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≪連載版≫ 男だけど、双子の姉の身代わりに次期皇帝陛下に嫁ぎます 〜皇宮イミテーションサヴァイヴ〜  作者: ユーリ
第1部 弟だけど姉の代わりに皇太子殿下の婚約者候補になります。
24/71

第22話 意識をする事は、全てにおいての始まりである。

 ここはいったいどこでしょう?

 目が醒めると周囲には誰もおらず、どこかの部屋の中に隔離されているようでした。

 周囲を見渡すと、窓のカーテンの隙間から光が漏れ出してない事から、まだ夜なのでしょう。

 今の私は椅子に座らされた状態で、後ろで両手を縛られている状態です。

 まずはこの状況から脱するためにも、情報を収集しなければなりませんね。

 あわよくば、私を攫った者達の目的が知れれば良いのですが……。

 そんな事を考えていると壁が薄いのか、都合よく外から言い争うような声が聴こえてきたので耳を澄ませます。


「くそっ、至る所に騎士どもがうろついてやがる」


「落ち着け、ここは大丈夫だ」


 流石は帝国ですね、対応が早い。

 至る所に騎士がうろついている、という事は、ここはまだ皇都の中でしょうか?

 そして最も重要なのが、ここは大丈夫、という情報ではないかと思われます。

 皇都の中で、騎士が捜査していて、ここは大丈夫……なるほど、これは間違いなく帝国貴族が絡んでいますね。

 帝国貴族の所有する土地や建物であれば、捜査するのは容易ではありません。

 そうなるとここは建物の質素な作りからして、貴族が保有している平民街の建物の一つではないでしょうか。

 騎士がうろつく貴族街の中ならまだしも、平民街であれば脱出は慎重に行わなければなりませんね。


「それにあいつらの目的であったベッドフォードは仕留めそこなったが、我々の計画の方は順調だ」


 やはり彼らが襲撃した目的は、ベッドフォード公爵のようですね。

 戦場での敵の動きから、公爵を標的にしていたのは明白でした。

 しかし我々の計画、あいつらの目的とはどういう事でしょうか?

 考えられるのは、利害の一致した者達が、それぞれの目的のために行動を共にしている……という事かもしれませんね。


「……なぁ、その計画は本当に大丈夫なのか?」


「なんだ、今更びびっているのか?」


 不安がる男に対して、もう1人の男は冷やかす。 


「心配しなくても、駅に機関車が到着したと同時に……こうよ!」


 扉の向こうから、大きく掌を叩く音が聞こえた。

 もしや彼らは、機関車を爆破しようとしてるのでしょうか?

