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殺戮學園逝徒會畸譚  作者: 坐久靈二
第三章 神秘學園と一つの大願
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第五十六話 生、死、瞬間

 船は新造の乗り心サヨイヨエ、君とわれとは図に乗つた乗つて来た。しつとん、しつとん、しつとんとん。


――近松門左衛門『女殺油地獄』より。

 期しくも、『闇の逝徒會(せいとかい)』は今、攻めるには絶好の状態だった。

 二人の眷属(けんぞく)砂社(すなやしろ)日和(ひより)(くろがね)自由(みゆ)は先の『裏理事会』に対する敗戦とそれに伴う失態の仕置により、大きく力が減じており、現在恢復(かいふく)を図っている。

 そして親玉の『學園(がくえん)の悪魔』の方も、此方(こちら)此方(こちら)で取り憑いている聖護院(しょうごいん)嘉久(よしひさ)から肉体の主導権を奪うのに手間取っており、真面(まとも)に動けない。


 こういう時を見越して、悪魔は砂社(すなやしろ)に対して西邑(にしむら)龍太郎(りょうたろう)と接触しておくように指示していた。今、悪魔が動かせるのは西邑(にしむら)だけなのである。

 だが、彼は真里(まり)愛斗(まなと)への友情を超えた生前の思いから『光の逝徒會(せいとかい)』の陣営に(くみ)している二重スパイである。闇の眷属(けんぞく)でありながらそういう立場を取る彼は想定外であり、『闇の逝徒會(せいとかい)』は完全に手詰まりとなっていた。


砂社(すなやしろ)さん、西邑(にしむら)君には何と言ってあるの?』


 闇の中、苦悶の表情を浮かべる聖護院(しょうごいん)の体から噴き出た紫の(もや)が女性の姿を(かたど)り、下弦の月にも似た口を歪ませて草臥(くたび)れている砂社(すなやしろ)に問い掛ける。


「近く連絡する、その時から本格的にスパイとして活動して貰う、とだけ……。」

『つまり、現状未だ彼は動く理由が無いという事ね……。(わたし)としてはスパイ活動と言わず今直ぐにでも働いて貰いたいのだけれど……。』


 砂社(すなやしろ)の隣では、(くろがね)が怪訝そうな表情を浮かべている。自らに力を与えた主の口調が普段と違う、それが不可解な様子だった。一方、砂社(すなやしろ)の方は特に気にする様子は無い。彼女の方は織り込み済みなのだろうか。


「それが、どうも西邑(にしむら)君の方から此方(こちら)に接触したい様で……。」

『何?』


 砂社(すなやしろ)は紫の(もや)にスマートフォンの画面を見せた。そこには確かに、西邑(にしむら)からのメッセージが入っていた。

 (もや)(しばら)く考え込むように黙った。薄い(ひも)状で聖護院(しょうごいん)の体と繋がったまま、暗い部屋を徘徊(はいかい)している。聖護院(しょうごいん)は今や虚ろな目で(うつむ)いたまま一言も発しない。

 (もや)(ひつぎ)の上まで移動し、硝子(ガラス)の向こう、一糸(まと)わぬ肢体を晒し眠った様に死んでいる華藏(はなくら)月子(つきこ)(むくろ)を見下ろした。


『彼が自ら積極的に動く気になったのなら心強いわね……。』


 意味深な悪魔の言葉に、砂社(すなやしろ)のただでさえ青白い顔色が更に土塊(つちくれ)の様な色に変わっていく。赤ではなく紫色の血液が循環する死体が、生きた人間と同じように血の気が引くと、この様な顔色になるのだろう。それは、砂社(すなやしろ)()しかすると更なる失態を演じたかも知れず、また仕置きを食らう事を恐れたからに他ならない。


『それで、どう返したの?』


 砂社(すなやしろ)の体が吃驚(びくり)と跳ねた。悪魔の質問は、(まる)で彼女の恐怖を見抜いているかの様だった。こうなってはもう隠し通せない。目上の人間の質問に答えない、というのは到底許されない不徳だからだ。


