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グダグダシリーズ

ラ・テン

作者: 七草 折紙

気軽にご賞味ください。

 ある日突然、俺は光に包まれた。

 狭い室内から一転、どこかの歴史的建築物のような場所に立っていた。


「どこだ、ここは?」


 突然の展開に脳が追いつかない。

 いや、実は既に分かっている。一瞬にして景色が変わったのだ。

 アレしか考えられない――異世界召喚だ。


 候補としては勇者召喚か、はたまた魔王様降臨か、この際どちらでも良い。

 俺を必要としている場所で、理不尽な環境でなければ、特に問題視しない。

 俺は懐の深い男なのだ。


 足元には幾何学模様の魔法陣らしきものが書かれており、その魔法陣の外周は煙で何も見えない。

 どうなっているのかな?


 黙って煙が無くなるのを待っていると、何らかのやり取りが聞こえてきた。遠くでは複数のざわめきもしている。


「成功したようですね。失礼のないように」

「ハッ、畏まりました」

「皆のもの、静かに! 勇者様をお迎えするのです」


 凛とした細く、それでいて力強い声が響いてきた。この場のリーダー、王族か何かかな?

 はっきりと聞き取れるということは、言語変換みたいなことが行われているのだろう。

 ドキドキしながら、視界が開けるのを待つ。


 重大な何かを忘れている気がするが、気のせいだろう。

 紳士らしくキリッとした面持ちを顔に浮かべ、背筋を伸ばして司令官の如くデンと待ち構える。

 予想では煙が晴れると同時に歓声が上がり、さぞかし盛大な歓迎がなされることだ……ろ、う?


 そこで俺の血の気が引いていく。

 召喚の余波と思われる煙が消えると、如何にも異世界人といった衣装を身に纏った人々がいた。

 だがここで俺は自分の状況を思い出してしまった。


 目の前にはお約束の銀髪碧眼美少女――儀式の責任者らしき推定巫女さんがいた。

 ただでさえ大きな瞳が、更に大きく開かれ、口元が無防備に開け放たれている。ポカンという表現が正しいだろう。

 可愛ええぞぉぉおおおおおお……お、お? ……コホンッ、失敬。


 さらに巫女さんの周りにはキラキラした連中もいた。

 護衛の騎士達なのだろうか、仰々しい鎧を全身に纏い、腰には大層な剣がぶら下がっていた。是非とも抜いて欲しくはない。

 その騎士達でさえも唖然としている。


 それもそうだろう、俺でもそう思う。何故か――そう、俺は気付いてしまったのだ。


 俺がとんでもないイケメンだったとか、誰かが召喚に巻き込まれたとか、そういうオチではない。今魔法陣の上に立っているのは正真正銘、俺一人だ。

 顔の造りも普通と自負している。自慢なのはこの鍛え上げられた肉体と身長190cmのこの巨体。引き締まった筋肉が醸し出す八頭身の肉体美には、最大の誇りを持っている。

 ちなみに、いつも鏡の前で見とれていたのは、俺だけの秘密である。ナルシストとは言われたくない。


 しかし、巫女さん達の視線は俺のワンダフルボディ――特に胸板や上腕二頭筋……ではなく、見事に割れた腹筋……でもなく、その下方に向いている。

 そう、足の付け根辺り、男のシンボルが鎮座している座標だ。


 ともあれ、今の状況が普通ではないことが、お分かりだろうか。

 最初の挨拶は目と目でするのがマナーというものだろう。少なくとも俺はそう教えられた。それを目と股間で無言のキャッチボール。明らかに異常事態である。

 それがこの世界の礼儀であったなら、俺は即行で逃亡を開始しよう。永遠に分かり合うことなどできないからだ。

 だがそうでないことは、何よりも俺が理解している。その理由は……


 おい、巫女! 貴様、凝視しすぎだぞ!


