表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/17

誠はステージでマジックショーを披露している紗良をじっと見つめていた。


周りでは多くの男性ファンたちが紗良に熱い声援を送っている。


(こいつら・・・きっと紗良とは口を利いた事も無いんだろうな・・俺が紗良と同じ大学の同級生だと知った時の顔を見てみたいもんだ。)


ウンウンと誠は腕組みをしながら、その時の場面を誠は想像した。


と、その時


「あ~やっぱり紗良ちゃん、最高だな。俺さ、この間握手してもらったよ。」


突然そんな会話が飛び込んできた。


(何?!)


誠は驚いて周囲を見渡すと、友人同士で来ているのだろうか、若者2人が会話しているのが目に留まった。


「うん、本当に彼女素敵だよな。俺も握手を頼んでも嫌な顔一つしないし、いつも見に来てくれてありがとうなんてお礼言われちゃったよ。」


(紗良め・・・俺には手を握られるのも嫌がるくせに。・・こんな見知らぬ奴と握手するなんて、どういう事だ?)


誠はイライラしながら二人の会話を聞いていた。


「ほら、いいだろう?この缶バッチ。紗良ちゃんの顔写真なんだぜ。」


「俺も持ってるぞ!ほら、こっちは別バージョンだ。」


彼らはお互いに缶バッチを見せ合っている。


「また来月、紗良ちゃんのファンクラブの集いがあるから、お前も行くだろう?次回は紗良ちゃんが短いマジックショーを披露してくれるらしいから。」


その言葉を聞いた誠は


(何!ファンクラブだって?初耳だ!?)


そして


「おい、お前!」


誠は若者の1人の肩を掴んだ。


「な・何だよ・・・お前。」


急に肩を掴まれた若者は驚いている。


「そのファンクラブ、どうやって入会出来るんだ?」


誠は凄みのある声で若者に尋ねたのである。




「終わった~。」


紗良はマジックショーを終えて舞台袖に戻ると、この店のオーナーがやってきた。


「お疲れ様、紗良ちゃん。」


「あ・オーナー。今日まで本当にお世話になりました。」


紗良はペコリと頭を下げた。


「確か、ここでのマジックショーは今夜で終わりだったよね。残念だな~君はすごく人気があったから、お客さんも大勢来てくれて、売り上げばっちりだったんだけどね。」


この店のオーナーは祖父の知り合いで、まだ30代という若さで都内に店を構え、他にも数件貸しステージを運営しているという中々やり手の人物である。


夏休みにマジックの修行のための舞台を探していたところ、祖父がこのオーナーに直に頼んでくれたのであった。


「また、機会があれば、ステージに立たせて頂けますか?」


紗良が尋ねると


「勿論、こっちからお願いしたい位だよ。後数日で出発するんだよね?気を付けて行っておいで。」


オーナーは紗良に言った。


「あの・・・オーナー。一つ、お願いしたい事が・・。」


紗良の言葉に


「あー、あの件ね?勿論彼には紗良ちゃんが何処に行ったかなんて口が裂けても言わないから安心して。それにしてもあの若者もなかなかしぶといね。紗良ちゃんにいくら冷たくされても諦めないなんて。彼位の男なら他に彼女作れると思うけど?」


オーナーは不思議そうに言った。


「誠、以前特定の彼女が何人かいて付き合っていた事があるんですけどいつも長続きしなくて、やっぱり俺はお前じゃなきゃダメなんだ!って言うんですよ。本当にこっちはいい迷惑ですよ。」


「でも、君はどうして誠君じゃダメなんだい?君だって男の人と何回か付き合った事あったんだろう?」


オーナーは紗良に尋ねた。


「はい・・・でも今思えば本当に好きだったのかって聞かれたら、上手く答えられません。ひょっとしたら誠から逃げたくて、あの人たちと付き合っていたのかも。・・結局全部誠のせいで振られちゃいましたけど、別に悲しくも無かったし。」


「何で、紗良ちゃんは誠君とは付き合わないんだい?彼は真剣に君の事が好きみたいだけど?」


オーナーはじっと紗良の目を見た。


「私・・・上手く言えないけど、この場所には私が本当に好きになれる相手がいない気がするんです。何処かもっと別の場所にいる誰かと・・・だから私の事を真剣に思っている誠とは付き合っちゃいけないんです。ごめんなさい、言ってる事滅茶苦茶ですよね?自分でも分かってるんです。おかしいって。」


(私ってば、オーナーになんて事言ってるんだろう!きっと変だって思われちゃう!)


紗良は恥ずかしくなって下を向いてしまった。


オーナーは暫く黙っていたが、やがて口を開いた。


「つまり、それはまだ本当に好きな人が表れていないって事かな?」


「!・・・そうです・・きっと。」


顔をあげて紗良は答えた。


「そうか、早く運命の相手に出会えるといいね?ひょっとして今度の旅先でそういう出会いがあるかもね?」


オーナーはにっこり笑った。




 そんな二人の会話をシルバーは黙って聞いていた。


店を出ると誠の姿は無く、バイクも消えていた。


「良かった、諦めて帰ったのかな?結構長い時間オーナーと話し込んでいたし。」


紗良はほっと溜息をついた。



 一方、その頃誠はマジックショーで知り合った、あの例の若者2人と一緒にお好み焼き屋に来ていて、紗良の話で盛り上がっていたのであった・・・・。



 紗良はシルバーとキャンピングカーに乗りこんで夜空を見上げた。


(もうすぐ、満月になる・・・いよいよ出発する時が近づいてきたみたい。)


 

  そして数日後、紗良は旅に出る必要なもの全てを車に乗せるとシルバーと共に夜明け前に出発した。


北を目指して・・・・。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