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殺戮學園逝徒會畸譚  作者: 坐久靈二
第三章 神秘學園と一つの大願

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第四十九話 復讐という甘美

 歴史の過ち、復讐――(おおよ)そ人類に止められないそれらは、螺旋(らせん)構造に(たと)えられる。

 皮肉な事に、遺伝子も螺旋(らせん)構造だという話ではないか。


――聖護院(しょうごいん)稔久(なるひさ)

 土曜日、夜。

 客人である真里(まり)愛斗(まなと)憑子(つきこ)戸井(とい)宝乃(たからの)の三人が部屋で休んでいる間、竹之内(たけのうち)灰丸(はいまる)は前日に引き続き食器を洗っていた。


深奈(みな)さん。」

「はい、何でしょう?」


 竹之内(たけのうち)翁は居間で(くつろ)ぐ妻に話し掛けた。同室し共にソファに腰掛ける娘の文乃(あやの)も目線で彼の言葉に注意を向ける。


「明日からまた(しばら)く空けますので。」

「ああ、存じ上げておりますよ。文乃(あやの)ちゃんから事情は聞いています。暮れ暮れもお気をつけて……。」

「……すまないね、毎度々々。」

「いえいえ、お構いなく。基より、承知の上ですから。」


 夫婦はそれ以上言葉を交わさなかった。事情を知っている、という事は妻の深奈(みな)も夫が危険な仕事を担っていると解っているのだろう。しかし彼女は引き止めない。それは夫の身の安全を気にしないという冷血な意味ではない。


御父様(おとうさま)の事は(わたし)が守りますよ。」


 憂いに潤んだ深奈(みな)の眼に、文乃(あやの)は安心させようと言葉を掛けた。


「何を言っているんですか。戻って来る時に貴女(あなた)が欠ける事など在ってはなりません。」


 そう釘を刺すのは親族として当たり前の感情だろう。


「そう言えば文乃(あやの)。」


 洗った皿を拭きながら、竹之内(たけのうち)翁は今度は娘に問い掛ける。


(わたし)は途中から離脱してしまったが、彼の感触はどうかね。何とか最後は成果が見えた様だが……。」

「見込みは在ると思いますよ。じっくり鍛える事が出来れば、きちんとした戦力に育てる事も可能だったと思います。」

「ふむ、そこは(わたし)も同様の見解だ。しかし、そう悠長な事も言っていられない。」

「はい。しかし正直、最後の反撃は未だ判断しかねますね。成長の証なのか、偶然に過ぎないのか……。」


 どうやら愛斗(まなと)の訓練は決して見通しが良くはないらしい。再三言われている様に、本来はもっと時間を掛けて長い目で見た訓練を施すのだから、無理からぬ事だった。


「しかし、(ほこら)前での訓練は明日迄だ……。どうにかそこまでで基本は完璧に身に付けて貰い、後は焼け石に水でも何とか力を伸ばして貰わなければ……。」

「今日明日で即戦力になる様な稀代の天才であれば良かったのですが、そう都合良くは行かない物ですね、矢張(やは)り……。」


 だが、泣き言(ばか)りも言ってはいられない。無理にでも見込みを付けなければ、取り返しの付かない事になるのだ。

 (わず)かな希望の意図を手繰り寄せられる事を夫々(それぞれ)の胸に願いながら、彼らは日曜の朝を迎える。




☾☾☾




 翌日、日曜日。

 昨日に続き、(ほこら)の下で愛斗(まなと)の訓練が行われる。


「そう言えば、どうして態々(わざわざ)(ほこら)の近くで訓練するんですか?」


 愛斗(まなと)はこれまで何となく流していた疑問を竹之内(たけのうち)翁にぶつけた。


「最初の内は此処(ここ)でやらないと、力の制御が安定しないんですよ。最終的には(ほこら)から離れても問題無く戦える様になるのが目標ですがね。」


 つまりそれは、実戦は現在の訓練と比較にならない程の難易度の制御を要求されるという事だ。愛斗(まなと)は気の遠くなる思いだった。


「ですので、今日の内に安定した制御を身に着けて貰わねばなりません。大変かとは思いますが、帰りの電車に間に合うぎりぎりの時間まで追い込んでいく予定ですので、そのつもりで。」