 クソッ、エロ巫女めが! どストライクだぞ! ……いかん、いかん、話が逸れたな、戻そう。


 いきなり異世界へ召喚されて、怒り狂う輩もいるだろう。もしかしたら二度と故郷には帰れないのかもしれない。

 だが俺はその類のクレーマーではない。


 現実世界に特に不満はあった訳ではないが、異世界への渇望もあった。

 小さい頃からファンタジー小説が大好きで、その手の小説は読破している。

 呼んでくれても一向に構わない。


 ――だがこれはないだろう。


 タイミングが悪かった。

 俺は数分前まで銭湯で、ゆっくりリフレッシュタイムを満喫していたのだ。


 そして至福の時、風呂上がりの一杯――待望のフルーツ牛乳を豪快に飲んでいた。

 銭湯の達人として、見本の如く、お決まりのポーズでだ。

 腰に手を当て足を開き、顔を斜め四十五度に上げて流し込む。それは日本の伝統スタイルである。

 さらに言えば、素っ裸――開放感溢れる状態で飲むのがポイントなのだ。


 ここまで言えばもうお分かりだろう。そう――


 今現在、俺は公衆の面前で大事なムスコを曝け出しているのだ。つまりは全裸。


 飲み終えようとした矢先に足元が光り、気付けば露出プレイを強要されるハメに。あまりの羞恥心に涙がホロリとこぼれ落ちた。

 手元には空の牛乳瓶が一本、生身の肉体以外で唯一持ってきた荷物である。これが只一つの故郷の思い出と考えると、悲しくなってくる。


 男は裸一貫、と言ってもこれはないだろう。

 せめて着替えた後にしてくれ、と物申す。


 俺は裸が当たり前の原始人出身ではない。オシャレを楽しむ文明人の一員である。

 その俺がこんな辱めを受けている。理不尽このうえない。


 改めて周りを見渡す。

 ここは人がわんさか入れる程の広い室内――恐らく召喚の間と思われる。

 その中心部に立つ俺に、三百六十度全方位から、興味深げな視線が降り注ぐ。猫耳、エルフ、ドワーフ、様々な種族に見られており、もちろん女性らしき姿も多々確認できる。

 世界中の国の貴賓が集まっている感じだ。


 うむ、ワールドクラスの露出プレイか。


 皆の関心を一心に受けているのは一点、俺のスーパーマグナムのみ。

 幾ら自信があろうとも、人前でムスコを紹介する趣味などない。刺激を受けての直立状態ではないのが、不幸中の幸いだろう。最悪の事態は避けられた。


 まあ、そんな状況なのだが、いい加減この固まった空気はヤメて欲しい。


 反動でムスコが「こんにちは」を披露しそうになるが、この状況でそれをやってしまうと、後々の印象は最悪になってしまう。

 新たな性癖に目覚めそうにもなるが、変態勇者の称号など獲得したくはないので、ここはぐっと抑えることに集中する。

 しかし人間とは不思議なもので、抑えようとすればするほど逆のベクトルに力が働こうとするものだ。


 巨大な山が動こうとしている。


 俺が不名誉な称号を得る時――タイムリミットが近づいていた。

 何でもいいから早く喋れ! とっとと先へ進めろ!


 俺の無言の抗議に反応したのか、真っ赤な顔で見とれていた巫女が漸く我に返った。口をパクパクさせて、何とか言葉を紡ごうと努力している。


「わぉお……立派なモノをお持ちで(ごにょごにょ)……」


 これも勇者補正というやつなのだろうか。小声で言った筈の巫女のふざけた発言が聞こえてきた。

 紳士ならば聞こえないふりをするべきだろうが、俺の我慢も限界だ。


 最初に出てくる言葉がそれか!


 今の状況を顧みない巫女に、俺の視線もさらにキツくなる。

 目に殺気に近い圧力を乗せてガン見返し、エロ巫女の正気を取り戻させる。


「ハッ! コホンッ、……え~っ、その……よ、ようこそいらっしゃいました、勇者様」


 ぎこちない巫女の挨拶を皮切りに、この場の皆が一斉に敬礼のような仕草をする。

 皆、恍惚とした中に困惑を浮かべ、引き攣ったような表情をしていた。


 召喚されてから時間にして約三分、公開時間で約一分、漸く第一歩を踏み出した。


 テメェら遅いんだよ!


