表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

忘れないで

「本当にこの方法でいいのか?」

「それって、私のセリフだと思う」

 いいのか? という問いに二人は答えられなかった。

 いいわけがなかった。他の男に抱かれることなんて死んでも了解したくなかった。しかし、死んでしまうことはそれ以上に嫌だった。それはわざわざ口に出さずともお互い分かっていた。

 親は外出していて、今は二人きりだった。

 アカリの可愛らしくボブカットされた髪を撫でた。透き通るような白い肌に、綺麗な黒髪が映えていた。

「……」

 二人は黙って、その僅かな接点に集中した。声を出すことが恥ずかしかった。輪郭をなぞるように、存在を確かめるように、トオルの手は柔らかくアカリをなぞる。

 少しだけアカリの頬が赤くなった。吐く息がだんだん甘くなっていく。

 小さくて華奢で、抱きしめると壊れてしまいそうだといつも思っていた。今回も同じことを思った。


 調べたことはなかったけれど、心の傷も治るのだろうか。アカリはトオルに包まれながら、そんなことを思った。

「ねぇ、トオル君」

「……なに?」

 囁いた声は、意識しないと聞き逃してしまいそうなほど小さくて、すぐに消えてしまいそうだった。それが切なかった。

「……全部終わって、私の病気が完治したとき、それでも私のことを好きでいてくれる?」

「それって、俺のセリフだと思う」

「ごめん……。愚問だったね」

 愚問だった。自分らしくなかった。言葉の約束なんて、いつ消えてもおかしくないものなのに。それでも今は、これからすることの目的を忘れないために、欲しかった。

 どんなに辛くても支えになる言葉が欲しかった。それが例え、いつ消えてもおかしくない希望だったとしても。

「愛してるよ。これからもずっと。何があっても。それだけは忘れないで」

「今、同じことを言おうと思ったよ……。ありがとう。トオル君」

 お互いの愛を渡しあった。なくさないように。一人ぼっちで頑張らないために。

 アカリはぼんやりと部屋の天井を眺めていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