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≪連載版≫ 男だけど、双子の姉の身代わりに次期皇帝陛下に嫁ぎます 〜皇宮イミテーションサヴァイヴ〜  作者: ユーリ
第2部 弟だけど姉の代わりに婚約者として皇太子殿下をお支えします。
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幕間 降誕祭 後編

 後編、次回から本編戻ります。

 それでは皆さん年明けにお会いしましょう。

 みなの協力もあり、なんとか無事に乗り切ることができました。

 あとはたわいもない雑談を交わし、お帰りになる来賓をお見送りしてそれで終わりです。


「夜風が気持ちいいわね」


 今はメイク直しの理由で席を外し、皇城のバルコニーで夜風に当たって疲れた頭の熱を冷ましている。

 そういえば、ここのバルコニー……私は周囲をキョロキョロと見渡した。

 皇城での最初の晩餐会の時、ここでサボってたらウィンチェスター侯爵と出会ったんですよね。

 それだけに油断は禁物です。

 

「どうやら今日は、ウィンチェンスター侯爵はいないようですね」


 ホッと一息つこうとしたしたその時、通路から1人の人影が現れる。


「ここにいたのかエスター」


「……ウィル、もう、びっくりさせないでくださいよ」


 一瞬、誰が来たのかとドキッとしたじゃないですか。


「懐かしいな、エスターとの最初の晩餐会もここで会ったのを覚えているか?」


「ええ、もちろんですとも」

 

 あの時、バルコニーの入り口で倒れる私を支えてくれたのがウィルでしたね。

 ウィルはごく自然と私の隣に立つと、バルコニーの手すりにに肘をつきこちらの顔を覗き込む。

 ちょっ、ちょっと、そんな見られると恥ずかしいんですけど……。

 私は外の景色に視線を逸らす。


「どうした、こちらを向いてはくれないのか?」


 ウィルは空いている左手で、私の頬をぷにぷにと突く。

 普段のウィルであれば、こういう時にはメイクを気遣って私の顔を触れる真似はしません。

 これはどこか様子がおかしいと、チラリと視線を戻す。


「ぐっ……!?」


 私はすぐさまに視線を逸らした。

 どっ、どういう事でしょう。

 今日のウィルはどこか様子がおかしいです。

 風に揺れるウィルの毛先は艶めかしく、少し潤んだ瞳に紅が差した肌の色。

 おまけにタイを解いてシャツのボタンを開けているせいか、首元からチラチラと汗ばんだ肌が見えている。

 あれ? 私の婚約者ってこんなに色気がありましたっけ!?


「むぅ……私の愛おしい婚約者殿は、どうやったらこちらを向いてくれるのかな?」


 頬をつついてたウィルの指先が髪を払い、耳の縁をなぞる。

 やはり今日のウィルはどこかおかしい……。

 食事の前のウィルは、こうじゃなかったはずです。


「ウ……ウィル、流石に今日は触りすぎではないでしょうか? 今はその……休憩中とはいえ、一応公務の最中でもあるんですよ」


 私はやたらと距離感の近いウィルを牽制する。

 そういえば最初にあった頃から、ウィルの距離感は近かったような気がします。

 私だからいいものの……ん? 私だから?

 いいえ、ウィルはエステルに対しても最初から距離感が近かったです。

 もしかしたら、私以外の子に対してもそうなのかもしれない。

 そんな事が頭を過ってしまい心の中が少しモヤっとしました。


「もしかして怒っているのかエスター? 頼む、機嫌を直してくれないか?」


 ウィルの指が耳たぶを通り、うなじの部分へと滑り込む。

 ちょっ、ちょっと!?

