高岳琥珀の関係者
【家族】
〇高岳伏見
琥珀の父。代々続く酒屋を営む。病弱な琥珀が寝込んでいる間、退屈しないようにと本や玩具を買い与え、ひどく案じていた。
「その頭をもってして、なぜ詩の道へ進もうというのか理解できないと父は言った。お前の頭は飾りかと叱り飛ばされた。」(「稲田猿鏡という詩人」より)とあるように琥珀が文学の道へ進むことに猛反対する。琥珀が大学へ進学する際、費用の工面をしないなどの対応を見せる。結果、琥珀との間に深い溝ができてしまい、和解することなく死去。琥珀は父との関係を修復できなかったことを後悔した。
<父が琥珀に対して厳しく言ったのは出来の良い頭の使い方を間違っているからということではありません。厳しい道のりになる未来が見えている中、身体の弱い琥珀がさらに弱ることを恐れたからです。(中略)父はあまりに不器用だった。琥珀の身体が心配だと素直に言えばよかったのに。>(竜大「琥珀のこと」)
<竜の兄さんから話を聞いた。詩の道を反対した理由は身体のことを心配してのことだった、と。そう言ってくれればよかったのに。昔からそうだ。兄さんが読み聞かせてくれた本も、暇を紛らわせる玩具も父がこっそりと買ってきて、安かったから買ってきた、好きに使え、なんて言って兄さんに渡していたらしい。兄さんからは聞いていたことだが、本当に素直じゃない人だった。>(琥珀「兄に思うこと」より)
〇高岳ネネ
琥珀の母。長男の竜大を溺愛していたせいか、琥珀やその他の兄弟への干渉は少なかった。そのため、琥珀による母に関する記述は少ない。
伏見と猿鏡が対立する中、中立の立場で琥珀の選択を見届けた。
<母は兄さんのことしか頭にないと思っていた。オレや他の兄弟に興味がなさそうだったから。(中略)詩の道へ進みたいと明かしたとき、好きになさいと言われて、余計にそう思った。それなのに、父と先生が言い合いをしているとき、二人が決めることではなく、琥珀が決めることだと険しい表情で一喝したときは本当に驚いた。母からは何も言いません、あなたの好きに決断なさいとはっきり言われたとき、少なからず、オレのことも考えてくれていたのかと嬉しく思った。>(「兄に思うこと」より)
<琥珀が家を出て静かですね、と母がぽつりと呟いていました。寂しいですか、と尋ねると、少し、と母は答えました。たまには帰ってきてほしいと言う母の背中はいつもより小さく見えました。>(「琥珀のこと」より)
〇高岳竜大
琥珀の長兄。伏見の死後、家業を継ぐ。身体の弱い琥珀が寝込むと物語や詩を読み聞かせ、文学に触れる機会を与えた。詩人の道を歩む琥珀を応援し、支援した。桃源郷事件後、傷心の琥珀を雇い入れる。琥珀が最も尊敬し、憧れた人物であり、晩年の作風に影響を与えた。
<竜の兄さんは誰よりも優しい人だ。幼い頃から、今の今までずっと気にかけてくれている。一生頭の上がらない、尊敬してやまない自慢の兄だ。(中略)竜の兄さんのようにオレも優しくなりたい。龍の身体がしなるような、柔軟な優しさ。>(「兄に思うこと」より)
<琥珀は身体が弱く、人よりも小柄です。けれど、内に秘めた情熱は誰よりも強い。虎の咆哮が天高く届くぐらい、あの子は力強い詩を作って広めることができる。そんな弟のことを私は誇りに思います。>(「琥珀のこと」より)
〇高岳祥
琥珀の妻。琥珀の師・稲田猿鏡の姪。琥珀との間に息子の琥志朗をもうける。
琥珀の健康に人一倍気を遣う。桃源郷事件により、詩から離れた琥珀をひどく案じながらも、彼の心身の安定を優先させることを第一に彼の意志を尊重した。△△の地にも共に移り、琥珀が詩を再び作るようになったときは大喜びした。琥珀の最期のときまで献身的に支え続けた。
<木幡祥様
先日は寒い中ありがとうございました。お身体を冷やして体調を崩されていないでしょうか。
僕ばかりあれこれと話してしまい、祥さんに退屈な思いをさせてしまったのではないかと思うと申し訳がたちません。もし、また機会をいただけるのであれば、祥さんのこと教えてください。好きな物でも、興味のあることでも、何でも。 琥珀
追伸 お借りした襟巻は先生に預けました。ありがとうございました。>(琥珀から祥へ宛てた手紙)
<高岳琥珀様
こちらこそ、先日は楽しい時間をありがとうございました。私は元気にしています。琥珀さんこそ、お身体は大丈夫でしょうか。傘をずっと私の方へ傾けてくださって、肩の辺りを白くさせていたではありませんか。そのことが私は心配です。
琥珀さんのお話はとても心弾むものばかりでした。雪の花の美しさをどう表現すると良さそうかとお話されていた姿が印象的でした。またお話を聞かせてくださいね。 祥
追伸 叔父より襟巻を受け取りました。それと蜜柑。私、蜜柑が大好きなんです。ありがとうございました。>(祥から琥珀へ宛てた手紙)
〇高岳琥志朗
琥珀と祥の間に生まれた子ども。作曲家。
幼少期、琥珀の影響を受けて詩人を志すも、桃源郷事件をきっかけに詩から距離を取るようになった父を見て詩人の道を諦めてしまう。しかし、詩に関わることができるようなことをしたいという思いから作曲家の道を選択する。晩年、琥珀が再び詩を作るようになった際、彼の詩に曲をつけた。代表作は「消息」「天界」「銀に咲く花」など。
