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5秒間ヒーロー

作者: 赤羽 翼



 第1話 ヒーロー登場



 東京都、銀座。そこに赤く燃える球体が着弾した。

 その衝撃波は凄まじく。大体半径五百メートルが吹き飛んだ。

 その中心に立っているのは、人型の青い生物。

 身長は三メートルほどで、身体からだにはびっしりと鱗が付いている。

(ここが地球か……青い惑星ほしとは名ばかりに、緑色とか茶色とかがあることでお馴染みの……。

 しかも最近では建物とか増やしまくって、銀色まで増やそうと企んでいやがる。……青い惑星ほしの名前、我らが海王星に寄越せ!!)

 海王星人は手を掲げると、巨大な火の玉を作成し、人が逃げ惑う地点へと放り投げた。

 遠くで大爆発が巻き起こった。さっきまで聞こえていた叫び声が少し小さくなった。

「フッハハハハハハ!!!!」

 ドンドン火の玉を作成して四方八方に放っていく。

 その度に群集の声が消えていく。

「青い惑星ほしの名……我らが貰ったぁ!!」


「何を貰ったって?」


「誰だ!?」

 海王星人は素早く後ろを振り向く。

 立っていたのは男。灰色のスーツを着込み、紺色のネクタイを付けている。

「貴様……何者だ?」

「こういう者だよ……」

 男はスーツの内ポケットから取り出した、白いカードを投げつけた。

 海王星人はそのカードを読み上げる。

「株式会社ヘンゼルグレーテル社員、歌川うたがわきよし……。

 誰も貴様の仕事など聞いていない!!!」

「しょうがないだろ! 今、身分を証明するような物が名刺しか無いんだから!!」

「お前の身分はどうでもいい! 俺が訊いているのはお前の正体だ。……わざわざ会社の宣伝に来た訳じゃないだろう」

「そうだな。……俺は、こういう者だよ!」

 歌川清は右腕を上に掲げる。すると手の甲に赤い紋章が浮かび上がった。


「変身!!!」


 左手を紋章に被せると、清の身体からだを赤い光が包み込む。

 これを見た海王星人は、

(……聞いたことがある! ……地球をたった独りで守っている……ヒーローがいると! まさか!)

