声色8
俺は友達と別れた後、いつも仲間で書を書く、いわば研究室のような部屋に走った。
書きたい。
俺なりの結末を。
部屋の扉を開け、他の事には目もくれず下敷きを敷き、硯に墨を入れた。あまりにも急いでいたのか、墨を少し入れすぎたように思う。
静かな部屋に、筆と和紙が擦れる音が響く。それは滑らかで、かつ力強いものだった。
筆の毛がくにゃりと曲がり、その反動で美しい"かすれ"の線を生み出す。
速さと太さで字に命を与え、脈動感で活きを与える。
潤った太い線。
かすれた細い線。
それは時に、字の起承転結にもなり、物語をつくる。
その物語こそが、今回俺が書く作品の醍醐味だ。
『桜戦争』の冒頭が「起」。
1人だった主人公に仲間が増えた「承」。
史上最悪の敵が襲ってきた「転」。
新たな登場人物が見え隠れする「結」。
その全てを『櫻』の一文字に詰め込んだ。
主人公の喜怒哀楽と、物語の起承転結。
立って書いていたので、書き終わった後近くにあった椅子に腰掛けた。
俺は急に脱力感を覚えた。体の力が抜け、眠気を感じる。そう思った時には既に意識を夢の世界へと移行させていた。
目が覚めると、外はもう夕焼けで紅く染まっていた。ふと机に目をやると、作品と引き換えに顧問…のような先生のメモが残されていた。
『お疲れ。いい作品が出来ていたので、これを次の書道コンクールに出したいと思います。では、また会えた時に。』
結局、この作品はコンクールに出され、見事審査員特別賞をいただく事が出来た。