表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/13

声色9

秋也さんの部屋で、他にも色々な事を話した。学生時代の事、作品の事、失声症の事。


『私と会話してて疲れない?』


ふと、そう思った。普通なら会話にこんなに時間を必要としない。しかし今は、片方が筆談のため書いている時間は無言に近い。


「んー別に疲れないよ。むしろ面と向かって喋るのあんまり得意じゃないし」

『そっか、それならいいんだけど』

「ねえ、美遙ちゃん髪の毛切る気ない?」

『髪の毛?切りたいって思ってるんだけどなかなか美容室行けないんだよね。会話、出来ないから…』


失声症になってから、あまり外に出なくなった。買い物も必要最低限しかしないし、友達と遊びに行くこともない。美容室も例外ではなく、会話を恐れてなかなか行けなかった。


「俺、切ってもいい?」

『秋也さん切れるの?』

「うん、自分の髪の毛はもちろん、友達の髪の毛も切ったことあるよ」

『じゃあ是非お願いします!』


元々ショートヘアで邪魔にならなかった髪の毛が、今じゃ伸ばしっぱなしでひどく痛み、前髪も顔全体を覆って前がよく見えなくなっている。


秋也さんは、いきなり立ったかと思うと、机の引き出しを開けて、メガネを取り出した。普段はコンタクトを付けているが、今日は目の調子が良くなくて入れられないらしい。またメガネが黒髪に良く似合う。


「何か希望ある?ショート、ボブとか、段入れるとか」

『じゃあボブで!』

「ボブね。前髪は?流行りのオン眉にする?」

『え、えっと、じゃあオン眉で…』

「はいよ、何でちょっと照れてんの」


ふふ、と笑う秋也さんは、私を後ろから抱きしめるようにタオルをかけていく。


『何か恥ずかしくて…あと似合わないと思うし…』

「そう?俺は似合うと思うよ?じゃ、はさみ入れてくね」


静かな部屋に、はさみが髪の毛を切る音が響く。既に私の周りには髪の毛が散っていて、切るスピードが速い事が分かる。


「よし、完成ー!どう?何か不具合ある?」


そう言って切ったばかりの髪の毛を鏡に写して見せる。非の打ち所がない。手が器用なのか、元々才能があるのか分からないが、プロのような仕上がりだった。


『完璧です!ありがとう!』


切ってもらった後、私は嬉しくて鏡を見ると毎回髪の毛を写していた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