 清を包んでいる光が弾け飛び、変貌した清の姿が露わになる。

 赤──清は一瞬で海王星人の手前に移動して、空の彼方にぶっ飛ばした。──いプロテクターを身に纏い……。

 プロテクターが消え、さっきまでのスーツ姿に戻ってしまった。


 姿を説明する間もなく、一瞬で決着が着いてしまったのだ。


「任務完了」



 彼はレッドファイブ。

 五秒しか変身できないが、その間だけ最強の力を手にすることができるヒーローだ。



 本日の戦闘時間(変身完了から倒すまで)〇・二秒。




◇◆◇◆◇◆◇




 第2話 お得意様ご乱心



「歌川っ! お前、お得意様怒らせたってどういうことだよ!! ボケェイ!!」

「いやぁ、部長。面目ない……」

 何故か笑顔を浮かべている。

「面目ないじゃねえよ!! 土下座して謝ってこいよ!!」

「でもそれ、三日前の話ですよ? まだ契約を切られてないということは、大丈夫なのでは?」

「とにかく謝ってこい! 馬鹿野郎がぁ!」

「へいへい」

「へいへいじゃねっーよ!」





 ヘンゼルグレーテルはお菓子会社だ。

 歌川清はそこに勤めている。

「面倒なことになっちまった」

 自販機の前のベンチに座り、缶コーヒーを啜る。

 お得意様を怒らせてしまった理由は、清がお得意様のヅラを吹き飛ばしてしまったことによる。

「あれくらいで怒るなよ……」

 溜息混じりに言う。

「歌川君どうしたの?」

 声を掛けて来たのはザ・OLの格好をした女性。

三澤みさわ。……お得意様を怒らせちまったから、その謝罪に行けと部長がうるさくってな」

「何したの?」

「躓いて転んだだけだ。そこに秘密があるとも知らずに」

 三澤は首を傾げ、

「どういうこと?」

「そのまんまの意味だよ」

 コーヒーを飲み干し、自販機の横に設置されているゴミ箱に捨てる。

「じゃあ土下座しにいってくるわ。……ほっとくと倍返しされるかもしれんし……」





 デパ地下でテキトーにお菓子を買い(自分会社のお菓子ではない)、町をトボトボと歩いていく。

 本来はタクシーで三十分ほど掛かるし、普通はそうするが、清は徒歩で向かう

(時間を掛けよう。……そうすれば仕事をサボれる)

 とても不真面目な理由である。

 清が沢山の人が行き交う道を歩いていた時、こんな話が耳に入ってきた。

「聞いたか? 怪人の話」

「えぇ。また出たの? 最近多いよね」

「そうだよな……。一週間前、銀座が襲われたばかりなのにな。三日前くらいから暴れている怪人は、かつらを被っている男ばかり襲ってるらしい……。全員鬘を取られてハゲ頭にされてると……」

「何それ? あんたは大丈夫? ヅラじゃないよね?」

「あ、あ、あ、当たり……前だろ?」

「…………」

 この会話を聞いて、清は思わず立ち止まってしまった。

(まさか……な)

 そう思いつつも、清はどこか駆け足になった。





 お得意様とその会社の専務は、会社の地下駐車場にいた。

「ということで、三日前のことをヘンゼルグレーテルの例の社員が謝罪したいそうです」

 専務がそのことを伝えると、お得意様は、

「そうか……丁度いいな」

 ニヤリと笑う。

「社長?」

 その直後、お得意様の身体からだが鋼のように変貌した。

「なっ……!」

 専務から思わず声が漏れる。

 お得意様の身体からだから鋼のブレードが生え、顔は竜のように変化している。

「しゃ、社長……あなたは……一体」

「お前、三日前笑ったよな?」

「え!?」

「俺のヅラが取れた時、笑ったよな」

「そ、それは……」

「フンッ!!」

 お得意様が腕を振るう。するとその風圧で専務の頭部のそれが剥がれた。


「はぁっ……!」


 専務は反射的に頭を抑える。だが時既に遅く、専務のそれは地面に落ちてしまっていた。

「自分もヅラのクセに俺を笑っただろう。あれから俺はイラついて、同じくヅラの男を襲った。ヅラを剥がして回ったのだ。

 いずれはフサフサの奴から髪を奪おうと考えているが、今はお前と元凶のあの男を殺す!」

「う、うわぁぁぁぁ!!」





 清はお得意様の会社にやってきていた。

「土下座とか……嫌だな」

 そんなことを呟くと、近くから大きな音が響き渡った。

 周囲を歩いていた人々も足を止めている。

「そのまさかだったか!!」





 駐車場から専務外に逃げた専務を追って、お得意様も外へ出てきた。

 その姿を見た人々が悲鳴を上げて逃げていく。

 しかし当の専務は腰がひけて、尻餅を着いている。

「死ね、専務!!」

 お得意様は剣と化した腕を振り上げる。

「ひぃぃぃ!!」


「待て! お得意様!!」


 専務の処刑はその声に遮られた。

「貴様は!」

 元凶とされている清が右側に立っていた。

「……何故俺がお得意様だと分かった」

「まぁ、予想はしてたしな……。それに、」

 清はお得意様の頭部を指差し、

「その頭を見れば一目瞭然だろ?」

「なっ!」

 怪人としての正体を表し、全身が鋼になったお得意様。しかしその頭は丸みを帯びており、鈍い光沢を放っている。

「クッ……!」

 お得意様は悔しそうに声を上げる。

「俺を笑い者にした貴様には死んで貰う!」

 お得意様は宣言すると、清の元に駆け出した。

「……最初に言っておく。俺はか~な~り~強い!」

 清の右手の甲に赤い紋章が発現し、そこに左手を被せる。


「変身!!!」


 赤い光に包まれて、そして光は弾ける。現れるのは、赤いプロテクターを纏い、ラ──清は突っ込んで来るお得意様に、逆に突っ込んでそのまま宇宙の果てまで蹴り飛ばした。──イオンの頭部を模したカッコイいマスクを被っている……。

