表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺戮學園逝徒會畸譚  作者: 坐久靈二
第四章 殺戮學園と一つの大事業

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/80

第七十一話 假藏學園決戦

 自分の人生を振り返った時、思わぬ人物が援けとなり、妨げとなった。人の縁とは実に奇妙な物である。


――大学教授・将屋(しょうや)文殊(もんじゅ)

 假藏(かりぐら)學園(がくえん)の校舎の中から、一人の華藏(はなくら)女子生徒と一人の大人が校庭の様子を窺っている。二人は視線の先で繰り広げられる喧嘩、というよりも死闘に身を投じる四人、いや五人の身を案じていた。状態としては一人を多人数で囲んでいるのであるが、それは宛ら大型の肉食獣を相手にしている様に思われた。


「先生、大丈夫でしょうか?」


 小柄な彼女は、連れ立って姉妹校を訪れた級友を、囚われていた先輩を、先日まで共に旅をした二人の假藏(かりぐら)生を、夫々(それぞれ)心配していた。


「地力では五分と五分、といった所だろう。この多対一の状況で(ようや)くそうだ。(わたし)が加勢すれば優位になるかも知れないが。」

「では行ってください、聖護院(しょうごいん)先生。」

(きみ)をこの場で一人にする訳にはいかんよ、戸井(とい)さん。」


 華藏(はなくら)學園(がくえん)の女子生徒・戸井(とい)宝乃(たからの)真里(まり)愛斗(まなと)假藏(かりぐら)學園(がくえん)へやって来た。しかし、以前彼女を誘拐して顔を覚えられている『弥勒狭野(ミロクサーヌ)』の群の中に彼女を連れて行くことに、愛斗(まなと)は土壇場で躊躇(ためら)いを覚えたのだった。

 合宿所の周辺で操られた不良の群を片付けた数学教師にして『裏理事会』の最高戦力・聖護院(しょうごいん)嘉久(よしひさ)が追い掛けて来たのは幸いだった。彼は戸井(とい)の身柄を愛斗(まなと)から引き受け、安全な建物の陰に彼女を匿っている。


「じゃあ、()真里(まり)達が殺られてしまったら?」

「勿論、愈々(いよいよ)となったら助太刀に入る。だが、それは(きみ)をこの猛獣(ひし)めくサバンナの中に置いて行くことになるし、それでも間に合うとは限らない。現に、先刻(さっき)仁観(ひとみ)(きみ)達が助けに入らなければ真里(まり)(きみ)は確実に殺られていたしね。(わたし)ももう駄目かと思ったよ。」


 聖護院(しょうごいん)は掌に小さな光の塊を握り締めた。


「勿論、同じ過ちを犯さないように今度は援護の準備をしておくがね。しかし、(きみ)を匿っているこの場所が奴等に見つかってはいけないからこの程度の小さな力しか発揮出来ない。基本的には、彼らに独力であの怪物を(たお)して貰わなければならないんだ。」


 唯一点を見詰める戸井(とい)とは異なり、聖護院(しょうごいん)は周囲に満遍(まんべん)無く警戒の眼を向ける。この場は『弥勒狭野(ミロクサーヌ)』の(たむろ)する巣窟であり、今や彼らは闇の眷属の傘下に付いた獣の群である。


真里(まり)……。」


 戸井(とい)愛斗(まなと)の名を呟いて身を案じることしか出来なかった。




☾☾☾




 爆岡(はぜおか)義裕(よしひろ)の巨拳は殆ど砲丸であり、それが銃弾の様な速度、機関銃の様な連射で襲ってくるのである。その殺人的な攻撃に、今対処しているのは(もっぱ)仁観(ひとみ)嵐十郎(らんじゅうろう)である。


「はぁ……。相変わらずしんどいな……。」


 万全でも張り合うのが精一杯の爆岡(はぜおか)相手に、満身創痍の仁観(ひとみ)は気力で縋り付く。彼は爆岡(はぜおか)を相手にしている面々の中で、唯一彼の拳を受ける事が出来る強者だった、それでも。


