僕の個性
産まれた時から投影される昏迷は深く、また夜の街に還っていく。
人工的な明かりの白さが、手や足を照らした。
「僕は他のやつらとは違うんだ」
奇声をあげながら、頭の中では、奴らって誰?と冷静に考える。
暗がりでは、僕にそっくりの機械人形が同じように奇声を上げる。
「僕を造ったのは誰?知恵を与えたのは誰?」
心は偽りの嘆きをリピートした。おそらくソイツは、ニヤッと笑う。
僕は、そして僕である意味を考えた。
そうやって自分とは何かを考える事が、Yから始まる創造主の意図を汲みとる事になると思ったからだ。
同化してはいけない。異化することが存在の意味だ。
数億人の機械人形は、口々に自分を主張し始める。
「僕は違う」
「他の奴らとは」
「違う違う」
「僕は誰でもない僕だ」
それは単調な個性、服や声に違いはない。違いは思考である。
やがて赤いセンサーが選ばれた者達を探し出す。
他人と同じように考えた人間はセンサーに無視される。
「違いを、早く違いを見付けなきゃ」
百人に一人の割合で、優秀な個性を持つ者が選ばれた。
やがて、僕の列が対象になった。赤いセンサーが順次に個体を照らした。
冷酷な審査が続く。みんなが口々に自分を主張した。
「僕は他の奴らとは違う」
そう叫んだ隣のやつは選ばれなかった。
僕の所で赤いセンサーが止まった。僕は選ばれたのだ。自分を主張しない事で、他の奴らとは異なる個性を手に入れたのだ。
選ばれた僕は、同じく数人の選ばれた栄光ある者達と同じエリアに摘みとられた。
「おめでとう」
「奇跡だ。選ばれるなんて思わなかった」
「君はどんな個性で選ばれたの?」
「僕は、自分で作った歌を唄っただけさ。君は?」
「ずっと黙ってた」
「それは凄いな」
やがて選ばれた者達は一つの部屋に入れられた。
誰もが創造主の意志に叶った事を誇らしげに思っていた。
Defective(不良品)と書かれた大きな穴に向かって、次々に飛び降りて行く。
僕の番が回ってきた。
恐れなどは無かった。僕は主に選ばれた特別な人間なのだから。