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≪連載版≫ 男だけど、双子の姉の身代わりに次期皇帝陛下に嫁ぎます 〜皇宮イミテーションサヴァイヴ〜  作者: ユーリ
第1部 弟だけど姉の代わりに皇太子殿下の婚約者候補になります。
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第12話 一難去ってまた一難、二律背反を解くべからず。

 龍術競技から数日後、その日の朝はとても穏やかでした。


「エスターお嬢様、ドラグニエル様よりお手紙が届いております」


 あの日、賭け事に勝利し大金をせしめた私は、その使い道に大変悩みました。

 私と皇后様が白金貨2枚を賭けた事で、オッズに変動があったものの、最終的には再びオッズは10倍を超え白金貨10枚を超える賞金を得る事となりました。

 いくらなんでもこの金額は、私には過ぎたるものでしょう。

 お小遣いにしては余りにも多すぎるし、公爵家は全くと言っていいほどお金には困っていません。


「内容は再度のお礼と、エスターお嬢様から頂いた白金貨の分配についての詳細ですね」


 使い道に悩んだ私は先ず、元手の1枚をドラグニエルに返却。

 戦いの健闘を讃え、ウィルフレッドに5枚。

 コンシェルジュを務めてくれたラタさんに、スポンサー料として1枚。

 端数は当日、警備や給仕に当たっていた人にチップとして渡しました。

 余った3枚のうち、1枚は龍術競技のために使ってくださいと競技団体に寄付。

 ドラグニエルからの手紙には、その1枚が何処にどう使われたかが詳細にかかれていました。


「では、こちらからも感謝状を送りましょう」


 しっかりとした仕事に対する感謝を送り、その仕事を讃えるのもまた貴族の務めでしょう。

 ここを疎かにするかしないかで、上級貴族としての資質が問われます。


「わかりました、どの便箋と封筒をお使いになられますか?」


 手紙を送るのにも色々マナーが必要で、お互いの立場や内容次第で、封筒や便箋も変わってきます。

 無難に白か、季節の押し花が入った便箋か……それだと普通すぎて、余り面白くはないんですよね。


「そうですね……便箋はこの前、エスターの薔薇を押し花にした物を使おうと思っています」


 この前、皇后様から頂いた物を部屋に飾った後、枯れる前に押し花にしておいたのです。

 薔薇の押し花は珍しくはないのですが、特筆すべきはあの大きさでしょう。

 あれほどの大きな薔薇を用意できるのは、限られた貴族しかいません。

 上質な革などもそうですが、1部の商品は限られた貴族によって独占されています。

 花もその一つであり、大きな花弁の商品は皇后様や公爵夫人などに献上されるので、大きな花弁の薔薇などは一般にはまず流通しません。

 故にとても珍しいのですが、その価値が分かるのは、その事実を知っている者のみです。

 ドラグニエルであれば、きっとその価値に気づいてくれるでしょう。


「良いと思います、便箋はそれを使いましょう」


 次に封筒ですが、封筒でこだわるべきは材質でしょうか。

 手触りが良い封筒って貰うと嬉しいんですよね。


「リップル紙の封筒はまだ残ってますか?」


 リップル紙と言うのは、通常の紙と違って紙質が柔らかく、表面が少しデコボコとしている形状の物です。

 その触り心地はとても優しく、女性らしい気品を感じられる事から、ご令嬢の必須アイテムの一つと言っても過言ではありません。

 しかしこのリップル紙、多くのご令嬢は封筒ではなく便箋として用います。

 リップル紙の封筒は珍しく、遊び心があるのではないでしょうか。


「はい、御座いますよ、お色は何れになさいますか?」


「青みのないベージュに近い白がいいのではないでしょうか」


 青みがかった白い封筒は清廉さはあるのですが、暖かみが無さすぎます。

 それに加え、押し花を目立たせる事を考えれば、派手な色は避けるべきでしょう。


「そうですね、そちらの方がよろしいかと思います」


 私はエマさんから便箋と封筒を受け取ると、ささっと書き終わりました。

 内容自体はとても親しい間柄でもないと、定型文以外に書くことがないんですよね。

 今回の場合だと、今度は違う競技も観覧したいと思います、くらいでしょうか。

 私は書き終えた便箋を封筒にしまい、封蝋を押しエマさんに手渡す。


「昼食後に公爵邸に戻る時についでに出しておきますね」


 その後、何事もなく昼食を終え、エマさんを見送ります。


「それでは、行って参ります……今度はお部屋でじっとしててくださいね」


 ふふん、甘いですよエマ。

 心配せずとも私は、学習するタイプの人間なのです。

 公爵家の名にかけて、今度は完璧にお留守番をこなして見せましょう。

 エマさんを見送った私は、だらける事なく優雅に1人ティータイムを堪能します。


「エスター様、お客様がお見えになっております」


 皇后様の使いの方でしょうか?

