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≪連載版≫ 男だけど、双子の姉の身代わりに次期皇帝陛下に嫁ぎます 〜皇宮イミテーションサヴァイヴ〜  作者: ユーリ
第1部 弟だけど姉の代わりに皇太子殿下の婚約者候補になります。
19/71

第18話 果てしのないその先に、伸ばしたその手は空を切る。

 案内されたテーブルは4人席で、私やベッドフォード公爵以外にも2人の貴族が同席していました。

 1人はサザーランド伯爵のアンナデール様。

 帝国貴族の女性当主であり、女性初の現役空軍大将。

 もう1人はバーナード男爵夫人のルーシー様。

 上級貴族の女性達が、平民達に対して行うチャリティー活動の仲介を、この方が担っていると聞きます。

 お2人とも挨拶を交わし、私はベッドフォード公爵の隣に着席する、


「貴女に会えるのを楽しみにしておったぞ、エスター嬢」


 すみません、ベッドフォード公爵、私はできれば会いたくなかったです。

 数多くの公爵家の当主の中でも最年長であり、前サマセット公爵であるお爺様の戦友の1人。

 平民議会へエスターが出資している事は公にされていますが、議会の監査委員にベッドフォード公爵を選ぶように私が助言した事は、詳らかにしていません。

 大丈夫だとは思いますが、ここはそれとなく会話をそらしておきましょう。


「ベッドフォード公爵のご活躍は先代よりお聞きしております、私もお話を伺うのを楽しみにしておりました」


 長く勤められたベッドフォード公爵のエピソードは多く、昔話に花を咲かせる事で、無難にやり過ごそうと思います。


「そうか……それでは私の話を聞いてくれるかな、エスター嬢?」


「はい、勿論でございます」


 ふふ、なんとか上手く話題を逸らしました。

 家族と離れ離れになった事で一瞬、動揺しましたが、なんとかやっていけそうですね。


「私は今でも軍の訓練に参加しておってな、これからの未来を担う若者達を育てるのが趣味なのだ」


「ベッドフォード公爵に指導していただけるなんて幸せですね」


 元国防大臣のベッドフォード公爵は、帝国史上初めて陸軍、海軍、空軍それぞれのトップを勤められた経歴を持ちます。

 軍事から一線を退かれた後も、貴族院代表、皇帝陛下のための枢密院議長を勤められたりと精力的に活動されました。

 それ故に多くの派閥に顔が効き、引退された今でもその影響力は推し量れません。


「近年には珍しく、今の軍には鍛え甲斐のある若者が多くてな……その中でも数人、どう指導していいのか手を焼いておってな」


 指揮官、指導者としても優秀なベッドフォード公爵が手を焼くとは、よっぽどの問題児達なのでしょう。

 ベッドフォード公爵から何度も指導していただいているのなら、軍のなかでも精鋭中の精鋭だと思われます。

 エリートと呼ばれる人の中でも、そういう迷惑な人達がいるんですね……。


「だが最近になって、その中の1人に変化が訪れた」


 人として成長したという事でしょうか?


「どうやら1人の女性が彼の中に変化をもたらせているようなのだ」


 ふふ、恋人ができると男性は落ち着きますものね。

 私のお兄様に落ち着きがないのは、やはり婚約者や恋人の1人もいないからでしょうか?

 ちらりとお兄様の方を見ると、くしゃみをして隣のご婦人にハンカチを貸してもらっていますね。

 どうやらお兄様に春の兆しが訪れるのは、だいぶ先のようです……。


「なるほど、それは良い事ですね」


 私が笑顔を返すと、ベッドフォード公爵もニコリと笑う。

 何故だか今、背筋がぞくりとしたのですが、どうしてでしょう?


「それはそうとエスター嬢、実はこの度、まだ正式には発表していないのですが、平民議会の監査委員に選ばれましてね」


 ヒエッ、これは間違いなくバレてます。

 公爵家のルートでしょうか? それともウィリアムですか?