 ちなみに股間を隠すような真似はしていない。

 隠せばマヌケな絵面を晒すだけであって、こういう場合は堂々としているに限る。

 一旦見られたのだ、もはや開き直った。見たければとことん見るがいい。逃げも隠れもしない。

 ただ反応するとマズイので、女性は目視しないように心がけている。


 ともあれ、この場を一刻も早く去りたい。


 俺の切実な思いが通じたのか、巫女がやっと冷静に戻った。

 今更取り繕っても貴様の本性は露見しているのだが、そこは敢えて触れないでおく。話が長引くからだ。

 巫女が凛々しく背筋を伸ばして、言葉を続ける。


「ここはヌーディリア王国、貴方様は異世界より召喚されたのです」


 思っていた通りの展開である。

 ここは王道的な言葉を返すのが妥当であろう。


「そうか。俺は何故呼ばれたんだ?」

「はい、異世界の勇者様にお願いするのは心苦しいのですが、他に方法がないのです。この世界に現れた悪逆非道な魔王を倒して頂きたいのです」


 うん、テンプレ展開だな。勇者と魔王か、俺を選ぶとは見る目だけはあるな。


 俺にはラテン系の血が混じっている。

 親父がスペイン出身で母親が日本人なのだ。黒髪は一緒なので、当然俺も黒髪、顔の造りがラテン寄りだというだけだ。

 生まれ育ったのは日本で、生まれてこのかた日本を出た経験もない。

 羨ましいという輩もいるが、言葉も日本語オンリーなので、特に得をしたという感覚はない。


 ラテン系は感情的と言われるが、俺は常に自分自身を律している。

 浮気もしたことがなく、女性に積極的でもない。ヘタレとは言わせない。日本の血が勝っただけの話だ。


 それなのに、周りは勝手なことばかりを言う。


 ハーフの癖に凡庸だな、が周りの評価だった。ハーフは関係ないだろう。

 兄貴と妹は近所でも有名な天才兄妹。俺はいない子のように省かれていた。

 勉強が苦手な俺は、ならば肉体だけはと必死に鍛えた。それしかなかったのだ。

 だがそれでも待遇は変わらなかった。


 そんな矢先に今回の召喚騒ぎ。

 別にアチラの世界に未練はない。


「取り敢えず、勇者様にはお休みしてもらいましょう。皆さんもソレで宜しいですね?」

「ハッ、巫女姫様のお言葉ならば」

「おいッ、勇者様をお部屋に案内しろ。丁重にな。それと湯を張れ。疲れを取って差し上げるのだ」

「ハッ」


 この場では巫女さんが一番偉いようだ。テキパキと指示をしている姿には好感を持てる。ただし、それを最初からやってくれ、と俺は叫びたい。

 ちなみに後で聞いた話では、巫女さんの年齢は十六歳。この世界では成人に当たるそうだ。

 この巫女さんは巫女姫と呼ばれる程の、一大宗教のトップであった。各国の王様も頭が上がらない存在らしい。

 噂では求婚率は断トツの一位らしいが、未だ独身ということだ。

 確かに見た目は超絶美人であるが、中身はムッツリのドスケベなので、微妙な感じだ。






「ふんふんふ~ん♪」


 現在、俺は入浴中。入浴はあちらの世界でしたばかりだったのだが、先程のゴタゴタで身体が冷えたようである。

 清めの意味も込めて、こちらの風呂を堪能していた。


 王城の風呂というのも広くて格別だな。

 しばらくのんびりしていよう……


「魔族が攻めてきました!」


 エロ巫女が風呂場に飛び込んできた。いよいよ出番らしい。


「フッ、来たか……いや、ちょっと待て」

「何でしょうか、勇者様」


 あっけらかんと(とぼ)ける巫女。こういう時だけは真面目な顔をしているのが、逆に鼻につく。

 何でしょうじゃねぇ! おかしいだろ! 気付けよ!


