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≪連載版≫ 男だけど、双子の姉の身代わりに次期皇帝陛下に嫁ぎます 〜皇宮イミテーションサヴァイヴ〜  作者: ユーリ
第1部 弟だけど姉の代わりに皇太子殿下の婚約者候補になります。
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第29話 独占欲が強い男には注意した方が良い。

 婚約の儀が執り行われる宣誓の間は、皇族の婚約以外でも、貴族位を継承もしくは取得した時などにも使われます。

 滅多に入るような場所でもなく、お兄様やウィルフレッド様の表情からも緊張しているのが見て取れました。


「そろそろ御入場の時間になります」


 2人の近衛騎士は観音開きの扉に手をかけ、その時を待つ。

 短いようで長い一瞬の時間の後、宣誓の間から婚約の儀の始まりを告げる鐘の音が聞こえてきました。

 それと同時に近衛騎士は扉を開けると、まずはお兄様とウィルフレッド様が会場に入っていきます。

 扉の奥に見えた、部屋の左右の壁からは帝国旗や、貴族の家紋が描かれた旗が垂れ下がる。

 その先の壇上の両脇には、皇族旗と我が公爵家の旗がかけられていました。

 先に入ったお兄様とウィルフレッド様は、入り口の両脇に立ちます。

 奥に見える左右の段差のついた椅子に座った貴族家当主達からの視線が、これから入場する私たちに集中する。

 宣誓の間の席に座れるのは基本的に貴族家当主、もしくは代理である次期貴族家当主のみです。

 厳かな雰囲気に当てられ、思わず気後れしそうになった私にウィルは囁く。


「大丈夫だ、俺が傍にいる」


 ほんの一瞬、私の手の甲にウィルの手が触れる。

 視線は合わさずとも、1人で気負う私の気持ちをウィルに見透かされたようです。

 怖気付いた私の気持ちをもう一度奮い立たせる。


「ありがとうウィル、おかげで気合がはいりました」


 私たち2人は横に並び壇上へと向かう。

 ウィルは私が焦らないように、歩幅や歩くスピードに合わせてくれています。

 音の無い空間でゆっくりと、落ち着いて一歩づつ進んでいけるように、そう配慮してくれるウィルの気遣いに嬉しくなりました。

 壇上の左右には私の側にお父様、ウィルの側に立ち合い人であるベッドフォード公爵と、リッチモンド公爵が立っています。

 中央には皇帝陛下が立っており、その後ろに嵌められた55枚のステンドグラスの窓からは柔らかな光が落ちる。

 このステンドグラスの1枚1枚には、帝国建国時に尽力、貢献した55人の人物が描かれています。

 壇上に登った私たちは、台座を隔てて一段上に居る皇帝陛下と向き合いました。


「皇太子ウィリアム・アルバート・フレデリック・アーサー」


 皇帝陛下はウィリアムのフルネームを読み上げる。

 皇族男子の名前には決まり事があり、間の2つの名前は父親以外の過去の皇帝陛下から頂きます。

 そのために功績を多く建てた過去の皇帝陛下は人気だとか……。

 締めのアーサーは、初代皇帝陛下の名前であり、皇族男子はみなアーサーを継ぐ事となっている。

 またフルネームで呼ばれる機会は滅多になく、叙勲など限られた機会だけです。


「サマセット公爵家、エスター・エルミア・ボーフォート」


 そしてこれがエスターのフルネーム。

 貴族のミドルネームは、祖先の名前か両親のどちらかの名前を引き継ぎます。

 エスターが引き継いだエルミアとは母の名前で、エステルはお父様のエドワードの名前を引き継いでいる。

 最後のボーフォートは家名ですが、公爵位を当主が担っている場合は、ボーフォート家ではなく公にはサマセット公爵家と呼ばれます。


「両名とも、この婚約に異議はあるか?」


 もちろんこんなところで異議を申し立てるのであれば、その前の結納の段階で拒否しています。

 これは形式的なものなのですが、過去に一度、ここで異議を申し立てた事があったとかないとか……。


「沈黙は了承と見なし、2人に婚約の意思がある事をここに認める」


 数拍の沈黙の後、皇帝陛下は儀式を次の行程へと進める。


「次に両名の宣誓へと移る、皇太子ウィリアム・アルバート・フレデリック・アーサー、前へ」


 前に出たウィルは、宣誓のために手を挙げる。


「皇太子ウィリアム・アルバート・フレデリック・アーサーは、サマセット公爵家エスター・エルミア・ボーフォートを婚約者とする事をここに宣誓する」


 ウィルの宣誓の後、私の名前が呼ばれた。


「続いて、サマセット公爵家エスター・エルミア・ボーフォート、前へ」


 前に出た私はウィルの横に並ぶと、同じ様に手を挙げる。


「サマセット公爵家エスター・エルミア・ボーフォートは、皇太子ウィリアム・アルバート・フレデリック・アーサー殿下の御婚約の申し出を、お受けいたします事をここに宣誓いたします」


 証人である貴族家の当主達の視線に真正面から向きあう。

 この席に座っている者達は貴族家の当主達だけです。

 お養母様や皇后様達は、祝賀には参加するものの此方の儀式には参加しません。

 貴族家当主の中には、ウィンチェスター侯爵やカーライル伯爵、サザーランド伯爵の姿も見えました。


「この2人の婚約に異議を唱える者は、その場に起立せよ」


 席に座った貴族家当主達は誰1人として立ち上がりません。

 それもそのはず、異議を唱えるという事は、壇上にあがったこの錚々たる面子に喧嘩を売るわけですから当然ですよね。

 中には何故か震えている貴族家当主の方もいましたが、彼はなにかあったのでしょうか?