襤褸々々(ボロボロ)の癖に、よく頑張るじゃねえか、仁観(ひとみ)よ。だが果たして何時(いつ)迄続くかな? てめえのその無駄な努力は……。」


 雨霰(あめあられ)の様な爆岡(はぜおか)の拳に、仁観(ひとみ)は一身で対処し続ける。他の三人に向けさせないのは当然の対策だった。真里(まり)愛斗(まなと)相津(あいづ)諭鬼夫(ゆきお)将屋(しょうや)杏樹(あんじゅ)(もっぱ)ら彼を援護すべく、遠巻きに爆岡(はぜおか)の隙を窺っている。特に、先行して彼と戦っていた愛斗(まなと)憑子(つきこ)はある程度戦いのペースに慣れてきており、仁観(ひとみ)に次ぐ要となるだろう。


「ぐぁっ‼」


 拳を弾いた仁観(ひとみ)の腕が痺れている。爆岡(はぜおか)はその隙を逃さず、強烈なボディブローを突き刺してきた。


「ごえェッ‼」

「本当に、身の程知らずだよなぁッ‼ 一昨日(おととい)(おれ)の攻撃を防ぎ切れたのかァ? 出来てねえからつい先刻(さっき)迄てめえはこの場で無様晒してたんだろォが‼」


 そう、仁観(ひとみ)といえども、その気になった爆岡(はぜおか)の攻撃を全て往なすのは至難の業である。しかしそれでも、この圧倒的強者に対応出来るのは彼だけである。他の面子では、攻撃を貰うだけでも致命傷になるのだ。耐えられるだけ、仁観(ひとみ)の耐久力は常人離れしているのである。


「確かにな。お前の言う通りだよ、爆岡(はぜおか)。」


 仁観(ひとみ)の表情は苦痛と疲労を隠せないでいた。しかし、同時に不敵さを取り戻してもいる。それが癇に障ったのか、爆岡(はぜおか)は二・三発の追撃を仁観(ひとみ)の顔面、脇腹、そして腹に見舞った。


「ぐはっ‼」

「雑魚は雑魚らしく、負け犬は負け犬らしく卑屈な眼をしやがれ。(おれ)はてめえのそういう所が前から気に入らねえんだよ。」

「ふ、はは……。」


 仁観(ひとみ)はあくまで爆岡(はぜおか)の意に添わず、笑いを溢すと同時に殴り返した。丁度笑いに苛立った爆岡(はぜおか)が追撃を繰り出していたので、上手い具合にカウンターとなって顔面に拳が入った。


「うぐ、てめえ!」

「理解出来ねえんだよな。何で一度負けたくらいで何時(いつ)迄もそれを引き摺らなきゃいけねえんだ? 勝てなかったのはしょうがねえ、襤褸(ボロ)負けも結果を受け容れるしかねえ。でも、未来永劫其処(そこ)に留まり続ける理由はねえよ。今居る地点から前に進んで景色を塗り替えるのが人間だ!」


 爆岡(はぜおか)後退(あとずさ)ったが、大して効いていない様で、涼しい顔をして鼻を拭っている。


「景色を塗り替える? そんなへなちょこパンチでか?」

「だけじゃねえよ。だからてめえは駄目なんだ。」


 爆岡(はぜおか)はこの機を逃さずに懐に入り込んでいた愛斗(まなと)に気付いていなかった。光を纏った拳が鳩尾(みぞおち)に突き刺さる。


「ぐうぅッ⁉」

「いくら強くても一人でやることにゃ限界があるし、人の力を借りちゃいけないなんて法律はねえんだぜ?」


 仁観(ひとみ)はそう言うと自身も愛斗(まなと)に続いて光を纏った拳で爆岡(はぜおか)鳩尾(みぞおち)に追い打ちを掛ける。見事な連携により、初めて爆岡(はぜおか)に対して有効な連撃が炸裂した。


「ぐはぁっ⁉」

「ナイスガッツだ、愛斗(まなと)(きみ)‼」


 爆岡(はぜおか)は地面に膝を突き、思わぬダメージを負った事に驚愕した様に両目を見開いていた。彼は、闇の眷属にとって鳩尾(みぞおち)への被弾が大きな痛手であることを知らなかった。自らが闇の力を身に付け、愛斗(まなと)仁観(ひとみ)が光の力を使っていなければ、普通の喧嘩ならばこれ程のダメージは受けてはいなかっただろう。ここへ来て、彼の長年欲した力が徒となっていた。


