「銀に咲く花」完成
やっと納得のいく詩にできた!
本当に、本当に長かった。「銀に咲く花」を整えることができた。一度は形にできたと思っていたが、もっといいものにできた。
本当だろうか。他人からの評価を欲しているわけではない。自分の目の届く範囲に留めるつもりだ。
けれど、少しだけ、この詩を見てほしいと思う。オレをよく知る彼らに。期待を裏切るようなことをしてしまったから。
(一九×◎年十二月一日)
ゲンに見せた。むむむと唸っていて、やはりゲンには難しかったと思う。
ただ、ひとつひとつ音を読み上げる様は理解しようとしてくれているようだった。
これはどういう意味、どんなことを言っているの、と訊いてくる。説明してやれば、またむむむと。
しばらく床に転がっていたが、外の雪景色を見ると、ああ、と表情を和らげた。
冬でもお花は咲くもんね、と。
そうだと答えれば、銀色のお花、空の向こうにも花畑があるのか、と。
(一九×◎年十二月二日)
年末が近かったと思う。琥珀さんから手紙が届いた。近況やこちらを気遣う内容の手紙と一緒に詩が一篇。「銀に咲く花」という詩。手紙には詩のことは一切なかった。
同封された詩の印象は清冽。凍てつく冬の世界の気高さを感じる一方、花の目覚める様の時の流れは緩やかで温かみがある。冷徹な描写は以前の琥珀さんらしい面影を感じつつも、読み終えた後はゆるゆると落ち着くような安心感がある。
ああ、時を経たのだなと思った。前にも思ったが、今回は違う。使い込み、馴染んだ革製品のような趣がある、時の感じ方。とても素敵だと本当に思った。
(虎太郎「琥珀さんとコタ」より)
琥珀君から手紙が届いた。手紙というか、詩。詩が書かれた便箋が入っているだけだった。以前にも送られた「銀に咲く花」を改めたもの。
ただそれだけ。僕は詩を読んだ。
見事だと思った。深い、深い息をつくほどの出来。前は安直な言い回しでがっかりしたが、彼が本来書き上げたかった詩はこれなのだろうと思う出来。
読み終えて思った。これは彼からの挑戦状だったのだろう。この詩以外の中身は不要、読めばわかるだろうと突きつけてきたようだった。
挑戦状に対する返事をすぐに用意しなければ。
(鷹峰の日記より)
改められた「銀に咲く花」を読んだとき、私はとても嬉しかった。琥珀が前に進むことができたのだろうと思えたから。あの子の傷が完全に癒えたわけではありませんが、迷いながらも進もうとする強さが現れていたように思うのです。
(竜大「琥珀のこと」より)
父から詩が送られてきた。自然と涙が零れてしまった。遅くまで詩作に耽る父の背中や横顔がよぎる。この詩もそうして生まれたのだろうと。重い枷を引きずりながら、それでも着実に進もうともがいた跡が見られる。
もう詩は作らないと告げた父の覚悟に満ちた声を思い出す。あの覚悟を覆すことに抵抗があっただろうことは五月に会ったときに感じた。だから、この詩の重みがより一層増す。
よかったと心の底から思う。本当に。
(琥志朗の日記より)
「銀に咲く花」を送った皆から返事が届いた。どれも嬉しい言葉ばかりだった。
(中略)
鷹峰君からの手紙は手紙と言っていいものか。届いたのは封筒だけ。
言うことは何もないという意味か。最高の褒め言葉と受け取るか、批評することすらないという突き放しか。
前者だとは思う。君ならオレの意図をわかってくれただろうから。
からっぽおてがみ(※)
空っぽではなかったよ。
(一九×□年一月十日)
(※)ゲンに書かれたもの。