(わたし)も……心強いと思いまして……此処(ここ)へ来て合流する様に、と……。」

『それはおかしな話ね。如何(いか)貴女(あなた)の失態で此処(ここ)へは(ほこら)を利用して入室する事は筒抜けになっても、解析が済まなければ自力では来られない筈。入り方を知っている(わたし)貴女(あなた)たち眷属(けんぞく)ならいざ知らず、ね。つまりその指示を出す為には、方法を彼に伝えなくてはならない。(わたし)は許可した覚えが無いのだけれど?』


 紫の(もや)が再び聖護院(しょうごいん)の体の近くに移動し、砂社(すなやしろ)へ圧を掛ける様に彼女に頭の部分を近づけた。彼女の顔は完全に恐怖に染まっている。

 だが、その恐れは一先(ひとま)ず実現しなかった。


『まあ、結果が良ければ問題ないわね。取り敢えず、彼が来るのを待ちましょうか。』


 砂社(すなやしろ)はほっと胸を撫で下ろした。悪魔が与える苦痛は想像を絶する。一度味わえば、誰もが二度と御免だと思うだろう。強靱な精神力を持つ聖護院(しょうごいん)は何度も耐えたが、それでも今や抗う気力を完全に失っている様子だ。


『今はまだ、この男は肉体の主導権という最後の一線だけ辛うじて守っている。絶命させればそれも終わりだけれど、思いの(ほか)骨が折れる。あの裏理事会の男も、中々厄介な置土産を遺してくれたものだわ……。』


 恨めしげな言葉を漏らす(もや)は、当に悪魔の様な表情を(かたど)っていた。それは丁度、あの始まりの惨劇の夜に愛斗(まなと)へ取り憑いた白い(もや)が見せていたのとよく似ていた。




☾☾☾




 日が落ち掛けている。

 愛斗(まなと)達は華藏(はなくら)學園(がくえん)の立入禁止区域、(ほこら)の前へ集まっていた。決して広い山道ではないこの場所に集まる人数としては(かつ)て無い規模だろう。


 愛斗(まなと)と親交がある華藏(はなくら)生として戸井(とい)宝乃(たからの)仁観(ひとみ)嵐十郎(らんじゅうろう)假藏(かりぐら)生として相津(あいづ)輸鬼夫(ゆきお)将屋(しょうや)杏樹(あんじゅ)紫風呂(しぶろ)来羽(くるは)は昏睡状態のまま体を運ばれてきて脇に寝かされている、そして裏理事会から竹之内(たけのうち)文乃(あやの)旭冥(あさくら)(さくら)が参加している。先の『闇の逝徒會(せいとかい)』襲撃で傷を負った鹿目(かなめ)理恵(りえ)夫々(それぞれ)理事長の大心原(だいしんげん)毎夜(まいや)假藏(かりぐら)寮で昏睡している生徒の護衛の任に就いている竹之内(たけのうち)灰丸(はいまる)千葉(ちば)陸牙(りょうが)はこの場に居ない。


竹之内(たけのうち)先生無しで大丈夫なんですか?」


 愛斗(まなと)(ほこら)の観音開きに手を掛ける文乃(あやの)に失礼を承知で問い掛けた。解析というからには、最も知識が深そうな竹之内(たけのうち)翁が行うものだと許り思っていたからだ。だが、文乃(あやの)は脇目も振らずに唯何かを呟いている。


「心配は無用ですわ、真里(まり)君。」


 代わりに愛斗(まなと)の質問に答えるのは、同行している裏理事会メンバーの旭冥(あさくら)(さくら)だった。


「初めまして、(わたし)旭冥(あさくら)(さくら)と申します。得意分野は物書きと戦闘。今回は西邑(にしむら)先生の身柄を抑えておけなかった責任を取る意味で、御同行させて頂きますわ。」

