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殺戮學園逝徒會畸譚  作者: 坐久靈二
第四章 殺戮學園と一つの大事業

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第六十八話 華藏學園生徒會

 われわれが追い出されずにすむ唯一の楽園は思い出である。


――ジャン・パウル

 華藏(はなくら)學園(がくえん)合宿所。この二つの建屋の近くに、山道に通じる立ち入り禁止の札が在る。全てはこの場所で始まった。

 真里(まり)愛斗(まなと)憑子(つきこ)戸井(とい)宝乃(たからの)の前に立ち塞がっている二人の生徒會(せいとかい)役員、基浪(もとなみ)(けい)砂社(すなやしろ)日和(ひより)は一連の事件に於けるかなり早い段階での被害者である。が、同時に二人とも『闇の逝徒會(せいとかい)』に与し、學園(がくえん)に厄災を及ぼす尖兵にもなっていた。


「二人とも、様子がおかしいですね……。」


 基浪(もとなみ)砂社(すなやしろ)は紫の闇を(まと)い、虚ろな眼で力無く山道の前に立っていた。


『どうやら闇の眷属ではなく、操り人形にされてしまった様ね……。』


 憑子(つきこ)の推察を聞き、愛斗(まなと)は電気街で(くろがね)に操られた人々の事を思い出した。彼等は自らの意思に依らず爆弾として破壊行為に利用され、殺された。それと同じ様に、操り手の気分次第で何時でも無残な最期を強いられる立場となった二人に、愛斗(まなと)は憐れみを覚えた。


「嫌な気分になるよ、無限に……。」


 愛斗(まなと)にとって、この二人は決して好ましい先輩ではない。生前は憑子(つきこ)の腰巾着となって、散々愛斗(まなと)に対して嫌がらせの片棒を担いできた者達だ。だが、彼は何時かと同じ思いを強く胸に抱いていた。


 命を奪われ、他人としての尊厳を辱められる、そこまでの謂れが在ったのか。――(かつ)て、愛斗(まなと)は自分を虐めていた二人が生首を晒された時、そう感じた。自分にとって不当な迫害を加えた忌むべき人物であろうと、過剰な不幸に襲われれば胸を痛めるのが、真里(まり)愛斗(まなと)という少年だった。


(わたし)の下で()く働いてくれた優秀な人材を生かす気も無く使い捨てにするなんて、あの女に人の上に立つ資格は無さそうね。』


 憑子(つきこ)の声には強い不快感が滲んでいた。愛斗(まなと)と比べ、彼女にとっては二人とも良き友人だった筈だ。だが、今更揺れる様な彼女でもない。


『まあ、遠慮する事も無いわよ、真里(まり)君。今は(きみ)も、戦う力を身に着けている事だしね。遠慮無く、死んだ彼等を在るべき姿に戻してあげなさい。』

「そう仰ると思いましたよ。ま、(ぼく)もこの二人に遠慮するつもりは更々無いですけどね。」


 愛斗(まなと)はそう言うと、戸井(とい)を庇う様に基浪(もとなみ)砂社(すなやしろ)と向き合った。二人の先輩は無言でゆっくりと近付いて来る。


戸井(とい)、少しだけ離れていてくれ。必ず守り切るから。」

「大丈夫。(わたし)真里(まり)の事信じてるよ。」


 戸井(とい)はこれまで、愛斗(まなと)竹之内(たけのうち)父娘を相手とする訓練で必死に食らい付く様を見てきている。その信頼を、愛斗(まなと)は背中越しに感じていた。


「因みに、電気街の時みたいに會長(かいちょう)の力で一気に彼等を解放することは出来ませんかね?」

『無理ではないけれど、余り多用する訳にはいかないわね。あの時も解ったと思うけれど、力を解放するのも結構疲れるのよ。最悪、(きみ)諸共意識を失ってしまいかねないわ。』

「じゃあ、当面は(ぼく)だけでどうにかするべきだという事ですね。」

『どうにもならなくなれば流石に介入するわよ。でも、当てにはしない事ね。』


 加えて、敵の華藏(はなくら)月子(つきこ)がそれを想定していない筈が無く、ある程度の対策はされているのだと思った方が良いだろう。()しくは、操り手が(くろがね)自由(みゆ)華藏(はなくら)月子(つきこ)かで(もや)(はら)う難易度も変わるだろう。


