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鏡に映る自分は

ノートに挟んでいたレポートを取り出す。それを携えて玄関へと向かう。

 私の背中から退いた後、ベッドの上で大人しく友人との通話の様子をじっと眺めていた少女が、長らくぶりに声を発した。

「外に出るつもり?」

「外と言っても、屋根がある所から出ませんよ」

 事実そのつもりであった。このアパートの集合ポストは雨に濡れずに郵便物を取り出せる程度の屋根の下に設置されていた。それは一階まで降りる必要はあったが、階段にも屋根はある為、日光に触れる危険性はないだろう。

「直射日光に当たらなければ、燃えたりしないんですよね」

 少女の声掛けに、少しばかり不安になり、確認を取る。

「そうだけど……」

 はっきりしない態度のままではあるが、取り敢えずの肯定を示した。

「実際に経験してみた方が良いかもしれない、それはそうと……」

 面倒くさそうに話を続ける。

「流石に、その格好で外に出るのはどうかと思う。日に当たらなくても、人に遭ったら怖がられる、と思う」

 既に狭い部屋から玄関に行き着いていた私は、そこ在る鏡に移る自分をみて納得した。首筋に血痕は残っているし、そこから服にまで血液が付着している。さらに言えば寝不足のせいか目の下には隈がくっきりと出来、大変人相の悪い青年の姿が鏡には映っていたのだ。

 私は靴を履こうと伸ばした足を方向転換し、洗面所兼風呂場に運んだ。

掛けてあるタオルを引っ掴んで、蛇口から出した水で濡らした。そしてキツク絞って首を中心に身体に付いた血液をふき取った。乾いてこびり付いていたものの、湿ったタオルによって、それらは全て取り除かれた。

 ついでに歯も磨いてしまおうと、洗面台に立てかけている歯ブラシを手に取った。チューブから薬品を捻り出し、歯を露わにした。

 昨日までは無かった、二本の発達した犬歯に目が留まる。自分に起こった小さな変化は他人が見たよりも大きく見えるが、この牙とも呼ぶべき形状に発達した犬歯はそれを引いても目立つものだった。

 歯を磨き終え、血まみれのシャツを脱ぐと脱衣所の入り口に置かれた小さめの洗濯機に放り込んだ。きっと染みになって痕は残るだろうが、寝間着として利用するものである。あまり気にはならなかった。

 着替えの為に部屋に戻ると、ベッドの上で暇そうに部屋を見回していた少女と目が合った。彼女は私の格好を見るなり、気恥ずかしそうに俯いた。

「……君は露出狂の気でもあるの?」

 いきなり不名誉なことを言われた。

「着替えた方が良いと言ったのは貴方でしょうが」

 そう言って、自分の体を拭いたものとは別の濡れタオルを、少女に向かって放り投げる。

 彼女はそれを難なく受け取ると不思議そうな顔をした。

「これで、どうしろと?」

「口の周り拭いてください、適当な物で拭われても迷惑なので」

 あらかた自分の服の袖で拭いていたのだろう、彼女の服の右袖には黒ずんだ染みが残っているが、それでも尚、彼女の口元は私のものと思われる血が薄く残っていた。

 迷惑、という言葉に含まれた棘を感じ取ったのか、彼女はムッとした表所に変わった。

「君は、自分の立場が理解できてない。吸血鬼の慣習の下では、私が親で君は子供。それも生まれ立ての赤ん坊のような者。赤ん坊は親の加護が無ければ死んでしまうということを忘れるべきじゃない」

 威圧感を含んだ、視線で私を睨みつける。しかし直ぐに、

「少し大人気なかった。それよりも早く服を着て」

 と目を逸らした。雰囲気を一変させていた少女に臆してして私は、すぐさま着替えを済ませた。

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