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繋がる

「そう言えば、私を襲った獣・・・私の聞き間違いでなければ人の言葉を話していたようなんだけど・・?」


紗良は助手席に座っているアドニスに話しかけた。


あの時、アドニスに助けてもらっていなければと思うと今でも身体が震えてくる。


「奴らは獣人族。あの森をねぐらにして、迷い込んだ人間を次々と襲っては・・・食料にしている。だから決して足を踏み込んではいけない場所なんだ。それなのに、まさかあんな危険な場所に転移してしまうなんて。本来なら城に転移するはずだったのに・・・。私がついていながら紗良を危険な目に合わせて本当に申し訳ない。」


アドニスは長い睫毛を伏せて紗良に謝罪した。


「獣人族・・・。」


紗良はぞっとした。


自分たちの住んでいた世界では言葉を話す獣など存在しない。


それだけで十分、ここは自分が住んでいた世界では無いと言う事を痛感してしまう。


「この世界に来てから、どの位の時間が経過したんだろう・・・。朝だったはずが、いきなり夜になっていたなんて。半日以上?それともそれ以上の時間が経過したのかな?皆すごく心配しているだろうな・・。」


紗良はため息をついた。


「この世界は君たちが住んで時間と同じ時間しか経過していないよ。ただ、この世界が夜の時は向こう側では朝になる。真逆なんだ。」


紗良の独り言にアドニスは答えた。


「そうなの?やっぱりこの世界は私が以前住んでいた世界とは似ているようだけど、違っているのね。今はすぐにでも誠を探して、一緒に元の世界に帰らなくちゃ。」


「・・・。」


アドニスには紗良の言葉に返事をする事が出来なかった。


もし、もう二度と自分のいた世界に戻してもらえないと知った時の彼女の悲しみはどれ程のものだろう、この国を守ってもらう為に、彼女から大切な人々を奪った自分たちは何て身勝手なんだろう。


アスタリスの命が尽きてしまえば、もう二度と並行世界のゲートを開ける事は出来ない事は教えられている。


それを知っているアドニスの心は痛んだ。


だから事実を知った紗良から非難される覚悟はとうに出来ているし、どんな時も紗良から離れず側にいて、守っていこうと心に決めていた。


「?どうしたの?急に怖い顔して。」


紗良は心配になり、声をかけた。


「ごめん・・・今更なんだけど、実は私では紗良を元の世界に戻してあげる方法が分からないんだ。」


「え・・!!それってどういう事?一生ここで暮らさないとならないの?!そんな・・・!!」


紗良はあまりのショックによろめいた。


「い・いや!でも国が落ち着けば、きっと紗良を元の世界に戻せるよう方法を探してみるよ。」


アドニスは咄嗟に紗良に嘘をついてしまった。


「本当に・・・?」


紗良は不安げにアドニスを見た。


「勿論、必ず方法を見つける。あ・もうすぐ森を抜けるよ。」


アドニスは指さした。


アドニスの言葉通りに、すぐに車は森を抜けた。



 その時、突然紗良のスマホの呼び出し音が鳴りだした。


「え?嘘?!」


紗良は車を止めると急いでスマホを手に取った。


着信の相手は紗良と旅をする予定のメンバーの内の1人で紗良よりも2歳年上の遥と言う女性からだった。


「もしもし?遥さんですか?」


紗良は電話を受けた。


「あ、紗良!いくらLINEを送ってもちっとも連絡無いから電話してみたんだけど・・取り合えず今は最初に泊まる予定のホテルに皆で集まってるわ。あなた一体今迄何してたよの?何処にいるの?」


「本当に遥さん・・・なんですよね・・?」


電話など通用しない世界だとばかり思っていたのに、思いがけない形で元の世界と繋がる事が出来て紗良は嬉しくて涙ぐんでしまった。


「遥さん、私・私・・・。」


「ちょ・ちょと、紗良。泣いてるの?本当にどうしちゃったの?」


電話の向こうから遥の慌てた声が聞こえた。


「実は、私・・。」


そこまで言いかけて、紗良はハッとなった。


一体、何と説明すればよいのだろう?パラレルワールドに来てしまったと言って誰が信じてくれるのか?何かの冗談か、頭がおかしくなったかと思われるに決まっている。


紗良はどうしようと思い、アドニスをチラリと見た。


すると何を思ったか、突然アドニスは紗良からスマホを取ると電話に出た。


「初めまして。僕は彼女の恋人のアドニスと言います。」


「え!恋人?!」


受話器から遥の驚く声が聞こえた。


紗良もアドニスの恋人発言に驚いて、アドニスを見上げた。


アドニスは紗良の視線を気にも留めずにスラスラ言った。


「はい、実は彼女の出発直前に僕が事故に遭ってしまい、彼女に連絡がいったんです。今までずっと病院で意識を失っていた僕に付き添ってくれていて、彼女は連絡する事が出来ずにいたそうです。それで彼女が僕の事が心配だから今回は申し訳ないですが、皆さんと一緒に行くことが出来ないと言っています。」


