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オメガドライブ

「さあ、どうする? 黙って死ぬか? それとも俺と戦うか?」


 仮面の人物が短剣を両手に構えたまま俺達にそう言った。

 何なんだコイツは?


「お前の目的は何だ!?」


 俺はユユハの容態を気にしながら仮面の人物に聞いてみる。


「目的? ……俺の目的は、世界の終わりと言ったところか」


「世界の終わり? ……そんなのに俺達は何の関係もないだろう!?」


「関係があるからこうしているんだよ。シュウリア・ストレイヴ」


「なっ!? 何で俺の名前を……?」


「答えが知りたいか? ならば俺を倒して聞き出せばいい」


 この仮面の人物はどうしても俺達と戦いたいらしい。

 何故だ?

 世界の終わりって何だ?

 そもそも何で俺の名前を知っているんだ?

 俺が色々な考えを巡らせていると、オーリとシエルとクライヴが共に前に出ていく。


「おい、オーリ、スカシエル。テメーらの見立てじゃアイツの強さはどれくらいだ?」


「ハッキリ言わせて貰えば…… かなりヤバい相手だろうな」


「ええ。凄い使い手です」


「チッ、やっぱそうだよな」


 三人はボソボソっと話をして仮面の人物と対峙する。


「ほぅ。まずはお前達三人が相手をしてくれるのか?」


「ふざけんな! テメーなんざ俺一人で十分なんだよ」


「クライヴ!! 危険です!」


 オーリの言葉を聞かず、クライヴが二人をを押し退けて指をバキバキ鳴らす。

 確かにクライヴは強いけど、一人でどうにか出来る相手なのか?


「フッ。ナメられたものだ……。まぁいい、先手はくれてやる。掛かってこい」


「ナメてんのはどっちだ! ……オラァー!」


 仮面の人物へ走りだしたクライヴの体が僅かに光り、左手が機械のような物で覆われる。クライヴの武器だ。それを仮面の人物の顔を狙って叩き込む。


 ズドーン!!


 大きな爆発と爆風が広がり砂煙が舞い上がり二人の姿を隠す。

 どうなったんだ……?

 段々と砂煙が晴れていく。これで終わってくれれば良かったんだけど、俺の望みは叶わず砂煙の中には二人の人物が立っていた。

 クライヴは殴り付けたままの姿勢で、仮面の人物はクライヴの左手を両手の短剣で受け止めていた。


「ふむ。その武器の威力も凄いが、お前自身の力も相当なものだな」


 仮面の人物の服や仮面には傷が付いたが、本人には特にダメージを受けたようすがない。


「な、なん…… だと?」


 それにはクライヴも驚きを隠せない。


「だが…… 力だけではこの俺には勝てないぞ?」


「くっ、ナメんな!」


 クライヴが再び左手で仮面の人物を殴りに行く。しかし、今度はそれを受けとめずに少し左に移動してかわす仮面の人物。


「そう何度も殴らせると思うか?」


「思わねーよ!」


「むっ!?」


 左に避けた仮面の人物に、今度は右手で攻撃をしかけるクライヴ。その右手には三本の刃の付いた爪のような物がいつの間にか装着されていて、それを仮面の人物目掛けて突き出した。左手とは違いその動きは速く、仮面の人物は咄嗟に左手の短剣でそれを弾く。


「ほう、こんな物まで、左手のそれよりは大分軽そうだな」


「察しの通りだぜ! 仮面ヤロー!」


 クライヴは右手の爪のような物で仮面の人物へ素早い攻撃を繰り出して行く。左手の攻撃とは比べようない速さだ。その右手の攻撃の合間にも左手で仮面の人物を攻撃する。仮面の人物はクライヴの右手の攻撃は短剣で弾き、左手の攻撃は爆発を警戒して避けるという動作をする。