「何だ……全身の力が吸われる様なこの感覚は?」


 爆岡(はぜおか)は焦燥に駆られて立ち上がる。この、自分に起きた現象に対する無知は彼にとって大きなディスアドバンテージとなってしまう。


相津(あいづ)将屋(しょうや)鳩尾(みぞおち)狙っていけ‼」


 仁観(ひとみ)の呼び掛けに、爆岡(はぜおか)は初めて脇の二人へと意識を向けざるを得なかった。その表情からは今迄の余裕に満ちた冷徹さは消え、脅威に対して引き攣っている。

 爆岡(はぜおか)は余りにも強い、強過ぎた。仁観(ひとみ)程の怪物も、愛斗(まなと)の様な膂力(りょりょく)二倍の超人も、相津(あいづ)の様な喧嘩で鳴らした常識範囲の強者も、将屋(しょうや)の様な女子も、全て等しく雑魚に見える。それ故に、仁観(ひとみ)愛斗(まなと)の様な異常と相津(あいづ)将屋(しょうや)の様な尋常の区別がつかず、仁観(ひとみ)に備わっている脅威が将屋(しょうや)にも等しく備わっていると思ってしまう。


 相津(あいづ)将屋(しょうや)を警戒する余り、顔面ががら空きになった所に仁観(ひとみ)愛斗(まなと)の連撃が炸裂。流石に強靭な肉体を持つ爆岡(はぜおか)はこの二発で倒れはしなかったものの、更に立て続けに鳩尾(みぞおち)への攻撃を再び受け、腹を抑えて悶絶する醜態を晒す破目に陥っていた。


「ち、畜生……! 一人を相手に四人掛かりで楽しいか?」


 爆岡(はぜおか)は苦し紛れに愛斗(まなと)達の多勢を非難した。しかし、それは彼に言える事ではない。


爆岡(はぜおか)、お前だってその辺で野次馬してる『弥勒狭野(ミロクサーヌ)』の連中に助けて貰えば良いじゃねえか。それに、これは勝っても負けても恨み無しの、気持ち良く白黒付ける喧嘩なんかじゃねえんだ。(おれ)達にとって、何が何でも敗ける訳には行かねえ戦いなんだ。そうしたのはお前等自身だぜ。」


 不良として、不良を超えた悪逆非道の振る舞いを(はばか)らない爆岡(はぜおか)は、必然として相手を追い込む。敗けた者を凌辱し、命を奪う事も平然と行う彼は、正々堂々とした喧嘩という()る種の容赦を望めないのだ。


(くそ)が……!」


 爆岡(はぜおか)の心に、今初めて恐怖が芽生えていた。以前、仁観(ひとみ)と死闘を繰り広げた時も、内容的には圧倒していた為、相手に脅威は覚えていなかった。しかし、今彼は初めて劣勢を予感していた。


「舐めんじゃねえぞ雑魚共が‼」


 それでも、彼は強者の自負心から自分を奮い立たせた。相津(あいづ)将屋(しょうや)を弾き飛ばしながら、仁観(ひとみ)に反撃を試みる。


「ゴオオッッ‼」

「オラァッ‼」


 再び、仁観(ひとみ)の拳がカウンターとなって爆岡(はぜおか)の顔面に炸裂した。更に、愛斗(まなと)による鳩尾(みぞおち)への追い打ち。流れは一気に傾いた。


「随分力が落ちてるようだなァ、爆岡(はぜおか)ァ‼」


 加えて、爆岡(はぜおか)の戦い初めに有った異様な腕力には陰りが見え始めていた。相津(あいづ)将屋(しょうや)を弾き飛ばした彼だが、二人は怪我をしたものの命に別状は無い。今なら、愛斗(まなと)もその拳に数発は耐えられるだろう。


真里(まり)(きみ)、どうやらあの男は闇の力を得てから日が浅く、全然物に出来ていないわ。元々の強さが異常だから苦労させられているけれど、闇の力を全て引き剥がす迄もう少しの筈。』