そして紗良にスマホを渡した。


「あ・あの・・。」


紗良はアドニスの嘘に困りながらも電話を替わった。


「そうだったの紗良?恋人がいたんだね。でも彼氏さんが事故に遭ったんじゃ、心配だもんね。

いいわ。私から皆にちゃんと伝えておくから。・・・・それにしてもアドニスなんて名前。もしかして外人さん?どう?素敵な人なの?いつか紹介してね・それじゃ彼氏さんによろしくね♪」


「あ、はい分かりました。」


電話が切れると紗良はホウッとため息をついた。


「どうだった?私の演技は。中々のものだったろう?」


「確かにそうだけど・・・でも恋人なんて。皆に嘘をついてるのは何だかあまりいい気分がしない。」


紗良は言うと少し恨めしそうにアドニスを見た。


「あの時は、ああでも言わないと相手を納得させられなかったんじゃないかな?いいじゃないか。恋人のフリをさせてもらっても。」


アドニスは少しだけ嬉しそうに言った。


「でも、それよりもどうして?常識で考えればこの世界でスマホが繋がるはずないのに・・・。」


紗良はスマホの画面を確認してみたが、画面にはアンテナがちゃんと立っている。


「スマホが使えるなら、パソコンも・・・・」


紗良は車に積んであったPCの電源を入れた。


程なくしてPCは立ち上がり、紗良はアンテナ状況を確認してみた。


するとやはり、PCもアンテナが立っていたのである。


紗良は試しに自分が日頃から書き込んでいるブログサイトの画面を呼び出してみた。


「あ!私のブログだわ!信じられない・・・インターネットが使えるなんて・・。ねえ、アドニス。この世界でもインターネットがあってパソコンが使えるの?」


「紗良・・ごめん。実は私には先程から紗良の言葉の意味を一つも理解する事が出来ない。スマホやパソコンと呼ばれる便利な道具もこの世界には無いし、インターネットと言われても何の事だかさっぱり分からないんだ。」


アドニスは申し訳なさそうだった。


「え・・・そう・なの?でもこの世界では確かにインターネットが使えるのに。」


言うと、紗良はスマホを持って車から降りた。


スマホは圏外になっている。


「そんな、まさか・・・ひょっとして繋がっているのは私の車の中だけ?それとも電波が悪いのかな?」


言うと、紗良は草原の中を走った。


「紗良!一人で行動するのは危険だ!」


慌ててアドニスが紗良を追いかけて来た。


紗良はアドニスの言葉に我に返って足を止めて辺りの景色を良く見渡した。


目の前の草花は風で揺れている。


空を見上げると大きな満月と満天の星が輝いている。


それは決して紗良が住んでいた世界では見る事が出来なかった光景である。


「何て、綺麗な夜空・・・プラネタリウムよりもずっと綺麗。」


そして紗良は握りしめていたスマホを見つめた。


「紗良・・・。」


追いついたアドニスが声をかけた。


「・・・・。」


紗良は黙って振り向きアドニスを見た。


「紗良・・・?」


アドニスはドキリとした。


紗良の顔は涙に濡れていた。


「フ・・・駄目みたい・・。」


「駄目?何が?」


アドニスは優しく尋ねた。


「やっぱり元の世界と繋がっているのは私の車の中だけみたい。私・・・本当に元の世界に帰れるのかな・・?」


紗良は下を向いて肩を震わせて泣いている。


アドニスの胸は痛んだ。


「紗良・・・」


アドニスは紗良の側に立ち、そっと頭を撫でた。


「君を元の世界に戻せる方法は必ず私が見つけてみせる。だから・・私を信じて欲しい。」


(彼女をこの世界に連れて来たのは間違いだったのかもしれない。当然な話だな。今までの生活を全て奪われてしまったのだから。ユリウスに相談して何とか紗良を元の世界に返してあげないと・・。この国の事情に無関係な紗良を巻き込むわけにはいかない。)


「本当に?私を元の世界に戻してくれる?信じていいの?」


「ああ、勿論。だから・・・戻れるまで私の国に来ていただけないかな?」


アドニスはそっと紗良の右手を取り、跪いた。


「は・はい・・・。」


「良かった、ありがとう。」


アドニスは言うと、その手の甲に口付けた。


「!!」


紗良は一瞬、ドキッとした。


今迄男性と交際した経験はあるものの、そのような行為をされた事は無かったからである。


胸の鼓動が早くなった。


(やっぱり、この人は本物の皇子様なんだ・・・。こんなの私のいた現実世界ではあり得ない。)



「紗良?」


アドニスは紗良の戸惑っている様子に気が付き、立ち上がると声をかけた。


右手はまだ握られたままである。


「な・何でもない。」


紗良は赤くなった自分の顔を見られないようにアドニスの視線から顔を外して空を見上げた。


「この世界は空がとても広くて、星がすごく綺麗ね。」


「ああ、確かに紗良のいた世界では星が殆ど見えなかったね。でも・・・夜になると光り輝いていた君の世界も私にはとても綺麗に見えたよ。」



 紗良とアドニスは手をつないだまま、夜空を暫く見上げていた・・・。





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