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シルバー

・・・紗良は夢を見ていた。


夢の中で紗良は月夜の森の中を彷徨っていた。


やがて森の中を抜けると、遠くに立派な城が見えた。


(あの城に行かなくちゃ)


何故か夢の中で紗良は強く思い、城に向けて歩き始めるとやがて切り立った崖の上に人の姿が見えた。


その人物は大きな月に照らされて、背中を向けて立っている。


輝くような肩まで届く銀色の髪は後ろで束ねられ、テレビで見たことがある騎士のような服を着て腰には剣を差している。



やがて、その人物はゆっくりと紗良の方を振り返り・・・・


そこで紗良は目が覚めた。


「・・・変な夢。」


紗良はポツリと呟いて、ベッドの下で眠っている銀の犬を見た。


(何だか、あの夢の人物に雰囲気が似ている気がする。だからあんな夢を見たのかな?)


時計を見ると6時半を差していた。


紗良は犬を起こさないようにそっと起きると、ストライプのTシャツとジーンズに着替え、部屋を出ると既に祖父はリビングでテレビを見ていいた。


 そして紗良に気が付くと声をかけた。


「おはよう、紗良。よく眠れたかい?」


「おはよう、おじいちゃん。ぐっすり眠れたよ。」


紗良はグラスに水を注ぎながら祖父を見た。


「あの犬はどうした?」


祖父の質問に


「まだ眠っているはず・・・あ、起きて来たみたい。」


言いかけた時に犬がこちらにやってきた。


「おはよう。」


紗良は犬の頭を撫でると、犬は嬉しそうに尻尾を振った。


「本当に大人しい犬だな。この犬が紗良から不良共を守ったとは信じられん。」


「うん、おじいちゃん。私もまだ信じられない。でもあの時の迫力は本当に凄かったよ。」


犬は紗良の足元から離れないでじっとしている。


「この犬、相当お前の事を気に入ったようだな。絶対離れようとしない。」


「うん・・・やっぱり私この犬、飼いたいな・・。」


紗良は銀の犬の瞳をじっと見た。


青く揺らぐ瞳には紗良の姿が映っている。


「朝ご飯にしようか?おじいちゃん。」


紗良は祖父を振り返ると言った。



 トーストにハムエッグ・サラダにミルクといった簡単な食事を済ませると紗良は自室に戻った。


「まずはペットショップを探してみないとね・・・。」


紗良はパソコンに向かったのである。



・・・・結局あの周辺一帯のペットショップでは犬が逃げたと言う話は全く無く、動物病院に問い合わせてみても、そのような犬は見たことが無いとの結果だった。


「おじいちゃん、色々探してみたけど誰もこの犬の事知らなかったよ。」


紗良は祖父の部屋に入ると言った。


「そうか・・それじゃ、紗良。お前がこの犬を飼えばいいんじゃないか?」


「本当?ありがとう、おじいちゃん。」


紗良は嬉しくて祖父に抱き着いた。


「じゃあ、お前の好きな名前を付けてやるといい。今から仕事に行って来るからな。あ、お前の車はガレージに置いてあるから。はい、これが車のキーだ。」


祖父は紗良の手のひらに車のキーを渡した。


「うん、行ってらっしゃい。おじいちゃん。」


紗良は祖父を玄関まで見送ると、犬を連れてガレージに向かった。


シャッターを開けると、そこには紗良の愛車の軽キャンピングカーが置いてある。


ミントカラーにホワイトのツートンカラーのキャンピングカーは紗良のお気に入りである。


この車は電気式でガソリンが必要ないし、ソーラーパネルでフル充電出来る。


小さなミニキッチンがあるので簡単な料理なら出来るし、小型の冷蔵庫も設置され、食事をとるための折り畳み式テーブルもある。


椅子はベンチシートタイプになっているので、このシートを倒すと大人二人でもゆったりと寝る事が出来る。


最も真夏の車内では涼しい高原へでも行かない限り寝るのは不可能なので、宿泊施設のあるサービスエリアを通るコースを巡り、北を目指す予定だ。


「ねえ、この旅にあなたも一緒に来る?」


