表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/17

第2皇子 ユリウス

その部屋は変わった特徴の部屋であった。


部屋の形は六角形。


窓は無く、壁も天井も鏡張りの部屋で扉までもが鏡張りで部屋の全ての角には篝火が置かれて部屋を照らしている。


揺れる炎で照らされている部屋の中央に少年は立っていた。


髪の色は見事なプラチナブロンドで、長い睫毛は炎の明かりに照らされて揺れている。


まだ幼さを残す顔は一瞬美しい少女を思わせるような整った顔だちをしていた。


少年は分厚い本を片手に、注意深く幾何学模様を描いている。


そこへ激しく扉を叩く音が聞こえてきた。


「ユリウス様!!そちらにいらっしゃるのですよね?!どうかこの扉を開けてください!!」


声の主は先程の宰相である。


それでも少年は一心不乱に床に模様を描き続けていた。


「開けないのであれば、扉を壊してでも無理やりに入らせて頂きますぞ!!」


「・・・・・うるさいなあ。」


少年は杖を置いて、ため息をつくと無言で扉の鍵を開けた。



それを待っていたかのように宰相を含め、十数人の人々が部屋になだれ込んできた。


宰相はユリウスを見上げて咳ばらいをし、


「ユリウス様!一体この部屋で何をされるおつもりですか?」


「嫌だなあ。今更そんな事を聞いてくるわけ?決まっているだろう。向こう側の世界から次の巫女姫になる女性をこの世界に招くためだよ。」


「し、しかし・・・・あの話は御伽噺の世界では・・?」


一人の若い家臣が首を傾げながら言った。


「御伽噺だって?」


ユリウスは、フッと笑った。


「お前たちは<並行世界>の話を知らないようだね?この王家に代々伝わる古文書にも今から数百年前に<並行世界>から巫女姫を連れて来た事実が記されているのに?」


人々をぐるりと見渡し、本を指さしてユリウスは言った。


<並行世界>


初めて耳にする言葉に人々の間で戸惑いの声が上がった。


「そ・それは誠の話なのですか?」


宰相はユリウスを見つめた。


「そうだ。・・・この古文書によると、数百年前にも今と同じように巫女姫の寿命が尽きようとしていたのに、この巫女姫には彼女の血を引く女の子供が居なかった。

この世界には巫女姫以外自分自身で魔力を創れる女性が存在しないので、<並行世界>から巫女姫になれる資格を持つ女性を見つけて、こちらの世界に召喚したと記されている。」


「本当にそのような事が可能なのですか?」


宰相は疑い深げにユリウスに尋ねると


「勿論、僕と兄さんは実はもう1年程前からアスタリスに言われていたんだ。自分の命は恐らくもう長くは無いだろうと。そして代わりの巫女姫を見つけて欲しいって。」


「な・何と言う事だ・・・・。」


宰相は絶句した。


「僕と兄さんはそれから必死になって、この『鏡の間』を使って映し出される次の巫女姫を探し続けていた。そしてやっと見つけたんだ。あの”女性”を。

黒髪がとても美しい人だった・・・。」


ユリウスは遠くを見つめるような眼差しで最後は呟くように言った。


「本当に見つかったのですか?!」


人々が歓喜の声を挙げた。


「見つかった。けれども何処に居るのかは分からない。おおよその場所の見当だけはついたけれども。

大体あの世界は我々では信じられない位の大勢の人々が暮らしているし、馬も居ないのに走れる乗り物や巨大な空を飛ぶ乗り物まである世界なんだ。」


「何という不思議な・・・。」


「そこの世界の住人たちは皆魔力を使えるのか・・・?」


人々がざわついた。


「皆の者!静粛に!!」


宰相がその場を収めると、ユリウスは再び口を開いた。


「だから兄さんが彼女を探しに行った。向こうの世界では僕たちの身体の負担が大きいから<犬>の姿に変えて、この鏡の間から僕が送り出したよ。2か月前にね。」


「な・・・・なんですと~!!」


部屋には宰相たちの絶叫する声が響き渡った。



「と・とにかく今はまだ兄さんから何も連絡が入ってこないんだ。アスタリスがまだ無事な内に・・・。」


そこまで言うとユリウスは息を飲んだ。


「そうだ、アスタリスは?彼女の容態はどうなっているんだ?!」


「それが今巫女姫様は意識を失っておられて・・・。」


巫女姫の家臣の言葉を聞くと、


「アスタリス!!」


ユリウスは部屋を飛び出すと急いでアスタリスの寝所を目指した。





 ユリウスはアスタリスの部屋の前に着くと、思い切り扉を開けた。


「ユリウス様!!」


侍従長がユリウスの姿を見て驚いて椅子から立ち上がった。


「アスタリス!」


ユリウスはアスタリスのベッドに駆け寄った。


「・・・・・」


アスタリスは青ざめた表情で弱々しい呼吸をしたまま意識を失っている。


「アスタリス・・・。」


ユリウスはアスタリスの小さな手を取ると握りしめ、唇を噛み締めた。


(アスタリスにあの話を聞かされた時から、覚悟は決めていたけれども・・・!!)




あの日、アスタリスはユリウスとアドニスに言った。


「どうしたんだい、アスタリス。君が僕たちを呼ぶなんて珍しいね。」


アドニスは笑顔で言った。


「何か大事な話しでもあるのか?それに・・・何だか元気が無いようだけど?」


ユリウスもアスタリスの顔を覗き込んだ。


アスタリスは少し俯いていたが、顔を上げると


「ねえ、お兄様方。多分、私もう長く生きられないと思うの。だから・・・代わりの巫女姫を二人で見つけて欲しいの。お願い。」









 



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