『来るわよ、真里(まり)君!』


 基浪(もとなみ)が勢い良く跳び掛かって来た。彼は優等生でありながら体も鍛えている文武両道の生徒で、以前は蹴りで假藏(かりぐら)學園(がくえん)(ほこら)を破壊している。その身体能力に任せた拳、蹴りの速度、威力は脅威だ。

 愛斗(まなと)基浪(もとなみ)の攻撃を腕で受け流しながら、その力を分析する。


(操り人形になって、眷属だった時よりも弱体化しているかと思ったが、そういう訳でもなさそうだ。)


 とは考えつつ、対応や反撃が不可能な程の強さではないとも感じていた。慣れてくると直ぐに敵の隙も見えてくる。


此処(ここ)だ!」


 愛斗(まなと)基浪(もとなみ)の攻撃を往なし、反撃を試みる。手に白い光を(まと)い、会心の一撃を狙う。だが、ここでもう一人が横槍を入れてきた。


砂社(すなやしろ)先輩……!」


 もう一人の敵、砂社(すなやしろ)の介入によって愛斗(まなと)は見す見す反撃の機会を逃してしまった。そして、ここからの攻防には彼女も加わってくる。基浪(もとなみ)(けい)砂社(すなやしろ)日和(ひより)、この二人を相手取った二対一の状況には以前も辛酸を()めさせられていた。


(とはいえ、別に無茶でもないな。砂社(すなやしろ)先輩の方は全然大した事無いし。)


 基浪(もとなみ)と異なり、砂社(すなやしろ)は元々単なる一女子生徒に過ぎない。運動神経は悪くなく、丸切(まるき)りガリ勉の生徒という訳ではないが、所詮は一般的な女子である。基浪(もとなみ)と比べれば全然戦力にならない。

 それに、愛斗(まなと)は抑も基浪(もとなみ)の方も特に問題としていなかった。矢継ぎ早に繰り出される二人の攻撃だが、愛斗(まなと)は変わらず冷静にあしらい、隙を窺っている。


(はっきり言って、訓練の方が遥かにキツイよ。)


 繰り返すが、愛斗(まなと)はこれまで数日間だけとはいえ戦いの為に訓練された裏理事会の人間と組手を行っている。それも、二対一である。基浪(もとなみ)砂社(すなやしろ)は確かに紫の闇を(まと)って強化されている様だが、それでも夫々(それぞれ)の力は竹之内(たけのうち)父娘に及ばない。


「そこだ‼」


 今度こそ、愛斗(まなと)の攻撃、掌底が基浪(もとなみ)砂社(すなやしろ)鳩尾(みぞおち)を捕らえた。闇の眷属にとって弱点となる部位への正確な攻撃。二人の敵は言葉にならない呻きを上げて悶絶して後退る。


『どうやら(わたし)の出番は無さそうね。このまま一気に押し切ってしまいなさい。』

「言われなくてもそのつもりですよ、會長(かいちょう)!」


 愛斗(まなと)は一気に攻勢に出る。会心の一撃が入った事で、基浪(もとなみ)砂社(すなやしろ)は大きく隙を晒していた。形勢は一気に傾き、一方的な展開になる。攻防が続けば愛斗(まなと)の攻撃が敵を捕らえる回数も増え、相手の動きが鈍くなって更に優勢となる。好循環の中にいる愛斗(まなと)だったが、それすらも終わりが近いと予感していた。


『後に三発も入れば二人とも(たお)れるわよ‼』

「その様ですね‼」


 このまま、早くも愛斗(まなと)の勝利は目前である、かに思われた。

 しかし、此処(ここ)華藏(はなくら)學園(がくえん)が最早敵地である事、敵が死亡した人材を再利用している事を考えると、決して楽観視は出来ない筈だった。何より、愛斗(まなと)は今、戸井(とい)を護りながら戦っているのだ。