「持久力もある……。これは中々やりずらいな」


「オラオラオラオラァ!」


 両手で絶え間なく攻撃を繰り返すクライヴを俺は固唾を飲んで見守る。

 さすがクライヴだ。これなら勝てるかもしれない。

 だが、次の瞬間その攻防にあっけなく決着がついた。


「後はもっと経験を積む事だ。クライヴ・ダース」


「なにっ!?」


 自分の名前を呼ばれて一瞬クライヴの攻撃が止まる。その隙を見逃さなかった仮面の人物は、クライヴの腹部に強烈な回し蹴りを食らわせてクライヴを吹っ飛ばした。


「ぐはぁー!」


 その攻撃の威力は凄まじいようで、クライヴは数メートル地面の上を滑って行った。


「クライヴ!!」


「ぐぎぎ……。何て重い攻撃だよ……」


 クライヴの意識はあるようだが、結構なダメージを負ったようで起き上がる事が出来ない。


「ほう、意識はあるか…… さすがだな。……さて、次はどっちだ?」


 仮面の人物はオーリとシエルの方を向いた。


「シエル、あの人は一人でどうにか出来る相手じゃありません。二人で行きましょう」


「そうだな。……それでもどうにか出来るとも思えないがな。……はぁ!」


 シエルが凄い速さで仮面の人物へ向かって走り、その手前で高く跳ね上がる。


「次はお前か? 良い動きだが空中では逃げ場がないぞ? ……ん?」


「僕も戦います!」


 バン! バン! バン!


 シエルを地面で待ち構えていた仮面の人物に、二丁拳銃のオーリが援護射撃をする。だが、その弾を仮面の人物は短剣で弾いて行く。


「弾を弾いた!?」


「二人がかりか…… 面白い」


「その余裕がいつまで持つかな?」


 オーリが発砲しつつ、空中に居たシエルが仮面の人物へと斬りかかる。しかし仮面の人物は左手の短剣で弾を弾きながら、右手の短剣でシエルの攻撃をうけとめる。


「ちぃ!」


 シエルは体勢を変えて仮面の人物の後ろへ着地すると、そこから勢いをつけて再び仮面の人物へと斬りかかる。


「これならっ!」


 シエルに背を向けオーリの攻撃を弾いている仮面の人物にシエルが攻撃をすると、その攻撃が仮面の人物をすり抜けた。


「なに!?」


 驚くシエルの顔にオーリの銃弾がかすめる。少し血が流れたその顔を見たオーリは攻撃を止めた。


「僕の銃弾がすり抜けた?」


 オーリの攻撃が止んだのを見て、仮面の人物は一気にオーリとの間合いを詰める。


「速いっ!?」


 オーリはすかさず両手の拳銃で仮面の人物の頭を撃つが、それも仮面の人物をすり抜けていった。


「狙いは良い。だが当たらなければどうしようもないな」


 仮面の人物はそう言って短剣でオーリを攻撃する。そのスピードはかなりのものだったが、オーリはそれを拳銃で弾いて間合いを取った。


「フッ。ただ射撃が上手いだけでは無さそうだ」


「行きます!」


 オーリは両手の拳銃を仕舞うと今度は長いライフルに剣先の付いた銃剣を取り出した。そして、それを両手でクルクル回転させてから構えを取る。


「オーリ……。あんなのも持っていたのか」


「接近戦用…… といった所であろうな」


 俺の呟きに隣にいたフォウルがこたえる。

 フォウルも俺と同じくユユハの容態を心配そうに見ていた。ユユハは痺れ薬が効いているようで、相変わらず辛そうな表情をしていて動けそうにない。

 一方、オーリは銃剣で仮面の人物へ攻撃を仕掛ける。


「たぁっ!」


 仮面の人物へ長いリーチを生かしてひと突き。それを避けられると今度はかるく跳ねて間合いを詰め、銃剣を器用に回転させて流れるように攻撃をする。しかも、回転させている銃剣の銃口が仮面の人物に向いた瞬間に発砲もしている。


「射撃の腕に加えて銃剣を操るこの技術…… その若さで大したものだ」


 オーリの攻撃を避けては弾きながら仮面の人物がそう言う。すると、その後方からシエルも仮面の人物に攻撃を仕掛ける。


「はぁっ!」


 ガギィン!


 仮面の人物はシエルの剣を右手の短剣で受け止め、左手の短剣でオーリの攻撃を受け止めた。


「フッ。やはり二人を相手にするのは少々面倒だな」


 仮面の人物は左手に力を入れてオーリを押し返し、オーリが体勢を崩してる間にその手をシエルの剣へ叩き込むと、その衝撃でシエルの体が飛ばされた。


「くっ!」


 シエルが飛ばされたのを確認した仮面の人物は、凄い速さでオーリの前へと立ちはだかる。


「悪いがこれで終わらせてもらう。オーリ・ベルシュール」


「そうはいきません!」


 オーリが銃剣で仮面の人物を攻撃すると、仮面の人物はその攻撃を受け流して思わずオーリの体が前のめりになる。そしてその瞬間、仮面の人物がオーリの首の後ろへ手刀を叩き込んだ。