 憑子(つきこ)は冷静に状況を分析し、冷徹に愛斗(まなと)が採るべき立ち振る舞いを指示する。


『闇の力を失えばあの男は大幅に、闇の眷属となる以前よりも弱体化するわ。そうなったら、この場は仁観(ひとみ)(きみ)假藏(かりぐら)生達に任せて、(きみ)戸井(とい)さんと共に華藏(はなくら)學園(がくえん)に戻りなさい。』

「相変わらず勝手ですね。彼等は(ぼく)達の、貴女(あなた)の道具じゃないんですよ?」


 愛斗(まなと)は腹を立てながら、爆岡(はぜおか)に追撃を食らわせた。()(かく)、徹底的に『闇の眷属』の弱点である鳩尾(みぞおち)付近の中丹田を狙う攻撃は、爆岡(はぜおか)にとって読み易い攻撃である。

 しかし、其方(そちら)に集中すると今度は仁観(ひとみ)が顔面や、他の箇所を狙ってくる。其方(そちら)に意識を少しでも分散すると、今度は弱点の中丹田に……と、爆岡(はぜおか)は悪循環、愛斗(まなと)達にとっては好循環になっていた。


 だが、愛斗(まなと)達が爆岡(はぜおか)を追い詰める脇で、別の脅威が静かに動き始めていた。それを見付けた爆岡(はぜおか)は邪悪で猥雑な笑みを浮かべた。


「ククク、(おれ)も助けて貰えば良いと、てめえそう言ったな、仁観(ひとみ)。」


 その言葉の意味を察した仁観(ひとみ)は、慌てて後ろへ振り返った。見ると、先程間抜けを晒して校舎の屋上から落下し、硫酸溜まりを転げ回った(くろがね)自由(みゆ)が焼け爛れた衣服と肌、毛の抜けた頭部と顔を苦痛に歪ませて立ち上がっていた。


「うわ、マジか……。」


 (くろがね)の執念に驚嘆した仁観(ひとみ)だったが、この行動は(まず)かった。


「隙を見せたな、仁観(ひとみ)ィ‼」


 一瞬にして仁観(ひとみ)との間合いを詰めた爆岡(はぜおか)が顔面に強烈な一撃を叩き込んで来たのだ。仁観(ひとみ)は激しく地面に頭を打ち付けられ、ボールの様に跳ねた。


仁観(ひとみ)先輩‼」

「ガハハハハ‼ 集中を切らしちゃいけねえよな‼ (おれ)もてめえらの様な雑魚に調子付かれてほとほと思い知ったぜ‼」


 形勢を逆転して調子を取り戻した爆岡(はぜおか)は、そのまま愛斗(まなと)へと猛威を向ける。


「くっ‼」

「眠りなこの餓鬼‼」


 爆岡(はぜおか)の巨拳が愛斗(まなと)に襲い掛かる。が、その時相津(あいづ)将屋(しょうや)爆岡(はぜおか)の脇腹に白く光る拳を叩き込んだ。


「ヌッ?」

「やべえ、効いてねえ……!」


 辛うじて危機を免れた愛斗(まなと)だったが、これも(まず)かった。相津(あいづ)将屋(しょうや)の攻撃に何ら脅威は無いと爆岡(はぜおか)に気付かせてしまったのだ。


「何だ、(おれ)に通るのは矢張(やは)仁観(ひとみ)とチビ餓鬼の二人だけかよ。てめえらは所詮蟲螻蛄(むしけら)だった訳だなァ‼」


 爆岡(はぜおか)は両腕で相津(あいづ)将屋(しょうや)を振り払った。


(くろがね)、てめえも加勢しろ‼ 二対二だ‼」

「おうよ……。」


 (くろがね)はふらつきながら爆岡(はぜおか)の呼びかけに応え、立ち上がった仁観(ひとみ)の前に立ち塞がる。


「しつけえなてめえも……。」

「決着を付けようぜ仁観(ひとみ)(おれ)達『弥勒狭野(ミロクサーヌ)』とてめえら『光の逝徒會(せいとかい)』のよ……。」


 一見、戦いは新たな局面を迎えたかの様だった。しかし、それは燃え終わる直前の線香花火に似ていた。戦局の変化は、終局へ流れ落ちる滝だった。


 決着は思いも寄らぬ形で。一気に引き寄せられる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