真里(まり)‼」


 愛斗(まなと)の背後から、その戸井(とい)の悲鳴に似た呼び声が聞こえた。慌てて振り向くと、そこには一人の男に取り抑えられている彼女の姿が在った。


戸井(とい)(くそ)、そうかあいつも居たか‼」


 戸井(とい)を捕らえたのは生徒ではない。唯一、教師として『闇の逝徒會(せいとかい)』と関りを持ってしまった人物、国語教師・海山(みやま)富士雄(ふじお)だった。


『どうやら海山(みやま)先生も操り人形になっている様ね。迂闊(うかつ)だったわ。完全に存在を忘れていたもの……。』


 酷い言い草の憑子(つきこ)だが、愛斗(まなと)も今回は他人の事をとやかく言えなかった。護るべき対象から目を離してしまったのは愛斗(まなと)自身の落ち度である。

 更に、戸井(とい)に気を取られてしまった事で愛斗(まなと)に大きな隙が出来てしまった。


真里(まり)君、後‼』


 憑子(つきこ)の呼び掛けで、どうにか愛斗(まなと)は後から不意打ちを仕掛けてくる基浪(もとなみ)に気付き、辛うじて攻撃を(かわ)す事が出来た。だが、愛斗(まなと)は一気に劣勢に追い込まれてしまった。人質を取られた以上、迂闊(うかつ)に攻撃できないのだから当然である。


(参った。どうにかして海山(みやま)先生から戸井(とい)を助け出さないと話にならないぞ。)


 愛斗(まなと)基浪(もとなみ)砂社(すなやしろ)の攻撃は一先ず最低限の注意を向け、戸井(とい)の救出に注力する事にした。恐らく、海山(みやま)は二人に比べて戦力にならないのだろうという見込みが在る。だからこそ、不意打ちの様に戸井(とい)を人質に取る役目を担っているのだろう。


會長(かいちょう)、少し手伝って頂けますか?」

『仕方無いわね……。』


 愛斗(まなと)は周囲の状況を見渡し、憑子(つきこ)が体の外へ出て姿を(あらわ)すタイミングを見計らう。


(単純に、一瞬間合いを大きく取った方が良いな。)


 基浪(もとなみ)愛斗(まなと)へ剛腕を振るってきた。これをチャンスと捉え、愛斗(まなと)は腕で衝撃を受け止めると同時に、二倍の脚力に任せて大きく跳び退いた。ほんの少し、五人の中で孤立した位置取りへと上手く自分の体を運ぶ事に成功し、憑子(つきこ)に呼び掛けようとする。

 尤も、声を発する前に憑子(つきこ)愛斗(まなと)の身体を飛び出して白い(もや)華藏(はなくら)月子(つきこ)の姿を(かたど)っていた。


『浅薄な(きみ)の思惑が(わたし)に読めないとでも?』

「一々言い方が刺々しいんですよ、會長(かいちょう)。」


 憑子(つきこ)から白い光が溢れ、辺りを包み込む。基浪(もとなみ)砂社(すなやしろ)、それと海山(みやま)も大きく怯んだが、操り人形状態が解除された訳ではない所を見ると、矢張り(くろがね)と違い月子(つきこ)の操縦は容易に解除できないらしい。


『思った通り、生身の身体で力を打ち込む必要が有りそうね。でも、今の(きみ)ならこれで充分でしょう?』


 憑子(つきこ)の見込み通り、愛斗(まなと)は彼女から光が溢れた一瞬の内に海山(みやま)へ間合いを詰めた。光が収まった時には憑子(つきこ)も再び愛斗(まなと)の中へと戻り、再び二倍の膂力(りょりょく)を発揮出来る状態に復帰する。

 後は、滑らかな作業である。愛斗(まなと)は渾身の力で海山(みやま)から戸井(とい)の身柄を引き剥がすと、がら空きになった鳩尾(みぞおち)に掌底を何発も叩き込む。戸井(とい)を救出するのは良いとして、この後三対一になった上に戸井(とい)を庇って戦うのは厳しいので、海山(みやま)に対しては此処(ここ)で一気に潰しておいた方が良いという判断だった。


戸井(とい)、気を付けろよ‼」


 その間に基浪(もとなみ)砂社(すなやしろ)戸井(とい)を確保しないよう、彼女へ注意を呼び掛ける。その直後に入った掌底で、海山(みやま)の身体から紫の(もや)が霧散した。彼は憑子(つきこ)による操作から解放され、単なる死体に戻った。


戸井(とい)、無事か?」

「うん、何とか!」


 愛斗(まなと)は急いで戸井(とい)を庇う様に基浪(もとなみ)砂社(すなやしろ)に向かい立ち、彼等の攻撃に応戦する。海山(みやま)(たお)した事で、二人の解放も間近だと確信が持てる。


「来い‼」


 同時に襲い来る二人の攻撃を往なし、両腕で掌底を同時に叩き込む。カウンターとなったのが功を奏したのか、それとももうダメージは充分だったのか、基浪(もとなみ)砂社(すなやしろ)を覆っていた(もや)も消えて無くなった。


