並行世界<パラレルワールド>
「ここは、紗良がいた世界とは違う。並行世界なんだ。」
紗良とアドニスはキャンピングカーに戻ると向かい合って座って話をしている。
「パ・・パラレルワールド?本当にそんな世界があったなんて。都市伝説とばかり思っていたけど。」
「ここは私たちが住んでいる世界で紗良たちの世界とは大きくかけ離れている。ただ・・何故か言語は同じみたいだね?何か書くものを貸してくれないかい?」
紗良はアドニスにメモ用紙とボールペンを渡した。
「へえ・・これは便利なペンだね。私たちの国にはこんなペンは無いよ。やっぱり紗良がいた世界は文明がとても進んでいるんだね。」
言いながら、アドニスは何かメモに書いて紗良に渡した。
「この文字は読めるかい?」
その文字は見たこともない字体ではあるが、読む事が出来た。
「まことが たぶん この せかいに きている・・」
紗良は文章を読むと驚いた。
「え?!誠もこの世界に来ているの?」
「そうなんだ・・・実はちょっとした手違いがあって・・ね。」
アドニスは言いにくそうに話した。
「手違いって、どういう事?そもそもどうして私はこの世界に来てしまったの?アドニス皇子、知っている事があるなら教えて。」
「皇子はいらない。アドニスと呼んで構わない。君をこの世界に招いたのは・・私と弟なんだ。どうしてもこの国を救って欲しくて、無理矢理この世界に連れてきてしまった。本当に申し訳ない事をしたと思っている。けれど紗良、今私たちの大切な巫女姫が重い病にかかってしまい、もうすぐその命が消えてしまうかもしれないんだ。どうかこの国を助けていただけないだろうか。」
アドニスは紗良に頭を下げた。
「ねえ、ちょっと待って。救って欲しいってどういう事?さっぱり分からない。巫女姫って誰?どうして私じゃないと駄目なの?」
紗良はそこまで言って気が付いた。
「誠は?誠は何処へ行ってしまったの?この世界にいるのは本当?」
「彼は確かにこの世界に来ている。しかも本来なら私たちが召喚されるべき場所に多分彼はいるはずだよ。」
アドニスはじっと紗良を見つめて言った。
「帰らないと・・・私、元の世界に。誠も連れて行かないと!」
紗良は立ち上り、運転席に移動した。
「アドニス、あなたはこの場所を知ってる?」
「勿論。道案内をするよ。」
アドニスは答えた。
(本当は君を元の世界に返す訳にはいかないんだけどね・・・でも今は秘密にしておこう。城に着いてから今後の事を説明しないと。)
やがて車は紗良の運転で、城に向けて走り始めた。
紗良とアドニスのやりとりの数時間前・・・城ではとんでもない騒ぎが起こっていた。
本来<鏡の間>で召喚されるべきはずの巫女姫に変わり、召喚されたのは見たこともない乗り物に乗り、奇妙なマスクをかぶった大柄の男だったからである。
「あ~何だ?この場所は・・?」
誠はヘルメットを外して辺りを見渡した。
「だ・・誰だ!お前は?!」
ユリウスは誠を震えながら指さした。
「これは、一体どういう事なのだ?!何故巫女姫では無くこのような得体の知れない男が現れた?!」
宰相も腰を抜かさんばかりに驚いている。
他に、召喚の儀を見に来ていた人々もあまりの出来事に騒ぎ出した。
「何だ?お前らは。一体ここはどこなんだ・・って言うか変な部屋だなあ。鏡張りで窓すら無い部屋なんて息がつまりそうだぜ。
ん?大体、お前らのそのおかしな恰好なんだ?仮装大会でもやってるのか?」
誠は周囲の人々をぐるりと見渡して
「おい、そこのチビ!お前王子様の仮装でもしてるつもりなのか?ガキだなあ。」
そう言うと、ビシッとユリウスを指さした。
「な・何だと?無礼な男だ・・・僕は正真正銘、この国の皇子だ!」
チビと言われたのが余程頭に来たのか、ユリウスは顔を真っ赤にして怒鳴った。
「誰か!この無礼な男を捕らえるのだ!!」
宰相の言葉に周りにいた兵士達が一斉に誠に飛び掛かり、あっと言う間に誠は縛り上げられてしまい、床に押さえつけられてしまった。
「フン、いいざまだ。とりあえずこいつを牢にぶち込んでおけ!本来なら打ち首にしてやるところだが、貴様には色々と聞きたいことがあるからな。」
宰相は腕組をしながら誠を睨み付けて言った。
「何だってー!お前らの仕業だろ!?俺をこんな場所に連れて来たのは!くそっ!離せよ!!」
暴れる誠を兵士たちは無理やり引きずるように部屋から連れ出して行った。
「私は彼の様子を見に行ってまいります。」
その場にいた一番年若い大臣レナードは言うと、兵士たちの後に続いた。
それらの一部始終をユリウスは呆然と見ていた。
(どういう事なんだ・・?なんであんな男が?兄さんは一体何処にいるんだ?巫女姫も一緒にいるのか?)
