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第95話 すれ違いカプリッチョ

【ホマレ視点】


 プレートアーマーが配送された先。

 そのひとつの前に俺達は立っている。


「あー、相棒。ちょっと確認しようか。ここってもしかして……『アレ』だよな?」


 こじゃれた外観の建物には『虹色の水蜜桃』と看板がつけられており入り口には『料金表』なるものが備えらていた。

 

「そうだな。いわゆる『オトナのお店』ってやつだ。さぁ、行くぞ」


 入ろうとする俺の腕をイザヨイが慌てて掴み止めた。


「待て待て待てッ!あのさ、俺達警備隊員だよな?ダメだろこんなとこに入るのは……だって……ぇえ……」


「いや、だって配送先のひとつはここだし」


「かもしれないけど!何だってお前はそんな普通なんだ!?まさか、客として利用したことがあるのか?」


「あるわけねぇだろ」


 あいつら意外とそういう事した事無いわ。

 こう見えても俺は純愛系だぞ?


「じゃあ何でそんな平然していられるんだ!?だってここ……えちぃ店だぞ?」


 いや、そうだけどさ。

 今の隊に配属される前は風紀課だったからこういう店の出入りは慣れてるんだよな。

 最初は心臓バクバクだったけど慣れるとどうということはない。


「だって仕事だからな」


「そ、そういうものかなぁ。むぅ……」


 そんな時、聞き覚えのある女性の声が背後からした。


「あら、お兄様。こんなところでどうしたのですか?」


 近づいてくるのは末妹のリムであった。

 うん、今日も可愛いなぁ。


「おっ、リムか。いや、ちょっと捜査でな、お前は……ハッ、まさか密かにこの店で働いて……」


「あらあら、ご冗談を………はっ倒しますわよ?」


 何だそのご褒美は?

 妹に張り倒されるなら本望だぞ?

 まあ、真面目な話だと性的なものが苦手なリムがここで働いているわけ無いか。


「近くを通ったらお兄様が見えたんです」


 兄の姿を見て追いかけてくれるとは何て素敵な妹だろうか。

 まさしく都会という砂漠に咲いた一輪の花ってやつだ。


「あの、何かトリップしてませんか?大丈夫です?」 


「俺は至って普通だぞ?」


「そうですか……それにしても仕事とはいえひとりでえちぃお店の前で立っていたら誤解を生みますわよ?」


 え?『ひとり』だと!?

 見ればイザヨイの姿が居なかった。

 あいつリムの接近を察知して見つからない様に姿を隠したんだな。

 余程見られたく…………


「ハッ!?」


 それってまさか……まさか!!

 俺はある事に気づき妹を見る。

 あいつがリムから隠れた理由……それは……


「え?ど、どうかしましたか?」


 間違いない。

 イザヨイが好きな女性。それは……『リムの知り合い』に違いない。

 そう考えれば隠れた事も説明がつく。

 もしオトナのお店の前に立っていたとリムの口からその娘に伝わってしまえばとんでもないダメージだ。


 本当にその娘の事、好きなんだな。 

 よし、ここは俺が一肌脱いでやるか。

 

「なぁ、リム。イザヨイの事だけどさ」


「え?イ、イザヨイさんの!?何で急に彼の名前が!?」


「お前も、辛い事があったばかりで恋愛の事とかを考えるのも嫌かもしれないと思う。だけど、ちょっと聞いて欲しい。あいつは、イザヨイは本当にいい奴なんだ」


 その言葉にリムは息を呑む。


「あいつの人柄は俺が保証する。だけどあいつは不器用だからさ。お前の方からもそれとなく頼むよ」


「あの、お兄様。それって……」


「あいつなら間違いないよ、だから、な」


 妹は顔を真っ赤にして何やらぽそぽそ呟いていた。


「まさかお兄様に気づかれていて応援までされるとは……た、確かに幼い頃からの付き合いですし……わ、悪い人ではないし……むしろ……」


「ん?」


 目はいいがナギみたく耳がいいわけじゃないのでよく聞こえなかった。


「な、何でもありません。お兄様、その……ありがとうございます!私、もう一度頑張ってみます」


「ん、ああ」


 よくわからんが礼を言われたな。

 しかも何か『頑張る』とか決意してくれた。

 どうも勇気づけることが出来た様だ。良かった。

 