「よろしい……では、目の前にある3枚の羊皮紙に署名と捺印を」


 3枚ある羊皮紙は、1枚が皇帝陛下、1枚がサマセット公爵家、最後の1枚が公文書として保管される。

 私はウィルが署名し終わった紙の次に、エスターの名前を書く……間違ってエステルの名前を書きそうになったのは内緒ですよ?

 名前を書いた後の捺印は血判なので、私とウィルは手袋を脱ぎ、指に軽くナイフを押し当て血をにじませる。

 私たちが血判をし終えると、お父様や立ち合い人である2人の公爵も同じように署名し捺印していく。

 最後に書類を確認し終えた皇帝陛下が、全ての書類に署名し血判を押しました。


「帝国皇帝ジョージの名の下に、皇太子ウィリアム・アルバート・フレデリック・アーサーと、サマセット公爵家エスター・エルミア・ボーフォートの婚約をこの場において認める」


 立会人であった2人の公爵とお父様の3人が、婚約の宣誓書を貴族家当主達が見えるように掲げる。


「今より両者の婚約の証として、皇太子ウィリアムからサマセット公爵家エスターへと指輪を贈与する」


 壇上の袖から出てきた人は、指輪の置かれた受け皿を掲げ跪く。

 指輪を手に取ったウィルは私と向かい合う。

 私が手を挙げると、ウィルは私の薬指に紫の指輪を嵌める。

 この指輪……最初はガーネットかと思いましたが、その煌めきの違いに私はこれが何であるかに気がつきました。

 レッドダイヤモンド……カラーダイヤの中でもこの世に現存するのは数えられるほど、それほど希少だと言われる物です。

 驚きのあまりに表情を崩しそうになった私に対して、ウィルは悪戯が成功した子供の様に微笑む。

 もう、もう! こんな希少なものを用意しているなんて聞いてませんよ!


「全員起立!」


 皇帝陛下の言葉に、全貴族家の当主が席から立ち上がる。

 ハッとした私も気を取り直します……ウィル、後で覚えておいてくださいね。

 それと同時に、部屋の外から入ってきた侍女達が、それぞれの貴族にグラスを渡しその中にワインを注ぐ。

 もちろん皇帝陛下や、お父様、2人の立会人、ウィル、そして私にも同じようにグラスを渡す。

 ……そういえば、お酒を飲むのはこれが初めてです。


「献杯!」

 

 皇帝陛下の掛け声と共に、貴族達はグラスを傾けていく。

 私も一瞬躊躇しましたが、飲まないわけにはいきません。

 幸いにも量は少ないし大丈夫でしょう。

 私もウィルに続いて、ワインを口に運ぶ。


「ウィリアム殿下万歳!」


 貴族家当主の1人が声を上げる。


「皇帝陛下万歳!」


 先ほどまでの静粛が嘘のように、拍手と歓声が渦巻く。


「帝国万歳!」


 あとは退室するだけなのですが、お酒のせいか最初の一歩がふらつく。


「私の腕に掴まれエスター」


 助かりました、私はウィルの腕に手をかけほんの少し寄りかかる。

 そのままゆっくりと、表情を崩さず、一歩づつ出口に向けて歩く。

 ふぅ……ウィルの手助けもあってなんとか宣誓の間から出る事ができました。


「大丈夫か?」


「はい、慣れずにちょっとふらついただけです、もう大丈夫です」


 私たちは祝賀のために、お兄様とウィルフレッド様を伴い、祝賀会場の側にある控え室に向かう


「よくやったぞ、エスター!」


 お兄様は誇らしそうに私を讃える。


「見ていたこっちが緊張した……」


 ウィルフレッド様は自らの胸をさする。

 今思えば、全身鎧を着ていないウィルフレッド様は珍しいのですが、それに今の今まで気づかないほど、私は緊張していたのかもしれません。


「祝賀までまだ少し時間がある、控え室で休ませてもらうといい、俺も少し疲れた」


 ウィルは首元を少し緩める。


「疲れたと言えばウィル、レッドダイヤモンドを用意しているなんて聞いていませんよ」


「やはり気づいていたなエスター、貴女ならこの価値に気づいてくれると思ったぞ」


 普通であればまず間違いなくガーネットと見分けられずに、気がつかないでしょう。

 でも私は過去に、お父様がお母様に送ってくれた実物を見た事があったから気がつきました。

 ちなみにその指輪は今、エスターが持っています。


「だがまだ一つだけ、気がついてない事があるな」


 どういう事でしょう?

 私は指輪につけられたレッドダイヤモンドをマジマジと見ます。

 ……ダメです、まったくもってわかりません。


「うわぁ……」


 後ろから覗き込んだウィルフレッド様は、思わず声を漏らす。


「エスター……ご愁傷様」


 お兄様はこめかみに手を当てため息を吐く。

 ぐっ……どうやらわかっていないのは私だけのようです。

 その後も色々な角度から指輪を見ますが、それでもわかりません。

 侍女さんからは指輪をもらって喜んでいる様に見えたのか、控え室の中で微笑ましい顔で見守れました。

 ぐぬぬ、これは解せません……。

 その後も私は、色々な角度から指輪を眺めましたが、結局分からずに祝賀の時間を迎えました。

 お読みいただきありがとうございます。

 まだ終われませんでした、次回は祝賀パーティーです。

 震えてた貴族のエピソードは、後でウィリアム視点の幕間でやるかもしれないので前振りで入れてます。


 ブクマ、評価、感想等ありがとうございました。

 次回祝賀で区切りだと思いますが、長くなったら婚約後のエピローグと分けます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最後まで読みましたが、指輪の謎?が分かりませんでした。 読み飛ばしてしまったのでしょうか。 どこかに書いてあるようでしたら教えて頂けたら嬉しいです。
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