夕闇
行きずりの恋。アバンチュール。
生まれたのは愛の塊というよりは代償だ。
見境のない行動を取るものは罰を受ける。
そして誰かが蜜を吸う。
雑踏の中に拡声されて響きわたる声。
それは、あまりに都合が悪く、苦い。
嘘や疑惑は何時だって、どんな人間にも付いてくる。
大切なのは真実。そこに異論はない。
冤罪は誰もが哀れむ。
しかし一度疑惑の目を向けられたなら。
その事実が、自身をどこまでも縛る。
疑われた時点で、負けだ。
失われた時間は帰ってこない。
他人に貼られたレッテルはそう容易くは剥がれない。
どんなに声をあげても、人はフィルター越しに人を見る。
夕暮れの町に影が伸びる。
高いビルのそれがまた高いビルを覆い、そこら中が影に飲まれる。
それなのに空は橙色をしている。
天と地が、切り離されている。
下校する子供が列を成していた。
背負った色とりどりの革は歩くのに合わせて弾む。
楽しげな声に、表情が失せていくのを感じた。
同時に足は路地裏へと向かう。
頭に過る、雑踏を割いてやってきた、冷徹なまでに冷静な声。
予期せぬ不都合だった。
しかしどう足掻こうと、目的から遠ざかるだけだ。
きっとどんなに思考錯誤しようと、この状況はやってきたのだ。
どうせ元より最悪なんだ。
多少のことでは何も変わらない。
最初から、逃げ道なんて、無いんだ。
夕焼けの色はぼくの色。