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社会問題

ルールハッカー ビッグモーター事件から見る、創業者の蹉跌

作者: せいじ

 おおよそ、ビッグモーターが何をやったのか、その構造も見えてきました。


 その一方で、ビッグモーターをいくらかですが、擁護する声も出てきたので、総括する意味で考えを書きます。

 

 ビッグモーターの行為は、地方の中小企業が大きくなる過程で起きたことであり、実はそう珍しいことではありません。

 地方の小さな会社を大企業になるまで大きくしたのだから、まともなやり方でそんなことを出来るはずがないからです。

 その意味で創業者は優秀でありますが、結果から見ると無能でした。


 どうしてかといえば、企業が大きくなる過程で会社の構造を大企業らしく変革し、今までのビジネスの概念を変えなければいけなかったからです。


 ビッグモーターはそれをせずに、イケイケの創業者精神で無理やり進もうとした結果、ありとあらゆる場面で不正が横行しました。

 次から次へと、不正と内部告発の山でした。

 

 これは中小零細企業、いわゆるオーナー企業のやり方をそのままやった結果であり、いわゆるコンプライアンスやガバナンスの問題になりました。

 まだ事件化されていませんが、いずれ詐欺事件に立件されるでしょう。

 立身出世の人が、詐欺師扱いされるのです。


 会社ぐるみで不正をやり、しかも大手損保会社も巻き込んだ大型案件になります。


 どうしてこうなったかと言えば、そもそも無理に会社を大きくしようとすれば、ルール順守ではとても出来ず、ルールハックするしかありませんでした。

 そんなことをすれば、いずれ問題になりますが、そんなことを言っていたら会社は大きくなれません。

 東京佐川急便事件も同じです。

 佐川急便も新興勢力であった頃、大規模化や全国展開を急ぎました。

 そして念願叶って、全国流通網を自社で展開出来たのです。

 だが、佐川急便が全国制覇した勢いを落とすことが出来ず、そのまま行きつくところまで行きついきました。

 会社が大きくなる過程で様々な違法行為もあり、詐欺的行為もあったので後に裁判となり、佐川側が敗れました。佐川急便が、相手に莫大な賠償も支払いました。

 裏社会や政治と繋がり、膨大な資金を流していたことも問題となりました。

 しかし、そうは言っても佐川急便は、今や押しも押されぬ大企業に発展しました。


 それこそ、会社が大きくなってしまえばこっちのモノであり、その後仮に法的に問題になったとしても、東芝不適切会計事件同様にせいぜい罰金で終わりでした。

 何か問題があってもカネで解決できる、そんな存在になったのです。


 しかも、ビッグモーターは株式を市場で公開していないので、株主訴訟も考える必要な無く、何をしても許されると思ったのでしょう。というか、問題を言う者は、存在しなかったのでしょう。

 そもそもルールはハックするものであると思うのが、こういったイケイケ創業者なのだから、その意味では確信犯と言えます。

 真面目にやってても、大きくはなれないぞが、こういった創業者の考えですから。

 真面目な奴は、ダメな奴であるとレッテルを貼られます。


 しかも、創業者に付いてこれない人をどんどんパージし、残るのはお茶坊主的な人やおべっかがうまい人のみとなります。

 口がうまく、成果は自分のモノ、責任は他人に押し付けることがうまい人も、恐らくはいたはずです。

 見ているのは顧客とか社会ではなく、経営者の顔色のみでした。

 そんな相手とビジネスするんだから、いくら損保会社が大手であっても、かなりしんどいはずです。


 ビッグモーターと損保会社はずぶずぶの関係と言われますが、実際はそう簡単ではありません。

 損保会社を互いに競争相手とし、潰し合いを演出するのも、こういった創業者の得意技だからです。

 これだけ物価が高騰しているのに、下請けに圧力をかけて値段を叩いている話も、そこかしこで聞きます。


「いい商品を安く仕入れることの、何が悪い?」


 彼らはそう嘯きますが、そのいい商品を安く売ろうとする者がいい人かは、また別の話になるからですし、良心的な下請けが、真っ先に消えてしまうからです。


 シェアを取るためにあえて高い商品を格安で出荷し、その後値段相当に品質を下げて顧客と揉めるなんて話も、よく聞きます。

 その間に挟まれて、営業さんが両方から叩かれているのを見たことがありますが、そういった会社の経営者も、ビッグモーターの前の副社長と似たような性格をしているものです。

 何とかしろ!

 ノルマを達成しろ!

 手段を選ぶな!

 

 そしてそういった会社の社長は、意外にも地元では名士であり、地元で講演会をしては偉そうに話しているそうです。

 コンプライアンスやガバナンスの大切さを、地元住民や関係者に切々と語っている一方で、社員を過労死寸前まで追い詰めています。

 地域のボランティアを社員にやらせて、それを自慢している経営者も居ます。しかも手当は、弁当一個と。

 さすがに今は無いでしょうけど、昔はよく聞きました。


 サービス残業、サービス休日出勤と、色々です。

 一ヶ月に100時間残業しても、手当ゼロなんてよくある話でした。

 だからこそ、残業規制、働き方改革、コンプライアンス、ガバナンスとやかましくなってきたのですし、それが2024年問題となったのです。

 行政がどうして、ここまでやるのか?