「俺、たったさっき来たばかりなんだけど」

「はい、それが何か?」


 すっとぼけているのか、天然なのかは知らないが、仏の心を自負する俺も、流石に我慢の限度を超えました。

 怒りも臨界点を越えると笑いに変わるというのは本当のようだ。


「フッ、……フフッ、……ふざけんなぁああああああッ!」

「えっ?」

「空気を読め! このエロ巫女がぁ!」

「え、えろみこ? ち、違いますよ!」

「違くねーーーーーーッ! 何で俺が全裸のタイミングでことを起こすんだ! テメェ、確信犯だろが!」

「なっ! なんてことを! 苦情なら先方に言って下さいよ! 私は貴方の裸になんか興味ありませんよーだ!」

「何だと! ふざけんな! ちょっとは興味を持て!」

「きょ、興味はありますよ!」


「あるのか!」

「あります!」


 対立するように顔を付き合わせた状態の二人、顔と顔の距離数センチ。

 そこで……


 チュッ……チュゥゥウウウウウウウウウウウウッ


 吸引力最大でキッスをする。俺の心を弄んだ仕返しだ、吸い尽くしてやる。俺はブラックホール、その心まで吸い込んでやるんだ。


 そのまま貪るように数秒間――


「んむぅううううううううううううっ――ぷはっ、……な、何を……」

「クソがぁ! テメェ、好きだぁ!」

「……はっ?」

「一目惚れだっつってんだ! 愛してるぞ、コノヤロウ!」

「あ、え? あ……あぅ……」


 勢いでエロ巫女に激しく抱きつき、そして濃厚なキスをする。

 情熱的な口づけ。これくらいのサービスがあってもいいだろう。

 巫女は既にトロンとした表情で、足腰がふらふらしていた。


「言い過ぎたよ。お前を褒美として貰ってもいいよな?」

「うぅ……展開が早いですぅ……私のファーストキスが……でも……いいです」


 堕ちた。俺の勝利だ。

 後は邪魔者を排除するのみ。


「お前は俺が護る!」

「は、はいッ!」


「よし、行くぞ! まずは装備を――」


 ドゴォォオオオオォォォォォォン……


 カッコ良く装備を取りに行こうとした矢先に、魔物が浴室に乱入してきた。

 良く見ると、城の壁にでっかい穴が空いている。穴の先には野次馬の人々がいて、こちらを見ていた。


 羞恥プレイ再開。


「…………」

「フフフ、此処にいたか。探したぞ」


 何も言えない。涙など流れていない。幻覚だ。

 この時、俺は悟った。全裸こそ俺の宿命なのだ、と。


 もういい、ヤケだ。ヤケクソだ。

 いいだろう、裸でやってやろうじゃないか。


「我は魔王。異世界の勇者よ、勝負だ!」


 えっ? ラスボス? もう?

 いやいやいや、魔王退治ってもっとこう……コツコツと実力を積み重ねていくものなんじゃないの?

 素人にどうしろっていうのさ?


 それに武器の防具も何もないのよ?

 レベル一で装備無し状態でやれって? 無茶振りもここまでくれば清々しい……な訳あるかぁぁああああああッ!


 馬鹿じゃないの? 死ぬよ? 俺、速攻で死んじゃうんだよ?

 ちょっとは罪悪感とかないのかな?


 ほら、そこの君! 黙って見てないでカモン!

 加勢しようよ。

 俺の無言の視線――アイコンタクトを察したのか、その兵士は理解したかのように頷いた。


「分かりました。お任せします」


 分かってねぇぇええええええッ!

 ここは犠牲を払ってでも足止めして、屍を乗り越えて未来を託す、ってのが普通じゃない?

 それをお任せしますだと! さっきのアイコンタクトは何だったの?


 くそっ、コイツら他力本願ここに極まれりだ!


「なんつー、ムリゲー……」


 何故、全裸で戦闘をせなあかんのだ。全裸の呪いでもかかっているのか?

 しかも一体一。フル装備ならぬフル無防備。武器なし時間なし。

 これをどうしろって言うんだ。自分で言ってて泣けてきた。


「フフフ、どうした勇者よ。お前の力はその程度か?」


 段々と怒りが湧いてきた。

 コイツもコイツで登場が早いんだよ。空気を読め!

 こんな状態の俺を倒して嬉しいのか? それでも魔王か!

 城でドンと構えているのが魔王ってもんだろが! こんなところまで出張ってくるんじゃねぇよ!


 クソッ、どうせ死ぬんなら、せめて一発だけでも目にもの見せてくれる!


「ダメ! 勇者様!」


 ダメなら止めろよ。口だけ言っても、その目はさっさと戦えとしか訴えてないぞ。

 どいつもこいつも!


 理不尽な怒りが臨界点を超えて、さらに沸騰する。

 妙に右手が熱い。


「ぅぉぉおおおおおおおおおッ――怒りのラテンナックル!」


 ズガンッ


「へっ?」


 ヤケクソで繰り出した俺の一般人パンチが、とんでもな破壊力を撒き散らした。

 拳の余波が後方をも吹き飛ばしていく。何だ、この力は?


「み、見事だ、勇者よ……その力……ここまでとは……」


 魔王がご臨終された。


 ……


 ……


 ……え、えっ? 倒したの? あれで? 魔王を? 一撃で? レベル一の俺が?


