声色12
「『行ってきます』」
ちょうど6時。と言ってもまだ暗くはならないが、暑さは昼間よりも和らいでいる。
祭りは、この地域では結構規模が大きいため毎年たくさんの人が訪れる。近くの神社で行われるため、参拝をする人もよく見られるらしい。
私達は家から神社までの道のりをまるで遠足に来たかのように歩いていた。「チャリは絶対パクられるから」と徒歩よりも楽な自転車は柔らかく却下された。
「もうすぐ着くよ」
道のりに提灯が並び始め、人々の声が大きくなっていく。神社への道のりで最後の提灯が照らしているのは神社の真っ赤な鳥居だった。
『大きい!』
「でしょ、子供の頃とか上見上げんのに首痛くなってさ」
『私は今も痛いよ』
「あーもちっと身長があるとなー」
『酷いっ!』
ノートを掲げ、目を合わせると、おかしくて吹き出してしまう。
「じゃあ行こうか。ほら、はぐれないでね」
そう言うと秋也さんは私の手をそっと握った。慌てて私も握り返す。
ただ手を握っているだけなのに心臓がドキドキする。手からこのドキドキが伝わりそうで、伝わってるんじゃないかと思って、またドキドキする。
顔が熱くなる。今日が夏の暑い日で良かった。
「あ、美遙ちゃん。最初何する?」
急に振り向かれて少し肩が跳ねる。
『えっと、りんご飴あるかな?』
「あると思うよ!多分こっち!」
手を引かれて行った先にはお目当ての屋台。
「すいませーん。りんご飴1つください」
「はいよ、300円になります」
「美味そー、ありがとうございます。はい、美遙ちゃん」
『あ、ありがとう!300円だよね、ちょっと待ってて』
「いいよいいよ、それは俺の奢り」
へへ、と鼻の下を擦る。
『でも』
「いいのいいの。黙って貰っときな」
『ありがとう』
秋也さんはどういたしまして、と言うとまた私の手を握った。りんご飴が、いつもよりも甘い気がした。