第16話 逃げた先に道などない、あるのは行き止まりだけだ。
今回は短いです、理由は後書きにて。
「ふぅ」
なんと心地の良い日でしょうか。
このように穏やかな日々が続けば良いのですが……ここ数日は生きた心地がしませんでした。
「お嬢様」
ウィリアムと密着した時は、正体がバレないかとドキドキとしました。
そもそも殿下は急にご来訪したりと、女性の気持ちが全くわかっておりません。
そういえば皇后様も行動が早いですが、あれは間違いなく皇后様の血筋ですね。
「お嬢様、お手紙でございます」
レヨンドールの一件も焦りました。
ああいう形で、正体がバレる事を予測していなかった私の落ち度でしょう。
そのせいでお兄様やエマさん、公爵家を巻き込んでしまいました。
「お嬢様、お手紙が来ておりますよ」
今思えば、夜にこっそり皇宮を抜け出したり、龍術競技に向かったりと、部屋の外に出たのが良くなかったのかもしれません。
それならばいっそ、この部屋から出なければ大丈夫なのではないでしょうか?
これは妙案かもしれません。
最近の皇宮は警備の人も増えて物々しいですし、私も自室の警備に勤しみたいと思います。
「お嬢様……いい加減、現実に帰ってきてもらえませんか?」
先程から何か聞こえてくるのですが、きっと幻聴でしょう。
もしかしたら、体調が優れないのかもしれませんね。
そうとわかれば、今日はもうお休みした方がいいかもしれません。
「ふぅ……お・嬢・様」
おかしいですね。
ベッドの方に向かおうとしたのですが、体が一歩も前に進みません。
金縛りでしょうか? それともこの肩の痛さは、怨霊の類でしょうか?
「はぁ……どうやら、お嬢様もお疲れのようですね」
急に私の肩を抑えるものが軽くなった気がします。
どうやら怨霊さんもわかってくれたみたいですね。
「わかりました、今夜は私がずっとお側で子守唄を歌って差し上げましょう」
「すいませんでした」
秒で謝罪した私は、仕方なく現実を直視する事にします。
「わかって頂いたようで何よりでございます」
だって、婚約式まであと一週間ですよ?
少しくらい現実逃避しても許されるはずです。
このままじゃ、私の初めて(の婚約者)がウィリアムになってしまうのですよ……。
私はもう半分、諦めまてますけど、何も知らないウィリアムの初めて(の婚約者)が、女装した男性だなんてとても不憫じゃないですか。
「仕方ありませんね……しかし、この案件だけはどうする事もできません」
エマさんは、トレーの上に乗った案内状に視線を向ける。
この絢爛豪華にして帝国印が入った案内状こそが、私が現実逃避の決め手となった理由なのです。
「はぁ……やっぱり、拒否するわけにはいけませんよね?」
「皇帝陛下のご招待を断る勇気があるのでしたらどうぞ」
はい、無理ですね。
「公爵家の方からも、既に今夜の晩餐会に着ていくドレスと宝飾品の方も送り届けられております」
公爵家の色である臙脂のドレス。
これを着るという事は、相応の覚悟を持って参加しなさいという、実家からのメッセージでもあります。
宝飾品も、お養母様の所蔵品である公爵家が受け継いできた物。
ルビーの中でも最高級とされている、ピジョンブラッドのネックレス。
1つでも希少なのに、それを5つも使われたネックレスに公爵家の歴史と豊かさが垣間見えます。
周囲に散りばめられたダイヤモンドも、ピジョンブラッド を引き立てるための要因にしか過ぎません。
「覚悟を決めましょう……エマ、ヴェルヴェットの黒リボンを用意してください」
このネックレスは結び目が着脱式となっていて、リボンを取り付ける事で、チョーカーやヘッドアクセサリーに転用できます。
ドレスによって趣を変えることで、コーディネートのバリエーションを増やせるが故に、着る人のセンスが問われるのが難点ですね。
今回は、臙脂のドレスに一部ヴェルヴェットの黒の生地が用いられているために、リボンの色と生地感もそこに合わせようと思います。
「ご用意できました」
「有難うエマ、それでは湯浴みの準備をお願いします」
夕方の晩餐会まであまり時間がありません。
完璧に仕上げるためにも急ぎましょうか。
お読みいただきありがとうございます。
ブクマ、評価、感想などありがとうございました。
特に誤字の報告助かりました、完全にボケてました。
更新頻度を増やすために小分けにしてみましたが、どうでしょう?
いつもなら晩餐会まで入れてから投稿するので、文字数はかなり減るので読み応えはないかもしれません。
実験的にやってみましたが、不評そうなら戻します。