 竹之内(たけのうち)(しご)き宣言に、愛斗(まなと)は渋い顔を浮かべるしか無かった。




☾☾☾




 一方その頃、遥か西方の、愛斗(まなと)達の地元に新たな危機が訪れていた。


 華藏(はなくら)學園(がくえん)の『裏理事会』は精鋭揃いである。皆、愛斗(まなと)が現在苦戦している訓練を乗り越え、闇と戦う力を身に着けた確かな実力者達である。

 それが、昨日の土曜日の時点で一名殺害された。尾藤(びとう)という、『闇の逝徒會(せいとかい)』の隠れ処の場所を探っていた男が殺されたとの報は他の『裏理事会』メンバーにその日の内に共有され、警戒を強めた。


 そして、その毒牙は今()る男女へと向けられていた。


「しつけえ男だな、てめえも……。」


 華藏(はなくら)學園(がくえん)の女子制服を身に纏い、|如何(いか)《いか》にも助番(スケバン)風の格好をしたこの人物、仁観(ひとみ)嵐十郎(らんじゅうろう)は体も中身も紛う事無き男だが、個人的な趣味でこの様な格好をしている。特筆すべきは、そんな見かけの雰囲気にも関わらず、人間離れした身体能力と喧嘩の強さの持ち主だという事だ。

 そんな彼は、『闇の逝徒會(せいとかい)』のメンバーの内一人から強い恨みを買っていた。


「言っておくが、この(おれ)をあの時と一緒と思うなよ、仁観(ひとみ)ィ……!」

「だろうな。今までとは明らかに違う、人の道を決定的に踏み外した禍々しい眼をしてやがる。あの野郎と同じ様に……!」


 闇の眷属の一人、假藏(かりぐら)學園(がくえん)逝徒會(せいとかい)長にして最大の不良グループ『弥勒狭野(ミロクサーヌ)』でナンバー2の座に(すわ)る男・(くろがね)自由(みゆ)。数日前、彼は戸井(とい)宝乃(たからの)を拉致して仁観(ひとみ)の怒りを買い、完膚無き迄に叩きのめされ無様を晒した。

 だが、そんな格下の男と相対しているにも(かかわ)らず、仁観(ひとみ)の表情に余裕は無かった。彼の背後に一人の若い女を庇っているというのもあるのだろうが、それだけでは説明のつかない緊迫感が浮き出ていた。


「うぅ……。(らん)様、御免なさい……。」


 女は酷く怪我をしている。彼女は『裏理事会』の一人・鹿目(かなめ)理恵(りえ)仁観(ひとみ)嵐十郎(らんじゅうろう)の護衛を担当することになっていた。しかし、先に(くろがね)の襲撃を受けて絶体絶命のピンチに陥っていた所を仁観(ひとみ)に助けられるという、本末転倒の失態を犯していた。


「本来は……(わたし)(らん)様を御守りしなければならないのに……。」

「謝るな。元を(ただ)せば悪いのはこいつらなんだ。それに、誰であれ暴漢に襲われてる女が居たら助けるに決まってんだろ。(おれ)を誰だと思ってるんだ。」


 鹿目(かなめ)は個人的に仁観(ひとみ)のファンであった。彼女の本業は音楽ライターで仁観(ひとみ)の才能に心底惚れ込んでいるのだ。

 そういう事情で、仁観(ひとみ)は元々彼女を知っていた。つまり彼にとって、(くろがね)は闇云々以前にまたしても自分の関係者を傷付けたことになる。


「褒めてやるよ、(くろがね)。ここまで何度も何度も性懲りも無く(おれ)に挑んできやがった奴はお前が初めてだ。雑魚には雑魚なりの意地があるんだと、そこは評価せざるを得ない。ま、つまりもう拷問すら生温いって事だがな。」