「は、はあ。宜しく御願いします。」

「そして、『裏理事会』のメンバーにはそれぞれ得意分野がある。(ほこら)の力の解析に於いて、最も優れた能力を持つのは彼女、竹之内(たけのうち)文乃(あやの)さんなのです。」

「え、そうなのですか?」


 愛斗(まなと)が驚いた理由は二つある。先述の通り、彼はその道で最も秀でているのは文乃(あやの)の祖父・灰丸(はいまる)だと思っていた。そしてもう一つ、文乃(あやの)の戦闘技術は愛斗(まなと)自身身を以て体験している。もしあれで戦闘が得意分野ではないとしたら、それに秀でているという旭冥(あさくら)は一体どれ程のものなのだろう。


「お父さんの竹之内(たけのうち)先生は?」

「あの人の得意分野は後進の指導です。それ故に、真里(まり)君の担当に選ばれた、という訳ですわ。」


 成程、と愛斗(まなと)は納得した。確かに昨日迄の三日間、実質的に土日の二日間で、それまで喧嘩に縁の無かった愛斗(まなと)は闇と戦う力を飛躍的に付けた様に思える。それが竹之内(たけのうち)の指導の賜物(たまもの)ならば、能力評は正しく、的確な人選だったのだろう。

 だがそれでも、それを得意分野だとされる文乃(あやの)ですら今回、敵の本拠地へと(ほこら)の道を繋ぐ方法の解析は難儀している様だった。(ほこら)の中に安置された、御馴染(おなじみ)の不気味な蜘蛛(くも)型のオブジェに恭しく手を翳し、何やら反応を確かめている。


「行けそうですか?」


 堪らず、愛斗(まなと)文乃(あやの)に声を掛けた。これまでの様子から只ならぬ集中を以て事に挑んでいるというのは重々承知のつもりだが、それでもあまり悠長に待っていられず、つい性急に結果を催促してしまう。

 そんな愛斗(まなと)の心中を知ってか知らずか、文乃(あやの)は小さく息を吐いてその場を離れた。


粗々(ほぼほぼ)終わりました。後は闇の力を一定量注ぎ込めば、敵地への道は開けるでしょう。」

「では、愈々ですか?」


 痺れを切らし掛けていた愛斗(まなと)の逸る問いに、文乃(あやの)は首を振った。


「とんでもない。その『一定量』というのが曲者なのです。我々がそれを注ぐ術は、彼の体に染み付いた僅かな残滓(ざんし)に過ぎない。」


 彼、こと紫風呂(しぶろ)来羽(くるは)は未だ眠っていて起きる気配が無い。愛斗(まなと)にとって彼は鬱陶しくて近寄り難い人物であるが、巻き込まれて利用された挙句この様な境遇に陥った事には同情を禁じ得なかった。

 そんな紫風呂(しぶろ)の体に文乃(あやの)が触れ、又も何事かを小さく呟いている。旭冥(あさくら)の目付きが変わり、周囲の人間を文乃(あやの)から遠ざける。


()て、皆さん。ここから先は少々危険が伴います。というのも、今から彼女は彼の体に残留する僅かな闇の力を取り込み、自らの中で増幅させる作業を行います。どの程度必要になるかは分かりかねますが、恐らくは闇の眷属(けんぞく)と大差の無い水準となるでしょう。となると、彼女には力に呑まれ、暴走する危険がある。それを抑えるのが(わたし)の役目という訳です。」


 文乃(あやの)の手が紫風呂(しぶろ)から離れた。小さな紫の(もや)が彼女の胸に宿っている。青白い顔をした文乃(あやの)は、微睡(まどろ)みに溺れそうな様子で愛斗(まなと)に向けて告げる。


