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五、不穏な気配がログインしました

 戦乙女。王国最強にして、現在は十名がその名を連ねている。

 それぞれが色を冠した名前を持ち、現在のリーダーはコバルトが務めていた。

 

「こいつが新入りぃ?コバルト、さすがに冗談にしても面白くないぜ?」

 

 シトラスが憮然とした顔で、そう言う。

 だが、彼女の言うことはそこまで感情任せの事ではないのだ。

 

 ここ何年か、戦乙女の席は減ることも増えることも無かった。

 それが急に新入りぶちこまれても、連携に支障を来すだけであろう。

 

「その、まだ幼いみたいですし…………」

「クリームの言う通りよ。こんな子、戦場に連れていって良いのかしら?」

 

 クリームとカーマインの二人も、あまり賛成ではないらしい。

 

「この子は戦えるのですか?」

 

 真っ向から対立意見を言うことのない、ビリジアンですらこうなのだ。

 コバルトとしても、この反応は予想の範囲内だった。

 

「そうね。確かに、今の実力は足りないでしょう。けどね、この子の潜在能力は私達以上よ」

 

 こつりと円卓をコバルトが指先で叩けば、更に映像が投影された。

 それは少女の背中。円を描くように十の刻印が刻まれているものであった。

 

「ッ、!マジかよ…………!」

 

 気だるげだったシトラスは立ち上がる。他の四人も大なり小なり驚いた様子だ。

 

「今は力の制御も覚束無いけれど、全てを引き出した時には、恐らく、歴代戦乙女達の中でも随一の使い手になるはずだわ」

「し、しかしコバルト様。刻印一つの力を引き出すだけでも」

「そ、そうです!いくら強くなるといっても、この子はまだ小さいですし…………」

「既に王様が動いているのよ。クリーム」

「は、はい!何でしょうか…………」

「雑兵番号3710番、知っているわよね?」

「え、えぇ知っています」

「彼が今の、この子の保護者として任命されているのよ」

「え…………?」

 

 思わぬ言葉。クリームの思考と動きが止まる。

 いや、彼が王城に招聘されていた事は知っていた。だが、まさかこんな厄種に首を突っ込まされているとは思わなかったのだ。

 反射的に椅子を立ちあがり、駆け出し───────止められる。

 

「待ちなさい」

「で、でも!ミ、ミナトさんが!!」

「落ち着きなさい」

 

 首筋に細剣を添えられた状態でありながら、クリームは止まらない。

 彼女は知ってるのだ。ミナトは常人よりも若干強い程度の実力でしかないことを。

 戦乙女の候補生とはいえ、暴走に巻き込まれれば、考えたくもない。

 

「今のところ、この子に暴走の兆しはありません。今は彼と共に街に出ている筈です」

「!街に…………!」

「なあ、アタシが見てきてやろうか?」

「コバルトさん!私に行かせてください!」

 

 シトラスは完全にふざけた様子だが、クリームの顔は鬼気迫る表情だ。

 

「あら、私でもいいかしら、コバルト。彼にも興味あるし」

 

 まさかのカーマインも悪乗りである。

 

「貴様達、少しは落ち着いたらどうなんだ」

「あら、ビリジアン。貴女は気にならないの?」

「そういう話ではなくてだな…………」

「ねぇ、コバルト。どうなのかしら。私達全員とは行かなくても、一人二人は監視の名目でつくべきじゃない?」

 

 ここが、落とし処。

 クリームやシトラスのように感情で動くのではなく、それ相応の理由を示す。

 経験の差だ。彼女は少なくとも、感情で動くべき時と動くべきではない時を知っている。今回は後者だった。

 

「そうね──────」

 

 コバルトは、少し考え、口を開いた。

 

 

 ×××××

 

 

 …………平和なもんだ。

 ぼんやりとベンチに座って空を見上げる。

 流れる雲に、青い空。快晴、とまではいかないが、どんよりした気持ちを吹き飛ばしてくれる、そんな天気だ。

 

「…………スー……スー…………」

 

 サンドイッチを食った後にお嬢ちゃんは寝たっきりだ。魘される様子もないから、まあ、大丈夫だろうさ。

 

 こんな程度の事で良いなら、楽なんだがなぁ。

 何で俺みたいな、オッサンにガキの面倒を見させようと思ったんだか。王様も耄碌したって事か?