「あぐっ!」


 手刀を受けたオーリは、地面に崩れ落ちて動かなくなった。


「オーリ!」


「心配するな。気を失っているだけだ」


 俺の叫び声に仮面の人物がそうこたえ、シエルの方へと向き直った。そしてシエルに話しかける。


「一人になってしまったが…… まだ戦うか?」


「当然だ」


「フッ。良い答えだ」


 シエルがいつもと同じく腰の剣を持つように構えを取り、俺の目で見えない速さで腕を横に振ると、そこから衝撃波みたいなのが飛びだし仮面の人物へと飛んでいく。


「むっ!?」


 仮面の人物がその衝撃波を飛んで避けると、仮面の人物の後ろに立っている木がその衝撃波の高さの位置から切り落とされた。


「えぇー!?」


 俺は思わず声を上げる。

 あんな事も出来るなんて…… やっぱりシエルは凄い。


「ほう……。これは面白い」


 地面に着地した仮面の人物も、切り落とされた木を見ながらそんな事を口にする。


「まだまだ行かせてもらうぞ」


 シエルがそう言ってさっきと同じ構えを取ると、今度は腕を何度も横に振って衝撃波をいくつも飛ばし始める。

 仮面の人物がそれを短剣で受け止めようとしたが、その衝撃波は短剣も綺麗に切り落とした。


「なにっ!?」


 慌てて体を捻って、衝撃波を避ける仮面の人物。


「これは…… 避けるしかないか。ならば!」


 仮面の人物は衝撃波を避けながらシエルとの間合いを詰めて、シエルへ攻撃を仕掛ける。シエルは衝撃波を打つのを止めてその攻撃を防いだ。


「素晴らしい剣術だ。だが、間合いが無ければあれは打てまい。打つのに少し時間が要るみたいだしな」


「間合いが無ければ直接切り刻むだけだ」


 シエルはそう言って、もの凄い速さで何度も仮面の人物へ斬りかかる。クライヴにもオーリにも速い攻撃があったが、シエルの速さはそんな二人を遥かに凌ぐ速さだ。

 だが、一方の仮面の人物も短剣を使い凄い速さでその攻撃を弾いていて、金属のぶつかる音が鳴り響き続ける。


 ガギギギギギギギギギギン!


「フッ。やはり速さはお前が一番のようだな。シエル・エル・ラディック。ここまでやれる者はそうそう居ないぞ」


「チッ。攻撃を弾いてるくせによく言う」


「なに。たまたま俺も素早い動きが得意なだけだ」


 目にも止まらぬ攻防している二人に注意しながら、俺はコソコソとクライヴの元へ移動する。

 クライヴは意識はあるようだが、体は相変わらず動かないようだ。


「クライヴ、大丈夫か?」


「シュウリア……? なに…… してやがる……。テメーは…… 逃げた方が…… いい……」


「皆を置いて逃げれるかよ。ここに寝かせておくのは危険だから移動させるぞ。ちょっと引きずるから動くなよ?」


 俺はクライヴにそう言ってから、シャワー用にストックしていたバスタオルを取り出して床に敷く。そして、クライヴをその上に乗せて落ちないように引きずって教会の壁の近くまで運んだ。隣には既に運んでいたユユハも居る。


「チッ……。俺様と…… した事が…… 情けねぇ……」


「あまり喋らない方が良い。あとオーリも連れてくるから」


 相変わらず素早い攻防をしているシエルに心の中で声援を送り、オーリの元へと走って行く。うつ伏せのまま倒れて動かないオーリを仰向けにして脈を取ると、あの仮面の人物が言ったように気を失っているだけのようでホッとした。


「オーリ。よく頑張ったぞ!」


 俺はオーリの顔に付いた砂を払いのけて、その体を担ぎ上げる。クライヴとは違いオーリは小さく軽い為、そのまま教会の壁の近くまで運んで、そこにそっと寝かせる。そして再びシエルの方へ視線を向けた。