「折角集まって貰いましたが、どうやら(ほこら)を通れるのは一人ずつです。それ以上は屹度(きっと)(わたし)が保たない。ですから、この危険は先ず真里(まり)愛斗(まなと)さんに犯して貰う事になります。その他の方は、(しばら)く待って貰います。それも、力の無い人をむざむざ死なせる訳には行きませんから、真里(まり)さんの他には三名だけです。我々の仲間である浅倉(あさくら)桜歌(おうか)殿、力を持つ仁観(ひとみ)嵐十郎(らんじゅうろう)さん……。」


 憑子(つきこ)は総力を結集して適地を叩きたいと言っていた。だが、たった三人ではその目論見に適う程の戦力が集められたとは思えない。それも一気にではなく、順々に送り込まなくてはならないとあっては、各個撃破の危険も高い。


『上等じゃない。』


 しかし、憑子(つきこ)は崩れなかった。愛斗(まなと)の表情も覚悟を決めている。彼にとって西邑(にしむら)の安否はそれほど大きなものだったし、憑子(つきこ)の狙いもそこにあった。


『お(あつら)え向きに、(わたし)達は今、同じ(ほこら)の前に居る。あの夜の続きと洒落込もうじゃない。そして、全てに決着を付ける‼』


 文乃(あやの)の胸に宿った(もや)が大きく膨らんでいく。道が通じ、乗り込む時は確実に近づいている様だ。

 そろそろ流石に日が落ちる。




☾☾☾




 珍しく、その部屋の明かりは点けられ、天井や壁、床を這い廻る配管がその禍々しい姿を明瞭に曝していた。青い液体の流れる音が何故か禍々(まがまが)しく辺りを包み込んでいる。

 そんな環境下で、二人の男女に人型の(もや)、そに相対する様に一人の男が向き合っていた。


『よく来たわね。歓迎するわ、最初の眷属(けんぞく)さん。』


 華藏(はなくら)月子(つきこ)の声が天井から響いてくる。その鈴を転がす様な声色が(かん)に障ったのか、西邑(にしむら)龍太郎(りょうたろう)は眉を(ひそ)めた。


「最初の眷属(けんぞく)、か……。成程、西邑(にしむら)龍太郎(りょうたろう)があの夜の犠牲になったのは確かに生徒會(せいとかい)の面々より前だから、間違いではなさそうだ。」


 西邑(にしむら)の表情には明らかな嫌悪感がありありと浮かんでいた。考えてもみれば当然の事で、目の前に居るのは自分を殺した存在である。そんな相手に唯唯諾諾(ゆいゆいだくだく)と従っている砂社(すなやしろ)や、亡き基浪(もとなみ)(けい)の方が遥かにおかしいのだ。(もっと)も、(くろがね)(くろがね)で元々無関係な假藏(かりぐら)の人間が華藏(はなくら)の悪魔の為に進んで大量虐殺に手を染めているのだから、それはそれでおかしな話なのだが。


「一つ、これだけは言っておこう。貴女(あなた)は何でもかんでも自分の思い通りになると考えている様だが、とんだ勘違いだ。寧ろ、世の中にはどうしても儘ならぬ思いが在り、それこそが何よりも美しく愛おしいのだ。(わたし)貴女(あなた)ではなく、その優美なる感情の機微にこそ決して抗えない。」


 貶鑼々々(ケラケラ)と笑っていた砂社(すなやしろ)(くろがね)が真顔になり、異様な部屋に緊迫した空気が流れる。それを見越した上で、西邑(にしむら)は紫の(もや)に向かって言い放つ。


(わたし)貴女(あなた)に従う気など欠片も無い。此処(ここ)へは貴女(あなた)の命を頂戴しに参った。それが、裏切ってはならぬ人を裏切ってしまった(わたし)の、生前の西邑(にしむら)龍太郎(りょうたろう)とその親友・真里(まり)愛斗(まなと)への懺悔(ざんげ)なのだ!」

