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琥珀おじさんとゲンの詩の時間  作者: 真鶴 黎
企画展――琥珀おじさんとゲンの詩の時間――
23/34

ゲンとの日々 ――難航――

 眠気がひどくて、一休みと思っていたら夕方まで寝ていた。昼前には起きるつもりだったのに。

 次は起こしてもらうよう頼もう。

 少しだけ詩を書いた。

 (一九×◆年十月五日)



 無理に起こすのもと思っていましたが、まさか、夕方まで寝ているなんて思いませんでした。さすがに夕飯前に起こしましたが、本人も驚いていました。食欲はあるようで、いつもよりも少し多く食べていました。

 (一九×◆年十月五日 祥の日記より)



 あんなに寝たのに、夜もぐっすりだったようです。たくさん寝たおかげか、顔色はいい。

 ゲンと庭で遊んでいるところを見ても、少し体調はよくなったみたいです。

 (一九×◆年十月六日 祥の日記より)



 ゲンがおじさんまだお散歩難しい? と訊いてきた。オレとしては外に出たいのだが、身体がどうも駄目みたいだ。

 今日は何か面白いことあったか、と訊けば、卵みたいな石を拾ったと見せてくれた。

 確かに、卵みたいな石だった。ゲンに返すと、机の角にコツコツと叩いて、割る真似をしてみせた。そして、なぜか得意げな顔をした。

 (一九×◆年十月七日)



 コタちゃんから手紙が届いた。あの子も鷹峰君に声を掛けられて短編を寄稿することになったらしい。子供向けの作品を書いたことがなくて、と困った様子の手紙と原稿が入っていた。鷹峰君からオレに助言を求めてはどうかと言われたらしい。オレも児童文学に明るいわけではないのだが。

 読んでみると、コタちゃんらしい誠実な文章だと思った。子供を寝かしつけるのによさそうな優しい物語。内容は非常にいいが、文体が硬い。わかりやすい書き方をしてはいるものの、まだ硬いと思った。

 お互いに難航しているようだ。

 (一九×◆年十月十六日)



 琥珀へ

 肌寒い季節になってきたね。そちらはもう結構寒いのだろうか。

 先日、菅間さんから手紙が届いた。仕事を受けたと聞いたよ。詳しいことはわからないけれど、琥珀が大きな一歩を踏み出したことを菅間さんは大層喜んでおられる様子だった。私も嬉しく思う。

 ただ、身体には気をつけるんだよ。具合の優れない日が続いていると聞いている。琥珀は詩のこととなると無理ができてしまう。それは大きな原動力で、詩に打ち込める情熱の表れだとは思う。一方で、力を使いこみすぎてばててしまう。期日があることだから悠長にしていられないだろうが、どうか無理だけはしないでほしい。

 祥さんとゲン君にもよろしく伝えておくれ。本当に無茶だけはしないように。

 竜大

 (一九×◆年十月二十日頃か 竜大からの手紙)



 竜の兄さんから手紙が届いた。無理だけはするなと綴られていた。

 無理をしているつもりはない。夜更かしすることはない。いや、できないから。

 一応、詩はできた(※)。できたけれど、納得できない。

 (一九×◆年十月二十三日)

 (※)「青空のよろこび」のこと。

    『青空』へは掲載されなかった。

    


 主人が倒れて三日。やっと目を覚ましました。

 一命は取り留めたものの年を越せるかどうか、とお医者様はおっしゃいました。

 ゆっくりと主人の身体を蝕んでいるのは確か。せめて詩だけは送りたいと主人は呟きました。私としても、そうしたいと思うのですが、回復までしばらく時間がかかりそう。

 どうすればいいのでしょうか。


 ゲンにおまかせ(※)

 (一九×◆年十月三十日)

 (※)ゲンに書かれたもの



 おじさん起きた。

 でも、元気ない。

 詩をかくのたいへんそう。

 まえに詩をかくの手伝った。

 かんじむずかしくて、たいへんだった。

 それでも てつだう。

 おじさんは詩をかくと言うから。

 ゲンが手伝う。

 むずかしいことばはわからないけど、

 かんじもわからないのいっぱいあるけど、

 ざっしもよくわからないけど、

 だいじょうぶ。

 いなりさまにおまいりしたから。

 ゲンにおまかせ。

 (一九×◆年十月三十日頃 ゲンの日記より)



 ゲンがてつだってくれる。

 字をかくのもたいへんだからたすかる。さちもてつだってくれる。

 かんせいさせたい。

 (一九×◆年十一月四日)



 ゲンが花を持ってきました。それも、桜の花。この時期にどうして、どこから持ってきたのか。ゲンに訊いても内緒とはぐらかされてしまいました。

 (中略)

 主人がああでもない、こうでもない、そこはこうしてくれ、と指示を出し、ゲンが原稿を修正する。ゲンは主人の指示に振り回され頭を抱えます。辞書を引いては頭を抱えます。大変だなあ、と主人は小さく笑いながらゲンの頭を撫でます。ゲンはもう、と怒りながらまた辞書を引いて言葉を探しています。

 (一九×◆年十一月九日)



 主人は詩作に集中するため、書斎で日々を過ごすことになりました。

 そのため、書斎の配置を変えました。と言ってもベッドの位置を窓際に寄せ、机の位置も少しずらしただけ。ゲンも手伝ってくれました。

 ベッドをずらすとき、主人も押してくれましたが、あまり力が入っていないようでした。これはいかんなあ、と明るい口調でしたが、表情は疲れきっていました。ほんの一時間ほどの配置変えでしたが、今日のところはもう動けんと言って主人は休みました。

 嫌でも考えてしまう。主人の身体は本当に長くはもたない。覚悟をしていたのに、どうしても弱ってしまう。せめて、あの人の前ではきちんと振舞わないと。心配をかけてしまう。

 (一九×◆年十一月十一日 祥の日記より)



 しんぱいそうな顔をしていた。

 本当にだめだなあ。力が入らなくて、かないとゲンにおもいものをまかせてしまった。

 オレがやらないといけないことなのに。

 (一九×◆年十一月十二日)



 今日もゲンは主人に振り回されています。あの本を取ってくれ、違うそちらだ、と主人に言われて本棚を往復するゲン。高いところにある本は私が取りました。今日のところは終わりとなって、ベッドに積まれた本を戻すとき、ゲンは少し疲れたのか、くったりしていました。

 気がつけば、ゲンは主人のベッドの傍で眠っていました。主人もうとうととしていました。

 (一九×◆年十一月十九日)


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