<詩に曲をつけていいかと父に尋ねたとき、いい曲を作ってくれ、と肩を思い切り叩かれました。オレの詩が霞むぐらい、いい曲にしてくれなきゃ困ると。父の詩が霞む曲よりも、父の詩に相応しい曲を作りたいと思ってのことだったのに。>(琥志朗「父の詩へ贈る」より)
<琥志朗が曲を聞かせてくれた。近くの小学校のピアノを借りて、ちょっとしたコンサートみたいだった。(中略)「銀に咲く花」をあの子は静謐な旋律で表した。降る雪の積もりに積もった一面の銀世界の中、静かに、静かに、雪の花をひとつひとつ拾い集めるように音を奏でた。高音の消え入りそうな旋律が熱で溶けてしまう六花のようだった。>(琥珀の日記より)
【文学関係者】
〇稲田猿鏡
琥珀の師。琥珀の才を早くに見抜き、彼を詩へと導いた。琥珀が大学へ進学する際に支援した人物。
琥珀が直接師事を受けた期間は短かったが、猿鏡からの支援のおかげでその名を広めることとなった。
代表作は「照らす」「鳴る汽笛」「因果」など。
<粗削りだった少年の詩は見違えるようになった。雄々しく一声を上げる風格の虎のよう。>(猿鏡「琥珀君の強さ」より)
<先生の詩は大木のようだと思うものが多い。幾年もの時を重ね、見上げんほどの立派な大木。枝葉を天へと伸ばし、幹はどっしりと構えて悠然としている様。不思議と背筋が伸び、教訓のようにさえ思う詩を作られる方だった。>(琥珀「稲田猿鏡という詩人」より)
〇菅間鷹峰
琥珀の友人。詩人、評論家。出版社・蘭亭社の創設者。
琥珀とは学生時代に出会う。裕福な家庭の出であり、「ぼんくら坊ちゃん」「馬鹿息子」などと琥珀に煽られる。なお、鷹峰も「ちびっ子坊ちゃん」「荒くれ人虎」などと琥珀を煽り返している。
桃源郷事件の際にも琥珀のために尽力した。琥珀の死後、彼の詩を編纂するなど、高岳琥珀という詩人にとって恩人でもあり、よき友の一人であった。
琥珀の葬儀の際、友人総代として弔辞を読み上げている最中に感極まって泣き伏せた。鷹峰からしても琥珀は「唯一無二の友」であった。
代表作は詩では「忍び音」「回遊」、評論では『詩人、あるいは、死人』『諸刃の剣』など。
<彼ほどの友はないと思う。桃源郷事件のとき、菅間鷹峰君ほどよくしてくれた人はいない。(中略)本人には口が裂けても言えないが、感謝してもしきれない。恩人で、親友だ。>(琥珀の日記より)
<高岳君。君という人は本当にいなくなってしまったのか。あれほどに眩しく、轟きの詩を作った君が、慈しみを知り、センチメンタルな詩を作るようになった君が、平穏を、無垢を願った君が、もうこの世にいないとは思いたくない。小突き合いをすることもなくなるこれからが、大層寂しい。唯一無二の友を喪ったことを、僕は信じたくない。>(弔辞より)
〇千里虎太郎
琥珀の友人。小説家。
鷹峰の紹介により出会う。出会った当時、虎太郎は駆け出しの小説家であり、琥珀との出会いにより脚光を浴びることとなる。
琥珀とは一回り歳が離れており、「コタちゃん」「コタッコちゃん」と呼ばれ、弟のように可愛がられていた。
琥珀の死後、鷹峰と共に琥珀の詩の編纂を行う。
代表作は『松柏』『雨傘』『風車に消ゆ』。
<コタちゃんが来てくれた。初めて会ったときの初々しさはどこへ行ったのかと思うほど、見違えるほど立派になった。けれど、笑ったときに目尻がぐっと垂れ下がって、幼く見えるところは変わらない。千里大先生と呼ぶべきかと思っていたが、可愛らしい笑顔に駆け出しの頃のあの子のことが思い出されて、やっぱり、コタちゃん、コタッコちゃんと呼ぶのがしっくりとくる。>(琥珀の日記より)
<コタッコちゃん、コタちゃんと琥珀さんは変わらず呼んでくださった。事件以降、中々連絡できなかったのに、出会った頃から変わらず、僕のことを可愛がってくださる。立派になったもんだと笑う姿があまりに優しくて、少し泣きそうになった。>(虎太郎「琥珀さんとコタ」より)
〇ゲン
△△の地で出会った少年。晩年の琥珀へ大きな影響を与え、再び詩を作るきっかけとなった。琥珀を語る上で欠かせない存在だが、当時の記録の中に彼のことを指すものはなく、本名すらも不明な謎多き存在。悪戯好きでやんちゃな性格の少年を琥珀は大層可愛がっていた。
<坊主にゲンという呼び名を贈った。坊主に名前を尋ねても首を横に振るばかり。だから、こちらはあの子のことを坊主と呼んでいたし、次第にあの子は坊主という言葉が自分を指すものだと認識するようになってそのままになっていた。
ただ、どこかでそれはどうなのだろうと疑問に思うことが時々あった。
(中略)
ゲン。幻とも、現とも両方とれる名。詩は幻でもあり、現でもある。そこに戻るきっかけともなったあの子は源であり、原点。俺の勝手な私情を負わせるのもと思ったが、妙にあの子にしっくりときた。>(琥珀の日記より)
<おじさん 今度はいつおでかけできる?>(ゲンからの書置きより)