 飽くまで強気な仁観(ひとみ)の態度に、(くろがね)蟀谷(こめかみ)が不愉快そうに痙攣した。


「減らず口を聞けるのも今の内だけだぜ。今の(おれ)はお前には絶対に(たお)せねえんだからよぅ……‼」

「自分だけ安全地帯に居るから調子に乗ってるってか。如何(いか)にも雑魚の思考回路だ。」


 仁観(ひとみ)は闇の眷属と戦う術を身に着けていなければ、それが必要だという事も知らない。だが、(くろがね)が自分の敗北など無いだろう、一方的に蛸殴りにしてやろう、という卑怯な思い上がりに染まった相手と同じ顔をしている事に気付いていた。

 だからこそ、仁観(ひとみ)は一筋縄では行かない事を予感していた。そういう、喧嘩として無粋な策を練りながら自分の眼の前に顔を出す事の異様さが気になっていた。


 そんな警戒心を露わにする仁観(ひとみ)の様子を見て、(くろがね)()も愉快気に笑い声を上げる。


「くっくっく、良い表情だなァ。だが、(おれ)が見たいのはそんなもんじゃねえ。もっと、苦痛と絶望、無力感に染まった負け犬の顔だァッッ‼」

「へっ。あの時のお前みたいにか?」

「はははっ‼ そういう態度ならそれもまた良し‼ 強がった(まま)、無様に(くたば)れ‼」


 (くろがね)の両手に愛用の武器、トレンチナイフ付きのナックルダスターが装着された。


「その綺麗な顔をグシャグシャにしてやる‼」


 (くろがね)は狂気に両眼を爛々(らんらん)耀(かがや)かせ、口から僅かに舌を覗かせて仁観(ひとみ)に殴り掛かった。だが、拳は()(かく)この顔は(まず)かった。前に出て来るのに合わせ、仁観(ひとみ)(くろがね)の顎を蹴り上げたのだ。


「がペッ⁉」

「舌出して掛かって来る奴が在るか。やっぱお前莫迦(ばか)だろ。」


 そう、(くろがね)仁観(ひとみ)に顎を激しく打たれ、思い切り舌を噛んでしまったのだ。因みに、舌を噛み切った時に残った部分が喉奥に詰まって死ぬ、という創作で定番のシーンだが、実際にはそう容易に自殺出来るものではないらしい。

 更に、仁観(ひとみ)は出鼻を挫かれて隙だらけになった(くろがね)の顔面へと容赦なく拳の連撃を見舞う。


「オラァァアアアアッッ‼」

「ぐええあアアアアッッ⁉」


 (くろがね)では仁観(ひとみ)の相手にならない、それは彼が闇の眷属になった今も変わらなかった。考えてもみれば当然の話で、仁観(ひとみ)は常人の二倍所ではない異常過ぎる身体能力の持ち主であり、更に喧嘩慣れもしている。愛斗(まなと)にあれだけ苦戦し、撤退を余儀なくされた(くろがね)では矢張(やは)り逆立ちしても勝てないのだ。

 だが、それは一つの条件を抜きにした場合の話だ。(くろがね)は拳の猛攻によろめきながら後退(あとずさ)るも、決して倒れる事無く冷静に距離を取った。


「随分……タフになったじゃねえかよ……。ま、予想はしてたがな。」


 勢いよく地面に紫色の液体を吐き棄てる(くろがね)を、仁観(ひとみ)は苦虫を噛み潰した様な表情で睨み付けていた。

 既に闇の力で操られた不良の群と対峙した彼にとって、この(くろがね)のパワーアップは想定の範囲内だった。しかし、彼が吐いた、恐らく血の色を見て嫌な確信を得てしまう。