紗良は銀の犬に話しかけると、犬は返事をするかのように


「ワン!」


一声吠えた。


「名前を付けてあげないと・・・あなたの名前は・・。そう、シルバー。銀の毛がとても綺麗だから、今日からあなたの名前はシルバーよ。」



 そこから紗良は忙しくなった。


出発の準備のため買い物に奔走し、動物病院へ連れて行き、嫌がるシルバーに大勢で押さえつけてワクチンを接種、その後は保健所で畜犬登録の手続きを済ませた。


途中、シルバーにドッグフードを買ってあげてみたのだか一切口にせず、紗良が買ったサンドイッチを欲しがったので、分け合って食べる事にした。


シルバーは余程サンドイッチが美味しかったのか、もっと欲しがったので更に追加で購入する羽目になってしまった。



 ようやく帰宅できたのは午後の4時を過ぎていた。


「あ、いけない。マジックショーの準備をしなくちゃ。」


ショーは午後7時から始まる。


色々準備がある為、1時間前にはスタジオに入っていなくてはならない。


紗良のマジックショーは、その容姿から特に男性に人気があり、リピーターも多い。


毎回同じ内容をやる訳にもいかず、まだ見習いの紗良にとっては日々の練習は絶対欠かす事が出来ない。


 

 そこから1時間、紗良は集中してマジックの練習を始めた。


シルバーは紗良のマジックにすっかり魅了されたかのように瞬きもせずに、じっと見ていた。




 シルバーを連れてキャンピングカーに乗って紗良がスタジオに到着すると、何故かもうそこには大型バイクにまたがった誠の姿があった。


「よお、紗良。」


誠はバイクを止めると、紗良に近寄った。


「何よ、誠。また来ていたの?連日ここに来ているなんて暇人ね。」


紗良はプイと横を向いて言った。


「暇じゃないって。こっちだって朝からついさっきまで、運送会社で肉体労働のバイトしてきたんだぜ?疲れているけど、紗良に会えるなら家に帰ってなんかいられないって・・・・うおっ!何だ、このバカデカい犬は!」


誠は紗良の足元にいたシルバーから威嚇されて飛びのいた。


「ねえ~。すてきな犬でしょう?この犬は誰かさんから私を守ってくれるナイトなのよ?」


紗良はシルバーの側にしゃがみ、頭を撫でながら言った。


それを見ていた誠は


「く~っ!俺は犬になりたい!」


本気で悔しそうに言ったのである。


「ほら、もう準備があるんだから私に構わないで。忙しいんだから。」


紗良はシッシッと誠に手を振って追い払った。


「何だよ。俺だってお前のステージの客だぞ。」


誠は不服そうに言うと


「お客さんなら、正面から入って下さい。ここはスタッフ専用の出入り口です。」


そして紗良はシルバーを連れて中に入っていった。


「紗良ー!終わったら一緒に飯食おうぜー!」


誠が何やら後ろから大声で言っているが、紗良は聞こえなかった事にした。


 

 今夜の紗良のステージ衣装は真っ赤なフリルの丈の短いワンピース。


スタイルが良くなければ着こなせない衣装である。


楽屋に入り、ステージ衣装に着替え始めた途端、何故かシルバーが慌てたように後ろを向いてしまった。


「?」


(どうしたんだろう?シルバー。ま、いっか。)


紗良は素早く着替えると、メイクをした。


今夜のメイクは真っ赤なステージ衣装に合わせて、唇にも赤いグロスを塗り、アイメイクも施した。


「じゃーん!見て!シルバー。どう?今夜の衣装似合ってる?」


振り向いたシルバーはびっくりしたように固まって、暫くぽかんとしたように紗良を見つめていたが、やがて慌てたように下を向いてしまった。


「あれ?もしかして誰だか分からなくて驚いちゃったの?私、紗良だよ。」


紗良は言うと、シルバーの顔を挟み、ぐいっと自分の方を向かせた。


「それじゃ、行って来るね♪」


シルバーの体をギュっと抱きしめると、紗良はステージに上がって行った。




 



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