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≪連載版≫ 男だけど、双子の姉の身代わりに次期皇帝陛下に嫁ぎます 〜皇宮イミテーションサヴァイヴ〜  作者: ユーリ
第1部 弟だけど姉の代わりに皇太子殿下の婚約者候補になります。
30/71

第28話 動悸、息切れは重大な病気の前触れです。

「ふふん、よく似合ってるわよエスターちゃん」


 私のドレス姿を見たシモ……ヴェロニカは満足そうな表情を見せる。

 それもそのはず、最終フィッティングを経て、サイズ感はほぼ完璧と言っても過言ではないでしょう。

 私がデザインし、ヴェロニカが仕上げたこのドレスは、間違いなく私たちが生み出した現時点での最高傑作。

 身体のラインを際立たせたデザインのこのドレスが、貴族達にどこまで受け入れられるかはわかりません。

 もしかしたら相応しくない、と批判されるかもしれないでしょう。

 それでも一歩を踏み出す事が重要なのです。

 誰だって最初の一歩を踏み出すのはとても怖い、だけど私はもう1人ではありません。

 私はヴェロニカと軽く抱擁を交わします。


「有難うヴェロニカ、最高のドレスよ」


「あらあら、やめてよもう……私を泣かせるつもりかしら」


 ヴェロニカは、完成されたドレスを届けるために皇城まで来ました。

 しかしヴェロニカは、祝賀や婚約の儀には参加できません。

 私たちの作ったドレスのお披露目を、2人で見れない事はとても残念に思います。


「……ヴェロニカ、貴女が居たから私は救われました」


「それを言うなら私もよ……ほら、泣かないの、せっかくの美人さんがおブスになっちゃうわよ」


 ヴェロニカは私の目尻を人差し指で軽く拭き取ると、私の身体をエマに手渡す。


「後は頼むわよ、エマちゃん」


「畏まりました、ヴェロニカ様」


 少し涙声になったヴェロニカは後ろに振り向く……自分だって泣いてるじゃない、もう!