「人間を辞めたって事か……。そこまでしてこの(おれ)に勝ちたかったのか? 物好きな野郎だな。たかが喧嘩の、不良の王者になった所で何が偉いんだって話だぜ。」

「だったら……そのたかがの、別に偉くとも何ともねえ目標の為に打ち殺されなよぅ……!」


 (くろがね)は紫色に充血した目で仁観(ひとみ)を睨み、再び凶器を握り締めた拳を構える。

 仁観(ひとみ)にとって今の所幸いなのは、未だ(くろがね)仁観(ひとみ)を喧嘩で叩きのめすつもりでいる事だ。()し本格的に闇の力に恃み、仁観(ひとみ)を爆散させる手段を採ったら、彼に対抗手段は無い。


「オラァッ‼」

「フン!」

「ぐベエッ⁉」


 従って、この様にあっさりと反撃を叩き込み軽くあしらい続け、(くろがね)を追い詰めるのは仁観(ひとみ)にとって実は得策ではなかった。だが、重ねて幸いにして(くろがね)は自分を虚仮(こけ)にした仁観(ひとみ)に眼に物を見せてやろうと思う余り、楽だが張り合いの無い手段に考えが至らなかった。

 (くろがね)は、自分が頭の良い策士だと思っている莫迦(ばか)である。彼がそのちっぽけなプライドを捨てるには、もう少し手詰まり感を強めなくてはならなかった。


「ガアアアッッ‼」

「しっつけえんだよ‼」


 (くろがね)の攻撃、それ即ち、反撃の被弾。これは非常に良くない状態だった。(くろがね)はこのままでは埒が明かないと、苛立ちを強め始めている。


(クッソがあ……! やっぱ一筋縄じゃ行かねえか……。一層の事、闇の力で手っ取り早く殺っちまうか?)


 (くろがね)の嗜好が危険な方向に流れている。だが、彼の視界に或る人物が過った事で、その方向は転換された。

 (もっと)も、それは良い(きざ)しではない。(くろがね)は下卑た笑みにその表情を歪ませている。如何(いか)にも、邪悪な企みを思い付いたといった顔つきだった。


「ヒャハッ……ヒャハハハハハハハハハァーッッ‼」

「なんだなんだ、とうとう気が()れたのか? そんなテンプレ染みたやられ役の外道モブみてえな笑い声上げやがってよ。」


 (くろがね)仁観(ひとみ)の挑発も意に介さず、性懲りも無く殴り掛かって来た。若干の違和感と面倒さを覚えつつ、これまでの様にあっさりとカウンターを合わせようとする仁観(ひとみ)

 しかし、今度は(くろがね)仁観(ひとみ)に拳を合わせて来た。素手の拳とナックルダスターが激突し、(くろがね)の指が圧し折れる音が響いたものの、仁観(ひとみ)は思わぬ展開に一瞬硬直した。


「なッ⁉」

「ヒャッハァーッ‼ そう何度も莫迦(ばか)の一つ覚えを繰り返すと思うかぁ⁉ (おれ)の狙いはこいつよォッ‼」


 僅かな隙を突き、(くろがね)仁観(ひとみ)の背後に回り込んだ。そこには彼が庇っていた鹿目(かなめ)が居る。素早く、(くろがね)は彼女の体を盾にする様に抱え込んだ。


「畜生、しまった……‼」

「あうぅっ、御免なさい(らん)様‼」

「ハハハァーッ‼ この女の身を案ずるなら、両手を上げてゆっくりこっちへ来い‼ 貴方(あなた)の勝ちだと今誓え、罪を感じて懺悔をしろ、蹴られても抵抗するな、泣いて許しを乞え、そして負け惜しみを言え、いつものように強気な目付きで、最後に此処(ここ)で死んで見せろ‼」


 本来護るべき筈の敬愛する仁観(ひとみ)をピンチに陥れてしまった鹿目(かなめ)慙愧(ざんき)の念に顔を歪ませる。

 仕方なく(くろがね)の言う通りに両手を上げ、間合いに無抵抗で入る仁観(ひとみ)に、(くろがね)の蹴りが炸裂した。


「ぐっ……‼」

「覚悟しろ、このまま蹴り殺してやるからなあ……‼」


 不良としての、喧嘩自慢としての意地は何処へ行ってしまったのか、こんな勝ち方で満足なのか、そんな問い掛けは(くろがね)に対して無意味だった。それが通じる知能も美意識も彼は持ち合わせていないからだ。

