表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
琥珀おじさんとゲンの詩の時間  作者: 真鶴 黎
企画展――琥珀おじさんとゲンの詩の時間――
2/34

高岳琥珀経歴

 一九◎◎年五月八日、××県□□市〇〇町にて、酒造業の父・高岳伏見(たかおかふしみ)、母・高岳ネネ(旧姓:小川(おがわ))の三男として生まれる。やんちゃで悪戯好きな子どもではあったが、身体が弱く、寝込むことが多かった。外を駆けまわれず、外のことを知らない弟を気の毒に思った長兄・竜大(たつひろ)の童話や詩の読み聞かせにより文学に触れることとなる。



(たつ)の兄さんの読み聞かせは上手とは言えなかったが、病床に伏せる自分にとって、楽しみのひとつだった。>(「兄に思うこと」より)


<琥珀のわんぱくなところを見ると安心したものです。外を駆け回り、時にはよそ様にご迷惑をおかけすることも多々ありました。頭を下げに周ることも、父に怒鳴り飛ばされることも幾度となく見てきました。けれど、あの子が床で苦しそうにしている姿の方が記憶にこびりついている。元気になった反動で、あちらこちらに出掛けてまわっていたのでしょう。だからと言って、何をしてもいいとは思いませんけど。>(竜大「琥珀のこと」より)



 小、中、高と成績優秀者として名を連ねる。高等学校在学時、市内の学生を対象とした詩の公募に応募した「渓谷の鐘」が同郷の詩人で、選考委員であった稲田猿鏡(いなだえんきょう)の目に留まり、最優秀賞を受賞。猿鏡と交流が始まったことをきっかけに詩人を志すようになるも父から猛反対を受ける。



<その頭をもってして、なぜ詩の道へ進もうというのか理解できないと父は言った。お前の頭は飾りかと叱り飛ばされた。殴られそうになったところを、先生が身を挺して庇ってくださったあのとき、この方についていこうと決めた。>(「稲田猿鏡という詩人」より)


<琥珀君の詩は檄を飛ばすような威勢の強さがある。否が応でも背を押され、前へ進まざるをえなくなるような動的な詩。>(猿鏡「琥珀君の強さ」より)



 高等学校卒業後、猿鏡の支援もあり上京。★★大学文学部へ進学。親からの支援はなく、また慣れない地での生活もあり体調を崩してしまう。猿鏡や竜大から費用の工面はあったものの、本格的に身体が弱り、泣く泣く退学。短い在学期間ではあったが、同人誌『天籟(てんらい)』を菅間鷹峰(すがまたかみね)らと共に創刊。「継承」「明々と」「大縄」などを発表する。帰郷後、療養に専念しながらも詩を作り、猿鏡の勧めもあり▽▽新聞に「みをつくし」などを寄稿する。



<この身体の出来損ないを心底恨む。恨んで、恨んで、憎しみが募る。鷹峰君のように不自由なく歩きたいだけなのに。>(鷹峰へ宛てた手紙より)


<荒々しいのに粗雑な印象のない詩を生む。病弱な人間から生み出されるような詩とはとても思えない。いや、病に抗おうとしているから、あそこまで熱を帯びているのかもしれない。>(『天籟』第二号 鷹峰「高岳君へ寄せる」より)



 猿鏡の姪・(さち)(旧姓:木幡(こばた))と結婚。徐々に身体も回復し、一層詩作に専念する。「競争」「背比べ」「夜なべ仕事」などを発表。

 詩集『あるとき』を刊行。再び上京する。



<花火のような光と派手な音。それが彼らしい詩だ。>(『あるとき』 鷹峰「序」)



 鷹峰の紹介で千里虎太郎(せんりこたろう)と出会う。



<初めてあの高岳琥珀さんとお会いした。荒波みたいな方ではないか、怖い方ではないかと思っていた。鷹峰さんから僕のことを殴り飛ばすような人なんだとよく聞かされていたから、余計に。けれど、そんなことはなかった。無名の僕に対し、君も名前に虎を持つのか、お揃いだと心地よさそうに笑って握手してくださった。細身の身体から発せられる声ははきはきとしていて、少しばかり圧があって、見た目とは対照的ではあった。しかし、ああ、この方が高岳琥珀という詩人なのだと妙な納得感があった。(中略)僕のことをコタちゃん、コタッコちゃんと呼んでくださった。少し歳の離れた兄ができた気分だった。>(虎太郎「琥珀さんとコタ」より)


<コタちゃん様

 先日はどうもありがとう。君のような生真面目で誠実な小説家、初めて会ったよ。『松柏(しょうはく)』から見て取れる、そのままの人柄だ。今のコタちゃんは雪の重さ、冷たさを耐え忍ぶようなとても厳しい状況にあるかもしれない。そんな君は大物になれるとオレは思う。何かできることがあれば協力させてほしい。>(琥珀から虎太郎へ宛てた手紙)



 「炎の青」を発表。それから間もなくして、父・伏見と師・猿鏡が亡くなる。



<生まれの父も、詩の父も続けて亡くすなんて思わなかった。父とは最後の最後まで不仲で、葬儀に出るのも気が引けた。最期にお別れなさいと仰った先生も程なくして亡くなった。まだ教えていただきたいことがあったのに。>(「稲田猿鏡という詩人」より)



 父と師の死による心労がたたり床に臥せるも、「証」などを発表。

 詩集『暁降』を刊行。力強く、角のある作風が話題となる。

 この頃、政情が不安定となる。「先行き」を発表。不安定な世の中を憂いながらも希望を絶やしてはならないと訴える力強い作風により、とくに若者たちから支持を受ける。



<「先行き」を取り消せとお偉い方からお達しがあったが、そんなことをするつもりはない。無視をしたら、金一封をやるから詩を作れと掌を返してきた。どうも民人の憂いの矛先を変えたいらしい。そんなプロパガンダに屈してなるものか。>(「先行きの先行き」より)



 詩集『槌の音』を刊行。

 詩集『開けた解』を刊行。

 「桃源郷」を発表。桃源郷事件が起きる。以降、琥珀は帰郷し、実家の家業に携わり、文壇から離れることとなる。


 療養しながら竜大と店を支え続けるも心身の疲労により、琥珀の体調は悪化。発作が起き、一週間ほど生死を彷徨うこともあった。祥や竜大からの強い勧めにより療養に専念するも、医師から完治の見込みもなく、薬で症状を和らげることしかできないと告げられる。



<それならば、あとは待つのみ。昔、鷹峰君と△△へ行ったときのことをふと思い出した。都会の喧騒とは程遠い、静かな場所。空気が綺麗だった。あそこで最期を迎えたい。数少ない穢れのない記憶の場所だから。>(琥珀の日記より)



 祥と共に△△へ引っ越し、再び詩を作る。以前とは異なり、子どもに向けるような平易な言い回しの軽やかな作風の詩や自然の美しさを讃える繊細な作風の詩を作る。

 「子狐のご挨拶」を発表。

 一九×▼年八月九日死去。享年五十九歳。生前最後に発表された詩にちなみに、忌日は子狐忌と命名される。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