 地の文すらも追いつかないスピードで決着が着いてしまった。

 清の変身が解け、元に戻る。

 そして専務は口をポカンと開け、唖然とした表情をしていた。

 清はそんな専務に近づいて、デパ地下で買った紙袋に入ったお菓子を投げ渡すと、


「次の社長によろしく!」



 本日の戦闘時間〇・〇八秒。




◇◆◇◆◇◆◇




 第3話 ヒーローの心構え




「変身!!!」


 初っ端からクライマックス!!


 清は公園に出没していた怪人をぶっ飛ばした後、自販機で缶コーヒーを買った。

 ベンチに座り、コーヒーを啜る。

 今日は日曜日。会社は休みだ。

 清は空を見上げ、午前十時の陽を浴びる。

 そして徐に右手を掲げ、

(俺がレッドファイブの力を手に入れて五年か……)

 清は五年前、二十一歳の時に『色々』あってこの力を手にした。

 もう一言じゃ言い表せないくらいに色々あったのだ。

(あれから俺は五秒間だけ、ヒーローとして活躍できる力を手にした訳だが……)

 清は五十分に一回しか変身できない。そして変身しても五秒しか保たない。

(怪人の出現は絶えない……。それは多分、決着が速すぎて、そして変身時間が短すぎてヒーローレッドファイブという存在が中々認知されないからだろう……)

 溜息が漏れる。すると、


「百五十二回……ひゃ、く五十三回……」


 一人の高校生くらいの少年が腕立て伏せを行っているのが、目に飛び込んできた。

「なにやってんだか……」

 呟きが漏れる。

「百……五、じゅ……う……よ…ん……」

 少年は地面に倒れてしまった。

「おい! 大丈夫か!?」





「いやーすいません」

 数分後、少年は目を覚ました。今は清が自販機で買ったスポーツドリンクを飲んでいる。

「お前、名前は?」

「石田誠二です」

「俺は歌川清だ……。で、何で鍛えてたんだ?」

 誠二は言葉を渋りつつ、

「俺、ヒーローになりたいんです。その為に筋トレを……。まぁ、これを言うと笑われますけど……」

 自虐的に笑った。また馬鹿にされるだろうと。そう思っているのだ。

 しかし、

「なるほど。ヒーローね」

「……馬鹿にしないんですか?」

「別にしねえよ。男なら一度は憧れるモンさ、ヒーローってのは」

「……ありがとうございます」

「でも何でヒーローに?」

 質問を受けた誠二はベンチから立ち上がった。

「付いてきて貰っていいですか?」

 清はそれに頷いた。





 連れてこられたのは大きな屋敷だった。

「ここは?」

「俺の幼なじみの家です」

「お前の幼なじみ何者だよ。そしてこの家と知り合いってお前も何者だよ」

「この家は日本最大の財閥、大河内おおこうち財閥です。……俺の親父がこの家の顧問弁護士なんです」

「すげえな……。ん?」

 清の視線の先に真っ黒なリムジンが止まった。

「あ!」

 誠二は変な声を上げると、清の手を引いて物影に隠れた。

「何だよ……」

 清がリムジンに目を移す。

 そこから真っ白なワンピースを着た、長い金色の髪を持つ少女が降りていた。

「あれがお前の幼なじみにして、初恋相手か……」

「好きなのは認めますけど、初恋ではないです。初恋は幼稚園の先生でした……」

「どうでもいい情報だ。……でも取り敢えず、彼女を守る為にヒーローになりたい訳か?」

「そうです……」

 誠二の表情が暗くなる。

「十年前でした……由美子は……。あっ由美子は彼女です。

 由美子は誘拐されたんです。誘拐される時、俺は近くにいたのに、助けられませんでした。犯人は捕まりましたが、由美子は心に傷を負ってしまいました」

「なるほど……」

「そして三年前です。俺が思い悩んでいた時に町に怪人が現れました。立ち向かおうとしましたが、怖くて動けなくて……でもそんな時! 