「失礼します、それではメイクを始めさせて頂きます」


 このドレスは、殿下の年齢に合わせて大人っぽく仕上げています。

 だからこそ年下の私は少し背伸びをしないといけません。

 何時もは唇に紅を指すだけで、ほぼすっぴんの私ですが、今回はメイクで印象を変えます。

 普段より陰影を濃く、目鼻立ちをはっきりと、そして唇には色気を。

 エマさんによって仕上げられたメイクは、ショートヘアーになった私の髪とも上手く調和しています。

 これで私もほんの少し、大人クールな美人さんに見えるかもしれませんね。


「有難うエマ、完璧な仕事よ」


「有難うございます、エスター様」


 私はエマとも軽く抱擁を交わす。

 彼女もヴェロニカと同様、祝賀や婚約の儀には参加できません。


「……行ってくるわ、エマ」


「……行ってらっしゃいませ、エスター様」


 ヴェロニカとエマの2人が部屋の扉を開けると、控え室の大部屋にいた家族と合流します。


「あらまぁ、すごく綺麗よ、エスターちゃん」


 お養母様は、私のドレスをまじまじと見る。


「よく似合っているわ、少し大人っぽいけど……殿下の横に並ぶものね、これくらい気合い入れていかなきゃダメよ!」


 拳を握りしめたお養母様は、可愛く鼻を鳴らし気合いを入れる。

 今日のお養母様が着ている臙脂のドレスは、新しく仕立てたれたもので、チャーミングなお養母様の小悪魔っぽさを引き立てつつも、上品に仕上げられていると思います。


「それに……ショートヘアーもよく似合ってるわ」


 お養母様はセットを崩さないように、触れるか触れないかの距離感で優しく私の髪に触れる。

 私が短い髪になって帰ってきたときは、私以上に怒ってくれました。


「さらに綺麗になったねエスター」


 さらに、という所がお父様らしいですね。

 お父様は、優しげな笑顔をこちらに向ける。

 その瞳はどこか私を見ているようで、そうではないような気がします。


「今日は少し大人っぽいメイクをしているせいか、彼女のことを思い出すよ」


 彼女というのは、私の母様の事でしょう。

 なるほど……父様は私を通して、亡くなった母様の面影を思いを馳せてらしたのですね……。


「ほら、ヘンリーも何か言ってやりなさい」


 今日のお兄様は何時もの近衛騎士隊の制服ではなく、お父様と同じ式典用に誂えられた軍服を着ています。

 式典用の軍服は少し覚えるのに面倒ですが、初対面の相手に対しては、非常に貴重な情報源と言えるでしょう。

 例えばズボンに入っているラインの色は、皇族より与えられた色が用いられるため、その時点でどこの家の者かが一発でわかります。

 次にポイントとされるのが、飾緒と呼ばれる肩に付けられた全6種類の色からなる飾り紐でしょうか。

 金は皇族、銀は貴族家当主ならびに閣僚、赤は近衛、青は竜騎士、緑は文官、銅はその他を示しています。

 紐の数と太さも重要で、皇族は太紐3本、公爵家は太紐2本と紐1本、侯爵家は太紐2本、伯爵家は太紐1本と紐1本、子爵家は紐2本、男爵家と一代騎士は紐1本とされている。

 他にも腕章は軍人としての階級を、2つの襟章は1つが帝国旗章ですが、もう1つが腕章と同じ階級を示し、胸につけられた略章や小綬、肩からかけられた大綬や首元の中綬などはその者の功績がわかります。


「胸を張れエスター、お前にとってはそれが勝負服なのだろう?」


「はい、お兄様にとっては軍服がそうであるように、私にとってはこれが勝負服なのです」


 ウィルが背中を押してくれたおかげで、私は自信を持つことができました。

 ヴェロニカとの共同名義で作られたこのドレスは、私にとっては覚悟の表れでもあります。

 お兄様は悪戯をする子供のような笑顔で、私に笑いかける。


「見せつけてこいエスター!」


「はい、お兄様!」


 惜しむべくは、このドレスをエスターが着てくれなかった事でしょうか……。

 全く……居たら居たら面倒ですが、居なければ居ないで心配になる……本当に手間のかかる姉です。


「やはり、ワシの目に狂いはなかった、よく似合ってるぞー」


 私の心情とは裏腹に、お爺様のこの呑気さと言ったら……。

 そもそも、元はといえばこの人が元凶でしたね。

 そう思うと、少しイラッときました。


「おおっ、怖い顔になっとるぞエスター、ほれほれ、花嫁は笑顔が大切じゃぞー」


 一体、誰のせいだと……。


「あらやだわ、お爺様ったら、花嫁だなんて気が早い……今日は婚約の儀ですよ」


「あぁ、そうじゃったのぉ、歳を取るとどうも気が早くてのお」


 くっ、この顔は絶対にわかってて言っています!

 私たちの会話をお父様は遮る。


「さて、そろそろ時間だ、みな準備はいいな?」


 お父様の言葉に全員が頷きます。

 私とお兄様は途中で皆と別れ、案内してくれる侍女と護衛に囲まれて皇城の通路を歩く。

 婚約の儀は、皇城の中にある宣誓の間が利用されます。

 私たちは、目的地である宣誓の間の近くにある小部屋へと案内される。

 中に入ると先に来ていたウィルと、護衛のウィルフレッド様が待っていました。


「おまたせして申し訳ありません、殿下」


「問題ない……それよりも今日のエスターは、いつもより少し大人びていて心配だな」


 や、やはりこのドレスもメイクも、私では背伸びをしているようにしか見えないという事でしょうか……。

 ウィルの言葉に少しだけ自信が揺るぎました。


「なるほどそこからか……まぁ良い、エスターはまだ自分の魅力を知るには少し幼いからな、そのままで良い」


 私のしょんぼりとした様子を見たウィルは、先ほどと違って笑みを浮かべる。


「さて、式の前に君に渡す物があるのだが……形式故に、目を伏せ少し屈んでくれないか?」


「はい、わかりました」


 私はウィルの指示に従い、目を伏せ少し屈む。

 ただでさえ身長差のせいで、いつもの私の視線はウィルの胸のあたりなのですが、屈むと腹部くらいにまで落ちます。


「これで良い、目を開けてくれ」


 瞼を徐々に開けると、目の前の手鏡に私の顔が映る。

 そして私は、自らの頭の上にティアラがつけられている事に気がつく。


「そのドレスの仕立て人……ヴェロニカだったか、彼女に頼んで宝物庫から見繕った一品だ」


「ちょ、ちょっとまってください宝物庫って……」


 本来、宝物庫にある物を皇族以外に貸し出す事はありえません。

 たとえそれが婚約者であっても、結婚する前であれば皇族ではないのです。

 あまりの出来事に私は、ティアラをつけておくか外して返すかで慌てる。


「それならば心配するな、そのティアラは私の物であり、たった今、エスターの物となった」


 どういう事でしょう?