 ほっといたら、経営者が何をするか分からないからです。


 そしてこれらが表面化し、行政が乗り出して初めて、この会社の社長は実は無能だったと証明されたのです。

 多数の犠牲者を出して、やっとの対応なんです。

 その頃には、すでに手遅れなんですが。

 

 

 では、ビッグモーターはどうすべきだったのか?


 株式を公開し、かつ社内の風通しを良くすることでした。


 簡単に言えば、創業者一族は経営から完全に手を引き、株主として遠くから見ていれば良かったのです。出来れば、株も手放すべきですが。

 

 彼らはそれが出来ず、ただ中小零細企業の気分で中古車市場のシェアを荒らし、ルールハックするような無茶をすることで、かえって優秀な社員をパージしてきたのです。


 実際、ビッグモーターでも優秀な社員は存在し、彼らの営業成績は非常に良く、顧客からも絶大な信頼を得ていたそうです。


 そのやり方をすればよかったのですが、それが出来るのはごく一握りでした。

 しかし、その一握りを基準としたところに、問題の根っこがあります。

 誰でも大谷翔平のようには出来ないはずですが、経営者は誰でも努力すれば大谷のように出来るはず、出来ないのは気合が足りない、頑張ろうとしていないだけだと叩きにきます。


 我が社に、無能は必要無いと。


 本当のところ、経営者が無能なだけなんですけどね。

 

 それでも現場は、経営者の無茶な要求をなんとか埋めようとしました。

 ゴルフボールを自動車にぶつけて傷をねつ造したり、架空の売買契約をでっちあげたりと、詐欺的行為をしたと考えられますが、経営者は現場で何が起きているのか理解していませんでした。

 むしろ、よくやったと思ったかもしれませんが、その意味を彼らは最後まで理解出来ませんでした。

 これで数字上、経営者の要求に応えたことになるからです。

 そして数字を出せば、よくやったとお褒めに預かれるのです。


 そうだとすると、真面目にやる方が愚かになりますし、それでもルールハックすることに耐えられない人はとっくに辞めるか自殺をしているでしょう。過労死、あるいは過労自殺として。

 ちなみに過労死は、国際的な学術用語として登録されているそうです。

 KAROSHIと表記されるそうです。


 そうしてことを踏まえて結論から言えば、達成不可能なノルマを部下に課すこと自体、経営者が無能だったとそういうことになります。

 それを無理やり数字合わせし、犯罪まがいのことで何とか丸めたのです。

 先の大戦の時の、日本軍のように。


 兵士最高、指揮官無能は、日本のお家芸だからです。


 似たような事件としては、かんぽ生命事件がありました。

 これも失敗する企業の典型的な構造があり、上と下とのコミュニケーションの断絶が、あのような事態を引き起こしました。


 そのかんぽ生命問題から、ビッグモーターの経営陣は学ぶべきでした。


 だが、彼らは学ぶことが出来なかった。

 むしろ、かんぽ生命何て上が無能だからそうなった、自分たちは違うとすら思ったでしょう。

 自分たちは優秀である、自分たちは他の人とは違うと。


 いや、ビッグモーターの創業者はすごい存在だと。


 テレビのスポンサーになっていたのですから、ペコペコ頭を下げる人も沢山いたはずです。


 これでいい気にならなければ、逆にその人はおかしい人になるからです。


 それを疑いも無く受け入れたのだから、ただの思い上がりであり、やっぱり無能でした。


 そうならない為にも、褒められれば褒められるほど、自分を疑わないといけないからです。


 自分たちの無能ぶりを部下のせいにし、次々にパージすることで恐怖政治的な統治を行い、その結果、お互いに疑心暗鬼となり、街路樹に枯葉剤を撒くようになったのです。


 それが何を意味するのかを考える余裕は一切なく、教祖に成り果てた経営者やその取り巻きの顔色を窺うことこそ、会社の為、ひいてはこの社会の為と錯覚したのです。



 風通しの悪い組織では、有り勝ちな問題でしょう。


 日本では、特に珍しいことではありません。


 検察だって、人を罪に陥れる為に、証拠をねつ造するぐらいなんですから。


 それが発覚したのが郵便不正事件であり、その結末は、検察幹部の逮捕であり、裁判では彼らは有罪判決を受けました。

 

 検察が検察を捜査するなんて、ブラックジョークも甚だしい話ではありませんか?


 ビッグモーターをスケープゴートにして終わる話ではないと、私は結論付けました。


 これは日本の一種独特の文化の問題であり、この事件を反省して制度をいくらいじっても、またルールハックする者が現れるでしょう。


 そして犠牲者が多数出て、もはや手遅れになってから初めて、問題を認識します。


 そしてまた、スケープゴートを仕立てて、安心するのでしょう。


 あいつらは異常だと。


 いえいえ、彼らは全然フツーです。




 フツー過ぎるからこそ、こうなったのでしょう。 

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