シルバーの正体
紗良は自分の好きな音楽をかけながら、目的地を設定してあるカーナビ通りに車を走らせている。
傍らにいるシルバーは後ろのベンチシートの上で丸くなって眠っている。
そのシルバーの首には紗良手作りのパワーストーンのネックレスが付けられていた。
これは数日前に紗良が首輪の代わりに作ったネックレスであった。
紗良はマジック以外の趣味としてパワーストーンでアクセサリーを作ってネットで販売しているのである。
「やっぱり、夜明け前に出発して良かった。この調子だと予定の時間より早く目的地に到着できそう♪」
そんな紗良のキャンピングカーの後ろを誠がバイクに乗って後をつけているのにも気が付かずに・・。
「全く、紗良の奴。この俺に内緒でこんな旅を計画していたなんて・・・あいつ等と話をしていなければ紗良の後を追いかけられない所だった。」
誠はぼやきながらバイクを走らせている。
「女の一人旅なんて、ヤバ過ぎる。いや・待てよ。確か色々な場所で仲間と合流しながら旅を続けるって言ってたな・・・ってもしかして男かあ!?」
誠は頭をブンブン振った。
「くそっ!他の奴に取られてたまるか!」
紗良の車から遅れを取らないように誠はバイクの速度をあげた。
車を2時間程走らせると、ひとけの無い道路に変わった。
道路の周囲はうっそうとした木が沢山茂っている。
「あれ・・?おかしいなあ?こんな道・・確かにナビ通りに進んでいるはずなのに・・・?何だかどんどん寂しい道に入り込んでいるみたい・・・?。」
流石に紗良は不安になって車を止めて、カーナビを見直してみた。
何回かカーナビをいじってみたが、相変わらず同じ方向を指し示している。
「仕方が無いか、方向は合ってるみたいだし・・・。」
紗良は再び車を走らせた。
一方、誠は
「あいつ、一体どこへ向かって走らせてるんだ?何かヤバイぞ。この道。どんどん霧は深くなってくるし・・。ああ見えてあいつは方向音痴だからな・・。仕方ない、紗良に怒られても構うもんか。先回りして止めないと。」
誠が紗良の車を追い越した、その時である。
突然目の前に大きな光の壁が現れ、誠はバイクごと吸い込まれてしまった。
「うわぁーっ!!」
大きな叫び声をあげ、誠はバイクごと消えてしまった。
「な・何?何が起こったの?あのバイクは何処に・・?」
一部始終を車の中で見ていた紗良はあまりの出来事に呆然としていた。
まさか、あの光に飲み込まれてしまったのが誠だったという事にも気が付かずに。
光の壁はまだ紗良の車の前に存在している。
「に・逃げなくちゃ・・・。」
紗良は慌てて車のシフトレバーを『 R 』に切り替えようと手を伸ばした時、光の壁はさらに強く輝きだし、紗良の乗ったキャンピングカーは光に飲み込まれてしまった・・・。
「嫌ーーっ!!」
紗良はハンドルを握って突っ伏した。
・・・・・何も起こらない。
恐る恐る、顔をあげて景色を見た紗良はあまりの出来事に絶句してしまった。
「何処・・・?ここ?」
さっきまで朝だったのに、いつの間にか夜になっていて空を見上げると今まで見たことも無い位巨大な満月が空にある。
「嘘?いつのまに夜に?」
紗良は慌てて時計を見ると、8時を示している。
「私、もしかしてずっと気を失っていたのかな?でも何だか様子がおかしい・・。あ、そうだ!スマホで場所を確認してみよう。」
紗良はスマホを使い、マップのアプリを起動させてみた。
だが、自分のいる位置が赤い△マークで示されただけで周囲には何一つ表示されていなかった。
ため息をついてスマホをしまうと、紗良は辺りを警戒しながら車の外に出て、ゆっくりと歩き出した。
林の中だろうか。
うっそうとした木々の間から見える巨大な満月は今の紗良をより不安な気持ちにさせた。
