ 男だけど、双子の姉の身代わりに次期皇帝陛下に嫁ぎます 〜皇宮イミテーションサヴァイヴ〜  作者: ユーリ
第2部 弟だけど姉の代わりに婚約者として皇太子殿下をお支えします。
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第23話 そうやっていつかはみんな大人になる。

 ウィル視点です。

「ははは、やったぞ!! 肉体の再生までは叶わなかったが、厄災を再びこの世界に! これで帝国は終わりだ!!」


 騒ぐ男は気が狂ったように笑い声をあげる。

 それが気に障ったのだろう。

 エスターに乗り移った厄災竜が左手を翳すと、地面から現れた魔法陣で一瞬にして男の身体が火に包まれた。

 苦しむ男の断末魔が部屋の中に響く。


「バカが、あんなものを復活させれば終わるのは帝国だけではないぞ」


 レヨンドールは額に汗を垂らす。

 一体どう言う事だ? 厄災とは、あのお伽話の厄災竜の事か?


『前の出来損ないと違って、悪くない身体だ』


 気だるさの混じった虚ろな瞳。

 いつものエスターが見せる感情に富んだ愛くるしい瞳とは違う。

 ハイライトの消えた瞳の奥からは、人ならざる何かの存在を感じられた。


『そこのお前たち、私の知っている気配だな……特にそこのお前』


 蛇に睨まれた蛙とはこの事か。

 睨まれただけだと言うのに身体が重くなる。


『アーサーによく似ておるな、貴様、奴の子孫か?』


 俺の名前の末尾にも入っているアーサーは、我が帝国の最初の皇帝の名前だ。


『否定せぬと言う事は是と言う事か。奴に復讐できぬのは残念だが、その子孫を絶やすのは悪くない。どうやらこの身体の情報によると、お前は一人息子のようだしな』


 エスターの身体を乗っ取った厄災竜がこちらに向けて左手を伸ばす。

 すぐに回避しないとさっきの男の二の舞だ。

 しかし俺の身体は、厄災竜による威圧のせいか思ったように動かせない。

 まずいこのままでは!

 次の瞬間、エスターは右手に持っていた短剣をクルリと回して自らの喉元に突き立てた。


「エスター!」


 エスターの首筋にうっすらと血が滲む。

 短剣が首元を貫くよりも早く、厄災竜は魔法の行使を止め自らの右手で左手の手首を掴んだ。


『これは驚いた、まさかまだ抵抗できるとはな』


 くそっ、俺は何をしている!

 エスターは身体を乗っ取られた言うのに、まだ奴の中で抗っているのだ。

 それなのにここで俺が惚けている場合ではない。


「聞こえるかエスター! 耐えろ! 絶対に俺が助けてやるからな!!」


 とは言っても、どうやって厄災竜からエスターの身体を取り戻せばいいのか見当がつかない。

 厄災竜があのお伽話の厄災竜だとするならば……お伽話?

 そういえば過去に一度だけ、父がお伽話を俺に読み聞かせてくれた事があった。

 父の話すお伽話の内容は、母が読み聞かせてくれた広く知られた絵本の話とは違っていた気がする。

 もしかしたらそこにヒントがあるのではないのか、俺は記憶を遡るが何も思い出せない。

 くそっ、こんな事ならただのお伽話だとは思わずに、ちゃんと父の話を聞いておくべきだった。

 俺は自らの浅慮を悔やむ。


『レヨンドール? あぁそうか、思い出したぞ』


 エスターの片方の口角が持ち上がる。

 止めろ、エスターの顔でそんな笑い方をするな。

 エスターは、あいつは、いつも幸せそうに笑っていた。

 そんな相手を侮蔑するような笑い方をする人ではない。


『貴様あの時竜王の傍に居た白銀の小童だな! ハハハ、面白いな運命と言うのは!!』


 竜王の傍……そういえば母の聞かせてくれた話では竜王は白銀の竜であった。

 しかし父の聞かせてくれた話では、竜王は黒龍だったと言っていた気がする。

 いいぞ段々と記憶が蘇ってきた。

 確か白銀の竜は黒龍の側仕えの竜の一匹。

 その美しき白銀の鱗と、人の姿に化けられる特異さから召し上げられた言っていたな。


『感謝するぞレヨンドール、お前がアンの身体を傷つける事に躊躇しなければ、私はここに居なかったのだからな!!』


 アンとは誰の事だ?

