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第5話 やや完璧執事ジョバンニ

 カンパニーレ領へむかう馬車は、街を抜け、村を抜け、森の中を走っていた。

馬車の中、無言で座っているのは、わたしとメイドのマリア、そして侯爵の執事の三人。

三人?

そう、三人だ。

肝心のカンパニーレ侯爵はいない。




――時間は午前三時課(午前九時)に戻る。


 クレメンティ伯爵邸に、カンパニーレ侯爵の馬車が到着した。

クレメンティ伯爵家一同、玄関ホールに集まり馬車から降りてくる方をうやうやしくお迎えしていた。

馬車から降りてきたのは、黒髪で長身の男が一人。

服装からして執事に見えるが、カンパニーレ侯爵はどこだろう。


「クレメンティ伯爵、初めまして。

わたくしはカンパニーレ侯爵の執事をしておりますジョバンニという者です」


「うむ、バトラー・ジョバンニ、初めまして。

わたしがパウロ・クレメンティだ。

して、カンパニーレ侯爵はどちらに……」


「旦那さまは、やんごとなき急用にてお迎えにあがれません。申し訳ございません」


「やんごとなき急用とは、結婚契約よりも重要な用事があるのですかな?」


父は不満そうに執事ジョバンニに詰め寄った。


「大変申し訳ございません。領内のまつりごとにつき、詳細は控えたく存じます。

わたくしが全責任を取って、無事にお嬢様をお迎えいたしますのでご安心ください。

旦那様からもくれぐれもよろしくとのことでした」


父は狼狽している。

姉はあきれかえっている。

弟はあっけにとられている。

母は……、母はきっぱりと発言した。


「契約内容を確認しなければ、家としてはサインしかねます」


「はい、もちろん承知いたしております。

こちらが、カンパニーレ侯爵から預かってまいりました結婚契約書です。

どうぞ内容をご確認ください」


何が書かれているのか、わたしにはわからないけど、

おそらく、領地のこととか持参金のこととかが書いてあるのだわ。


「うむ、カンパニーレ侯爵と話し合った内容と同じである」


「ならば、あなたサインするしかないわね」


母に促されて、父は契約書にサインをした。


「では、参りましょう。じゃないほうの…、失礼、モニカお嬢様」


言い直したわ、この執事。

わたしはそれを聞き逃さなかった。




――こうして、わずかばかりの荷物を積み、メイドのマリアとわたしは、寡黙な執事と対面する形でずっと馬車に揺られ続けている。


 何も話すことがない。

メイドのマリアが気を利かせて、天候の話を切り出しても、

この執事は「はい」とか「ええ、そうですね」しか言わない。

余計なことは言わないように躾けられているのだろう。

会話が続かない。

これでは間が持たない。


この空気に耐えられないわ。


わたしから勇気を振り絞って話しかけてみた。


「あの、馬車に長時間乗りことに慣れていなくて、

すこし気分が悪いのですが、どこかで休憩をとれませんか?」


マリアが驚いて、心配してきた。


「お嬢様、大丈夫ですか? あら、まあ、それはいけませんわね。

バトラー・ジョバンニ、どこかでお嬢様を一旦降ろしてくださいませんか?」


「この森で?」


「はい、いますぐ降ろしてください」


「この森では、ダメです。オオカミが出ます」


「ひえっ! オオカミ?!」


ありがとう、マリア。

どうやら、この森を抜けない限り休憩は無理っぽいわ。


それにしても、どれだけ遠いんでしょう。

辺境の地に移動するだけで弱音を吐くなんて、数いた婚約者の中でも、こんな弱々しい婚約者はいなかったでしょうね。

皆さん、立派だわ。

それとも、何人か弱音を吐いた者がいた?

何度も婚約者を迎い入れるたびに、女性からこんな弱音を何度も聞かされて、この執事は慣れてしまっているに違いない。

だから、馬車の中でも無言なのだわ。

必要最小限度の会話しかしない。

事務的に任務を遂行するだけ。

カンパニーレ侯爵に信頼されている完璧な執事なんだわ。


でも、じゃないほうの令嬢と言いそうになって、あわてて訂正したことを除いてはね。

だから、完璧じゃない。

やや完璧な執事ジョバンニよ。


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