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琥珀おじさんとゲンの詩の時間  作者: 真鶴 黎
企画展――琥珀おじさんとゲンの詩の時間――
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ゲンとの日々 ――秘密の外出――

 年が明けた。今年は家内と二人。ゲンの分の食事も一応用意したが、あの子は顔を見せなかった。

 以前、そうしていたことがあったように、書斎の窓辺に小包と雪玉がみっつ並んでいた。小包の中にはロウバイの花とあけましておめでとうの文字。元気にしているならいいが、どうしているのだろうか。

 (一九×◎年一月一日)



 久しぶりにゲンが顔を見せた。とは言っても襟巻で顔を覆うようにして、表情はあまり見えなかった。明日、時間はあるかと尋ねられ、あると答えれば一緒に出掛けよう、と。正直、気分ではない。雪は降るし、寒いし、何より、今は外を歩いて刺激を得たくない。

 だが、あのゲンが真剣に頼んできた。体調が悪くないなら、と。

 久方ぶりだから。そう自分に言い聞かせて約束をした。あの子はそれだけのために来たようで、また明日と言って帰った。

 (一九×◎年三月五日)



 あの詩(※)を改めなければ。

 (一九×◎年三月六日)

 (※)「銀に咲く花」のこと。



 帰ってきた主人は一直線に書斎へ。そのまま籠ってしまいました。食事に呼びましたが、私の声が届いていないのか、詩作に耽っているようです。主人と一緒に戻ってきたゲンにどこへ行ったのか訊きましたが、内緒、と教えてくれません。せめて寝食だけはしっかりしてほしいのですが。

 (一九×◎年三月六日 祥の日記より)



 主人が寝込みました。丸二日、食事も睡眠もまともに取らなかった反動でしょう。お医者様にきつく叱られました。幸い、きちんと休めば大丈夫そうとのことで私も一安心しました。

 久しぶりに主人に一言申し上げました。ゲンからは拳骨ひとつ。許してくれ、と主人は力なく言いましたが、その表情はどこか晴れ晴れとしていて、何かを楽しみにしているような穏やかなものでした。

 ゲンは一体何をしたのでしょうか。   

 ひみつ(※) ゲンは口がかたいのね。

 (一九×◎年三月八日 祥の日記より)

 (※)ゲンに書かれたもの。



 よく寝た。本当によく寝た。気持ちよく寝ていたのに、ゲンに叩き起こされた。それはもう、盛大に。最初はおじさんと呼ばれるだけだったのに、その声が近づいてきて、布団を頭まで被ったら上に飛び乗られて、肩を叩かれ、それでも起きようとしなかったら諦めたのかどこかへ行った。

 だから、布団の温もりに感謝してうとうとと微睡んでいたのに、家内から小鍋とお玉を借りて、耳元でカンカンと打ち鳴らす。挙句の果てに、家内と共謀して布団まで剥ぎ取りやがった。家内も楽しそうにして何なんだ。満身創痍だったのに。


 おねんねおじさん 花よりさきに おはようじゃないおねぼうおじさん(※1)

 よく眠れたようで何よりです。お寝坊さん(※2)


 何を書いてくれているんだか。乱暴に叩き起こしておいて、呑気なものだ。これでも寝込んでいたんだが。

 

 無理をしたあなたが悪いです。(※2)

 心配をかけて本当に悪かった。

 (一九×◎年三月十日)

 (※1)ゲンに書かれたもの。

 (※2)祥に書かれたもの。



 お寝坊おじさんの歌とか言ってゲンが歌っている。それは元々ちょうちょだっただろうが。

 (一九×◎年三月十一日)



 最近はこの頃書いてきた詩を改めている。こうして見ると拙いと思う。変に回り道をしているみたいな詩で、これは鷹峰君やコタちゃんが納得いかないような顔をするのも無理はない。

 相変わらず、ゲンはお寝坊おじさんを歌っている。今もオレの隣で歌っている。


 おねんねおじさん(※)


 そんなに気に入ったか。 

 (一九×◎年三月十二日)

 (※)ゲンに書かれたもの。



 駄目だ。やっぱり上手くいかない。何かが足りない。あと少しな気がするのに。

 (一九×◎年四月十九日)


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