「どうした? 少しスピードが落ちてきたぞ? もう疲れて来たか?」


「チッ!」


 舌打ちをしたシエルが少し後退して、再び凄い速さで仮面の人物へ斬りかかる。


「何度やっても同じ事だ!」


 仮面の人物も同じように凄い速さでそれを弾こうとした瞬間、シエルの剣が一瞬消える。


「むっ!?」


 そして、弾こうとした短剣が空を切った瞬間に再びシエルの剣が現れて、仮面の人物の右肩を切り裂いた。


「ぐぉっ!?」


 思わず間合いを取る仮面の人物に、シエルは再び凄い速さで腕を横に振って衝撃波をいくつも繰り出す。


「くっ!」


 仮面の人物はいくつもの衝撃波をギリギリの所でかわしながら、シエルに目掛けて無数の短剣を投げつけた。


「なにっ!?」


 衝撃波を打つのを止め、後方にジャンプをして短剣を避けるシエル。しかし、今度はその目の前に仮面の人物が突然現れて、シエルの腹部へ掌低を放った。


「ぐはっ……!」


 そのままクライヴと同じように地面に落ちて、その上を滑っていくシエル。


「シエル!!」


 シエルは地面に倒れながら咳をし、その口元からは血が流れていた。そんなシエルの前に、右肩を押さえた仮面の人物が歩いて来た。


「俺が攻撃を受けるとは……。あの一瞬に剣を仕舞って再び出す速さ…… 素晴らしいな」


「ゲホッゲホッ…… くそっ!」


「だが、そうなっては暫く動けまい」


 仮面の人物はシエルの足を付かんで、ズルズル引きずりながら俺の方へと歩いてくる。

 シエルまでやられた以上あとは俺しか居ない……。

 でも、俺が何とか出来る相手じゃないぞ……。

 そんな事を考えている間も仮面の人物が徐々に近付いてくる。


「フォウル。お前はとりあえず俺の中に。見られるとマズイ」


「しかたないな……」


 俺の影に居たフォウルにそう伝える。それを聞いたフォウルは嫌々ながら光りの粒になって、俺のキャパシティへと入っていった。

 そして仮面の人物が俺の前まで歩いてくると、他の皆の近くでシエルを放す。


「逃げずに居たのは誉めてやろう。シュウリア・ストレイヴ」


「そんな事する訳がないだろう!」


「フッ。残ったのはお前だけだが…… 俺と戦う勇気はあるのか?」


「それは……」


 戦う事は出来る。

 しかし、勝つことが出来るかと聞かれるとそんなのは全くない。俺より遥かに強い三人がやられたんだから。

 ……くそ! 俺に強い力があれば……!

 そう思っていた時、アンナ教官の言葉が不意に思い起こされた。


『オメガと契約しただけでも強くなれるけど、本当の力はこのオメガドライブという力よ』


『簡単に言えばオメガの力をより強く使えるようになるって感じね。実際やってみないと分からないと思うけど、その力は凄いってものじゃないわ』


 オメガドライブ……。

 そうだ! オメガドライブだ!

 この最悪の状況を打開するにはオメガドライブしかない!


『フォウル! フォウル!』


俺は心の中でフォウルに語りかける。


『どうした突然?』


『オメガドライブだ!』


『なに?』


『オメガドライブだよ! 前に講義でアンナ教官が言っていただろ?』


『ああ。それは覚えているが。……無理だ』


『なんでだよ!?』


『アレは力の消耗が激しい。今のお前の力じゃ、あっという間に消耗して、最悪の場合死ぬかもしれぬぞ?』


『これしか望みが無い! やらないと確実に死ぬんだから! ユユハだってそうだ!?』


『ふぅ。しかたあるまいな……』


『よし。どうすれば良いんだ?』


『ただそれを望んで叫べ。そうすれば我が発動させてやる』


 その言葉を聞いた俺はうつ向いて仮面の人物の前へ乗り出す。


「戦う気になったか? シュウリア・ストレイヴ?」


「シュウリア…… テメーには無理だ…… 逃げろ……」


 クライヴとシエルが心配そうに俺を見ている。俺が死ぬとしてもコイツらだけは守らないと……。


「俺は皆と違って戦闘レベルも弱いし、ランキングも不動の最下位だ。だから普通にお前と戦っても勝てる気がしない……」


「ならば、戦わずに死ぬのを選ぶか?」


「……だけど、皆が出来ない事を俺はやる事ができる」


「なに?」


 俺は顔を上げ、仮面の人物を真っ直ぐ見つめて叫んだ。


「オメガドライブ!!」


 その瞬間、体の中にもの凄い力が溢れ出した。その力は体内だけに留まらず、体の外にもオーラのようになって現れている。


「これは……!?」


 仮面の人物が驚いている様子の声を出す。俺自身も、溢れて止まらない力に困惑していた。


『シュウリア! 時間が無いのを忘れるな!』


 フォウルの声に我に返った俺はとりあえず仮面の人物を一発殴ろうと地面を蹴る。すると一瞬で仮面の人物の前へ飛んだ為に、俺は慌ててその仮面を殴った。あまり力が入らなかったと思ったが、殴られた仮面の人物は凄い勢いで吹っ飛んでいく。