 父の話にもその名前は出ていなかったと思う。


「初代皇帝であるアーサーがまだただの平民だった頃、帝国が存在しなかった時代の話。アンはアーサーの妹で、人族の実験の犠牲者となった少女の名前だ」


 俺の疑問に答えるようにレヨンドールは口を開く。


「レヨンドール、お前一体?」


「人族の手によって拐かされたアンは、太古に封印された厄災の力を利用するために竜の血を飲まされその器となった」


 竜の血を飲む事や、竜の身体を使って実験する事は帝国では禁忌とされている。


「ワシは……アンを攻撃できなんだ。兄であるアーサーですら心を鬼にしたと言うのに、ワシが攻撃を躊躇ったせいで反撃によって竜王は死に、残った力で厄災をここに封印するしかなかったのだ」


『そうだ。人の姿に成る事ができた貴様は、愚かにも人種の小娘にうつつを抜かしたのだ』


 俺はレヨンドールにかける言葉を失った。

 自らの愛おしい人を失う事がどれだけ苦しいのか、俺ならば耐えられる自信がない。

 たとえどれだけの時が経っても、その苦しみからはきっと逃れられないだろう。


「貴様の言う通りだ厄災よ。だからこそワシは、あの時の自分の過去に決着をつける」


「待てレヨンドール! エスターの命を奪うつもりか!!」


 俺は2人の間に身体を割り込む。


『ほう、自らの背負った苦しみを次は仕えるべき主人に背負わせるのか?』


「……先ほどエスターは、自ら命を絶とうとした。凄まじいほどの精神力と決断力の速さ、ワシはエスターの意向を尊重する。例えウィルに恨まれようとも、殺されたとしても、それが苦しみから逃れたワシの背負うべき業なのだ」


 レヨンドールは本気だ。

 何か、何かないのか!

 俺は厄災の方に身体を反転させると地に膝を折る。


「厄災よ、頼む……頼むからエスターの体を返してくれ。身体がいると言うのなら俺の身体を使ってくれ!!」


『ふむ、その提案は悪くない、悪くないが……くくっ、お前この体の主に惚れておるのか?』


「あぁ、そうだ! 俺はエスターを愛している!!」


 厄災はエスターの顔で表情を更に歪ませる。

 愉悦に浸った瞳に、人を嘲笑うかのような口元。

 まるで新しい玩具を買ってもらった子供のようだ。


『そうか、ならばこの身体を見ても同じ事を言えるかな?』


 厄災竜はドレスの胸元に手を当てると一気に衣服を引きちぎった。

 中に入っていた詰め物が落ちると、エスターの平らな胸が露わになる。

 胸が小さいとかではない、正真正銘、俺と同じ男性の胸板。

 その姿に俺は目を見開いた。


「エス……テル……?」


 俺は言葉を詰まらせる。

 頭の中が混乱して何一つ纏まらない。

 どうしてエステルがエスターの姿をしている?

 もしかして身代わりなのか?