 あの人が現れたんです。赤い格好をした人がその怪人を一瞬で倒したんです! それ以来、僕はその人のことを目標にして特訓を重ねてるんです」

「……なるほどね」

 清は誠二の肩をポンと叩き、

「まぁ、頑張れ。応援してるぞ」

「ありがとうございます!」





 清と別れた誠二はランニングをしていた。

 大体、一キロを走った地点で大河内家の目の前にやって来た。

(絶対になってみせる! ヒーローに!)

 決意を固めて走る。すると、


        バゴウッ!!!


 大河内家から轟音が響き渡った。

「何だ!?」

 誠二は一目散に音のした方向へ向かう。

 大河内家の壁が砕け、近くにボディガードと思われる人物が倒れていた。

「どうしました!?」

「怪人が……由美子様を……連れ去っていった」

「何だって!?」

 ボディガードはそれを最後に気を失ってしまった。

「くっ……!」


        バゴンッ!!!


 また近くから轟音が聞こえた。

(いくしか……ない!)





「ゲーエッエッエッエー!!」

「放しなさい!」

「いやなこったぁ!」

 由美子を担ぎ上げているのは、大きな猿のような怪人。

 腕の長さだけで、人間の身長と同じくらいある。

「ヒャッハー!!」

 猿は口かは火球を放ち、町を破壊していく。

 そして逃げ惑う人々。

「町を壊すのは止めなさい!!」

「いやなこった。……チミは可愛いから生かしてあげるけど、他の奴らを生かしてはおかないよぉ」


「そこまでだ! 怪人!!」


「あぁん?」

 猿は後ろを振り向いた。立っていたのは、

「誠二!!」

 由美子が嬉しそうな声を上げる。

「待ってろ由美子! 絶対に助ける!!」

「無理だよ」

 猿が嘲笑う。

「うおおおお!!!」

「フンッ!」

「グオッ!」

 突撃した誠二だったが、あっけなく殴り飛ばされてしまった。

「誠二……!」

 由美子は悲痛な声を上げる。

「クッ……ソ……」

 誠二はフラフラとした足取りで立ち上がる。

「頑張るねぇ……」

 猿は由美子を無造作に放り投げた。

「ガッ……!」

「チミは足の骨が折れてるから、逃げられない。そこで彼が壊れるのを眺めているといい」

「クッ……! ウオオオ!!」

 誠二は猿に突っ込んでいく。

「無駄だよ」

 猿は長い尻尾で誠二を空中に打ち上げると、更に尻尾で誠二を叩きつけた。

 誠二は勢い良く民家に突っ込んだ。


「誠二ぃぃぃぃ!!!」


 民家の瓦礫の中でその叫び声を聞いた。

(あんな思いはもう二度とゴメンだ……。二度も助けられないなんてのは!)

「おっ?」

 フラフラと千鳥足で猿の元へ向かっていく。

「ニヒッ!」

 猿は足元に落ちていた石ころを投げつけていく。

「誠二ぃぃぃぃ!!! もう逃げて!!」

「死ねぇ!!」

 猿は留めと言わんばかりに、大きな瓦礫を投げようと振りかぶる。

(ここまでか……結局俺はヒーローにはなれなかったな……)