「ぐおぉぉぉぉ!?」


「う、嘘だろ~、俺!?」


 吹っ飛んでいった仮面の人物がゆっくり立ち上がる。殴られたせいか、その仮面の左下が割れていた。


「これが…… ドラゴンオメガの……」


 仮面の人物も危険を感じたのか、今までよりも更に速い動きで俺に近付いてくると両手の短剣で斬りつけて来た。

 俺も自分の短剣の柄を取り出し、赤い刃を伸ばしてその攻撃を防ぐ。

 たしかに速い動きだけど、今の俺には全く驚異を感じない。

 余裕で攻撃を弾きながら右足で仮面の人物を蹴り上げると、仮面の人物の体が宙を舞った。


「ぐぅ……!」


 仮面の人物は空中で体勢を整える。

 そしてそこから無数の短剣を俺に放って来た。それを見た俺は黙って体に力を入れる。すると体に光りを纏ったようになって、短剣が俺の体に刺さる事なく弾かれていく。


「なんだと!?」


「まだまだ行くぞ!」


 俺は両手を広げて前に突き出す。すると今度は体の表面に纏っていた光がその手の先に集まり、段々と大きくなっていく。そして両手に力を入れると、その光が仮面の人物に向かってレーザーのように発射された。


「くっ!」


 仮面の人物は横に跳んでそのレーザーを避ける。

 何故かこういう事が出来ると分かっている俺は、自分の放ったレーザーを見て理解した。これは以前フォウルと戦っていた時に、フォウルがやっていた攻撃だ。体の表面に纏っていた光もフォウルがやっていた。

 ……つまり、フォウルがやれる事を俺が出来るって事か?


『シュウリア! 急げ!』


 フォウルの声が頭に響く。もうあまり時間が無いようだ。俺はレーザーを止めて仮面の人物へ近付いて行く。仮面の人物も俺の方へ駆けてくる。


「いいぞ! もっとだ! もっとその力を見せてみろ!」


 仮面の人物の目にも止まらない両手の短剣の連撃が俺に繰り出される。俺はその全てを仮面の人物の手首を払って防ぎ、その体を思いっきり殴った。


「ぐふぁ!」


 殴られた仮面の人物は教会の壁に叩きつけられて地面に倒れる。


「はぁ、はぁ……。やはり…… これは…… キツいな……」


 仮面の人物は体を起こそうとするが、力が入らずに仰向けになって大の字になって倒れた。

 俺はその真上に跳んで、落下しながらトドメの一撃を放つ。


「これで…… 終わりだぁー!!」


 しかし、その攻撃が仮面の人物の腹部を直撃する前に、体の力が抜けてそのまま仮面の人物の横に倒れ落ちた。


「ぐ…… な、なんだ? フ、フォウル?」


『時間切れだシュウリア。限界を感じたお前の体が強制的に解除したんだろう』


「くそ……。あと少し…… だったの…… に」


 体という体が熱くて痛い。力が何も入らずに指すら動かせない状態だ。気を抜くとすぐにでも意識が切断されそうだ。

 鼻の下を何かが動いている感覚がある。

 鼻水…… いや、鼻血か?

 とりあえず、体に何が起きているか分からないけど、かなりヤバい感じがする。

 俺が必死で意識を保っていると、視界に仮面の人物がよろよろと現れた。


「酷い有り様だな…… シュウリア・ストレイヴ。こうなってはもう動けまい。だから約束通りお前達の命を貰う…… と言いたい所だが、お前達の仲間が来たようだ。……もっと強くなれ」


 そう言って仮面の人物は俺の視界から消えて行った。

 そのまま俺の瞼がゆっくり落ちていく。

 それが完全に閉じられる前に、アンナ教官の顔が見えた気がした……。

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