 たまらず私はウィルの方に顔を向き直す。


「ようやくこちらを向いたかエスター」


 ウィルは両手を広げると、私の体を包み込むようにぎゅっと抱きしめる。

 私は咄嗟の出来事に固まってしまった。


「ちょっ、ちょっとまってくださいウィル、これ以上はダメです!」


「どうして? エスター、私はいつまで待てば良い?」


 おかしい、おかしい、おかしい。

 こんな攻めに攻めるウィル、今まで見た事がありません。

 いつもはちょっとカッコつけた時も、顔を赤らめて恥ずかしがる時があるというのに、今日はその素振りも感じられない。


「2年待つと言った我が身で言える事ではないが、エスター……今すぐにでも君が欲しい」


 ウィルは私の肩に手を回し、ほんの少し体を離す。

 獲物を射らんとするウィルの鋭い眼差しに、私の心臓は串刺しにされてしまったようだ。

 本当は振りほどかなきゃいけないのに、この視線からは目が反らせない。


「エスター、私が生まれて初めて、そして最後に心奪われた愛おしい人よ」


 腰から手を離したウィルは、私の頬と髪の隙間に自らの指を差し込む。

 触れる指先の熱が、私の頬を赤く染めていくのが自分でもわかった。


「もうすでに私の全ては君の物だ」


 街中から降誕祭を祝う花火が上がる。

 ドンっ、ドンっ、と爆ける花火の音も、自らの心臓の鼓動の速さにかき消された。


「だから……ただ一言、はい、と言ってくれ、私も君の心が欲しい」


 断らなければいけないのに。

 頭ではそう理解している。

 だって私には、この求婚を受ける資格がないのだから。

 それなのに私は……。


「エスター?」


 頬を触れていたウィルの指先が、私の下唇へと移動する。


「はーー」


 ほんの一瞬。

 花火で照らされた場所に人影が見えた。

 私の視線は、自然とそちらへと引きずられる。


「あっ?」


「えっ?」


 私はバルコニーに現れたヘンリーお兄様と顔を見合わせた。

 火照った体の熱が、別の方向へと向かっていく。

 か、家族、それもヘンリーお兄様にだけは、こんな場面みられたくなかった……。


「……どうぞ、どうぞ」


「いやいやいやいや……」


 先程までのムードは何処かへ飛んで行ってしまいました。

 ヘンリーお兄様の登場によって助かったはずなんですが、なんかこうモヤっとします。

 おそらく消化不良の体の熱が、行き場をしなっているのでしょう。

 ほら、ウィルだって固まって……。


「ウィル?」


 ウィルの体が私にもたれかかる。

 突然の事に私は慌てた。


「ちょっ、ちょっと、待ってください!」


 こんな家族が、ヘンリーお兄様が見ている前でなんて……私には早すぎます!?

 ヘンリーお兄様は、慌てる私の体からウィルを引き剥がした。


「やっぱりこうなったか……」


 ヘンリーお兄様は、ウィルの身体を引きずってバルコニーに設置してあるソファへと運ぶ。

 ど、どういう事!?


「今日はベッ……周囲の御先達らに、やたらと度数のキツイ酒ばかり飲まされていたからな……」


 ヘンリーお兄様曰く、ウィルが酔いつぶれるのは滅多にない事のようです。

 つまりそれくらい飲まされてたと……。

 なるほど、いつものウィルにはないグイグイ感は、お酒のせいだったのですね。


「まぁ、だから、あんま責めないでやってほしい……」


「はい」


 別に責めたりなんかはしませんよ。

 寧ろホッとしているくらいです。

 普段からウィルがこんな状態なら、私が困りますからね。

 今日のウィルが相手なら、自分の貞操を守れる自信なんてこれっぽちもありません。


「会場の方はあとはこっちでうまくやっておくから、そこで少し休ませてやってくれ」


「わかりました」


 私がソファに座ると、ウィルがもたれかかってきた。

 仕方ありませんね。

 私はウィルの頭を膝の上に乗せ、1人、夜空を色取る花火を眺めた。







「……んん」


「目が覚めましたかウィル?」


 私は目が覚めたウィルへと視線を落とす。

 思ったより早く目が覚めてびっくりしました。

 ウィルが寝ている間、仕返しとばかりにツンツンしたせいでしょうか?


「ここは……エスター!?」


 ウィルは目頭を抑えると、上体を起こす。

 ふふ、そんな慌てなくてももう少し寝ていても大丈夫ですよ?