「終わりだぜぇ!!」


「いや、お前はもうヒーローだぜ。誠二」


 突然の声に瓦礫がすっぽ抜け、誠二の頭上を通ってどこかへ消えていった。

「誰だ?」

「猿に名乗る名はない」

「なに!?」

 その男。歌川清はボロボロの誠二の元へ歩いていく。

「う、歌川さん……」

「大丈夫か?」

「俺がヒーローってどういう?」

「お前は諦めなかった。だからヒーローだ」

「でも、俺はあの猿を倒せていない」

「倒せなくたっていいじゃねえか。少なくともお前は、俺が来るまで幼なじみを守った。守る為に戦かった。

 それだけで、お前は彼女のヒーローだろ? 世界を守るなんて大それたことは……俺に任しとけ!」


 清の右手の甲に赤い紋章が浮かび上がる。


「歌川さん……」


 清は猿の方を向き、左手を甲に被せる。


「汗臭いと言われようが、ボロボロになって地面を這いつくばろうが……何度も立ち上がって勝利を手にしろ!!」


 赤い光が清を包み込む。


「派手にいくぜ! 変身!!!」


「な、なんだ!?」

 光が弾け飛び、ヒーローとしての姿が現れる。

 レッ──清は一足で猿に跳びかかると、その勢いのまま蹴り飛ばし、猿は遥か彼方へ吹き飛んでいった。──ドファイブになると、清は通常の五兆倍の身体能力を発揮できるようになる……。


 ……速い!!


「この世界に敗北するヒーローは数多くいる。けど諦めるヒーローは一人もいない。

 お前もボロボロになっても諦めなかった。お前は紛れもなくヒーローだよ」

 清はニッと笑った。

 それに誠二は……。










(説得力ねぇー………)



 本日の戦闘時間〇・五秒。




◇◆◇◆◇◆◇




 第4話 怪獣進撃!