 …………いや、ねぇな。少なくとも未だに狩りに出かけて自分よりも大きな獲物を仕留めてくるお方だ。

 この前なんて、角が両手を広げた幅くらいある、大角鹿を仕留めてたし。

 

 い、いや、俺だって火熊位仕留めれるし。鹿程度、素手でいけるし。

 

 話がそれたな。とにかく、俺には結婚の経験なんぞ無い。

 特別子供が好きなわけでもない。むしろ、博打と酒と女が好きだ。どこにでも居るような死に損ないのオッサンさ。

 何で俺なのかねぇ。

 

「ここに居たのか」

「…………大隊長」

 

 ボケッとしてるとキャリコ大隊長が来た。相変わらずカチッとした格好だこって。

 

「その娘が、そうか?」

「ええ、まあ、そっすね。少し前に寝たばっかりなんで起こさんでくださいよ」

「む、私が常に五月蝿いようではないか」

 

 実際五月蝿いだろアンタ。

 あんな大声近くで出されたら、誰でも起きらぁ。

 

「それで、何のようで?俺は暫く召集されないって話だったはずなんすが?」

「なに、少し顔を見ておこうと思ったんだ。どんな状況でも諦めない、男の顔を、な」

「…………死神でもとりついた面してるんじゃねぇすか」

 

 マジでそう思う。

 悪運ばっかり強いからな。何で俺だけ生き残るのかって話だ。

 

「死神、か。お前の命は彼らでも捕れないんじゃないか?」

「んな訳ないでしょ。そろそろ年貢の納め時って奴っすよ」

「その子を残して死ぬんじゃないぞ」

「確約はできねぇっすね」

 

 何となく勘が、このお嬢ちゃんを残して死ぬなと言ってる気がするが、そんなもんは俺が決める事じゃない。

 博打と一緒さ。切った張ったの生き死には時の運。死ぬときは死ぬし、死なないときは生き残る。

 

「ではな。恐らく、もう会うことはないだろう」

「そこは、また会おう、じゃないんすか大隊長」

「フッ…………できない約束はするものじゃないぞ、3710番」

 

 手を振って去っていく、大隊長。

 俺はその背を見送ることしか出来なかった。

 

 

 ×××××

 

 

 私は、キャリコ。第23代目大隊長として雑兵大隊を率いている。

 選ばれた理由は、祝福による上からの命令だった。

 段階で示せば、私は雑兵達よりも三段階上だ。とはいえ、王族や戦乙女様方には遠く及ばない。

 第一、神の祝福は基本的に高くなければ効果はない。私のソレも身体能力がある程度上がるに留まっている。

 

「大隊長!総員集合完了しました!」

 

 副長を務める男の報告を聞き、私は向き直る。

 ここに立つのは二度目だ。次、立つことは無いかもしれないがな。

 

 我々、大隊の仕事は周辺への斥候、危険生物の討伐、そして魔鉄ノ兵や魔族への足留めが主となる。

 端的に言って、死ぬことがこの仕事の最後に当てられるな。

 なに?3710番だと?アイツは例外だ。5年も生き残る雑兵などアイツ位だからな。

 基本は二、三度の出撃で死ぬ。無論、私のような大隊長を務める者も例外なく、な。

 

 ふと、懐に入った水晶に触れた。冷たい、そして硬い感触だ。

 自決用のコレは前回は使えなかった。

 叩きつけようとした、あの瞬間、戦乙女様の一人であるクリーム様に止められた為だ。

 驚いたのは、3710番とクリーム様に接点のあったところだな。

 あの方を含めた、戦乙女の方々は私達大隊の面々にとって殿上人のような存在だからだ。

 

 そういえば、戦乙女様で思い出したが、あの子は大丈夫だろうか。3710番は、見た目だけならばダメ人間だからな。

 戦闘以外、だが。

 アイツは生きることの意味を知っている。生き恥を晒すことなど毛ほども無様とは考えていない、在り方だ。

 

 どこか私はその在り方に憧れているのかもしれない。

 

「フッ…………柄にもない、な」

「大隊長?どうかされましたか?」

「いや、何でもない。皆!気を引き閉めていけ!死こそ我々の功名だ!」

 

 返ってくる歓声を聞き、私は気持ちを切り替える。

 例え、死そうとも、いや、死することこそ我らの花だから、な。

 

 

 ××××××

 

 

「ふぁ~あ…………なんだか退屈ねぇ~」

 

 毒々しい雲が空を覆う気味の悪い土地。

 漆黒の大きな城のとある一室。分厚いカーテンが閉められ、その部屋は薄暗い。

 そんな室内で、女性な声が響いた。

 

「なぁんか面白いもの無いかしらねぇ~」

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