「それでは、お仕事頑張ってください!」


 言うとリムは小走りでその場から立ち去った。

 うん、やっぱり可愛い妹だな。いつかあいつに相応しい男が現れたらいいな。


「ホマレ、その……」


 イザヨイが物陰から出てきた。


「その、ありがとうな。まさかお前がそんな風に認めてくれるとは……」


「いいんだよ。実際お前はいいやつだろ?」


「俺はいい相棒を持ったぜ。ありがとう、兄弟!」


 何か抱き着かれた。


「よせよ。大袈裟だな。さ、中に入るぞ?」


 店に入ると正面カウンターに全身にピアスを施した女性店員が待ち受けていた。


「よぉ、ターレ。久しぶりだな」


「あら、ホマレちゃんじゃない。久しぶりな事この上なく微妙ね。もしかしてお客?」


 ちょっと言葉選びがおかしいのと見た目がファンキーだがいいやつだ。

 息子が同じような格好をすると言ったら間違いなく止めるがな。


「違うって。ちょっと聞きたいことがあってさ」


「あらあら、つれないわね。久々なのにアウェー感ゼロなの雪のごとしね。とりあえず一杯やらせてよ」


「おいおい、仕事中に酒かよ?ほどほどにしとかなきゃ体壊すぜぞ?」


「酒は止めたわ。(きわみ)炭酸ジンジャーエーテルが最近のマイブームなのよ。一日15杯はいけるわ」


 それはそれで飲み過ぎだ!!

 こんな会話を繰り広げる俺達をイザヨイは唖然とした様子で見ていた。

 まあ、気持ちはわかる。でもダウナーな奴だからこうやってノリを合わせないとダメなんだよなぁ。

 俺はターレにプレートアーマーの事を伝えた。


「ああ、これね。お店の飾りにって注文していたわ」


「マジかよ。そいつは半端なくイケてるな。あのさ、それで鎧の中に『中身』とか無かった?」


「中身!?それはもうアウェー感が月のごとしじゃない。100ポインツぐらいよ」


 この様子だと『中身』は無かった様だな。


「そうか、ありがとうな。それじゃあ……」


「あったわよ」


「あったのかよ!!」


 それまで黙っていたイザヨイがツッコミを入れていた。

 まあ、何にせよこれで事件は解決だな。一発目で当たりを引けるとは運がいい。


「吾輩の身体は何処だー!!」


 バッグの中から猿轡(さるぐつわ)を外したゲソボットの首が飛び出す。


「あらあら、ゲソボットちゃんじゃない。やっぱりあれはあなたの身体だったのね」


「それで、吾輩の身体は!?」


「ああ、お客さんにあげちゃったわ」


「ぬはっ!?」


 いや、首無しボディを人にあげるなよ。そして客も貰うな!

 そんなやり取りが無ければここで解決だったのにもうひと手間あるじゃねぇか。


「誰にあげたか教えてくれないか?」 


「えーと、誰だったかな?記憶力がよく無い事、花のごとしなのよね」


 やべ、少しダウンし始めたぞ。

 こうなるとまた気分をあげ直さないと……


「はいはい、どーもー。見つけましたよゲソボットさん」


 入り口から声がした。

 振り返ると長髪の男が不敵な笑みを浮かべながら立っていた。


「警備隊の皆さん、こんなとこまでわざわざ彼の首を持ってきていただいてありがとうございました」


「げっ、ブローム!!」


 ゲソボットが露骨に顔を歪める。


「知り合いか?」


「知り合いというか、何というか……」


「彼とは組んで仕事をしていたパートナーでしてね。なのに彼はもうけを持ち逃げしたんですよ。ヤケになってこの店に来たら中身入りの鎧で騒ぎになっていた。直感で気づきましたよ。彼のボディだってね。だから、身体はお預かりしたんですよ」


 なるほど、こいつも転売ヤーってことか。

 まあ、とりあえず……


「何にせよこれで事件解決だな」


「ああ。そうだな。これで俺も家族の所へ駆けつけられる。ああ、良かった」


「ちょっとあんた達、この状況で吾輩を見捨てるのか!?どう見ても友好的な雰囲気じゃないよね!?」


 ゲソボットが抗議の声をあげる。


「見捨てるも何もなぁ、後は当人同士で話し合って解決してくれ」


 いやほら、その辺って民事不介入だし。


「ええ、そうですね。じっくり『話し合い』ましょう」


 ほら、話し合うって言っちゃってるからなぁ。

 これで『殺す』とかわかりやすい脅迫があれば介入できるけどさ。

 今の所、『親切で身体を預かってくれている知り合い』だからなぁ。


「い、嫌じゃぁぁぁ!!」


 ブロームから逃れるべくゲソボットの首が転がり店から出て行く。


「おやおや、逃がしませんよ」


 ブロームはにやにやと笑いながら懐から鉤状の武器を取り出すとゆっくりと彼を追いかけて店を出て行った。

 俺とイザヨイは顔を見合わせる。


「なぁ、イザヨイ。今、あいつ武器出して追いかけちゃったな」


「ああ。見えてしまったな……」


 話し合いでなく暴力事件に発展することを考えれば警備隊としては放っておけないな。

 仕方ない。追いかけるか……

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