 いや、俺が最後に見た厄災に乗っ取られる前のエスターは、間違いなく俺の知っているエスターの笑顔だった。

 俺の中でエスターとエステルの笑顔が重なる。

 そういえば2人の笑い方はよく似ていた。

 双子だから似ている? いいや、そんなレベルじゃない。

 エステルの笑顔は俺が愛おしいと思っているエスターの笑顔と一緒だったじゃないか。

 どうして、どうして……俺はこんな簡単な事に今まで気がつかなかったのだ。


『くくっ、どうだ、この姿を見ても同じことが言えるのか? アーサーの子孫ウィルよ』


 昔、父が言ってくれた言葉を思い出す。

 皇帝になるということは、全てにおいてなんらかの決断を下さねばならない立場になるという事だ。

 そして決断には絶対の答えはない。

 結果がどうであれ、それによって生じたものは一生自分が背負わなければならないという事。

 どのような決断を下しても、後悔のない選択などはないだろう。

 だからこそ本当に悩んだときは、最後は自分の心に従えと父は言っていた。

 そうだ、余計な事は全て削ぎ落とせばいい。

 俺はエスターを……いや、エステルをどうしたいのか。


「ふっ、感謝するぞ厄災よ」


『感謝?』


「あぁ、お前のお陰で俺の心は決まった。だが、その言葉を伝える相手はお前ではない」


 エステルには言いたいことも聞きたいこともいっぱいある。

 しかし俺がアイツに本当に伝えた事はたった一つだけだ。


「厄災よ、お前がその身体を明け渡さないというのなら、俺はそれに抗うだけだ」


「待て、ウィル! エステルの身体はもう……」


「レヨンドール!」


 俺の成そうとしている事は、ただの我儘かもしれない。

 ここで厄災を止められなければ、帝国に限らず多くの死者が出るだろう。


「お前の選択を竜王やアーサーは責めたのか?」


 レヨンドールは言葉を詰まらせる。

 俺がもしアーサーの立場だったら、竜王の立場だったら、きっとレヨンドールを責める事は出来なかったはずだ。

 今回の事だって、エステルを失って悲しむのは俺だけじゃない。

 何よりレヨンドールは、エステルを手にかけることでもう一度深い傷を背負わなければいけないのだ。

 そんな事、絶対にさせてたまるものか。


「だったら俺の答えは1つだ、俺はお前の友人としてお前の心も救ってやる」


 俺の目の前には救わなきゃいけない愛おしい人がいる、俺の後ろには救ってやりたい友人がいる。

 だったら迷う必要はないはずだウィル。


『ハッ! 人の分際で竜を救うなどと傲慢極まりない、人とはやはり愚かなり』


「そうだ人はとても愚かだ。俺はその人々の上に立って皇帝になろうとしているのだから誰よりも欲深いぞ!」


 愚かでも良い。

 人だって竜だって、きっと神だって愚かじゃない奴なんていないさ。

 欲があって結構。

 それが誰かを貶める事ではないのなら、その欲はただの叶えたい夢だ。


「だから俺は今からエステルを救って見せる! 過去に苦しむレヨンドールの心も救いたい! もちろんお前の事だって救ってやるぞ!!」


『は?』


 ふっ、そのマヌケ顔は中々悪くないぞ。

 俺の最期の言葉にレヨンドールも理解が追いつかないのか、後ろで口を半開きにして戸惑っている。


「お前、ここがどこの領地だと思っている?」


 俺は自信たっぷりに笑みを浮かべると親指を地面に向ける。

 そうだ虚勢を張れ、相手が戸惑った隙を見逃すな。


「帝国領地から生まれた貴様は、漏れなく未来の皇帝陛下の愛すべき帝国領民の1人だ。俺は目の前で苦しんでいる国民が居ればただの一人も見捨てんぞ、それがお前でもな」


『救いようのない馬鹿め! 全員を救えるなどと、ただの子供の絵空事ではないか!!』


 そんな事は痛いほどわかってるさ。

 先ほどの襲撃事件の時も、俺を守ろうとして多くの人間が死んだ。

 今だって俺の目の前で苦しんでる奴を救えていない。

 人1人の力なんてのはそんなもんだ、1人でできる事なんて限られている。


「烏滸がましくて大いに結構、だがな、救えなかったというのは、救おうとする努力をした人間だけが吐いていい言葉だ」


『貴様1人で何が出来ると……』


「1人じゃないさ! あぁ、ずっと俺は1人じゃない!!」


 今も俺のために戦ってくれている者達がいる。

 家に帰れば両親が笑顔で迎えてくれるだろう。

 口うるさかった先生達も、今になれば全ては俺を思っての事だとわかる。

 後ろを振り返れば、種族は違えど心を通わせた友人がいるのだ。

 そして俺の夢を絵空事だと言わずに支えてくれる人が目の前にいる。

 あぁ、俺はなんと恵まれているのだろう。

 みなが俺を支えてくれている。

 だからこそ俺はみなの期待に答えたい。

 きっと誰もエステルを失っていいなんて思っていないのだから。

 誰かを犠牲にして迎えるバッドエンドになんて俺がぶち壊してやる。


「俺は覚悟を決めたぞレヨンドール、お前は俺を一人で戦わせるつもりか?」


「ふっ、ウィル……どうやらワシはまた選択を間違える所だったようだ」


 それを言うなら俺なんかいつだって間違ってばかりだ。

 今回のこの選択だって絶対に正しいなんて言い切れない。


「気にするな、間違った方向に向かう友人を止めるのが友達だろ?」


「違いない、お前が皇帝……いや、人として選択を間違えた時にはワシがゲンコツで止めてやる」


 さて、啖呵を切ったがいいが、どうやって取り戻す?

 まずはエステルの身体の支配権をエステル本人に戻さなければならない。

 そのために、直接エステルの意思に語りかける事が出来ればいいのだが……。


『いいだろう、ウィルと言ったな貴様。貴様だけは殺さずに、生かして事の顛末を見届けさせてやる』


 エステルの身体を乗っ取った厄災が一歩前に踏み出る。

 俺たちのエステルを取り戻す戦いが始まった。

 お読みいただきありがとうございます。

 正体のバレ方はかなり早い段階でこれだと決めていました。

 第6話だったかな? レヨンドールに乗ったエステルが物語に出てくる勇者のようだと言ってる辺りですかね。

 実際のレヨンドールは竜王の側仕え竜でしたけど。

 さぁ、もう後戻りできなくなりました。

 ちなみにまだ分岐ポイントではありません。

 一応お約束通り、ちゃんとどっちの選択も両方やるつもりにしています。

 正史はおそらく一番希望の多いエステル女エンドになります。

 if予定のエステル男エンドの方も、楽しんでいただける方がいれば幸いです。

 まだそっちを希望してる方読んでくれてる事を期待します。

 ちなみに作者はそろそろイチャイチャが書きたいのですが、今は我慢の時。

 仕方ないので結婚後の三部でやりたいイチャイチャネタを書き溜めてます。


 ブクマ評価感想等ありがとうございました、誤字修正も助かっております。

 それではまた次週にお会いいたしましょう。

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