第82話 未来を予測する最善の方法は、それを創造することだ
「……狩るのは、僕の方だよ。」
声があったのに、姿がない。
ちとせの気配は霧のように消え、空間のどこにも"存在"が感じられなかった。
梟は即座に後ろへ後退した、だが、すでに遅い。
“ガァン!”
次の瞬間、鋼を打つような衝撃音とともに、彼の腹部に拳がめり込み、身体ごと大地を抉るように吹き飛ばされる。
大地が裂け、岩が砕け、魔力の防御障壁すら意味を成さない。
「ぐっ……がはっ……!」
血を吐きながら、梟は立ち上がる。だが、その表情にはかつてないほどの緊張が走っていた。
“これが……静かな怒り? 氷馬とか言うやつがの残した力を、ここまで完璧に……”
「どうした?梟、まだまだ僕の怒りは治ってない、」
ちとせの瞳には、炎もなにも宿っていなかった。
ただ、深く静かな湖のような瞳。
だが、そこに宿る“激情”だけは、すべてを焼き尽くすほどに純粋だった。
梟は思わず距離を取ろうとした。空高く飛び、背後へ抜けようと――
――“そこにいたか。”
気づけば、ちとせの手がもう首を掴んでいた。空高くにいるというのに。
「な……なんで……!」
「逃がさないよ……」
首を掴まれたまま、ちとせは地面へ向けてその梟の身体を振り下ろした。
“ドォオオンッ!!”
地鳴りが響く。地面が陥没し、巨大なクレーターが生まれる。
それでも——
「まだ……だ……」
梟は、笑っていた。口の端から血を流しながらも。
「怒りの力が……強いのは認める……だが……
怒りには“限界”がある。 いずれ冷める、」
叫んだ瞬間、梟の身体から、闇の霧のような魔力が吹き出す。
「見せてやる……1つ目の指輪、解放ッ!!」
第一の指輪、
名:アウレウス・フューチャム
(Aureus Futurum)
金色に輝くその指輪(陽光)には、未来に行く力が封印されており、刻印には、
――未来を予測する最善の方法は、それを創造することだ――
ピーター・ドラッカー
指輪から、出る光がちとせに向かってやってくる。
第四の指輪
名:シクラ・ヴィンテリス
(Cicla Vinteris)
シルバーに輝くその指輪には、過去に行く力が封印されている。刻印には
――英雄とは、自分のできることをする人のことだ――
ロマン・ロラン
張り合うように、ちとせも指輪を解放しお互いの指輪の能力がぶつかり合う合う、時間軸、2人の周囲の空間が歪み出している。
「ちっ、何がしたいんだ!」
ちとせがそう言うと、梟が笑う。
「指輪は、合わせると物凄い力を出せる!」
そうすると、二つの指輪は合わさりその場を爆風で吹き飛ばした。
吹き飛ばされたその先に、梟が現れる。
「……殺す、」
そうして、梟は指からちとせに向かって何かを入れる。
ちとせは、直ぐに梟の手を弾いた。
「触んな……うっ、」
「お前に入れたのは、肺がんだ。10代でなる確率は1%未満。たが、ゼロではない。
まぁ、そんなの関係なしにおれは病気を操れる。
さぁ、進みはいつもよりさらに早くしてある、お前は死亡だな。」
ちとせは土煙を振り払い、再び立ち上がる。額から血が一筋流れ、唇を噛む音が聞こえるほどだった。
「まだ立つか、めんどくさい、、」
そうして梟はちとせを殴る。
そうして、指輪を奪おうとしたその時、
アーサーが割って入った。
「……!お前か、アーサー!」
「私の友人に触れないでもらおうか、」
そうして、アーサーは剣を振り梟を遠ざける。
なんとか、治癒魔法を使い簡易結界で、ちとせを覆う。
ちとせの顔色はまるまるうちに悪くなっていく。
(進行が早い、不味いな、)
と、その時、烏の拳銃が火を噴いた。ノアは咄嗟に剣を振るって弾を弾いたが——その瞬間、彼の剣が「折れた」。
「——え?」
ノアは思わず手元を見た。確かに今まで戦っていた時にはなかったヒビ。それが、時間を巻き戻されたかのように“剣が傷んでいた頃の姿”に戻っていた。
「その剣……かつて、お前が初めて折った時のままだ」
烏がそう言ってノアを見つめる。
ノアの剣は最初折れた状態だった。
科学者が試行錯誤し、なんとか今の状態に戻したのだ。
その右手にある、三つ目の指輪が淡く赤黒く光を放っていた。
「三つ目の指環の力、物の状態を戻す。お前の剣も、装備も、傷も……そして“死”も、例外ではない」
「……“死”も?」
烏の攻撃を避けながら、ノアは反応した。
「なるほど。無理に相手を攻撃しなくても、“無かったこと”にしてしまえばいい……か。厄介だな、あの指輪」
「厄介……じゃない。悪夢だ」
アーサーが烏とノアとの会話を聞きながら、そう考えた。
ノアが烏に話す。
「烏……お前はさっき、俺の斬撃を“無かったこと”にした。つまり、斬る前の状態に戻した。だがそれって、必ず“過去に存在してた瞬間”しか戻せないんだろ?」
烏の目がわずかに細められた。
「正解だ。それ以上戻すと、存在そのものが矛盾し消滅する」
その瞬間、ノアが折れた剣を逆手にし、再び跳び上がった。
「お前をここで!!」
ノアが空中で回転しながら、逆手の剣で烏の胸元へ突きを放つ——その一撃すら、また「過去」へと戻されかけた。
だがその時。
「アーサー!今だ!」
「なに?」
梟が烏の方をみる。
「ったく!こっちだって忙しいと言うのに、」
アーサーが叫び、地上からデイビスの魔道具、である剣を空へ撃ち放った。
それは、一度だけ対象者の能力をひとつだけ一回だけ無効化できる。
ハイルの強制解除であった。
「時間は、一方通行なんだよ、烏!」
ノアの突きが、初めて真正面から烏の胸元を貫いた。
血が飛び散る。烏の目が大きく見開かれた。
「ッ——この“未来”は……」
「俺が、開いたものだ……」




