声色7
俺が大学の時、作品づくりに行き詰まった事があった。いくら書いても、何をしてもいい作品が生まれなくて、1日のほとんどを書に費やした日もあった。
そんな時に友達から勧められたのがとある先生の小説だった。
『少女の頬を、桜の花びらが彩り…』
『桜戦争』と名付けられたその小説は、とある少女が所有している、世界に一つだけの幻の桜を奪いに来る敵から守る話だった。情景描写が細かく、また登場人物が他の作品よりも人間くさくて感情移入がしやすい。人間らしい感情、心の弱さ。さらには眠気や空腹感といった欲までもが浮き彫りになっている。
読んでいくうちに、どんどんその話の世界へ惹き込まれる気がした。俺は時間が経つのも、空腹感も忘れ、夢中になってその作品を読んだ。
『桜戦争』の結末は、最後の敵を倒し、見事幻の桜を守る事に成功する。しかし、守りきって喜んでいる主人公を影から見ている人物がいた。という所で終わっている。
続きが気になる。読み終わった次の日は大学で講義があり、モヤモヤしながら先生の講義を聞いていた。こんな状態で作品を作ってもいいのが出来ないのは経験上見えていることである。何かいい自分なりの解決方法はないか。
「あ、沙田!読んでみた?『桜戦争』!」
講義を半分上の空で聞き終わった俺を、廊下で見つけるなり大声で感想を聞こうとしている、俺に『桜戦争』を勧めた張本人が向こうから走ってきた。
「読んだよ。アレ結末すげぇ気になるんだけど」
「だよな!でもあの最後主人公を見ていた人が何者なのかを考えるだけで何かワクワクするよな!」
何者なのかを考える…
…想像。自分なりの結末を、想像する。
それを書に………!
「ごめん、俺やらなくちゃいけない事が出来たからまた後で!」
「え?あ、おう!また後でな!」
あの作品の自分なりの結末を、書で表してみたい。少し失礼で傲慢な事かもしれない。それでも書かずにはいられなかった。