 形勢は逆転、仁観(ひとみ)はただ嬲り殺しの運命を待つ(ばか)りとなってしまった。


「復讐を達成する快感……今(おれ)は、予感している。(まる)で射精に向かって昇り詰める中で解放の時が近付いている様な感覚だ……。ああ、もう逝っちまいそうだぜ……‼ そうだ、お前を殺した後は、只の肉人形になった体を死姦してやろう。折角女の格好をしているんだから、ちゃんとそう扱ってやらねえとなあ……‼」

「ケッ、変態が……。別にお前が男でも構わず食っちまうのは構わねえが、死体なんぞと事を致そうというのは流石にどうかしてるぜ。ま、(おれ)にはそっちの気はねえから余計に(おぞ)ましくて仕方ねえがな。」


 飽くまで強気な仁観(ひとみ)に嗜虐心がそそられたのか、(くろがね)の蹴りが激しくなる。

 だが、(くろがね)迂闊(うかつ)にも一つ失念していた。抑も鹿目(かなめ)仁観(ひとみ)を護る為に派遣された『裏理事会』の一員、闇の眷属と戦う術を知っている。そんな彼女と近接し、盾にしている間は両腕が塞がっている、というのは愚行だった。


「このっ……‼」


 鹿目(かなめ)の両手が光に包まれる。残された力を懸命に振り絞り、(くろがね)に起死回生の一撃を見舞った。


「ぐっ‼ てめえ……‼」


 後ろに繰り出した肘打ちが(くろがね)の鳩尾に突き刺さる。それは即ち、中丹田、闇の眷属にとって最大の弱点である。

 流石の(くろがね)も、これには後退り人質を放してしまう。


「ぐはっ……! くくく、狙いは良かったがなあ……。」


 だが、既に愛斗(まなと)との戦いで痛い目を見ていた(くろがね)はしっかりと対策していた。得意気に上着を捲ると、胸に仕込んだ雑誌が露わになった。

 そして人質作戦を破られた(くろがね)は、とうとう開き直った。


「まあ良いか! もう充分蹴りを入れて心は晴れたしな! 此処(ここ)らで終わりにしてやる! 闇の力で爆ぜるが良い‼」


 紫の靄が(くろがね)の身体から一気に噴き出し、仁観(ひとみ)に襲い掛かる。こうなっては如何(いか)仁観(ひとみ)が圧倒的な強者でも一巻の終わりだ。

 だがここで、(くろがね)も、鹿目(かなめ)も予想外の事が起きた。(くろがね)の放った靄を、仁観(ひとみ)は拳で振り払ったのだ。


「な、何……?」


 それは信じられない光景だった。仁観(ひとみ)の拳が白い光に包まれている。


(くろがね)、さっきお前は鹿目(かなめ)さんの何て事ない拳で明らかによろめいたよな? つまりこの光は、今のてめえに効果があるって事だ。」

莫迦(ばか)な……? 何でてめえがその力を⁉」

「さあ? 鹿目(かなめ)さんが拳を光らせるのを見て、何となく真似しようと思ったら、出来た。」


 物が違う天才、仁観(ひとみ)嵐十郎(らんじゅうろう)。彼は遥か東方で愛斗(まなと)が苦しんでいる闇への対抗手段の会得を、見様見真似であっさりと成してしまった。

 (くろがね)は焦燥感から歯噛みし、額に青筋を立てて瞠目(どうもく)していた。


「てめえ……仁観(ひとみ)、てめえ……‼」

「余裕が消えたな。(ようや)く戦いの舞台に引き摺り下ろしたって訳だ。つまり、お前は終わりだ。」


 仁観(ひとみ)は光る拳を構えた。理不尽な逆転劇が今始まろうとしていた。

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