 申し訳ないですが、今回はお断りしましょう。

 ダメですよ皇后様、私の脳内でしょぼーんとした顔をちらつかせないでください。

 そんな顔しても、貴女の後ろにちらつく脳内エマさんの笑顔が怖いので絶対に無理です。


「どなたかしら?」


「それがその、ウィリアム皇太子で御座います」


 ぶふっ……思わず、飲んでいた紅茶を吹き出しそうになりました。

 よりにもよって、エマさんが居ない時に来るなんて完全に想定外です。

 そもそもこういう時は、前もって前日にお達しがあるのが普通でしょう!

 しかし相手は皇太子……そんな文句を言っても意味がありません。


「本日は体調が優れないので、後日に変更できないのか、皇太子殿下にお伺いを立ててください」


 皇太子殿下にはお会いしたいとは思っていましたが、せめてエマさんがいる時にしてほしいです。

 ここは何としても、一度お帰りになられるように説得しないと……。


「お、おまちください、殿下!」

 

 侍女の1人の荒げた声に、第六感が働いた私は、咄嗟に扉の鍵にロックをかけます。

 それと同時に、ガチャガチャと扉を開けようとする音が聴こえてきました。

 ふぅー、間一髪とはこの事でしょう。

 自らの勘の良さを褒めてあげたいところです。


「む……鍵がかかっているが、まぁいい……エスター嬢、体調が優れないようだが大丈夫か?」


 は、話しかけてくるとか聞いてませんよ!

 普通なら体調が悪いと言えば、適当に侍女に返事を返して後日に延期する、それだけでいいんですよ。

 だけどこのお方には、そういう形式的な物は通用しないようですね。

 なるほど……皇后様が手を焼く理由がわかりました。


「は、はい、今日一日休めば大丈夫だと思います」


「……そうか、何か必要なものがあれば侍女達に申し付けるといい」


 皇太子殿下は普通に私の体調を心配してくれてるだけなのでしょう。

 仮病を使ってるだけに、少し心が痛んできました。


「エスター嬢、突然の訪問失礼した、ゆっくりと休み、体調を整えられよ」


 扉の奥から足音が遠のいていくのが判る。

 なんとかやり過ごせたようで、ほっとひと息を着きます。

 ふふふ、さすがのエマさんも今回ばかりは褒めてくれるでしょう……そう思っていた時期が私にもありました。

 その後、皇太子殿下から情報を得た皇后様が、使いの者を送ってくるまではいいでしょう。

 1人とか1回とかならまだどうにかしようがあります。

 何人もの使いの者がひっきりなしに押しかけてくるなんて、誰が予想できたでしょうか?

 それらの対応に追われたエマさんの笑顔と言ったら……本当に寝込んでしまいそうになりました。







 翌日、私は朝食の場で回復した事をアピールして、何とか事なきを得ました。

 皇后様との朝食を無事に終え、その帰り道の事です。

 更なる想定外が私を待ち受けていました。


「何やら、庭の方が少し騒がしいですね」


 静かな皇宮には珍しく、今日はほんの少しですが騒がしい気がします。


「皇宮長から、本日からしばらくの間、警備を増やすとの話を聞いております」


 なるほど、そういう理由でしたか。

 警備を増やすのは、婚約の儀が近いからかもしれませんね。


「そうですか、しかし何か違和感がっ……いたっ」


 会話の途中でエマさんが突然立ち止まったせいで、彼女の背中におでこをぶつけてしまいました。

 私は涙目になりつつも赤くなったおでこをさすります。

 もう! 止まるなら止まるっていってくれないと!

 エマさんに文句の一つでも言おうと、ひょいっと顔を出して驚きました。


「誰ですか!」


 声を荒げるエマさんの後ろで、私は目を見開きました。

 まさかこんな所で出会うなど、思っても見なかった事なのですから。


「う、ウィル……」


 誰にも聴こえぬ程小さく呟いた私は、再びエマさんの後ろに慌てて隠れます。

 この至近距離ですので、正体がばれるわけにはいきません。

 ウィルは、エステルの時の私を知っているので大変危険なのです。

 だからこそこの時の私は、目の前の騎士ウィルフレッドに気を取られ、後ろから忍び寄る更なる想定外に気がつきませんでした。

 お読みいただき、ありがとうございます。

 現在、ウィルフレッド主点の短編も並行で執筆しております。

 多少なりともネタバレもあるので、短編で公開した後、婚約の儀が終わったあたりで幕間に追加します。

 次話あたりで間に合えば、同時公開して後書きでお知らせいたします。

 更新ペース遅くてすいません。

 最後になりましたが、ブクマ、評価ありがとうございました。

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