その時、シルバーの存在を思い出した。
「そうだ、シルバー!中にちゃんといるのかな?」
紗良は慌てて、車に戻ろうとしたその時である。
「グルルル・・・・」
低いうめき声が背後で聞こえた。
「!!」
紗良は驚いて後ろを振り返ると、そこには1匹の巨大なクマのような獣が立っていた。
吐く息は荒く、大きく開けた口元からはヨダレがたれ、尖った歯が生えている。
「ニ・ニンゲン・・・オンナ・・クワセロ・・!!」
「ヒッ!!」
紗良は恐怖で足元が震えて身動き出来ない。
「ガアッ!!」
鋭い咆哮をあげ、獣は紗良に飛び掛かろうとした、その時である。
紗良の背後から何者かが素早く飛び出してきた。
その人物は右手に剣を持っている。
獣が振り上げた右腕をかわすと、
「ハアッ!」
剣を大きく振りかざし、獣の右腕を切りつけた。
「グワアッ!!」
獣は苦しそうに叫ぶと今度は左腕を振り下ろした。
剣士は見事な跳躍力で獣の攻撃をかわし、着地すると同時に獣の肩口から脇へ袈裟懸けに切りつけた。
「・・・・・」
獣は血しぶきをあげながら、ゆっくりと地面に倒れこんだ。
その戦いの一部始終を紗良は見ていた。
(何・・これは夢?こんな事現実の世界にあっていいはずが無い・・。でも、あの後ろ姿、何処かで見たような・・。)
大きな満月を背後に立っていたのは、銀の髪のとても美しい青年だった。
騎士の衣装を身にまとったその姿はまるで絵本の中に出てくる王子の姿そのものである。
青年は自分の頬についていた先程の獣の血を拭い、しゃがみこんでいる紗良に右手を差し出した。
「良かった、紗良が無事で。」
(え・・・この人、どうして私の名前を?)
青年は紗良の手を引いて立たせると言った。
「ごめん。君を危険な目に合わせてしまって。でももう大丈夫。何があってもこれからは紗良を守ると誓うよ。」
青年は紗良の手の甲に口付けした。
その時、紗良は見た。
青年の首元には紗良がシルバーの為に作ってあげたネックレスが揺れている。
紗良は驚いて青年を見上げた。
その瞳は青く輝いている。
「あなた・・・・もしかしてシルバー?」
紗良は震える声で尋ねると、青年は笑みを浮かべてうなずいたのである。
「ねえ、本当は人間だったの?それに何だか王子様みたいな恰好をしてるし・・ここは何処かあなたは知ってるの?」
紗良はすっかり混乱してしまった。
「落ち着いて、紗良。」
青年は取り乱す紗良の両肩をに手を置くと、言った。
「私の名前はアドニス。正真正銘、人間だし、この国の皇子なんだ。」
「お・・皇子?」
それを聞いた紗良は今までの事を思い出し、顔から火が出そうになった。
「それじゃ、私は皇子様にドッグフードを食べさせようとしたり、無理やりワクチンを打たせてしまったのね・・・。」
それを聞くとアドニスは苦笑いした。
「いやあ・・さすがにあの針の様な物で刺されたときはびっくりしたし、あの食べ物もちょっと私の口には合わなくて・・ハハ・・。」
「も・申し訳ありませんでした!皇子様とは知らずにあんな無礼な事してしまって・・!」
紗良は頭を下げた。
アドニスは慌てた。
「そんな急にかしこまった言い方はしないでくれないか?それを言うなら私だって・・・君の・・。」
そこまで言うとアドニスは顔を真っ赤にして紗良から顔を背けた。
「あ・・・。」
その様子を見た紗良は、いくら犬の姿をしていたからと言っても目の前に立っている美しい皇子の前で堂々と着替えをしていた事に気が付いた。
「す・・すまない!」
アドニスは必死になって頭を下げた。
「い・いいですよ‥別に減るものじゃないし・・。」
本当に申し訳なさそうに謝っているアドニスを前に紗良はそう答えるしかなかった。