ユリウスはアスタリスから預かっている、もう一つのグリーンダイヤを握りしめた。
グリーンダイヤは淡く光っている。
このダイヤはグリーンダイヤがはめ込まれたネックレスと対になっており、ネックレスの方はアドニスが持っている。
そしてアドニスが無事にこちらの世界に戻ってこられた時に、ダイヤ同士が共鳴して光り輝くようになっていた。
(このダイヤが光っているという事は、兄さんは無事に戻ってこれたという証拠だ。でも・・光の反応が弱い・・。もしかすると、随分離れた場所に転移されてしまったのかも・・。一体何故?)
思い当たる事と言えば一つだけだ。
「くそ!あの男のせいで・・・!」
(恐らくあの男が先に門≪ゲート≫をくぐってしまったせいで、兄さんは別の場所に転移してしまったに違いない。でも、きっと兄さんなら必ず巫女姫を連れて城に戻ってきてくれるはずだ。)
「ユリウス様。これからどうされるおつもりですか?」
宰相はずっと考え込んでいるユリウスに声をかけた。
「必ず兄さんはこの城に巫女姫を連れて戻ってくる。今は信じるしかない。」
言うと、ユリウスは部屋を後にした。
「何処へ行かれるのですか?ユリウス様。」
宰相はユリウスを呼び止めると
「アスタリスの元へ。彼女の様子が心配だから。」
そして<鏡の間>を後にした。
「くそーっ!出せよ!!」
地下牢に閉じ込められた誠は腕を縛られた状態のまま、鉄格子を思い切り蹴った。
「うるさい!静かにしろ!!」
見張りの兵士の内の1人が怒鳴った。
そこへレナードがやってきた。
「これは、レナード様!」
兵士たちは敬礼した。
「お前たちは下がっていなさい。この男と二人きりで話したい事があります。」
「え・・・ですが、宰相殿にこの男から目を離すなと仰せつかっているのですが・・・。」
レナードの言葉にリーダーと思わしき兵士が戸惑ったように言った。
「大丈夫。宰相には私の方から伝えておきます。いいから、下がりなさい。」
「は・はい!」
兵士たちは頭を下げると、一斉に退散した。
「何だよ。俺に話って。」
誰もいなくなった牢屋で誠は口を開いた。
「こちらへ来い。」
レナードは冷たい声で誠に言った。
「俺に命令するんじゃねえ。」
誠はそっぽを向いた。
「どうした?縄を切ってやろうと言っているのに。そのままでは不便だろう?」
レナードは懐から短剣を取り出して言った。
「え?マジかよ。」
誠はレナードの側に寄った。
「後ろを向け。そのままでは縄を切る事が出来ない。」
誠の腕は後ろ手に縛られている。
「頼む。」
誠は縄を切りやすいように背を向けると、レナードは黙って縄を切った。
「わりーな。」
誠は自由になった両腕を揉みながら言うと、突然レナードに襟首を掴まれて引き寄せられた。
「な・何だよ?」
戸惑う誠にレナードは彼の耳元で囁いた。
「お前、日本から来たのだろう?」
そして美しい顔にゾッとするような笑みを浮かべたのである。