 私とミオウの出会いは隕石に付着していた生物の遺伝子だった。

『こ、これは……!』

 あの時の衝撃は今でも忘れない。

 私はその遺伝子を解析し、クローンを造った。

 そのクローンは小さく可愛らしい生き物だった。

 黒色と赤色のゴテゴテした二足歩行の龍のような見た目で、胸の中央には青色の石がはめ込まれている。

 私はこの生物にミオウと名付けた。理由は特にない。

 最初は生物学者としての興味しか沸かなかったが、ミオウの世話をしていると、私のミオウへの関心はペットへのそれへと変わった。

 それから私は極秘にミオウを飼育し始めた。

 エサを与え、お風呂に入れ、ボールで遊び、語りかけたりもした。

 そんなこともあってか、ミオウはドンドン大きくなっていった。

 手のひらサイズだったのが、いつの間にか人間大に……。

 同僚にバレて、『異生物対策協会』に通報されてしまった。

 そして私とミオウの逃亡劇が始まった。

 山を越え、谷を越え、……谷は越えてないな。

 とにかく色々と逃げまくった。そして……



「長い!!」



 生物学者の中年男性、神崎の話を清は途中で切り捨てた。

「君が話せと言ったから話たんだが」

「グル! グル!」

「ほら! ミオウもそう言っている」

「知らねえよ……」

 清はこめかみ部分を抑えている。

 今、二人と一匹はビルが立ち並ぶ、街道の路地裏にいる。

 清は怪人や怪獣を撃滅する役目を持つ『異生物対策協会』から逃亡していた神崎とミオウに出会い、なりゆきで一緒に逃亡しているのだ。

「にしてもあんた厄介な生物を造ったもんだな」

「うるさい。……ミオウがこのまま成長すれば、巨大怪獣に対抗できるようになるかもしれんだろ」

「グゴォ!!」

「ほらミオウもそう言っている」

「知らねえって」

 神崎の今の話は完璧にこじつけだ。『異生物対策協会』に狙われた時のことを考えて、用意しておいた言い訳だ。

 まぁ、追われているということは意味なかったということだろう。

「でもどうするんだ? もうこの辺り『異生物対策協会』に捜査されてると思うぜ?」

「分かっている」

 さっきから周囲が慌ただしい。ここも時間の問題だろう。

 神崎はミオウを見つめる。

 人間大の大きさの赤くて黒くて格好いいドラゴン。

「絶対に逃げ切ってみせる。……ミオウに翼があればいいのになぁ……」

「グルル……」

「ああ。済まない。責めてる訳じゃない」

「何だお前ら……」

 少し微笑ましく、清からもつい笑みがこぼれる。

 その時だった。


「見つけたぞぉ!!」


 右側から男の声が飛んできた。

 その後、何十人もの足音が聞こえ、すぐに周りを包囲されてしまった。

「今すぐその怪獣から離れろ!!」

「待ってくれ! ミオウは我々に害のない生物だ、殺さないでくれ!」

「分からないだろ! 宇宙生物だぞ、ひょっとしたら宇宙人の手先の可能性もある。

 その生物の影響で地球が滅んだら、あんたは責任が取れるのか!?」

「そ、それは……」

 そして清は溜息を吐き、

「待ってくれ! 取り敢えず、俺は関係ないから離れてもいいか?」

「おい!」

 神崎は清を睨みつけた。

「いや、だって関係ねえじゃん。俺……」

「いいから! 貴様ら二人共さっさと離れろ!」

 隊員は空に向けて威嚇射撃を行う。しかしそれにミオウは驚いたのか……。


「グギャオォォー!!」


 両手を広げ、咆哮を行った。

「うわっ!」

 それに新人隊員が驚いて引き金を引いてしまった……。

 鳴り響く銃声。

 ミオウに一直線に進む弾丸。

 そしてその盾になるように前に出る神崎。

 銃弾は神崎の左肩にヒットした。


「ぐおっ……!」


 神崎は思わずその場に倒れて込んでしまった。

「なっ! おい神崎さん!」

 清は思わずしゃがみ込む。

 神崎の肩からは大量の鮮血が流れ出ている。

「おい! 誰かきゅうきゅ……。ん?」

 隊員たちは唖然としていた。ミオウが赤黒く禍々しい光を放っていたからだ。

(まさか……神崎さんが傷つけられたことで、力が覚醒……?)

 直後に夜空から赤黒い雷がミオウに炸裂した。

「ぜ、全員退避ぃ!」

 隊員たちが一斉にその場を離れる。

「クソっ!」

 清は神崎を腕を肩にかけると、走り出す。





 清ができる限り遠くに離れると、大きな咆哮が響き渡った。

 後ろを振り向くと、双翼を持つドラゴンがビルを破壊していた。

「マジか……?」

 そのドラゴン……ミオウは口から赤黒い光線を放ち、周囲の建物を破壊していく。

 更に赤黒い雷が落ち、建物や道路を打ち砕く。

「ヤバいだろ」

 辺りは逃げ惑う人々で溢れかえっている。

 戦闘機が到着し、ミオウにミサイルを放つ。

 それらは片翼をぶつかり、大爆発を巻き起こした。しかしミオウにはノーダメージ。

 逆に口から放つ破壊光線に迎撃されてしまった。

「くっ……ミ、ミオウ……」

 神崎が肩を抑えながら、ミオウの元へ歩いていく。

「おい! 危ねえぞ!」

 清がそれを慌てて止める。

「ミオウ! 私なら大丈夫だ! だから今すぐ止めてくれえええ!!」

 その叫びは届かない。ミオウは街全体に破壊の限りを尽くしている。

「ど、どうすれば……」

「覚悟を決めろ。……親として、友としての」

 頭を抱える神崎に清は冷たく言い放つ。

「クッ……!」

 神崎の脳内に様々な思い出が溢れていく。そして……。

「……胸にある青い石。……おそらくそこが弱点だ。ボールで遊んでいる時、そこにボールが当たっただけで気を失った。……このことを『異生物対策協会』に……伝えてくれ」

 神崎の目から涙がこぼれ落ちていく。

 清はそんな彼の右肩に優しく手を置いた。


「伝わったぜ……あんたの覚悟!!」


 清は街を蹂躙していくミオウ向けて走り出した。

 そして立ち止まり、右手を顔の高さまで動かす。

 赤い紋章が発現し、そこに左手を被せる。


「メビウース!! 変身!!!」


 赤い光に包まれ、そして弾ける。

 レッド──清の右手から赤色の火球が放たれて、ミオウの首に直撃、すると同時に爆発して首を吹き飛ばした。──ファイブはファイブエネルギーと呼ばれるエネルギーによって、身体能力を強化しており、そのエネルギーは炎にも変換することができるのだ。 