『よくやったわ、真里(まり)君。』


 (もや)の晴れた基浪(もとなみ)砂社(すなやしろ)の身体はそのまま崩れ落ち、三週間前に山道で見た姿と変わらない死体として横たわっていた。


基浪(もとなみ)先輩……。砂社(すなやしろ)先輩……。」


 その傷ましい姿に、愛斗(まなと)は強烈な憐れみに胸を貫かれる感覚に襲われた。唯でさえ余りにも若過ぎる死を被った身であるのに、その死すらも利用された無念を思わないではいられない。


真里(まり)君、彼等の名誉を思って言うけれど、死んだ後に闇の眷属となった場合、西邑(にしむら)君の様に生前の人格を残している方が寧ろ(まれ)なのよ。多くの場合、蘇らせた者にとって都合の良い人格の持ち主として、生前とは無関係の意思を持って蘇るわ。』

「でしょうね。(ぼく)だって、二人が人の犠牲を顧みない程腐った人間だったとは思いませんよ。」

『当然よ。後ね、彼等は期末から新学年になる辺りでは(きみ)への当たりを強くしていたけれど、最初は寧ろ期待していたのよ。(わたし)と同じくね。』

「ええ、覚えていますよ。生徒會(せいとかい)役員として当選したての頃は、結構良い先輩達だったと思います。(ぼく)の不甲斐無さから失望させて、嫌な先輩になっていきましたけどね。その印象は変わりませんが、(ぼく)にも一定の非は有ったと思っていますよ。」


 愛斗(まなと)は思い出す。つい三週間前まで、彼等との間には辛いながらも高校生として、生徒會(せいとかい)役員としての日常が、青春があった。それを奪ったのは憑子(つきこ)の無謀な賭けだったのだろうか、それとも月子(つきこ)の邪悪な企みだったのだろうか。確実に言えるのは、今急務なのは月子(つきこ)をどうにかして元の日常を取り戻す事だ。


會長(かいちょう)、行きましょう。先ずは仁観(ひとみ)先輩を助けないと。」

『当然よ。』


 愛斗(まなと)は山道への入口の方へ向いた。このまま、(ほこら)を通って假藏(かりぐら)學園(がくえん)に急ぎたい所だ。

 しかし、愛斗(まなと)は背後に不穏な気配を感じた。戦いの最中に起きた事が頭を過り、思わず戸井(とい)の方へ振り向いた。


真里(まり)、あれ……。」


 戸井(とい)愛斗(まなと)の直ぐ後ろで無事だったが、何かに怯えるように背後を指差していた。何が問題かは明らかだった。彼等の背後から、假藏(かりぐら)寮で眠っていたと思われる大勢の不良達が黒紫の(もや)を纏って迫って来ていたのだ。


「拉致事件の時に襲って来て、そのまま眠っていた不良グループか……!」


 愛斗(まなと)は焦りを禁じ得なかった。二人相手ならばどうにかなったし、海山(みやま)一人の加勢も何とか切り抜けた。しかし、今回は数が多い。この人数で襲われては一溜りも無い。


假藏(かりぐら)に急がなきゃ……。」


 一旦、先へと逃げる。それしか選択肢が無い様に思われた。だがその時、二人に思わぬ、そして心強い救援が駆け付けた。


「安心しろ。真里(まり)君、戸井(とい)さん!」


 白衣の痩せた男が颯爽と愛斗(まなと)達の後ろに降り立ち、白い光を纏った腕を振るった。その一薙ぎで発した強烈な光を前に、操り人形となった不良の群は怯んで動けない。


聖護院(しょうごいん)先生‼」


 裏理事会最強の男、聖護院(しょうごいん)嘉久(よしひさ)華藏(はなくら)學園(がくえん)の数学教師だった彼は、生徒達と共に學園(がくえん)へ呼び寄せられていた様だ。


「二人とも、此処(ここ)(わたし)に任せ給え。蟻の一匹とて先へは遠さん。後、像の前に残して来た華藏(はなくら)生達の事は心配するな。不良達は竹之内(たけのうち)先生と文乃(あやの)君が抑えているから。」


 有難い情報だった。一先ず、生徒達の安全の為に裏理事会が動いてくれたのは大きい。愛斗(まなと)達も仁観(ひとみ)の救出に専念できる。


「行こう、戸井(とい)。」

「うん。」


 愛斗(まなと)戸井(とい)、そして憑子(つきこ)聖護院(しょうごいん)殿(しんがり)を任せ、禁域の(ほこら)へと急いだ。

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