 西邑(にしむら)の身体が残像を残して消え、(くろがね)の体を突き飛ばして壁に激突させた。


『それが貴方(あなた)の答えという事ね! しかし、眷属(けんぞく)の身で(わたし)に勝てるとでも思う?』


 悪魔には眷属(けんぞく)に問答無用で苦痛を与える力が有る。それを発動されれば、西邑(にしむら)(たちま)ちの内に動けなくなるだろう。だから、西邑(にしむら)は一気に決着を付ける必要があった。

 故に、西邑(にしむら)は最初からどう動くか決めていた。一切の迷い無く、彼は(もや)の下で坐り込んでいる聖護院(しょうごいん)の方へと向かって行った。

 悪魔は反応が間に合わない。この場で対応出来たとしたら、喧嘩慣れしている(くろがね)だけだった。それが解っていたから、西邑(にしむら)は真っ先に(くろがね)を潰した。


 そして、瞬く間に聖護院(しょうごいん)の体に手を触れる西邑(にしむら)。その身体が瀕死の状態だった事も、悪魔の対応を不可能にさせていた。(もや)聖護院(しょうごいん)の体から引き剥がされるのに、五秒と掛からなかっただろう。


『ぐうぅッッ‼』


 聖護院(しょうごいん)から離れた紫の(もや)は人型を失い、天井を回り廻り続ける。西邑(にしむら)聖護院(しょうごいん)の前に立ち塞がる様に立ち、再び彼の身体が奪われるのを防ごうとしていた。仮に戻っても、この距離なら又すぐに引き剥がせる。


西邑(にしむら)……君……?」


 悪魔が体から離れた事が影響してか、聖護院(しょうごいん)の意識が戻った。


『……これではもう先生の身体は使えないわね……。』


 (もや)の、辛うじて眼に見える二つの紋様が二人の眷属(けんぞく)の間を交互に動いた。そして、それは砂社(すなやしろ)日和(ひより)に狙いを定めてあっという間に彼女の体へと入り込んだ。


「アアアアアアッッ⁉」

『残念だけれど、貴女(あなた)此処(ここ)で終わりね。今まで御苦労様。』


 砂社(すなやしろ)は一瞬、気を失った様に揺れると、闇を(まと)って邪悪な笑みを西邑(にしむら)に向けた。それは、既に砂社(すなやしろ)の意思が宿った表情ではない。事も無げに自身の腹心だった少女を斬り捨て、依り代の代替品として扱う様は当に悪魔である。


 果たして、西邑(にしむら)は一転してピンチに陥った。悪魔が真面(まとも)に動く肉体を取り戻せば、彼に苦痛を与えるのは自由自在だ。

 しかし、西邑(にしむら)は心強い味方を得ている。


西邑(にしむら)君……。(きみ)には悪い事をしてしまった。(わたし)も、この体に鞭打って最後まで戦うぞ。」


 聖護院(しょうごいん)嘉久(よしひさ)華藏(はなくら)學園(がくえん)の数学教師にして、『裏理事会』最強の戦士である。満身創痍とはいえ、憑子(つきこ)に悪魔を(たお)せると見込まれた男の存在は脅威だろう。

 そして、もう一人。


西邑(にしむら)‼』


 辺りに懐かしい、西邑(にしむら)にとって在り得ない、聞きたくもあり聞きたくもない声が響いた。少年とも少女ともつかぬ甲高い声は、彼が命を張ると決めた友の声だ。


「お前、勝手な事(ばか)りするなよ‼」


 真里(まり)愛斗(まなと)が天井に出来た黒紫の穴から勢い良く降りて来た。


『集まるじゃない……。明かりを点けるのは良くないわね。御莫迦(ばか)羽蟲(はむし)が何も考えずに突っ込んで来る……。』


 砂社(すなやしろ)の声からは華藏(はなくら)月子(つきこ)の声がする。その様から、愛斗(まなと)も彼女が今悪魔に乗っ取られていると理解した。つまり、戦うべき相手を。


『行きなさい、真里(まり)君! 此処(ここ)で全ての決着を付けるのよ‼』


 全ての役者が揃った。

 今、この瞬間に全ての運命が集束しようとしている。

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