紫陽花-序-
ただあの頃からきっと、
キミは僕の戸惑いのすべてを
見透かしていたのだろ
加速してく 針は何れに。
蝉の声が遠く聴こえる、空の低い午後
暑さに項垂れる独りの男とショーケースに並ぶ花は出逢う
「視線が合う」はずはないのに
確かに届く眼差しが僕の足を拘束した。
「…。花、ね。」
普段は路肩の花ですら興味なんてないのに
額に滲む汗を拭いながら、目に映る色彩を
ジッと見つめていた
「なにかお探しですか?」
か細く、夏には似合わない爽やかな声が
一瞬でも確実に、僕の耳を捉えた
不意な言葉に、花屋の前に居るのに。
何も言葉が浮かばない様は
まるで空回る車輪のように。
「あっ、いや…」
咄嗟に見繕う、借りぐらしの言葉と視線
2度ほど落ちた眼、その後に
映るキミの姿は
まるで紫陽花で