「魔王が!」

「倒されたぞ! 魔王が滅びた!」

「勇者様がやってくれたんだ!」

「バンザーーーーーーイ! 勇者様、最高!」


 辺りが一斉に喜びに溢れた。皆が俺を褒め称えている。

 だが、それとは裏腹に俺の心は妙に冷めていた。


 何だろう、この虚しさは……

 達成感が皆無である。


 俺の気持ちを逆撫でするかのように、もはや周りの連中はお祭り騒ぎ。馬鹿みたいに喜んでいた。


 異世界召喚されてから魔王討伐まで累計約一時間、歴代最速の記録ではないだろうか。

 嬉しいような、悲しいような……もどかしい心情が渦巻く。


 まあ良い。俺は巫女とラブラブ人生を送るだけだ。






 後に聞いた話では――


 あの魔王は何人もの勇者を屠ってきた強者だったらしい。

 調子に乗って、今回も勇者を抹殺しようとして出向いてきたところ、俺の逆襲をくらった訳だ。


 魔王を一撃で倒した俺の攻撃力の秘密は、"怒り"だったらしい。

 全裸イコール捨て身の一撃効果、怒りの頂点イコール憤怒の一撃必殺効果、そして圧倒的なレベル差による瀕死の一発逆転効果。

 攻撃を食らっていないのに瀕死判定だったのは、魔王のプレッシャーだけでダメージを受けていたからだそうだ。

 弱いにも程があるぞ、俺。


 ともかく、この三つが奇跡的に合わさり、今回の結果を導き出したという訳だ。


 結果良ければ全て良し。俺に不満はない。過ぎた事だ。




 ついでにエロ巫女のことにも触れておこう。


 彼女は生まれてこの方、ずっと孤独だった。

 ヌーディリア王国の貴族の娘として生まれた彼女は、幼い頃より強大な魔力を持ち、それ故にオッピロゲ教の姫として祭り上げられたのだ。


 当初は何て不幸なんだ、と嘆き悲しんでいたらしい。

 しかし、教団の理念を聞いて、考えが変わったのだと。


 オッピロゲ教の教えは只一つ、「全てを自由にありのままの己を見せよ」というものだ。

 清廉潔白な者のみに許されるソレは、自分が自分のままでいていいんだ、と思わせてくれた。

 彼女は誰よりも自由だったのだ。その筈だった。


 しかし現実は残酷なものだ。

 自然体でいることを許された自分に託されたのは、教団の顔としての姿。

 人は誰しもが裏に何かを抱えている。

 裏表のない人物など、歴史上類を見ない程の聖人君子でしかないのだ。


 教団トップとしての在り方を崩さず、友人にも包み隠さずの接し方を求めた結果、当然のように皆は避け、離れていった。

 近づいてくるのは、張り付いたような笑顔を浮かべる、くだらない求婚者だけ。

 理想と現実の狭間で、彼女は絶望した。


 彼女は人なのだ。


 そこに俺登場。

 世界に降臨すると同時に全てを曝け出した俺に、かつてない程の衝撃を覚え、その逞しいモノで貫いて欲しかったらしい。

 それ以上は言わない、言わせない。

 どんだけどストライクなんだ、このエロ巫女が!

 愛すぞ! とことん愛しちゃうぞ! いいのか? いいのんか? ……スイマセン、あまりのテンションに暴走してしまいました。


 まあ、そんな具合いだ。






 魔王討伐後、各国との会談やら外交やらで引っ張りまわされた。


 それらが一段落して判明した事実では――どうやら本当に帰れないらしい。

 申し訳なさそうに謝る巫女に、それなら俺に一生尽くせと申し付けた。


 巫女は嬉しそうに快諾した。

 どうも初印象の俺のアレに、我慢の限界が来ていたらしい。

 さらにキスで臨界点突破。一人で悶々としていたとのことだ。

 その日は天変地異が起こる程、激しく求め合った。


 今では六児のパパである。

 人生とは分からないものだ。






 ――後の歴史家バインバイン博士はこう述べる。


 歴代勇者で最も有名かつ最強なのは、彼の人物。

 鋼の肉体を持ち、全てを解放し、武具も必要とせずに、自由を謳歌する。


 最強魔王を己が肉体のみで打ち倒すその姿は、正に伝説。


 本来であれば死屍累々の旅の果て、犠牲を糧に死闘が繰り広げられ、勇者は魔王に辿り着く。

 それを召喚初日で終了、死者重傷者ゼロ。


 これから先、この記録を打ち破るものはいないだろう。

 史上最高の勇者、経験なしの才能だけでの達成。


 歴史において、無防備な裸一貫の勇者を、魔王を撃退する勇姿を目撃した人々は、親しみと尊敬の念を込めてこう呼んだ。


 裸の天才――裸天<ラ・テン>と。


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― 新着の感想 ―
[一言] 思春期の僕には良い刺激でした。 冗談は置いといて、ついクスクス笑っちゃうような作品でした。 一人で携帯電話を持ちながら笑う僕は不気味だったでしょう。 大方舟さんの作品には感想を書き…
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