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第1章~見習い手品師(マジシャン)紗良

20××年 都内某所-----



夜の狭い地下スタジオは大勢の若者で賑わっていた。


人々の前にはステージがある。


その壇上に黒いズボンに白い半そでのシャツ、襟には蝶ネクタイを締めた若い男性がマイクを持って現れた。


「皆様!お待たせ致しました!本日のメインイベント、我らがアイドルのマジシャン、ミス紗良の登場でーす!!」


男性の言葉が終わると、より大きな歓声が巻き上がった。



 直後、スタジオは暗転。


暗闇の中ポップな音楽が流れ、真っ暗なステージにスポットライトが当てられた。



長い黒髪を大きなリボンで結び、レオタードのように体にぴったりフィットしたフリルのスカートの衣装、足元は真っ赤なピンヒールを履いた女性がそこに立っていた。


彼女の左手にはシルクハット・右手には長いステッキを持っている。


薄紫のアイシャドウ、レッド系パールの口紅を引き、にっこり微笑む姿は彼女の美しさを際立てていた。


観客の多数は若い男性ばかりで、皆殆どが彼女のマジックを見に来たと言うよりは彼女に会いたくてこの場に居ると言っても過言ではない。


「紗良ちゃーん!!」


「今日も最高に可愛いよ!!」


「会いたかったー!」


次々に歓声が沸き上がった。



紗良は静かにお辞儀をすると、歓声は静まった。


そして、紗良は音楽に合わせてクルクル踊りながら次々とマジックを行っていく。


空中から花を取り出す・リングを使ったマジック・ステッキを空中に浮かせてダンスをさせるマジック・・等々、そのどれものマジックが観客を沸かせた。




 こうして、約1時間に渡るマジックショーは大盛況で幕を閉じた。




まだ拍手が鳴りやまないステージを後にし、紗良は楽屋に戻ってきた。


「ふーっ。」


紗良はタオルを首にかけ、汗を拭くとペットボトルの水を飲んだ。


そこへ、


「ああーん!紗良せんぱーい!今夜も素敵でした!!」


栗色のふわりとした髪の少女が笑顔で紗良に飛びつき、力強く紗良を抱きしめた。


「ちょ、ちょっと彩音。苦しいってば。」


紗良は必死になって彩音をなだめた。


「そうだ、お前は紗良から離れろ。」


紗良の後ろから男性の声がしたと思ったら、彩音と呼ばれた少女を無理やり引き剥がし、紗良の腰を抱いて自分に引き寄せた。


「やっぱり、お前の舞台は最高だぜ、紗良。」


言うと、自分の顔を紗良に近づけた。


「いい加減にしてくれない、誠。何度も言うけど私、そんな気は全く無いから。迷惑してるのが分からないの?」


紗良は両手で誠の顔をガードして言った。


「そうですよ、誠さん。あんまり先輩の周りをうろついていると、ストーカーで警察に訴えますよ!」


彩音は二人の間に割って入ると、背の高い誠をじろりと下から睨み付けた。


「そうだね。冗談抜きでストーカー被害届けてもいいかも。」


紗良がボソッと言うと


「ちょ・ちょい待ち。それだけは勘弁。な、頼む!」


誠はパンと手を叩き、必死で拝んだ。


が、やがて


「まだそんな事言う?俺、大学に入学してから2年間ずっとお前に告白し続けているのに。俺の何処が嫌な訳?自分で言う程悪くない顔だと思うけど?」


半分恨めしそうな顔で紗良を見た。


確かに本人の言う通り、外見は決して悪くは無い。


浅黒く焼けた肌に、ダークブラウンの髪は良く似合っていた。


スポーツで鍛えた身体は逞しく、彼に憧れる同じ大学の女生徒は多くいる。


その中の何人かは交際にまで発展した事もあるのだが・・・何故か長続きはしなかった。


「俺さ、やっぱりお前じゃなきゃダメみたいなんだ。」


「あのね、私たち一度も付き合った事ないよね?第一お前呼ばわりしないでくれる?」


紗良は心底嫌そうに言った。


「そうそう、しつこい男子は嫌われますよーだ!」


最後に彩音はべーッと舌を出した。


「な・こいつ・・・!」


誠は腕を振り上げた。


「キャーッ先輩!助けて!」


彩音は紗良の背後に隠れた。


「やめなさい、女の子に手を挙げるなんて最低よ!」


紗良は彩音を庇いながら言った。


「だって・・・お前がいつまでたっても俺と付き合ってくれないから・・・。大体この間、男と別れたばかりで、お前今フリーなんだし・・。」


誠は口の中でぶつぶつ言うと、


「だ・れ・のせいで別れたと思っているの?」


紗良の問いに


「嫌あ・・・・それは、何だ。つまり、その、俺が相手の男に・・俺の惚れた女に手を出すなと言って、ちょいと一発殴って・・だな・・。」


誠はしどろもどろに答えた。


「そうよ。だから彼に言われたのよ。お願いですから別れて下さいって。もうこれで3人目よ。」


「さっすが、先輩。モテモテですね。」


彩音が口を挟んだ。


「ええ?3人だけだったか?俺の知る限りでは後・・・あ、そうか。あいつらはお前に告白する前に俺が・・。」


誠は指折り数えながら言うと


「何?私の知らないところで、どれだけ悪い事してきたの?お陰で最近じゃ大学の男子生徒たちから距離を置かれてるし、女子達からは用心棒がいるなんて言われてるのよ。」


「え、そりゃラッキー♪」


紗良の言葉に誠は口笛を吹いた。


「誠みたいに乱暴な男とは絶対に付き合わないからね!もう今夜は帰って!」


紗良は言うと、強引に誠の背中を押して楽屋から追い出し、ドアの鍵をかけてしまった。


「え?そんな、おーい!紗良ちゃん、ここを開けてー!」


暫く外ではドンドンとドアが叩かれ、誠の恨めしそうな声が続いていたのであった。



(ふう・・・・本当にしつこい男。)


紗良は小さくため息をついたのであった。







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