 ……説明が全く追いついていなかった。


 首が消し飛んだミオウはそのまま倒れてしまった。

 それに神崎は涙を飲み……。










(弱点関係ねえじゃん……)



 本日の戦闘時間〇・六秒。 




◇◆◇◆◇◆◇




 第5話 海王星の逆襲



 大阪にある日本一高い高層ビルに赤く燃える球体が着弾した。

 ビルは一瞬にして消え去り、周囲に強大な衝撃波を巻き起こした。

 周りの建物がドミノのように倒れていく。

 ざっと半径一キロメールは消し飛んだ。

 中央に立っているのは、青い人型の生物。

 王冠をかぶり、白いモフモフが付いた赤いマントを羽織っている。身体からだには青色の鱗がびっしりとついている。身長は約二メートル。

「俺の部下がこの世界を侵略しようとして行方不明になったのか……。この貧弱な惑星ほしの住民に負けたとは思えんが……」

 海王星の王。海王は右手を上に掲げる。

 すると無数の火の玉が辺りに降り注いだ。

 遠くから聞こえていた群集の焦りの声は一瞬にして消えた。

「やはり……何かの間違いなのでは……」


「何が間違いって?」


「誰だ!?」

 海王は素早く後ろを振り向く。

 立っていたのは男。灰色のスーツを着込み、紺色のネクタイをつけている。

「まさか出張中に怪人に出くわすとはな……。しかも二週間前の奴の仲間か」

「なに?」

「え? お前、あいつの仲間じゃねえの?」

「それを倒したのはお前か?」

「そうだけど……」

「貴様……何者だ?」

「こういう者だよ……」

 男はスーツの内ポケットから取り出した、白いカードを投げつけた。

 海王はそのカードを読み上げる。

「株式会社ヘンゼルグレーテル社員、歌川清……。

 誰も貴様の仕事など訊いていない!!!」

「ま、そうだろうな……」

 清は右手を上に掲げ、甲に紋章を発現させる。


「俺はこういう者だ!」


 左手を被せ、


「超力! 変身!!!」


 赤い光が清を包み、そして弾ける。

 もう──清は一瞬で海王の手前に移動して右拳を突き出した。

 しかし海王は身体からだを左に反らして、

(避けただと!?)

 ──な──清は思わず目を見開いた。

 そして更に海王は清を驚かす。……なんと海王は自身も右拳を突き出して反撃に出たのだ。

 が、清は海王の脇腹に渾身の左ボディブローを叩き込んだ。

 海王は右に向かって勢い良く吹き飛び、そのまま重力を無視して宇宙に消えていった。──にも説明するつもりはない。


 ……全然間に合わなかった。 by 神


 変身が解け、清は右を見た。

 海王が吹き飛んでいった空間は、地面が抉れ、瓦礫が消し飛んでいる。

(強敵だった……。避けるだけならまだしも、反撃に転じてくるなんて。……ヤバかったな)

 強敵との戦闘を胸に清は歩き出した。

 世界に悪が蔓延る限り、彼の一瞬の戦闘は続いていく。



 本日の戦闘時間〇・八秒。

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― 新着の感想 ―
[良い点] す――センスが抜群にいいと思います。もとのネタを考えるのも楽しいです。なによりウルトラマン好きとしましては、赤い紋章あたりでおや? ときて、メビウース!! のところでおお! となりました(…
[一言] お――個人的にお得意様の話がツボでした。あと、ミオウの扱いひどすぎじゃありませんか(笑)? ――もしろかったです。 本日の一言0.2秒
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