 理解が追いついていない私に、ウィルフレッド様が答えを教えてくれる。


「今回の功績に対する褒賞として、殿下はそのティアラを選択したのですよ」


 予想していなかった答えに目を見開く。

 本来であれば、もっと色々なものを選択できたはずです。


「ちなみにエスターに対する褒賞は、後ほど伺う事になっている」


「そ、それならば、私に対する褒賞をこのティアラに……」


「却下だ」


 殿下は私の提案を遮る。


「これは俺がエスター、貴女に贈った物だ、私の贈り物は不服か?」


「い、いいえ、そんな事はありません……!」


 ウィルが私のためにこれを贈ってくれたのだと思うと、どうしてか身体が熱くなってぽかぽかするのです。

 も、もしかしたら何かの病気かもしれないので、後でお医者様に見てもらわないといけませんね。


「そうか、ならば良い、それはエスターの物だ、いいな?」


「は……はぃ」


 ウィルは少し儚そうな目で、私の耳のそばの毛先に優しく触れる。

 もしかしたらウィルは、私が髪を切った事に対して負い目を感じているのかもしれません。


「殿下……この髪は私にとっては勲章の様なものでございます、どうか、誇ってやってくれませんか?」


「わかった、その髪を誇りに思うぞエスター……それにしても良いな」


 殿下は愛おしそうにティアラをそっと触れる。

 その際に思わずウィルと視線が合い、私は急に恥ずかしくなって咄嗟に顔を背けてしまいました。


「なるほど、世の男たちが女性に贈り物を贈りたくなる気持ちが、ほんの少しだがわかったような気がする」


「では今度が私に殿下に、何か贈り物をさせていただきますね!」


 私もウィルに何か贈れば、その気持ちが少しは理解できるでしょうか。

 ティアラのお礼もありますし、今度は私がウィルに何かを贈る番です。


「楽しみにしておこう……それはそうと、私の事はもうウィルと呼んでくれないのかな、エスター?」


 一瞬のうちに血の気が引いていく。

 そういえばあの時、私はウィルの事を殿下とは呼ばずにずっとウィルと呼んでいました。

 ど、どうしましょう!?


「え、えぇっと、あれはですね……」


 しどろもどろになった私の耳元でウィルは囁く。


「なに、ウィルという愛称は、エステルから聞いたんだろう?」


 殿下ナイス勘違いです!


「そ、そうです、いつもエステルがそう呼んでいたので私も咄嗟にそう呼んでしまったのです」


 ふぅ……なんとかやり過ごしました。


「それで、私の名前を呼んでくれないのかエスター?」


「も……もう、意地悪ですよウィル!」


 ウィルは、照れた私をそっと抱き寄せる。


「やっと私の名を呼んだなエスター」


 これはきっとウィルのせいです。

 エスターという名をウィルに呼ばれるたびに嬉しくもあり、私の本来の名前ではない事に少しやきもきしました。


「コホン……そろそろ出番だぞ2人とも」


 お兄様の咳払いに周りを観ると、みな顔を赤らめ、此方をできる限り見ないように顔を背け配慮してくれていました。

 現実に引き戻された私は、あまりの恥ずかしさに縮こまる。

 チラリとウィルの顔を見ると、珍しく少し照れたような表情を見せていました。

 私と同じように赤くなっているウィルを見て、思わず嬉しくなってしまいます。


「エスター……もうさっさと結婚してしまえ」


 お、お兄様、何を言っているのですか!

 私はあくまでもエスターの身代わりなんですからね!!


「それでは行こうか」


 ウィルはそっと私に手を伸ばす。


「はい」


 私はその手を取り、宣誓の間へと向かう。

 さぁ、いよいよ婚約の儀が始まります。

 お読みいただきありがとうございます。

 まさかの6日連続更新です。

 そして申し訳ありませんが、多分明日は更新するのが難しいと思います。

 いいところで切れててすみません。


 それにしても長くなりました、軍服の説明とかいらなかったかもしれませんね。

 ちなみにウィルフレッドと、ヘンリーは、殿下付きなのでこの場にいます。

 こういう式典の際、誰が殿下の側にいるのか、というのも重要なアピールとなります。


 ブクマ、評価、感想等ありがとうございます。

 1話くらいで軽く済ませようと思っていた婚約の儀が、自らの想定よりだいぶ長くなってしまいましたが、お楽しみ頂ければ幸いです。

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