 いえ、そんな事よりも今はーー


「エスター嬢も出資者として、議会設立に向けた会合に参加されると良い」


 これはいけません! 議会になんか参加したら正体がバレる可能性が上がるじゃないですか!

 しかし私が口を開くより早く、ベッドフォード公爵は次の手を指す。


「お2人もそう思われるでしょう?」


 ベッドフォード公爵に話を振られたサザーランド伯爵は、此方を一瞥し口を開く。


「ええ、出資者であれば、それを最後まで見届けるのも責任の内……女性と言えど臆する事はありませんよ、エスター嬢」


 サザーランド伯爵に続き、ルーシー様も口を開く。


「平民議会の件は大変ありがたく思っております、私も少額ではありますが出資しておりますので、是非ご一緒に伺いましょうね」


 これは……間違いなくしてやられました。

 見事にベッドフォード公爵に嵌められたと言っても過言ではありません。

 このテーブルに座った時点で……いいえ、この晩餐会に参加した時点で、私に選択肢はなかったという事ですか。


「そういえば今夜の晩餐会も、表向きの理由は定期的な意見交換会だとされていますが、平民議会の設立に向けて貴族の結びつきをより強固にするためだとか」


 サザーランド伯爵の言葉に、テーブルの下で握りしめた拳の内側に汗が滲む。

 あぁ、なるほど、これはもうどう足掻いても勝てませんね。

 つまりベッドフォード公爵は、この私に直接釘をさすためだけにこの会合を開いたと。

 皇帝陛下に晩餐会の開催を促せるだけの権力。

 席順を決める枢密院に対して、この組み合わせになるように進言できるだけの人脈。

 監査委員に内定されて1週間足らずで晩餐会にこぎつける行動力。

 その短時間で、私に辿り着くだけの情報収集能力。

 もはや両手を大きく振って降参しますよ。


「……ふむ、表情1つ変えぬか、あの馬鹿はまだまだだが、人運だけはやはり本物であるな」


 ベッドフォード公爵はなにかを呟いたようですが、私には聞こえませんでした。

 周囲を見渡すと準備ができたのか、オーケストラの演奏が止み、全員の視線が一点に集中する。


「全貴族はご起立ください」


 晩餐会の開催に向けて、いよいよ皇帝陛下や皇族の方々の入場が始まりますね。

 まだ始まってもいないのに疲れました、ぶっちゃけ、もう帰りたいです。

 幸いにもこの席は端っこなので、晩餐会中はおとなしく過ごし、できるだけ早く退散しましょう……。

 私は他の貴族達と同様に、陛下達を迎えるために席から立ち上がった。

 お読みいただきありがとうございます。

 あまり話が進まずに申し訳ないです。

 ようやく次回から晩餐会はじまります。


 ついに出てきました、完全上位互換のベッドフォード公爵です。

 ベッドフォード公爵は武人としても、センスよりも日々の鍛錬と、経験の積み重ねで実績を伸ばしました。

 エステルがもしエステルとしての道を進むのであれば、ベッドフォード公爵との出逢いは大きいかもしれません。

 晩餐会でサザーランド伯、ルーシー夫人が同席なのは勿論、ベッドフォード公爵の仕業です。

 今回の件は、役職に着かず半分引退状態だった自らを、表舞台に引きずり出したエステルに対してのベッドフォード公爵の意趣返しです。

 ちなみに彼のいう問題児“達”には、漏れ無くヘンリーお兄様や、ウィルフレッドも入っております。


 ブクマ、評価、誤字報告、感想等ありがとうございました。

 励みになります。


 それと昨日は、なろうさんの調子が悪くてあげられませんでした。

 また作者の都合ですが、月〜木曜は基本的に忙しく、その中でも水曜はダントツに忙しいです。

 次回は更新できても金曜以降になると思います。

 もし更新してたら、あっ、こいつ今日は暇だったんやなくらいに思ってください。

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