 標的とされる機関車と駅がどれかを知るために、もう少し情報が欲しいですね。


「だけどよ、貴族だけならまだしも一般市民も乗っているんだろう?」


 この時点で、幾つかの可能性は消えました。

 貴族と一般市民が乗っている時点で、貨物や軍事用の車両ではないでしょう。

 同様に、皇族専用の車両である可能性も消えました。

 そうなると残る路線は2つ、1つは広い皇都内を走る路線、そしてもう1つは皇都の外と繋がっている路線のうちの2つ。

 このうち皇都内の路線は、基本的に一般市民の利用が大半で、貴族が利用する事は滅多にありません。

 彼らの目標が貴族であるのなら、可能性が高いのは外と繋がっている路線でしょうか。


「仕方ねぇよ、外から一同に貴族が集うこの機会を、逃すわけにはいかないだろ」


 婚約の儀に備えて、多くの貴族が皇都にきているのを利用されましたね。

 貴族の中には早くから皇都に来ている者もいれば、直前である前日にやって来る者も多い。

 その中でも辺境伯や代行の子息など、国境の防衛に従事している貴族の多くは、前日入りして数日の滞在で直ぐに帰ると聞いています。

 もしその者達を失えば、帝国の損害は計り知れないものでしょう。


「たしかにお前たちの言うように、今回の事で犠牲となる一般市民はいるだろう」


「イスマイルさん!」


 2人の男の会話に、イスマイルと呼ばれた男が割り込んできました。

 首謀者かどうかまではわかりませんが、この2人より立場は上ではないでしょうか。


「だがな、革命とは痛みを伴うものである」


 イスマイルの声が一層力強くなる。


「その者達の犠牲を、決して無駄にはしないと約束しよう、何故ならば、我らが為す事への礎となる者達もまた、我らの同士なのである」


 痛み? その痛みを支払うのは一体誰なのか、この男が理解して言っているのだとしたら救いようのないバカですね。

 自らの目的のために、無関係な一般市民を巻き込む。

 革命だなんだと声高く叫ぶ者達には、どうしてこういう考えの方達が多いのか理解に苦しみます。

 為すべき事のために痛みを伴うのであれば、その痛みを背負うは自らでなければなりません。

 自らのツケを全て他人に背負って貰おうなどと、そんな都合の良い自分勝手な意見が罷り通るとでも思っているのでしょうか。

 このような暴挙が許されるはずはありませんし、見逃すわけにもいきません。

 いいでしょう、受けて立ちましょう、貴方達が誰に喧嘩を売ったのか、教えてさしあげなければならないようですね。


「ところで、連れてきた女の様子はどうだ?」


 私はイスマイルが部屋の中に入ってくる事に備えて、首を傾け未だに意識を失っているふりをします。


「まだ眠っているようです」


「そうか……お前達はここで見張っていろ」


 ガチャリと扉が開く音がすると、イスマイルの足音がこちらへと近づいてくる。


「起きろ」


 イスマイルはそう言うと、私の頬を軽く叩く。

 私は今まさに目が醒めたような仕草で、うっすらと瞼を開いて彼の顔を確認する。


「今の状況はわかるか?」


 外套を纏ったイスマイルは仮面をしており、どのような顔をしているのか確認する事ができなかった。


「……」


 私は無言で身体を微妙に震わせる。

 ここは普通の令嬢らしく、怯えたふりをしておきます。


「お前には利用価値がある……死にたくなければ大人しくここで待っていろ」


 イスマイルはそう言うと、外套を翻し部屋から出て行った。

 情報を少しでも引き出すために、突っかかった方がよかったかもしれません。

 でも行動を起こす時の事を考えると、今は下手に相手を警戒させ無い方がいいでしょう。


「中の女はもしもの時に、交渉の材料に使えるかもしれないからな、丁重に扱えよ」


「わかりました」


 イスマイルは見張りの2人に命令を下すと、この場から離れたのか足音が遠ざかっていく。

 さて、あとは行動に移す機会を待つだけですね。

 それまではここで大人しくしておきましょう。







「時間だ、後は任せるぜ」


「おぅ、頑張れよ」


 見張っていた男のうちの1人が作戦に参加するのか、ここから離れていく。

 カーテンの隙間から光が漏れ出してからの時間を逆算すると、ちょうど今はお昼前に当たります。

 この機会をずっと待っていました。

 ここに何人が残っているかはわかりませんが、行動を起こすならばこの機会を逃すわけにはいきません。

 さて、まずは見張りの男を呼び出して……そう思っていると、扉のノブがガチャリと回る。


「……よぉ、お嬢ちゃん」


 一体どう言う事なのか、私は男の予想外な行動に身構える。


「そう身構えるなよ……へへ、可愛いなぁ」


 顔を近づけた男の息は酒臭く、堪らず顔を背ける。


「ひっ……」


 服の上から私の胸を撫で回す男の手つきが気持ち悪くて、思わず声が漏れた。


「あれぇー? お嬢ちゃんはもっとこう、結構あったよなぁ? ……まぁ、細けぇことはいいか!」


 身の危険を感じ取った私は、足をバタつかせ抗うと、椅子ごと床に倒れこむ。


「このままじゃやりづらいし、仕方ねぇなぁ」


 男は私の手枷を外し、椅子を蹴り飛ばすと、ドレスのスカートの中へと手を伸ばす。


「……は? なんだこりゃ!?」


 私の身体の違和感に気がつき、混乱する男の拘束が一瞬緩む。

 このタイミングを逃すわけにはいきません。

 私は自由になった足で、思いっきり男の急所を蹴り飛ばす。


「グェッ、な、何しやが──」


 男の拘束から脱出した私は、先ほど蹴飛ばされた椅子を拾い上げ、痛みから顔を上げた男の側頭部に思いっきりぶつけました。

 気を失った男は、そのまま床に突っ伏して倒れこむ。


「ハァッ……ハァ……はぁ……」


 少しずつ呼吸を整え、急いで衣服の乱れを整える。

 自分が殿方のそういう対象になるなど、予想もしていませんでした。

 薬が切れて男の体に戻っていた事は幸いだったと言えるでしょう。

 予期せぬ事態に焦りましたが、ここで立ち止まっている余裕はありません。

 この後の事を考え、私は魔法薬をワンプッシュし再び女性の体へと戻る。

 次にここから脱出するために、椅子を窓に向かって投げ飛ばすと、すぐさま耳につけたイヤリングの1つを取り外す。


「きて、レヨンドール!」


 窓の外から顔を突き出した私は、棒状のイヤリングを口に咥え音を鳴らす。

 これはイヤリングに偽装した龍笛と呼ばれる物で、レヨンドールに勝利した証としていただきました。

 龍笛の使用用途はただ一つ、その龍笛を渡したドラゴンを呼び出す事ができます。

 しかしレヨンドールが来るより早く、物音に気がついた敵の一味が駆けつける方が早かったみたいですね。


「何事だ!」


 敵は全てで5人……思っていたより多いですね。

 明らかに分が悪いですが、ここで諦めるわけにはいきません。

 床でのされている男をみて、男の仲間達も状況を把握する。


「ちっ、馬鹿が……おい、大人しくしろ! この数では、逃げられんぞ!!」


 覚悟を決め戦うしかない、そう思った時、私がぶち壊した窓を通り放り投げられた1本の槍が、敵の男の胴体を貫いた。


「流石だエスター嬢、自ら行動を起こし脱出するとは、やはり貴女はいつだって俺の予想を上回ってくれる!」


 その聞き覚えのある声に、思わず心が安らぐ。

 この状況に緊張していたからでしょうか?

 ずっと1人で心細かったからでしょうか?

 それとも、男に襲われそうになって怖かったからでしょうか?

 彼の顔をみた私は思わず、そう呼んでしまったのです。

 そう、エステルとして会っていた時のように。


「ウィル!」


 振り返ると、窓の外にはレヨンドールに跨ったウィリアムがいました。

 お読みいただきありがとうございます。

 ブクマ、評価、感想等ありがとうございました。


 まさかの3日連続更新できるとは、自分でも驚いております。

 さぁ、次回はいよいよ、エステル(エスター)とウィリアムの初の共同作業になります。


 ちなみに龍笛はそんなに大きくないので、イヤリングにもできるし、ネックレスにもできたりと応用が効きます。

 龍笛の音はドラゴン本人にしか聞こえませんが、遮蔽物があると音がとどかないのでぶち壊しました。


 あと1ー2回で内乱事件は終わる予定ですが、結婚の儀と後日譚までお付き合いいただければ幸いです。

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