「俺は……寝てたのか?」


「はい、ほんの少しですけどね」


 私はハンカチを取り出すと、ウィルの額についた汗を拭う。

 なんだかちょっと恋人みたいですね。


「そうか、すまない、エスターが介抱してくれたんだな」


「気にしないでください、ウィルも大変だったようですしね」


 今回はとても良い勉強になりました。

 まさかウィルが酒に酔うと、あんなに積極的になるなんて……。


「あ、ああ……」


 ウィルはまだ完全に覚醒していないのか、いつもより口数が少ない。

 あっ、今なんて贈り物を渡すのにちょうど良い頃合いじゃないでしょうか。

 このドサクサに紛れてサッと渡しちゃいましょう。


「ああ、そうです。ついでに、これをどうぞ」


 私はドレスの隠しポケットからなんでも券を取り出し、ウィルへと手渡す。


「なんでも券?」


「はい。正直に言うと、私、降誕祭で恋人同士が贈り物を交換するなんて、今日の今日まで知らなかったんですよ……だから申し訳ないのですが、今回はこれで許してくれませんか?」


 時間があればちゃんとしたマフラーを送りたかったのですが、それはまたの機会にしておきましょう。


「あ、あぁ、それは別に構わないが……」


 ウィルは紙の両端を摘むと、私の方に向けてなんでも券と書かれた文字の方を見せる。


「なんでも?」


「はい、私に出来る事ならなんでも」


 子供の時、お父様やお母様にプレゼントしたら喜ばれたっけ。

 その時の事を思い出すと、少し切なくて懐かしい気分になりました。


「よかったら使ってくださいね」


 肩たたきでも雑用でも、どんとこいですよ。


「ほぅ、その言葉に二言はないなエスター?」


 ウィルはニコリと微笑む。


「えっ?」


 ソファに手をついたウィルは、私の顔へと自らの顔を近づける。

 あれれ?

 酔いは覚めたはずでは……。


「どうやら何時もは頭が回る君も、少し至らない部分があるようだな……?」


 含みのある言葉に頭を回転させる。

 なんでも券……なんで……も?


「あっ! ちょっ……えっちなのとかはダメですからね!?」


 私は自らの肩に手を回し、身を守るような動作を取る。


「そうか、それならば仕方ないな」


 わ、私はとんでもない失態を犯してしまったかもしれません。

 これは完全な私の落ち度です。

 なるほど、エマが何か呟いていたのはこういう事だったのですね。


「さて、何をお願いしようかな?」


 ベンチの背もたれに仰け反り、逃げようとする私の手をウィルが掴む。

 や、やっぱりまだお酒残ってるんじゃ……?


「おーい、そろそろ見送りの時間なのだが……」


 さすがです、ヘンリーお兄様。

 そのタイミングの悪さ、いえその良さには敬服をいたします。


「おっと……」


 ヘンリーお兄様は何食わぬ顔でその場から後退しようとした。

 いや、そんな口笛吹いたような顔しても、まったく誤魔化せてませんからね。


「どうやら時間切れのようだな」


 ウィルは手に持ったなんでも券をポケットへとしまうと、そっとソファから立ち上がった。


「さて、それでは会場に戻ろうか」


「はい」


 私は先に立ち上がったウィルの手を掴む。

 こうして私は無事? に、皇都での初めての降誕祭を終える事ができた……はず。

 お読みいただきありがとうございます。

 ウィルの一人称が、畏まった状況でもないのに俺ではなく私の時点で、エスターは気がつくべきでしたね。

 酔わせた原因はベッドフォード公爵です。

 お爺様といい、あの世代は悪ノリがひどい。

 ついでに言うと、エステルも少し酔っています。

 それも食後にでてきたたった一つのウィスキーボンボンで!!

 ヘンリーお兄様が空気読めないのはいつもの事です。

 

 あと、本当は幕間じゃなく本編でやりたかった……。

 もしかしたら、視察が終わった後、修正して本編にするかもしれません。


 最後になりましたが、ブクマ、評価、感想、レビュー、誤字修正等、いつもありがとうございます。

 今年度の更新はこれにて最後になります。

 次回からは本編に戻ります。

 それでは皆様、年明け後にお会いいたしましょう。

 メリークリスマス、良いお年を。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ふむ。エスタルくんは押されると弱いと……(メモメモ)
[良い点] 酔っ払ったウィルの積極性! 流されそうになってるエスター(エステル)w [一言] 今日はニヤニヤしてしまいました(*ノェノ)キャー 甘い!酔っ払ったウィルの色気と、それに中てられているエス…
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